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ナノサーマイト (911陰謀論)

Active Thermitic Material Discovered in Dust from the 9/11 World Trade Center Catastrophe

Open Chemical Physics Journal」というネットジャーナルにWTCの粉塵からナノサーマイトの残りカス(赤と灰色のチップ)が発見されたという論文(文献1)が掲載された。論文の第一著者はNiels H. Harrit博士、共著者の一人はあのジョーンズ(Steven E. Jones)博士であった。

  • リンク切れ?: 2011年2月下旬の時点で、Open Chemical Physics JournalがBenthamのサイトから消えてしまっていたが、3月になってまた復活したようだ。
  • 注意: ナノサーマイト(ナノテルミット)はスーパーサーマイト(スーパーテルミット)や軍用サーマイトなどとも呼ばれる。サーマイトとテルミットは読みが違うだけで同じ「thermite」である。「サーメイト」(thermate)は、サーマイトにさらに硫黄などを混ぜたもの。

論文の内容は以下のようなものである。

4つの粉塵サンプルのうち、1つはWTC2の倒壊10分後に採取され、2つは次の日、1つは約1週間後に、別々の場所から採取された。赤・灰色チップは磁石に引きつけられる。これらのサンプルを、光学顕微鏡走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)、エネルギー分散型X線分光(XEDS, EDS, EDX)、示差走査熱量測定(DSC)で解析した。

チップの赤い部分には、ほぼ酸化鉄からなる直径100 nmの粒子と、アルミを含む板状の微小構造(厚さ約40 nm、幅約1ミクロン)が存在する。これらの粒子や微笑構造は、炭素が豊富な基盤の中に埋め込まれている。メチルエチルケトンによる抽出で金属アルミニウムの存在が確認された。DSC測定では415〜435℃で発火し、その燃えカスの中から金属光沢のある鉄分に富む微小な球体が多数見つかった。その時放出されたエネルギーは、小さいほうから1.5、3、6、7.5 kJ / gであった。酸素アセチレン炎による着火実験も行い、数秒間の加熱で、強く発光する明るいオレンジ色で高温の粒子の高速な噴出が観測された。

さらに、掲示板「★阿修羅♪」において「検証するする詐欺サイト「Skeptic's Wiki」の望みゼロのバカさ加減www 「ナノサーマイト」編」(文献17)のような指摘があった通り、通常のペンキと赤いチップの比較を行い、赤チップはペンキではないと結論している。

  1. 赤チップとペンキの電気抵抗の値は明らかに異なる。
  2. メチルエチルケトン(MEK)中においてかき混ぜても、赤チップは膨張したが溶けはしなかった。これに対し、ペンキはMEKに溶けた。
  3. 赤チップはナノサーマイトの成分を含み、点火すると高温になり明るく発光する。DSC測定結果も短時間における高エネルギーの放出を支持する。こうした危険なものが建築材として使用されるはずがない。

論文の結論は以下のようなものである。

これらの観測結果より、WTCの埃の中から発見された赤・灰色チップの赤い層は、ナノテクノロジーを取り入れた活性な未反応のテルミット的な物質であり、高エネルギーな火工品または爆発性物質であると結論した。

基本的な疑問点

しかし、爆薬の種類をナノサーマイト(nano-thermite)とやらに変えたところで、以下のような疑問は解消しない。

  • 誰がいつどうやって、そんなものを誰にも気づかれずにWTCに仕掛けることができたのか?
  • 誰がどうやって起爆したのか?ナノサーマイトだろうとなんだろうと、ツインタワーに旅客機が突入した個所から順次破壊していくには、制御された起爆装置が必要になる。制御用のケーブルや点火プラグなどは、その後の現場から発見されていない。
  • 旅客機の突入による爆発とそれに続く火災で、なぜナノサーマイトは誘爆しなかったのか?WTC2とWTC1が倒壊したのは、旅客機が突入してからそれぞれ約56分後と102分後である。
  • なんでわざわざそんな面倒くさいことをする必要があるのか?戦争を始める口実がほしいだけなら、飛行機を突っ込ませてビルの一部を崩壊させるだけでもいいのではないか?なんでわざわざ上から下まで爆破制御解体する必要があるのか?

さらに、以下のような新たな疑問もつけ加わる。

  • ナノサーマイトって、どこで製造されたの?
  • ナノサーマイトの威力ってどれくらい?ほんとに鉄骨を切断できるの?

