ドゴン族のシリウス神話
伝説
フランスの人類学者ジェルマン・ディータレン女史とマルセル・グリオール博士はドゴン族と生活を共にし、人類学的な調査を行った。二人の人類学者は1950年に論文をまとめて、発表した。その論文によるとドゴン族は、非常に詳しい天文学の知識を持っているという。
ドゴン族はシリウスを信仰し、シリウスが伴星を持つこと(シリウスが連星であること、伴星はシリウスBと呼ばれる)や、その公転周期が50年であることなど。さらには、シリウスの伴星が白色矮星であることなどを知っていたかのような伝説を持っている。
これは、ドゴン族の神話として言い伝えられているもので、非常に古い時代から知られていたと考えられる。しかし、シリウスの伴星とその周期が分かったのは1862年であり、シリウスBが白色矮星だということが分かったのは1915年である。
ドゴン族はその知識をシリウスから来た神に授けられたということだ。
考えうる合理的な説明
この謎を解く鍵として、有名な話がある。
1957年、医師のカールトン・ガイジェセクがパプア・ニューギニア地方訪れた際に、原住民に手厚い歓迎を受けたお礼にロシア民謡の「黒い眸」を歌って聞かせた。
数年後、ガイジェセクがパプア・ニューギニア地方の違う地域を訪れた際に、多少変調した「黒い眸」が原住民の間で歌われていることに驚いた。
若い原住民は、その歌が先祖から受け継がれた古い歌だと言ったらしい。黒い眸は既にこの地方の広い範囲で知られているようだった。
つまり、二人の人類学者が現地に入る前にシリウスの知識を持った宣教師か誰かが、ドゴン族に当時かなりの話題になったシリウスの話をしてしまったのではないか?ということだ。そのシリウスの話が黒い眸と同じように、原住民のなかで伝説となってしまったのではないかと。
後から得た知識も、伝説の中に取り入れられて古くからの言い伝え・伝統になってしまうという例が示されたわけだ。
これで解決・・・と言いたいところだったのだが、後の調査でさらに詳しいことが分かった。
追跡調査
ドゴン族と11年間一緒に暮らし、調査を行ったベルギーの人類学者ワルター・ヴァン・ビークという学者がいる。彼は、ドゴン族にシリウスに関する伝説などないことを1991年に人類学誌に報告した。ドゴン族の調査を10年行った人類学者ジャッキー・ボウジョも、このビークの報告に同意している。
マルセル・グリオール博士に話をしたドゴン族に対する調査でも、シリウスの伝説は知っていたが、シリウスが連星であることや、公転周期の話、シリウスBが白色矮星であることは、全く知らなかったという。
つまり、最初にドゴン族の伝説の話を発表した二人の人類学者によるデッチ上げだったというのである。