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スターゲート計画 (Stargate Project)

スターゲート計画」(Stargate Project、スターゲイト計画)とは、CIA(アメリカ中央情報局)が関与したという超能力研究計画のことである。おもに「リモートビューイング」(遠隔視, remote viewing, RV)の研究を行っていた。日本のテレビ番組で「FBI超能力捜査官」として有名なジョー・マクモニーグルも参加していた。しかし、FBIに超能力捜査官という役職はないし、マクモニーグルがFBIに協力していたという記録が残っているわけではない。こういったテレビ番組のデタラメは「超能力番組を10倍楽しむ本」(文献1)で暴露されている。

ここでは「Psychology of the Psychics」(文献2)を参考にして、デイビッド・マークスらの調査結果を中心にまとめてみる。

アメリカ合衆国政府のRV計画は1972年にスタンフォード研究所(SRI)で始まったが、ハロルド・パソフ(Harold E. Puthoff)が創設者で、ラッセル・ターグ(Russell Targ)が共同創設者であった。最初にCIAが研究の立ち上げ資金として5万ドルを提供したが、CIAはRV研究を1970年代のうちに放棄し、そのすぐあとにDIA(Defense Intelligence Agency、国防情報局)が研究を引き継ぐ。(文献5) 1978年ごろにメリーランド州フォート・ミード陸軍基地(Fort George G. Meade)でもRVの研究が始まる。こちらの計画は初期の頃、「ゴンドラ・ウィッシュ」や「グリル・フレーム」と呼ばれ、マクモニーグルらが参加していた。(文献4) しかし、ターグの書いた報告書があまりに杜撰だったため、DIAは彼の給料を打ち切り、1982年にターグはSRIを追い出されることになる。それに続いて、パソフも1985年にSRIを去る。

その後、計画はエドウィン・メイ(Edwin May)博士に引き継がれ、1989年9月までSRIで行われた。1991年から計画はカルフォルニア州サンディエゴのハイテク会社「SAIC」(Sceince Applications International Corporation)に移り、1995年11月にCIAが計画打ち切りを決定するまで続いた。マークスらの本では、このうち1985年から1995年をスターゲート計画の期間としている。文献5によると、この計画に参加していたリモートビュアーは多いときで6人程度、少ないときで3人だった。欠員が出ると補充されるという形だったようだ。

1972年から1995年の間に合衆国政府がRV計画に投入した全経費は2200万ドル程度であり、複数の政府機関が関わったらしい。CIAはこのうち10%程度を支出したが、それは主に1972年から1975年の計画初期の頃だった。1985年から1995年にかけてのスターゲート期間が全支出の70%を占める。1975年から1985年にかけては、まだ機密扱いされている国防省内のいくつかの機関が計画を支援した。1985年から1995年にかけてはDIA主導で計画が進められた。1995年に計画はDIAからCIAのもとに戻されたが、CIAは計画の続行に消極的だった。CIAは重要文書の機密扱いを外し、American Institutes for Research (AIR)に計画の評価を依頼し、その結果、計画打ち切りが決定する。

AIRは計画の評価を二人の専門家に依頼する。その二人とは、カルフォルニア大学デービス校のJessica Utts教授(ビリーバー)とオレゴン大学のレイ・ハイマン(Ray Hyman)教授(懐疑派)であった。スターゲート計画打ち切りを決定したこの二人の結論は次のようなものであった。

  1. RVの最近の実験では、統計的に有意な効果が観測された。しかし、この統計的に有意な効果は、RVが実在するという明白な証拠がこの研究計画によって得られたと、二人の審査員に結論させるには至らなかった。統計的に有意な効果は、現象の実在によるものなのか、方法論的で人為的なもの、もしくはそれ以外の原因によるものなのか、はっきりしない。
  2. この計画の一環として行われた実験研究は、その結果が超常現象によるものであるという解釈を、確実に支持するものではない。

「認知科学研究所」(CSL)の資料

スターゲート計画終了後、SAICにあった研究機関はカルフォルニア州メンロ・パークにある基礎学術研究所(Laboratories for Fundamental Research)に移った。(文献4) その基礎学術研究所の一部である「CSL」(Cognitive Sciences Laboratory)のサイトのCIA/AIR Reportに行くと、スターゲート計画に関するAIRの文書へのリンクが貼られている。(文献3) また、STARGATE Videosでは、1995年11月28日にアメリカで放映された番組のビデオクリップが見れるので、ここで紹介しておく。CSLやジョー・マクモニーグルによると、この時の番組のせいでスターゲート計画が一般に広く知られるようになったそうだ。マクモニーグルは自著(文献4)で『1995年、スターゲイト・プロジェクトが公衆の目の前に意図的にさらされ、嘲笑の対象とされてしまった』(p.157)と述べている。(ところが、マクモニーグルはちゃっかりこの番組に出演している) 

なお、時を同じくして1995年には、超常現象を売り物にするアート・ベル(Art Bell)の深夜ラジオ放送番組「Coast to Coast AM」に、スターゲート計画のリモート・ビュアーの一人だったエド・デイムズ(Ed Dames)が登場し、計画を暴露している。(文献6)