特殊な爆薬であればあるほど、それを製造できる場所は限られてくるので、その特定も容易になる。また、鉄骨の切断に使用される爆薬は、通常は「Linear shaped charges」(LSC)である。その原理は、指向性爆発の超高圧による金属噴流(流動化した金属)の発生(モンロー/ノイマン効果Munroe effect)によって金属を切断するというものである。ただ単に高性能の爆薬を使えばいいといった単純な話ではない。ジョーンズはゲル化したスーパーサーマイトを鉄骨に塗って乾燥させるだけみたいな話をしているが、可能性だけならなんとでも言える。根拠がなければ、憶測は憶測にすぎない。

ナノサーマイトは論文が発表されている分だけ純粋水爆説よりは信憑性があると思うかもしれない。しかし、2001年当時すでに実用化されていたという証拠はない。また、なにかの破壊にこれが応用されたという記録もない。これで本当に鉄骨を切ることができるかどうかもわからない。それなのに高さ400メートル以上の高層ビルの爆破制御解体に極秘裏に使用されたと主張するのは、ナンセンス以外のなにものでもない。 認知度の低いジャーナルにジャンクペーパーが発表されただけでは、なんの根拠にもならない。

査読の問題

Chefredaktor skrider efter kontroversiel artikel om 9/11」(文献2)によると、この論文が掲載されたことに怒ったジャーナルの編集長が辞職するという事態が起こった。この文献はデンマーク語らしいのだが、「Bentham Editor Resigns over Steven Jones' Paper」(文献3)で英訳を読むことができる。

ジャーナルの編集長Marie-Paule Pileni教授は、ナノサーマイトの論文が彼女の許可なく掲載されたことは受け入れ難く、編集長を辞退した、その論文は本来掲載されるべきではなかった、と主張している。なお、Pileni教授の専門はナノ材料である。

また、論文の筆頭著者のNiels Harrit氏は、論文の査読を行った匿名の審査員2人の名前を知っていると述べているとのこと。これは、「匿名の審査員による公正な論文の査読」というルールがこのジャーナルでは守られておらず、論文がきちんと査読されたかどうかについて重大な疑惑が示唆される。

もともと「Open Chemical Physics Journal」は専門家も知らないようなマイナーなジャーナルである。2008年から刊行されたようだが、2008年度は10報、2009年度はまだ4報で、合計14報の論文しか掲載されていない。これは極めてマイナーな雑誌であるといえる。こうした人気のない雑誌は専門家の注目を集めず、査読制度も甘い可能性が高い。一般的な化学物理の雑誌がどういったものかは以下の例を参照。どの雑誌も1ヶ月以内で、「Open Chemical Physics Journal」の2年間分の掲載論文数を軽く上回っている。

また、「粉塵から爆発物の痕跡が発見された」というのは、分野的にはChemical Physics(化学物理)ではなく、どちらかというと犯罪科学(forensic science)である。事件の証拠だというのなら、論文として発表するのではなく、本来はしかるべき捜査機関か裁判所に提出すべきものだ。つまり、これは「科学的な新発見」ではないので、論文として発表されること自体が不自然だ。これが「Open Chemical Physics Journal」というタイトルの雑誌に掲載されねばならない理由はない。

さらなる事態の悪化

ブログ「忘却からの帰還」のエントリ「自動生成無意味論文が査読付を標榜する学術誌にacceptされたという...」(2009年06月14日)によると、「Bentham Science Publisher」社という出版社が出版する情報科学系学術誌「The Open Information Science Journal」に、意味不明な論文を自動作成するソフトウェアによって作成された論文が受理された。Bentham Scienceの発行する学術誌には査読制があるはずなのに、まったくデタラメな論文が受理されてしまったらしい。

911陰謀論者にとって残念なお知らせは、このBentham Science社は「ナノサーマイト」の論文が掲載された学術誌「Open Chemical Physics Journal」の出版元でもあるということだ。(文献14) NatureNews(文献15)によると、この事件後、「The Open Information Science Journal」の編集長だったPittsburgh大学のBambang Parmanto氏は編集長を辞任した。これで短期間にBentham Scienceの編集長が2人も辞任したことになる。

NewScientistの「CRAP paper accepted by journal」(文献16)によると、Bentham Scienceの出版部門長であるMahmood Alam氏は、「論文がインチキであることはわかっていたが、投稿者が誰か知るためにわざと受理されたように見せかけた」と言い訳している。しかし、そんな手の込んだことをしなくても、直接調べれば誰が投稿したかわかるだろうし、編集長が辞任したことからも、この言い訳の信憑性は低い。

800ドル払えば、ほとんど査読なしに論文が受理される、というのがBentham Scienceの学術誌の実情のようだ。よって「ナノサーマイト」の論文もきちんと査読されたかどうか極めて疑わしい状態にあると言わざるをえない。

