ジェラルド・クロワゼット(Gerard Croiset)
クロワゼットについては、「超常現象の謎解き」内の「ジェラルド・クロワゼット」のページ(文献1)や「新・トンデモ超常現象56の真相」(文献2)が詳しい。
日本における透視
1976年5月に来日し、NET(現・テレビ朝日)の「水曜スペシャル」で千葉県で行方不明になった少女に関する透視を行った際、クロワゼットの透視に基づき取材していた番組スタッフがダム湖に浮かんでいた少女の水死体を発見する事態が発生した。
この時の様子は2005年1月6日にテレビ朝日で『伝説の超能力者ジェラルド・クロワゼット透視捜査の真実』という番組で再放送され、そのビデオクリップをYouTubeで見ることができる(文献5)が、なかなか衝撃的な映像だ。これをもって、日本における超能力捜査の唯一の成功例とされることもあるが、クロワゼットの透視がなかったなら、少女の水死体は発見できなかったというわけではない。
水死体が発見されたのは早朝6時53分のことだが、その日の午前9時半から総勢300人によるダム湖周辺の大捜索が行われる予定だった。番組スタッフがこんな早朝から取材を行ったのは、この大捜索のことを事前に知っており、その前になんとしても撮影をしておきたかったのだ、と考えることもできる。もし捜索隊が水死体を発見すれば、クロワゼットの透視が当たったことにできるからだ。ところが、思いがけないことに自分たちで水死体を発見してしまったのかもしれない。
YouTubeの三番目のビデオクリップでは当時の警察署長がクロワゼットに感謝しながらも、「ただ私共も今日一応、時刻的には遅くなるかも知れないけど、ここは大捜索する予定でありまして、活動が始まれば、その前に通行人もありますから、発見されるかもしれませんけども、今日は早晩発見される可能性はあったというふうに考えています」と述べている。(文献5)
番組スタッフは事前にクロワゼットに何も情報を渡していないとしているが、皆神氏の調査によると、この証言は怪しい。(文献2)YouTubeの1番目のビデオで、クロワゼットが透視している様子を見ることができるが、通訳を通じで「その辺の池とか水に面している岸は… 急で険しいですか?あの辺は水は浅いでしょう」と番組スタッフに聞いている。これに対してスタッフは「そうです。なだらかです」と答えている。(文献5) つまり、明らかに情報のやりとりが行われている様子が写っているのだ。皆神氏によると、放映されたフィルムはオリジナルのものではない。最初の透視の時にはカメラスタッフがおらず、これはあとで取り直したものらしい。なお、クロワゼットがこの事件に興味を示したのは、前日の昼のワイドショーを見たからだとされており、クロワゼットが事前に何も情報を知らなかったというのは信じがたい。
また、クロワゼットはこの事件と同時に別の2つの事件の透視も行っていたが、そちらのほうは当たらなかった。さらに同じ年の12月に再来日し、2名の行方不明者の透視も行っていたが、これについては事前に大量の資料がクロワゼットに渡っていたにもかかわらず、透視ははずれてしまったらしい。(文献2)
海外における透視
ジャーナリストのピート・ハイン・フーベンス(Piet Hein Hoebens)の調査(文献6)によると、クロワゼットが超能力探偵として有名になったのは、ユトレヒト大学のウィルヘルム・ハインリッヒ・カール・テンヘフ(Wilhelm Heinrich Carl Tenhaeff)教授の後ろ盾による。クロワゼットの研究報告はほとんどTenhaeffの独占状態であった。また、英語圏でクロワゼットが有名になったのは、アメリカ人ジャーナリストのJack Harrison PollackがTenhaeffの監修のもとに書いた「Croiset the Clairvoyant」の影響が大きい。Pollackはオランダ語はできなかったようで、クロワゼットの透視結果の信憑性を独自に裏づけ調査できる立場になかった。よって、Pollackの著書の内容はほとんどTenhaeffから得た情報だと考えられる。
Tenhaeff教授は「超心理学界のジークムント・フロイト」として名声を上げたかった野心家で、彼がクロワゼットを「超能力界のモーツァルト」や「絶対に失望させない透視者」として売り出した、と見るのが妥当なようだ。Tenhaeffは言葉の壁をうまく利用して、クロワゼットを宣伝したようで、クロワゼットの母国のオランダとそれ以外の国の文献では内容が若干異なることがある。つまり、オランダ語以外の文献には、クロワゼットの能力について大げさな誇張がある。
たとえば、文献2にも紹介されている1979年のウォドリヘン地方の放火魔について「放火魔は男だ。制服を着る仕事をしていて、アパートに住んでいる。そしてオモチャの飛行機となんらかの関係がある」と透視し、模型飛行機を趣味とする警察署の主計係が犯人だったという事例がある。この時のクロワゼットの証言は録画され、警察のイーコフ署長のサイン入りで調書になったとされている。この話は、ドイツの月刊誌「Esotera」(文献7)に書かれた記事がもとになっているが、オランダ語で書かれた研究報告(Tijdschrift voor Parapsychologieに掲載)には、「制服」も「サイン入りの調書」も出てこない。フーベンスがこの件について問い合わせるまで、イーコフ署長は「Esotera」の記事など聞いたことも読んだこともなく、その記事には「完全な欺瞞」が含まれていると証言した。(文献6) この「欺瞞」の詳しい内容については、「超常現象の謎解き」内の「ジェラルド・クロワゼット」のページ(文献1)や文献2を参照のこと。また、Pollackの著書「Croiset the Clairvoyant」にも事実とは異なる誇張された話が収録されている。よって、フーベンスはクロワゼットに関するTenhaeffの報告はまったく信用できないとしている。
