クリス・ロビンソン(Chris Robinson)
クリス・ロビンソンについては「超常現象の謎解き」内の「クリス・ロビンソン」で詳しく述べられている。(文献1)
懐疑論者のスーザン・ブラックモア(Susan Blackmore)がロビンソンについて実験をおこなっており、この文献はインターネット上で見ることができる。(文献2) そこで、ここではこれについて詳細を記しておく。
クリス・ロビンソンは予知夢を見ると主張するイギリスの超能力者である。彼はテレビ番組に登場し、密閉された箱の中に入れられた物体を言い当てるという技を披露していた。ブリストルのWire TVでは、箱の中のレコードについて、真ん中に穴の開いた丸か円盤であると透視した。Granada TVの「This Morning」という番組では、テディ・ベアに対して、人形か子供のオモチャだと透視した。さらにロビンソンは1994年10月に放送されたBBC1の「Esther」という番組でブラックモアに挑戦し、「箱の実験」を行うこととなった。
ブラックモアはテレビのデモンストレーション実験には主に次のような問題点があると指摘した。
- 箱の中に入れる物体の選択方法が厳密でない。ふつう番組の誰かが適当に選ぶわけだが、ある特定のものが他よりも多く選ばれる可能性もあり、そういった選び方の癖がわかれば、偶然以上の確率で当てることができるかもしれない。
- 箱が常に監視されているわけではない。テレビ番組のスタジオは煩雑であり、隙を突いて中を覗いたり、誰かがヒントを送ることは可能である。イカサマはなかったと番組側が保証しても、それを無条件に信じることはできない。
- 何を根拠に成功とするかが厳密に定義されていない。ロビンソンはいつも長くて複雑な夢を見るので、その中の何かが偶然当たっている可能性がある。とても統計的に有為な議論などできない。
こういった問題点を回避するためブラックモアは次のような実験をデザインした。
- 箱はブラックモアの自宅に置かれ、中身は週に2回交換され、実験は6週間続けられる。
- その間、ロビンソンは予知夢を記録し続ける。
- 6週間後、ブラックモアは12個の物体のリストとそれらの写真をロビンソンに渡す。
- ロビンソンは夢の記録をもとに、どの物体がどの期間に箱の中に入れられていたかを当てる。
実際の実験は1994年12月から1995年1月まで行われ、その詳細は次のようなものであった。
- 厚紙の箱の各面にクリス・ロビンソンの名前が大書きされた。
- 箱の中に簡単に入る家庭内にあるもの12個が選ばれ、アシスタントがそれらの写真を撮った。実際に選ばれたもののリストは「超常現象の謎解き」内の「クリス・ロビンソン」のページを参照のこと。
- 12個の物体と日程のランダムなリストが作られたが、その内容はブラックモアには知らされなかった。
- 実験が予定通り行われたことを保障するため、このリストのコピーが別所に保管された。
- リストにもとづき箱の中に物体を入れたのはアシスタントであり、箱はロックされていた。ブラックモアには実験終了まで箱に入れられた物体の順番は知らされなかった。
- 実験後、ロビンソンは87枚の手書きの夢の記録のコピーをブラックモアのもとに送ってきた。
- その後、ブラックモアは12個の物体の写真とリストをロビンソンに送った。
- ロビンソンは自分の予知夢にもとづき、どの物体がどの期間に箱の中に入れられていたかを判定した。
- ロビンソンのリストはブラックモアに送り返され、アシスタントのリストと比較された。
- この実験のミソは、実験終了後までロビンソンには箱の中に何が入れられたかは知らされないことである。
最初、ロビンソンは7つの物体についてしか答えを書かなかった。その後、ブラックモアの要請により、残りの5つにも答えを書いてきた。結果は12個のうち2個しか当たっていなかった。ブラックモアの結論は「コントロールされた条件下では、自分で選んだ実験方法なのに、ロビンソンは超能力の存在を実証することができなかった」である。
ただし、ロビンソンはブラックモアの実験や、文献1や4で紹介されているリチャード・ワイズマンの実験には不満があり、自分のサイトで反論を試みている。(文献3) ブラックモアの実験では、アシスタントが予定通り箱の中身を変えることができなかった日があったので、それが気に食わないようだ。(予定の変更も透視すればいいじゃん) また、自身の能力を肯定する研究として、アリゾナ大学のGary E. Schwartz教授の論文を紹介している。(文献5) しかし、この論文は審査員に却下されてJournal of the Society for Psychical Researchには掲載されていないようだ。
参考文献とリンク
- 「超常現象の謎解き」内の「クリス・ロビンソン」のページ
- 「What’s in the box? An ESP test with Chris Robinson」 Susan Blackmore, Journal of the Society for Psychical Research, 60, 322-324
- 「Dream-Detective.com」 超能力夢探偵クリス・ロビンソンのサイト
- 「超能力番組を10倍楽しむ本」 山本弘、楽工社 (2007/03) p.138-151でクリス・ロビンソンが登場する。
- 「Controlled Experiment Evaluating Precognitive Dreams in a Highly Skilled Subject」Gary E. Schwartz, Revision submitted to the Journal of the Society for Psychical Research、これに関してはロビンソンのサイトの「ARIZOMA PAPER part 1」と「ARIZOMA PAPER part 2...」を参照
- 「Ann Winsper on MK-TV Tonight - Dream Detective」 これは「Bad Psychics」というイギリスの懐疑主義団体のサイトのページで、クリス・ロビンソンが「MK-TV Tonight」という番組に登場した時の動画へのリンクがある。これらのビデオクリップの中で、ロビンソンはチェルノブイリの原発事故や911テロを予言したと自慢しているが、番組ホストには「そういった出来事を予知しておきながら、それが起こることを防げなかったことに罪悪感を感じたことはないのか?」と皮肉られている。(なお、この動画にはAnn Winsperという名の懐疑論者で超常現象研究家な人物も登場するが、あまり発言していない)