童子丸開氏の見解

「第3回911真相究明国際会議in東京」のパンフレットの「補足説明」で、童子丸開氏は以下のように述べている。

さらには、論文自体ではなく、その論文を査読し公表したThe Open Chemical Physics Journalが主要な学術誌ではなく権威が無いという人もいるようだ。そのような人々は、この論文しで発表された論文の中から「研究内容や査読に偽りがあった」具体例を出して「信用できない」ことを証明すべきである。

創刊されたのが2008年であり、2年間で14報の論文しか掲載されていないのであれば、間違いなく「主要な学術誌」ではない。

しかし、本質的には「ジャーナルの権威」など関係ない。「権威あるジャーナル」にも間違った論文や捏造された論文が掲載されることは多々あるのだ。どうして陰謀論者は自分たちに都合のいい時だけ権威主義になるのだろう? ちなみにSkeptic's Wikiでは、たとえ「権威あるジャーナル」に掲載された論文であっても、その内容がトンデモである場合は容赦なく批判している。

この論文がおかしいのは、上述したように以下の2点に尽きる。

  • 本来科学的新発見ではない記事が化学物理を名乗る雑誌に掲載された。
  • もし、この雑誌が論文の掲載料を収入源としているのだとしたら、論文を掲載しなければ、その分収入は減る。掲載論文数が少なければ、経営も危うくなりかねない。経済的な理由により、どうしても査読が甘くなってしまう可能性も否定はできないのだ。事実、同系列のオープン・ジャーナルにはデタラメな論文が掲載されかけた。

童子丸氏は以下のようにも述べている。

またこの論文発表後に同誌の編集長Marie-Paule Pileniが「論文掲載を聞かされていなかった」として辞任したのだが、彼女は、査読の作業や論文内容については一言も発言していない。公表によって発生するさまざまな外圧からの上手な身のかわし方と受け取るべきだろう。

なんで、こんなつまらないことにいちいち外圧がかかるというのだろうか? 実際にPileni氏が述べたのは、以下のようなことである。

このトピックが私のジャーナルに掲載されたことを、私は受け入れることはできない。この記事は物理化学とも化学物理ともなんら関係がなく、その掲載には政治的な立場が背景にあったと信じる余地がある。もし誰かが私に尋ねたなら、その記事はこのジャーナルに掲載されるべきではなかったと、私は言うだろう。それで終わりだ。

2年間で14報の論文しか掲載されない雑誌(しかも、そのひとつは化学物理と関係のない記事)の編集長をやっているメリットは、科学者としてあまりない。外圧などなくても辞任する気になることは、それほど不自然なことではない。

査読者が名乗り出た。

上記のエントリによると、Harritらの論文を査読したのは、2001年にアメリカ海軍研究所((NRL)から退官した物理研究者のDavid L. Griscom博士であることが判明した。こちら「Hey, Dude! What Are They Doing to Our Country?」を見るとわかるように、Griscom博士もいわゆる「トゥルーサー」である。要するに内輪で査読したということのようだ。

さらに上記のエントリによると、Griscom博士は『ハイジャック機の乗客はみな生きており、スイス銀行に口座を持つ自作自演の協力者』という説を唱えており、911真相究明運動内部からも批判が上がっているようだ。

二人目の編集長辞任

Denis Rancourt博士はオタワ大学の物理学の教授であったが、教育方針等をめぐり大学と対立し、2009年3月に大学を解雇された人物である。

Rancourt氏は、2010年11月に、Kevin Barrett氏のラジオショーでNiels Harrit博士とナノサーマイトについて討論を行い、Harritらの論文には多くの科学的な間違いがあり、その査読はきわめて粗末なものであったと結論している。

そこでRancourt氏は、当時「Open Chemical Physics Journal」の編集長であったLucio Frydman博士にメールを送り、なぜデタラメな査読が行われたのか、問いただしている。

その結果、Frydman氏から返信(Thu, Nov 11, 2010 at 12:46 AM)があり、以下の2点が明らかになった。

1) あなたの言及する論文が受け取られ、処理されたとき、私はジャーナルの編集者ではなかった。その取扱いに私は関与していないし、その結論に賛成することは絶対にない。事実、私はその論文のピア・レビューがどのように行われたのか―レビューされたのかどうか―さえ知らない。ジャーナルが私にこのことを明らかにしようとしたことはない。

2) さらに悪いことは、誰もこのジャーナルの舵取りをしていないらしいということだ。数ヶ月前、あなたが述べた論文について―その取扱いの不手際などを―知ったとき、私は即座にオープン・ケミカル・フィジックス・ジャーナルの編集者からの辞退を申し入れた。下記のeメールから明らかなように、私の辞退の手紙は受理され、承認されている。それなのに、私はいまだにジャーナルの編集者だと表示されている - 事実、私はまだ処理すべき論文を受け取っている(もちろん無視しているが)。