Pollackの著書には、クロワゼットに関する懐疑的な調査結果は掲載されていない。たとえば、Filippus Brinkという警察官が博士論文として1958年にオランダ語で書いた研究報告がある(Enige Aspecten van de Paragnoise in het Nederlandse Strafproces、「オランダの犯罪事例におけるESPのある側面」)。Brinkはクロワゼットを含む4人のよく知られた超能力者を調査した。彼らに、なんらかの事件に関係したりしなかったりする、さまざまな写真や物体を渡して何を感じるか聞いた。実験は1年以上続いたが、結果は否定的だった。超能力者は、殺人犯の写真を見てもその人物は無実だと感じたり、一度も使われたことのない新品の武器から、殺人などのヴィジョンを得た。Brinkは「あえて言うが、時々偶然当たる以外は、オランダで警察の関わる事件を透視者が超常的な方法で解決したことはない」とフーベンスに述べている。
また、Pollackの本には透視の失敗例はあまり載っていない。ところが、クロワゼットは週に10〜12件の行方不明者の相談を受けていたとTenhaeffは主張しているので、これが本当なら年間で500件ほどになり、クロワゼットは1940年代から透視をしているので、全部で相当な数になるはずである。それなのに贔屓目に見ても成功例が数件しかないというのは、よく失敗していたということなのだろう。
ひどい例になると、クロワゼットの透視のせいで無実の人が犯人にしたてあげられたこともあったようだ。例えば、ハーグで1973年に殺された中国人の事例がある。クロワゼットがSenfという男がこの犯罪に関与していると透視したため、被害者の家族がSenf氏を誘拐し、3時間にわたって拷問し、「自白」させた。ところが、結局Senfは無実であったことが判明し、その次の週、クロワゼットは花束を持って病院に入院していたSenf氏を見舞い、彼の無実を保証したという。
また、1950年に起こったArnheimの強姦事件で、クロワゼットは「犯人は異常なほど大きい性器を有している」と、シモネタ系の透視をした。警察が容疑者を捕らえたとき、その恥部をよく調べてみたが、普通の大きさだったそうだ。(ほんまに調べたんかいな?)
なお、クロワゼットは1980年に他界しているが、これに続いてテンヘフ教授も1981年に他界している。さらにフーベンスも1984年に他界し、超能力研究のひとつの歴史が幕を下ろした。
参考文献とリンク
- 「超常現象の謎解き」内の「ジェラルド・クロワゼット」のページ
- 「新・トンデモ超常現象56の真相」 皆神 龍太郎 (著), 加門 正一 (著), 志水 一夫 (著), 山本 弘 (著) 、太田出版 (「史上最強の超能力者!?ジェラルド・クロワゼット!」p.54〜63、「テレビで3000万人が目撃!クロワゼットの透視能力!?」p.64-76、皆神龍太郎)
- 英語版Wikipediaの「Gerard Croiset」の項目
- ウィキペディアの「ジェラール・クロワゼ」の項目
- YouTubeのビデオクリップ (2005年1月6日放送、テレビ朝日、『伝説の超能力者ジェラルド・クロワゼット透視捜査の真実』)
- 「Science Confronts the Paranormal」 edited by Kendrich Frazier, Prometheus Books (January 1986) この本はSkeptical Inquirerの過去の記事を集めたものである。フーベンスが書いたクロワゼットに関する記事は12章「Gerard Croizet: Investigation of the Mozart of "Psychic Sleuths"」(by Piet Hein Hoebens, p.122-132)と13章「Croiset and Professor Tenhaeff: Discrepancies in Claims of Clairvoyance」(by Piet Hein Hoebens, p.133-141)がある
- 「Der Paragnost」Tenhaeff, W. H. C., Esotera 31, no. 9 (Sep. 19980): 816-827
- クロワゼットについて、Piet Hein Hoebensが書いた文献はインターネット上でも見れるが、オランダ語(?)で書かれているため、さすがにこれは読めない。たとえば、「En psykisk detektiv Om mirakelmanden Gerard Croiset」や「De professor en de paragnost」などがある。
- 「Answers.Com」のWilhelm Heinrich Carl Tenhaeff の項目
- 「Answers.Com」のPiet Hein Hoebensの項目