さらにややこしいことに、マクモニーグルの著書「Mind Trek」は1993年に刊行されており、マクモニーグル自身も1995年にABCの「Put to the Test 」という番組でテレビに初登場した。(文献4) 驚いたことにエドウィン・メイもこの番組に登場する。どうやらRVというものの研究が行われていることは秘密でもなんでもなく、軍事利用目的の研究計画があったことのみが機密だったようだ。

ABC Good Morning America Trailer

 これは「Good Morning America」という朝の番組。「Nightline show」というその日の晩に放送される番組の予告を行っている。この当時はまだスターゲート計画の99%は極秘扱いだったとしているが、Jessica Uttsとレイ・ハイマンのAIRのレポートをABCが入手したため、Nightlineでこの番組が放送された。番組のレポーターによりUttsとハイマンのそれぞれ肯定的否定的な意見が紹介され、この際ESPが実在するかどうか、はっきりとした研究をして決着を付けたらどうか?と提案している。

ABC Nightline

こちらがスターゲート計画の秘密を暴露したという問題の番組。それほどカットされていないようで、オリジナルに近いもののようだ。前半はスターゲート計画の説明で、Jessica Utts、レイ・ハイマン、ジョー・マクモニーグル、エドウィン・メイといった豪華な顔ぶれが登場する。マクモニーグルがテレビ番組によく登場するようになったのは、この番組後のことらしい。AIRのレポートが、サイキック・スパイが諜報活動に有用だという保証はない、と否定的だったことが番組に出る動機となったそうだ。

スターゲート計画は、冷戦時代、ソビエトとの超能力研究開発競争に負けないよう始まった。ソビエト、セミパラチンスクの極秘核施設内のRVの透視結果をメイが説明しているが、そこにあった巨大なクレーンをリモートビュアーが見事に透視したと主張している。(クレーンの存在が戦略上、どれだけ重要なのだろう?) 文献4(p. 348)によると、この透視を行ったのは、パット・プライス(Pat Price)であるが、「間違いも多かったので、全体としては有用な情報とはみなされなかった」とのこと。番組レポーターはリモートビュアーの描いた絵について「子供の描いたようなスケッチ」と述べている。その他、1979年のイランにおけるアメリカ大使館占拠事件、1981年のイタリアで誘拐されたジェイムズ・ドジャー准将のエピソードなどが紹介されている。1989年には、麻薬の密輸人Charles Jordanの潜伏先をRVで透視し、その逮捕に貢献したとされている。(文献5)

しかし、500以上のRVが行われた結果、実際に当たっていたと言えるようなものは12以下だったらしい。Jessica Uttsは、統計的に偶然より有為な結果が出ているとして、科学者はRVについて真剣に考えるべきだとしているが、懐疑論者のレイ・ハイマンは、RVはおそらく有り得ないだろうと述べている。エドウィン・メイは、自分は懐疑的にRVの研究を行ってきたと述べているが、CSLのサイトにあるどのビデオを見ても、メイがRVについて懐疑的な意見を述べている様子はない。メイは、RVが100%正確ではないからといって、諜報活動には役に立たないとは言えないとしている。

後半は、CIA長官だったロバート・ゲイツRobert Gates)、核物理学者のエドウィン・メイ、「Norm」と名乗る謎の人物(CIAの技術顧問でスターゲート計画の評価を行っていたらしい)、そして、番組のホスト、テッド・コッペル(Ted Koppel)によるテレビ討論である。

メイはRV研究は、実験科学としては有意義なもので、全体の15%は驚くべきものだったとしている。諜報活動に応用するにはまだ早いかもしれないが、たとえば捜査活動やビジネスなどには応用可能かもしれないとしている。

しかし、ゲイツはRVに懐疑的で、ほとんど興味がないようだ。RVの研究をやるなら、諜報機関ではなく、どこかよそでやってくれ、という態度を示している。20〜25年間の間に、一度もスターゲート計画は、重要な政策決定に寄与したことはないし、その情報が提供されたこともないとしている。他に情報がまったくない場合、RVからの情報を利用するか、とのコッペルの質問に対して、その他のソースからの裏づけがない場合は、絶対に利用しないとしている。

スターゲート計画におけるNormの役割は、その実験の中から本当に役立つものを選別することだった。Normは、実験の一部は驚くべき結果をもたらしたこともあったが、諜報活動上重要なものはなく、答えよりも多くの疑問を残したとしている。Normの意見は、RVには無視できない何かがあるが、応用にはまだ早い、もっとオープンに研究されるべきだというもの。他のソースからの裏づけがない場合、RVによる情報は、絶対に利用できないというゲイツの意見に同意している。