なお、Frydman氏は自分のメールが許可なくRancourt氏のブログに掲載されたことに抗議し、メールの削除を求めた(Thu, Nov 11, 2010 at 11:14 PM)。しかし、Rancourt氏はその内容は公共性の高いものだとして削除を拒否している。

論文内容に対する批判

赤ペンキとの成分の類似性

赤・灰色チップに関しては、「WTCの鉄骨に塗られていた錆止めの赤ペンキではないか?」という批判がある。文献4「"Active Thermitic Material" claimed in Ground Zero dust may not be thermitic at all」で写真の比較を見ることができるが、確かに見た目は良く似ている。「最初、それは乾いたペンキの欠片かもしれないと疑われた」とHarritらがわざわざ論文のイントロに書くぐらい似ている。

ところが、掲示板「★阿修羅♪」において「検証するする詐欺サイト「Skeptic's Wiki」の望みゼロのバカさ加減www 「ナノサーマイト」編」(文献17)と指摘されたとおり、Harritらの論文では「赤チップはペンキではない」と結論している。しかし、本当に赤ペンキ説を否定しきることができるのであろうか?サーマイトの原料である酸化鉄は顔料としてペンキに含まれることもあるのだ。

たしかにHarritらの論文ではペンキとの比較を行ったとしているが、そのペンキの由来については書かれていない。当然WTCの粉塵の中には鉄骨に塗られていた赤ペンキの欠片も含まれている可能性がある。粉塵の中から赤チップとペンキの両方を採取分離したというのならたいしたものだが、そのような記述はない。そのペンキがどのメーカーのどういったペンキかは明記されていない。また、赤チップの成分元素の分析にはエネルギー分散型X線分光(EDS)を用いているが、ペンキについてはEDSによる分析を行っていない。よって、この対照実験は不完全であると言わざるを得ない。

赤チップのEDSのデータを見ると、彼らが発見したチップに含まれていた元素は、建築資材中にはごく普通に存在する平凡な元素ばかりである。

まず灰色の層の成分(図6)を見てみると、 C(炭素)、O(酸素)、Fe(鉄)の3成分しかない。赤色の層については2種類のXEDスペクトル(図7と図14)が報告されている。図7のスペクトルはかなり複雑になっていて、炭素、酸素、鉄のほかに、Al(アルミニウム)、Si(シリコン、ケイ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、S(硫黄)、Ca(カルシウム)が含まれている。硫黄とカルシウムについては、Harritらも壁の材質の石膏(硫酸カルシウムが主成分)がその発生源ではないか、としている。図14のスペクトルは、さらに複雑になっていて、Zn(亜鉛)とCr(クロム)も含まれている。

さて、おつぎはペンキの成分だが、これについても文献4で論じられている。WTCで使用されていた錆止め赤ペンキの成分表はNISTの調査報告書のひとつ「NIST NCSTAR 1-3C」(pdfファイル)の438ページ(Appendix D, Table D-1. Composition of primer paint)に掲載されている。この表は顔料と溶剤に分かれており、溶剤はオイル、ニスやラッカーといった有機物ばかりなので、炭素の発生源になると考えられる。顔料の成分はつぎのようになっている。

成分 組成比
酸化鉄 35.9 %
亜鉛黄 20.3 %
Tnemec顔料 33.7 %
珪藻土 10.1 %

なんと酸化鉄は約36%も含まれている。亜鉛黄もクロム酸亜鉛を主成分とする色素である。珪藻土は二酸化ケイ素を主成分とする。Tnemec顔料はTnemec社の製品のようである。そこで、この会社の基礎ペンキのうちで赤い色をしているもの(Series V10Series 10)やそのトップコートのMSDS(材料安全データシート)を見てみると、成分としてアルミン酸や酸化アルミを含んでいることがわかる。つまり、Harritらが発見した元素はほとんど赤ペンキにも含まれているのだ。特に図14のスペクトルとはよく似ていると言わざるを得ない。

発火実験

HarritらはDSC測定による発火実験も行っており、高熱を発する発火性の高い危険な物質が「建築材として使用されるはずがない」としている。しかし、この主張が仮に正しかったとしても、旅客機の突入による爆発とそれに続く火災でなぜナノサーマイトが誘爆しなかったのか?という矛盾が生じる。何度も言うようだが、WTC2とWTC1が倒壊したのは、旅客機が突入してからそれぞれ約56分後と102分後である。

また、テルミット反応は金属酸化物とアルミの反応なので、酸素がなくても反応が起こる。ところが、DSC測定は空気フロー(毎分55 ml)下で行われている。これが本当にテルミット反応であることを証明するには、脱酸素条件下(窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下)で発火実験を行うべきであった。空気中で発火実験を行うと、含有されている有機物が発火している場合と区別がつかないと、文献4では批判されている。

酸素アセチレン炎による着火実験については、論文に記述されたURLより動画「oxy_redchip_slow.mov」を見ることができる。しかし、解像度が悪く、いったい何が燃えているのか、よく見えない。炎をあててから随分経って発火しているようにも見える。なぜ、もっと解像度のよい画像を正面からクローズアップで撮らなかったのだろう?また、爆発物の着火実験だというのに、実験者は素手のようである。これで安全なのだろうか?

