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イギリスのホメオパシー

ホメオパシー


イギリスでは、ホメオパシーのレメディは店頭販売されている。イギリスの国民医療保健サービス(NHS, National Health Service)のホメオパシーに関する見解は次のとおりである。

  1. ホメオパシーを検証する200程度の無作為化された試験が行われ、これらの試験に関する総説もいくつか存在する。これらの試験にもかかわらず、ホメオパシーの有効性を示す明確な臨床的証拠を得ることは難しいということがわかった。多くの研究はホメオパシーの効果はプラセボ効果であることを示唆する。
  2. 医学者と科学者は、その主張が近代の医学と科学の方法論を満たさないことを理由に、一般にホメオパシーを許容しない。ホメオパシーのレメディは高度に希釈されているため、多くの場合活性のある物質が残存していないので効果がないと、科学者は論じている。

ここで言うNHSが行った200程度の試験に関する調査とは、ヨーク大学にあるNHSの検査と普及センター(Centre for Reviews and Dissemination)が2002年に行った以下の調査のことである。

  • Homeopathy」Effective Health Care bulletin, VOLUME 7 NUMBER 3 2002 ISSN: 0965-0288

この調査の結論は「ホメオパシーの証拠となる根拠は警戒して解釈しないといけない。調査された多くの分野はホメオパシーを行う者が普段取り扱う症状の典型ではない。さらに、その効果についての結論のすべては、主要な研究やいくつかの体系的な総説の方法論的不適切性と合わせて考慮しないといけない」といったものである。しかし、臨床的な証拠がないにもかかわらず、ホメオパシーは英国ではもっともポピュラーな代替療法の1つである。

上記のThe Lancetの特別報告によると、イギリスでは反ホメオパシーの機運が高まっている。2007年12月ロンドンでHIV/AIDS治療に関するホメオパシーのシンポジウムが開催され、反ホメオパシー派を警戒させている。ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ (UCL)のMichael Baum教授は、「人々はホメオパシーには何も害がないというが、HIVに対して奨励されるとなると、それは深刻な問題だ」と述べている。

また、国民保険でホメオパシー治療を行っている病院への出資中止などの効果をあげている。West Kent Primary Care Trust(ウェストケント1次診療トラスト)はTunbridge Wells Homeopathic Hospital(タンブリッジウェルズ・ホメオパシー病院)に対するNHSの出資を停止した。

しかし、一般人の間では、まだホメオパシーの人気は高いようで、2007年の市場規模は推定で3800万ポンド、2012年には4600万ポンドになると予測されている。

£240,000の財源カット

これらの記事によると、スコットランドで2番目に大きな健康評議会であるNHS Lothian Boardのメンバーは、全員一致で年間£240,000かかるホメオパシー療法の公的資金をカットすることを決定したらしい。

英国下院科学技術委員会がホメオパシーを否定

上記のエントリによると、英国下院科学技術委員会(House of Commons Science and Technology Committee)は2010年2月22日に発表した報告書で、以下のように結論した。

  1. ホメオパシーはただのプラセボであり、NHSで提供されるべきではない。
  2. 英国医薬品庁(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency, MHRA)は、ランダム化比較試験で有効性が示されていないホメオパシー医薬品の薬局での販売承認を中止すべきである。
  3. ホメオパシーは十分な試験が行われており、ホメオパシーには効果がないというたくさんの根拠があり、さらなる調査や研究の必要はない。
  4. 委員会に根拠を提出した英国ホメオパシー協会(British Homeopathic Association, BHA)に対して、恣意的選択と誤解を招く提示を非難した。

以下が275ページにおよぶその報告書。

「忘却からの帰還」の以下のエントリで、ここまでの流れを読むことができるが、肯定派はかなり無茶な主張をしていることがわかる。

委員会での質疑応答

2009年11月25日に委員会で行われた証言の動画を以下のリンクで、見ることができる。

  • Evidence Check: Homeopathy」 HoC Science and Technology Sub-Committee, United Kingdom, Parliament, Thatcher Room, Meeting started on Wednesday 25 November at 9.30am, ended at 11.21am

「忘却からの帰還」の11月18日のエントリでは、ホメオパシーレメディを販売する大手チェーン店Bootsは、「我々は売れるからホメオパシーレメディを売っているのであって、効くから売っているのではない」と証言し、レメディが必ずしも効くものではないと認めた、とのこと。なお、Bootsはホメオパシー薬の販売はしているが、製造はしていない。

BootsのPaul Bennett氏の問題の証言は報告書のEv10から読むことができる。

Q4 議長: プラセボ以上の効果があるのか?

Mr Bennett: それらが有効であるということを示す証拠を、私は持ちあわせていない。それを支持する証拠を我々も探しているが、その質問にイエスかノーと解答することは、私にはできない。

Q5 議長: あなたらはそれを売っているが、それらが有効であるとは信じてないのか?