メイももっと開かれた研究が必要だという意見に賛成であり、ゲイツもCIA内でRV研究の優先順位はかなり低いので、諜報機関以外のところで研究すべきだとしている。

US Customs Department Man Hunt

これは上記の「ABC Nightline」のビデオの中から、麻薬の密輸人Charles Jordanの潜伏先をRVで透視し、その逮捕に協力したという事例の部分のみを切り出したもの。ビデオに登場する二人の人物は、スターゲート計画責任者だったDale E. Graffと、税関役人だったBill Greenである。この件に関しては、懐疑論者のJoe Nickellが調査している。(文献5)

Charles Frank Jordanは、かつてアメリカ合衆国税関のサウス・フロリダの麻薬取締局の役人だったが、自ら麻薬密輸に手を染めるようになり、自分に疑惑の目が向けられるようになると逃亡した。

2年後の1989年に、アメリカ税関はDIAのRV部隊に協力を要請した。RV部隊はJordanの潜伏先として南フロリダ、カリブ海地方、中央アメリカなどを透視したが、実際にJordanが逮捕された北ワイオミングもその中に含まれていた。

Nickellによると、Jordanの潜伏先を透視したリモート・ビュアーは、Angela Dellafioraという女性である。しかし、彼女はリモート・ビュアーというより霊媒に近い。彼女は「トランス状態」に入り、「ジョージ」、「アインシュタイン博士」や「Maurice」と呼ばれる霊と交信するという手法を得意とした。そのため、他の男性リモート・ビュアーからは「魔女の魔法」などと馬鹿にされていたようだ。Nickellはこれを「目くそ鼻くそを笑う」(pots calling the caldron black)と表現している。

ところが、この件に関して、Dellafioraが何を透視したか公式の記録は残っておらず、彼女の透視が完全に超能力のみによるものなのか、どれだけ正確だったのか、その他の間違った透視をしていなかったかどうか、などといったことは確認しようがない。文献として残っているものにも矛盾点が多々あるようだ。この件に関する記録の多くはGraffの証言に基づいているが、彼も「ファイルに残っていないこともあるが、完全に記憶のみに頼っているわけではない」と曖昧さを認めている。

また、Dellafioraはその他の件について大間違いをしたこともあったようだ。たとえば、1988年に南レバノンでWilliam Higgins中佐がイスラム系テロリストに誘拐された件で、中佐は地下に監禁されて生存しており、すぐに開放されると、彼女は透視した。ところが、実際には民家に監禁されていたようで、最終的に1991年12月に拷問された痕跡のある死体となって発見された。

スターゲートのリモート・ビュアー

ここで、スターゲート計画に参加した遠隔視能力者をまとめてみると、以下の人物らがよく知られているようだ。

その他、文献4にはケネス・ベル、メルビン・ライリー(Melvin C Riley)、ハートレイ・トレントなどという名前も登場する。パット・プライスやインゴ・スワンはSRIの研究に携わっていた。米陸軍のフォート・ミードの研究には、ジョー・マクモニーグルらが参加していた。1983年ごろにエド・デイムズらが加わったが、デイムズはネス湖のネッシーの正体は恐竜の幽霊であると透視したこともあるらしい。(文献6) 計画終了後にアメリカのRV業界で一番成功したのは、デイムズだったようで、彼の遠隔視訓練学校の弟子としてはコートニー・ブラウン(Courtney Brown)がいる。さらにブラウンの弟子としては、ヘール・ボップ彗星について来た宇宙船を透視したプルーデンス・カーラーブレイセイ(Prudence Calabrese)らがいる。リン・ブキャナンはUFO信者のあいだでは有名だったらしい(?)が、計画終了後に始めたRV商売にはあまり成功していない。ブキャナンは「The Seventh Sense」という本を出版している。

なお、文献6によると、9・11の同時多発テロ事件の直後に、元スターゲートの遠隔視能力者の全員、およびその他の超能力者も、これから起こるテロに関する透視情報があれば、その提供を呼びかける情報機関からの電話連絡を受けたそうである。その結果、エド・テイムズなどは、サンディエゴ湾で、爆弾を満載したボートが原子力潜水艦に突っ込むことを透視したりしたらしい。アメリカの超能力部隊は今直顕在なのかもしれない。


参考文献

  1. 超能力番組を10倍楽しむ本」 山本 弘 (著) 、楽工社
  2. Psychology of the Psychics」 by David F. Marks (Author), Richard Kammann (Author) Prometheus Books
  3. CLS」(Cognitive Sciences Laboratory)のサイトの「CIA/AIR Report」からリンクされているスターゲート計画関連のAIRの文書は、次のものである。
  4. FBI超能力捜査官 ジョー・マクモニーグル」 ジョー・マクモニーグル (著)、ソフトバンククリエイティブ (2004/9/15)
  5. Remotely Viewed? The Charlie Jordan Case」 Joe Nickell、Skeptical Briefs、newsletter、March 2001
  6. 実録・アメリカ超能力部隊」 ジョン・ロンスン、文藝春秋 (2007/05)
  7. Ingo Swann (1933-2013) - Psychic Astronaut」 Thursday, February 7, 2013, Bad UFOs: Skepticism, UFOs, and The Universe - by Robert Sheaffer