この論文が発表されるまで911テロから7年以上経っているが、反応性の高いナノ物質が劣化もせず活性を保っており、DSCの結果にばらつきがあったとは言え、発火したという主張はなかなか興味深い。

金属アルミの検出

Harritらは赤チップを、頻繁に振とうしながらメチルエチルケトン(MEK)に55時間漬け、その後数日間空気中で乾燥させることによって金属アルミを分離したと主張している。MEKに漬けた後の赤チップのアルミが豊富な部分についてEDSスペクトルを測定し、慣例的な定量的手法でアルミの量が酸素の3倍も存在することを確認したとのこと。

しかし、「慣例的な定量的手法」(conventional quantification routine)の内容については明らかにされていない。また、アルミ粉末アルミニウム粉)は反応性が高く、水やアルコールなどと反応する。金属はその形状により反応性が大きく異なることが知られている。たとえば、鉄の大きな塊は燃えにくいが、細いスチールウールは簡単に燃焼する。ナノサーマイトもアルミと酸化鉄の粉末をナノレベルまで細かくして反応性を高めているわけだ。よって、そんなものを有機溶媒に長時間漬けこむのは、分析方法として不用意かもしれない。案の定、文献4では、MEKはアルミニウムと反応するので、抽出に使うべきではなかった、と批判されている。ただし、具体的にどんな反応が起こるかは示されていない。

また、EDSの分析結果については、アルミナやカオリナイトとの類似性も指摘されている。つまり、検出されたアルミは純粋な金属ではなく、酸化アルミやその他のアルミ化合物である可能性も否定できない。

そもそも粉末の微細組織のmorphologyとEDSによる元素分析だけでは、物質を同定することはきわめて困難である。本来はX線回折(XRD)のような結晶相を直接同定する手法を用いるべきである。そうしなければ、金属アルミの確実な検出はできない。

空間分解能

この論文のSEM画像も解像度が十分高いとは決して言えない。一番空間分解能の高いものは図8のBSE画像と図9のSE画像だろうが、スケールバーから換算すると、画像の大きさはおよそ4.6×3.5μm(マイクロメートル)であり、100 nm(ナノメートル)以下の構造がやっと見える程度である。後述する実際のナノ爆発物の論文においては、より解像度の高い透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて10 nm以下の構造まで観察しているものが多数ある。しかし、Harritらの論文ではそうした超微細な構造は観察できていない。

また、EDSの空間分解能は論文には明記されていないが、SEMよりもさらに解像度が劣る。Harritらの論文の15ページには「X線信号が発生している試料の体積は、粒子よりも大きい」(the volume of which the X-ray signal is generated is larger than the particles)という記述があり、EDSスペクトルはナノ粒子の周囲の物質からの信号に汚染されていることを認めている。つまり、純粋なナノ粒子のみの成分分析ができていない。

Harritらの論文の図10を見ると、BSE画像に比べてEDSマップの解像度が悪いことがはっきりとわかる。また、アルミの分布には大きな不均一性があり、鉄と均一に混合していない部分もあるように見える。テルミット反応は酸化鉄とアルミの反応なので、これらが均一に混合していないと反応性は劣化すると考えられる。わざわざナノ粒子を使用し表面積を広げた意味がこれではなさそうだ。

また、アルミと酸素の分布には重なった部分もあり、本当に金属アルミを検出したのか?という疑問も生じる。酸化アルミではないと言い切ることができるのであろうか?

図15の解像度はさらに悪いが、こちらも各元素が均一に分布しているようには見えない。図15では酸素と鉄の分布も一致していない。さらに部分的にケイ素と炭素が検出されているようだが、これは不純物なのだろうか?おもしろいことに酸素とケイ素の分布が一致しているようにも見える。

赤チップはただの錆?