Mr Bennett: 我々にとって、これは消費者の選択である。我々の顧客の多くは実際にそれらが有効であると信じている。それらは許可された医薬品であり、それ故、提供することが正しいと我々は考えている。

Bootsに製品を提供しているBritish Association of Homeopathic Manufacturers (BAHM)のRobert Wilson会長は「もし、これらの製品がプラセボ効果以上に働かないのなら、なぜ人々はそれを買い続けているのか?」としている。さらに、「実際に効果があるという明確な証拠のある製品を、一つでいいから挙げてくれないか?」(Q17)という質問に対して、打撲傷用のアルニカ(Arnica)は、処置後の介護にきわめて有効であるとしている。アルニカについては、ベルリンのCharite病院による大規模な試験「Witt Trial」がごく最近発表されたそうだ。それは3700人の患者を含む大規模な試験で、長期間の慢性症状のある患者にはきわめて有効であることを明確に示した、とのこと。

しかし、このWilson氏の証言はBootsのBennett氏の証言と明らかに矛盾している。製造元は証拠があると言っているのに、販売店はそれを信用していないということになる。

また、英国薬剤師会(RPSG)主席科学顧問のJayne Lawrence教授は、ホメオパシーレメディにプラセボ効果以上の働きがあるという科学的または臨床的な証拠はないとしている。アルニカについても、Wilson氏の言う最新の試験結果はまだ見ていないが、それが有効であるという科学的根拠はないとしている。

「(欠陥を排除した)多数の科学的な研究からサンプルを集めた、メタ解析を含む系統的レビューが一番確実な試験方法だとは思わないのか?」という質問(Q32〜Q35)に対して、Wilson氏はイエスかノーかで答えることができず、「サンプル数が少なければ、そうした研究も信用できない」と繰り返すばかりだ。

さらに、「ホメオパシーのプルービングは効果を確かめる良い方法なのか?」という質問(Q36)に対して、Wilson氏は「いいえ、ホメオパシーのプルービングはホメオパシー薬の評価のための専門用語で、試験の方法ではない」と答えている。

その他

それでもNHSはホメオパシーを放棄しない

2010年7月下旬に、英国下院科学技術委員会の報告書に対する英国政府の回答が発表された。

これによると、NHSのホメオパシーへの保険適用は継続されるとのこと。英国政府がそう判断した理由は、回答文書の項目37に基づいて要約すると、だいたい次のようになる。

  • ホメオパシーは医薬品として長い伝統があり、ヨーロッパ中で使用されている。英国政府は、その使用法の十分な説明と品質・安全性が、消費者に保証されていなければならないと考えている。
  • もしなんの規制もなければ、そうした情報や保証を消費者は享受できなくなる。逆に通常の医薬品規制が適用されると、ホメオパシー製品は市場から撤去されねばならなくなる。
  • そうなれば消費者の要求を満たすため、規制を受けていない低品質で安全性の低い製品が市場に出回る可能性がある。消費者の選択肢を守るためにも保険適用を継続しなくてはならない。

つまり、伝統医療として人気の高いホメオパシーについて、通常医療と同様な試験を行えば、ホメオパシーは医療として成立しなくなってしまう、ということを英国政府も認めている。

NHSがホメオパシーを含む代替医療を使うかどうかは政府が決定することではなく地元のNHSと医師の裁量に任せる。

という「食品安全情報blog」の要約は項目8に基づいているようだ。

ただNHSがホメオパシーを使用できるのは効果があるからではなく患者の選択を尊重するためであることが理解されていないという懸念はある。

同じく、上記の要約は項目9に基づいていると考えられる。つまり、医薬品としての有効性よりも「患者の選択」が優先されたということ。

従ってホメオパシーの科学的根拠については十分な情報が提供された上での患者の選択が保証されるようコミュニケーションを促進する。政府の主任科学者はホメオパシーの有効性に関する根拠は極めて疑わしいという立場である

この要約は項目10に基づいている。つまり、英国政府もホメオパシーの有効性は「極めて疑わしい」という意見に異論はないということ。

以下のリンクも参照。

日本ホメオパシー医学協会の反応。

ホメオパシージャパン(株)からリンクされている日本ホメオパシー医学協会のページ「英国政府、ホメオパシーに対するNHS(国民健康保険)適用続行を決定」では、今回の件について以下のように述べている。

一部の日本に新聞報道等では、「英国国会の1委員会」で、ホメオパシー懐疑派の議員が中心となって提出した報告を取り上げ、英国国会全体がホメオパシーを否定し、NHS(英国国民健康保険サービス)がホメオパシーへの助成を中止したかのような報道がなされましたが、7月27日に英国政府は、英国下院の科学技術委員会の勧告には非常に欠陥があったとし、ホメオパシーの国民健康保険サービス(NHS)適用を維持する事に決定しました。本件、ホメオパシー国際評議会(ICH)のトップページに以下の文章が掲載されております。

しかし、実際の回答文書を読んでみるとわかることだが、NHSの保険適用が継続される理由は、英国下院の科学技術委員会勧告に「非常に欠陥があった」からではなく、英国政府もホメオパシーの有効性は「極めて疑わしい」と認めつつ、伝統療法であるホメオパシーを選択する患者の自由を優先した、ということである。

その後の反応

その他

英国政府のホメオパシー規制

「王立ロンドンホメオパシー病院」が看板から「ホメオパシー」をはずす

イギリスのホメオパシー病院について

その他

忘却からの帰還