Peer review of Harrit et al. on 911 - Can't see any nanothermite?」 

CLIMATE GUY, TUESDAY, NOVEMBER 9, 2010

オタワ大学の物理学の教授だったDenis Rancourt博士は、自身のブログでHarritらの論文の「査読」を行い、その問題点を以下のように指摘している。

  • アルミの小塊はEDXAスペクトルに不均一な背景Al信号を与える。このことについて論文では考慮も議論もされていない。赤い層にはアルミが存在しないか、あったとしても微量であろう。
  • 炭素の粘着テープはEDXAスペクトルに不均一な背景C信号を与える。このことについて論文では考慮も議論もされていない。赤い層には炭素が存在しないか、あったとしても微量であろう。
  • すべての赤い層のEDXAの結果において、ケイ素がアルミと同等もしくはそれ以上存在し、ケイ素とアルミはその空間分布において密接に相関している。(たとえば図10) これについて可能性のある説明は提供されていない。このことは金属アルミの存在と矛盾する。
  • 酸素は鉄よりもアルミとケイ素に空間的により近く相関している。(図10) これは金属アルミが存在するという結論と矛盾している。
  • 赤い層における鉄対アルミの元素比の推定を行う努力がなされていない。合成サーマイトもしくはナノサーマイトでは1:1のはずである。この点が一切議論されていない。
  • DCSの曲線では、サーマイト反応の温度よりも約90℃低い温度(420℃)で、発熱ピークが現れる。これについてなんの説明も提示されていない。ナノ・サイズであろうがなかろうが、既知の反応の化学活性化エネルギーにそんな試料依存性があるはずがない。これはサーマイト反応ではない。
  • 反応の生成物(DSCで加熱後)に、サーマイト反応の結果できるはずの酸化アルミが残留物として確認されていない。これについて、なんの説明もなされていない。
  • 固体の無機物(酸化物または金属)の確認のため当然必要なはずのX線散乱が測定されていない。これは材料化学の論文では容認できない。このことは筆者らによって考慮されていない。
  • 反応のあとに鉄が豊富な球体が存在するという事実についていろいろ言われているが、灰色の層やケイ素が豊富な球体の起源についての議論がない。加熱はいろいろなことを起こし、発熱反応があるので、鉄が豊富な球体(酸素を含むと報告されている)の存在がサーマイト反応の証拠であるという結論は薄弱である。

以上の問題点を鑑み、Rancourt博士は、Harritらが見つけた赤チップはただの鉄のではないか?と結論している。

鉄が錆びるとき、鉄の酸化物(ウスタイト、マグヘマイト(磁赤鉄鉱)、ヘマタイト(赤鉄鉱)等)や酸化水酸化物(ゲーサイト(針鉄鉱)、レピドクロサイト(鱗鉄鉱)、アカガネイト)によるミクロな層ができ、Harritらの論文に掲載されている写真のようなナノ粒子を形成する。

これらの酸化水酸化物について示差走査熱量(DSC)測定を行うと、FeOOHがFe2O3(ヘマタイト)に変化する発熱反応が、ちょうど400℃程度で起こる。この温度は、サンプルの成分や結晶構造に依存するが、いつもだいたい400℃程度である。

つまり、HarritらがDSC測定で観測した415〜435℃の発熱は、この反応に相当する可能性がある。

ナノサーマイトではないという新しい分析結果

その他

実際の「ナノサーマイト」との比較

ナノサーマイトは実在しない架空の超兵器ではなく、実際に「ゾル・ゲル法」というナノ加工技術等を応用した爆発物の研究は行われている。「Energetic Nanocomposite thermite」をキーワードにしてGoogle Scholarで検索すると多数の論文が見つかる。また、Harritらの論文にもいくつか引用文献がある。(文献5〜10) しかし、どの文献も研究段階のものであり、2001年当時に実用化されていたという証拠はなく、ビルの制御爆破解体に使われたという記録もない。もちろん、秘密兵器なので、その開発は隠蔽されていたと主張することもできるが、実績のない兵器をいきなり実戦に投入するのはリスクが高すぎる。

強力な爆薬というだけなら、ナノサーマイトにこだわる必要はなく、たとえば理論上史上最強とされる「爆発する黄金」オクタニトロキュバンOctanitrocubane)などもある。しかし、これは製造コストが高い等の理由で実用化されていない。ナノサーマイトについても同様で、研究開発されていたからといって、必ずしも実用化されていたということにはならない

Harritらが発見した赤チップが本当にナノサーマイトであれば、類似のナノ爆発物を探していくことによって、その製造元がわかる可能性がある。類似したものがなければ、赤チップはナノサーマイトではない可能性も出てくる。よって、次に実際のナノ爆発物との比較を行ってみたいと思う。Harritらの論文の引用文献のうち本文を入手できたものをつぎに挙げる。

Making nanostructured pyrotechnics in a beaker

(文献5)

Lawrence Livermore国立研究所(LLNL)の2000年の研究報告。この文献では、酸化鉄ゲルの一次粒子(直径1〜3 nm)が会合して直径5〜10 nmの2次粒子を形成し、さらにこれらが集まって樹枝状のエアロゲルaerogel)構造を形成している。(図1と3) このエアロゲルは20〜50 nmの空孔を含むメソポーラス(細孔)構造である。Harritらの赤チップでは、このような微細構造は確認できていない。エアロゲルとは多孔質で軽量な物質であるが、Harritらの論文では赤チップの密度については言及していない。また、この論文で使用されたアルミ金属粉の直径は〜6μmと比較的大きく、光学顕微鏡で観察すると、これらの金属粒子が光っているのがわかる。(図4)つまり、このナノコンポジットnanocomposite)の形状は、Harritらの赤チップの報告とは明らかに異なる。

Nanostructured energetic materials using sol-gel methodologies

(文献6)

LLNLの2001年の研究報告。Harritらの論文では、この論文のDSCの結果を引用しているが、この論文のナノ粒子の大きさは赤チップのものよりも小さい。酸化鉄クラスターの大きさは3〜10 nm、アルミ金属の超微細粒子(UFG)は30 nmで、その表面は厚さ〜5 nmの酸化アルミの膜で覆われていることが、高分解能TEMと場所選択的電子散乱(SAED)パターンにより確認されている。(図1) DSC実験の結果生じた生成物も、粉末X線散乱(PXRD)の測定で鉄と酸化アルミであることを確認している。Harritらの論文ではこうした測定は行われていない。

Energetic Nanocomposites with Sol-gel Chemistry: Synthesis, Safety, and Characterization

(文献7、pdfファイル)

LLNLの2002年の研究報告。この文献に登場するのは、ゾル・ゲル誘導された酸化鉄とアルミの超微細粒子(UFG)をフッ化ゴムの一種であるバイトン(Viton)で絡ませたナノ構造をもつナノコンポジットである。Vitonとはdu Pont社製の高フッ化ポリマーであり、アルミUFGの大きさは直径10〜100 nmである。エネルギーフィルター透過型電子顕微鏡(EFTEM)によりフッ素と鉄の分布を調べ、Vitonと酸化鉄が均一に混ざっていることが示されている。(図3) フッ素はHarritらの赤チップからは見つかっていないので、この論文のナノコンポジットとは類似性がない。

なお、このナノコンポジット制作の際、窒素流下103℃で3日間乾燥させたのち、乾燥炉から取り出したところ、その25〜40秒後に大気中で自然発火した。その原因は不明だが、自然発火が観測されたのはアルミUFGを含むコンポジットに限られる。このような低温で発火する不安定な物質を大規模な陰謀に使用することは困難であろう。

Nanoenergetics: an emerging technology area of national importance

(文献9、pdfファイル)

2002年の文献。AMPTIAC Newsletterというジャーナルの「A Look Inside Nanotechnology」という特集号に掲載された短い総説のようだ。LLNLのゾル・ゲル法については1ページ程度ほど書かれてある。この方法では「ゾル」と呼ばれるナノ粒子が3次元の固体ネットワーク「ゲル」を構成している。超臨界抽出(SCE)という方法で溶媒を除去すると、多孔質構造で軽量の「エアロゲル」となる。溶媒を単に蒸発させた場合は「キセロゲル」(xerogel)となる。酸化鉄とアルミナノ粒子(UFG)が均一に混合していることが、TEM画像(空間分解能25 nm以下)で示されている。(図7) アルミUFGの大きさは平均約35 nmである。

Formulation and Performance of Novel Energetic Nanocomposites and Gas Generators Prepared by Sol-Gel Methods

(文献8、pdfファイル)

同じくLLNLの2005年の研究報告。この文献では酸化鉄にニ酸化ケイ素(シリカ)を混ぜ、反応性を制御する方法を検討している。シリカは反応性が低いため、量を多くすると燃焼速度が遅くなり、安定性を高めることができる。市販品のナノ粒子を単に物理的に混ぜるより、ゾル・ゲル法で均一に混ぜたほうが、この効果は高まることが示されている。(図2) 

ゾル・ゲル法で混ぜた場合、エアロゲル粒子サイズ(10〜20 nm)より十分小さい領域(2〜5 nm)でも酸化鉄とシリカの相分離は確認できず、ナノレベルで均一に混合していることが示されている。(図1) さらにアルミ粒子の大きさは、平均直径80 nmであり、厚さ4 nm程度のアルミナの保護膜で覆われている。(何度も言うが、Harritらの赤チップでは、このような超微細構造は確認できていない)

さらに、有機物を混合しておくと、燃焼ガスの急激な発生により、爆発性を高めることができるので、この文献ではフッ素化された直鎖アルキル基を付加している。(このナノコンポジットには2μmと40 nmの2種類のアルミ粒子が導入されている) しかし、前述のようにHarritらは赤チップからフッ素を検出してはいないので、このナノコンポジットの成分や形状も赤チップとは一致しない。そもそも、この文献は2005年のものであり、2001年当時にこのような材料が実用化されていたという証拠もない。

Integrated chemical systems: the simultaneous formation of hybrid nanocomposites of iron oxide and organo silsesquioxanes

(文献10)

この文献は、LLNLとその他2つの大学の2005年の共著論文。Polysilsesquioxane(シリコーン樹脂の一種)と酸化鉄のナノコンポジットに関する論文であるが、アルミ微粒子との混合は行っておらず、着火実験も行っていない。使用されたpolysilsesquioxaneにはフッ素を含むものもある。

この論文でもTEMの測定を行っており、ナノ粒子のサイズは直径2〜5 nmであるとしている。(図5) また、ケイ素と炭素と鉄は均一に混合しており、5 nm以上の大きさの相分離は確認できなかったとしている。これもHarritらの発見した赤チップの不均一性とは異なる形状をしている。この論文にはナノコンポジットのカラー写真も掲載されており、その色は暗い赤茶色であり、赤チップの赤色とは異なる。(文献5と7にもナノコンポジットの写真が掲載されているが、こちらはカラーではないので、真っ黒に見える)

以上のように、Harritらの論文ではLLNLの文献を多く引用しているようだが、LLNLのナノコンポジットは均一な多孔質であり、赤チップの微細形状とは明らかに異なっている。また、何かの破壊に応用したという例もない。よって、これがWTCの制御爆破解体に使用されたという主張は、ナンセンスであるとしか言いようがない。

ナノサーマイトの使用法

ナノサーマイト説に肯定的な陰謀論の扇動者たちでさえも、ナノサーマイトがどのように使用されたかは皆目見当がつかないようで、思いついたことを口から出まかせで言っている。そういった主張はリチャード・ゲイジ(911陰謀論)にまとめてあるので参照のこと。ここではその主張の妥当性について検討する。

「塗るだけサーメイト」

2008年にデヴィッド・レイ・グリフィン博士が来日した際、「スーパーサーメイト」はペンキのように薄く鉄骨に塗ることができ、乾燥すればいつでも点火できると発言し、失笑をかった。しかし、赤チップの形状は実際にペンキによく似ている。「最初、それは乾いたペンキの欠片かもしれないと疑われた」とHarritらがわざわざ論文のイントロに書くぐらい似ている。

さらにp.26には、物体の表面にナノコンポジットをスプレーまたは塗ることによって、「爆発性ペンキ」を形成することができる、との記述もある。Harritらが根拠としているのは文献7であり、ナノコンポジットをスプレーコーティングすることにより、接着性フィルムを作ることができるとしている。さらに、微粉末や圧縮したペレット、板状にも加工できるとしている。しかし、その用途については言及していない。また、文献7で取り扱っているのは、フッ素ゴム・バイトンを含むナノコンポジットであるが、赤チップからフッ素は見つかっていない。

爆薬をペンキのように薄く塗ったからといって、鉄骨を切断できるわけではない。実際にそのようなことが可能だという根拠がなければ、お話にならない。何度も言うようだが、通常の爆破制御解体では、カッターチャージが鉄骨の切断に使われる。グリフィンの話はナンセンスであるとしか言いようがない。

ナノサーマイト製カッターチャージ

グリフィンの「塗るだけサーメイト」があまりにお粗末だったので、2009年に来日したリチャード・ゲイジは、今度は、ナノサーマイト製のカッターチャージがある、などと言い出した。

ゲイジによると、サーマイト製のカッターチャージの特許が存在するとのこと。しかし、その特許が本当に実用的なものかどうかは、実際にその特許内容を見てみないとわからない。特許は「発明者の権利を守る」という制度にすぎず、その特許が保護している発明が、必ずしも実用的である必要はない。役に立たない特許もたくさんあるのだ。

カッターチャージを使用するのなら、ナノサーマイトである必然性はない。普通の爆薬でも十分なはずだ。ナノサーマイト製のカッターチャージは、全部が燃え尽きて証拠が残らない、などともゲージらは主張しているが、これも証拠がなければ、単なる絵空事である。

サーマイト製カッターチャージ関連の特許としては以下のようなものがある。

これらのうち、ゲイジが「9/11:真実への青写真」で取り上げているのは「Cutting torch and associated methods」であるが、図を見てもわかるように、これは高温サーマイトを噴射する装置の特許であり、形成炸薬とは原理的に異なるものである。また、これでは「全部が燃え尽きて証拠が残らない」などという主張の根拠にはならない。

ナノサーマイト製キッカーチャージ

「第3回911真相究明国際会議in東京」のパンフレットによると、ジム・ホフマン(Jim Hoffman)は、ナノサーマイト製の「キッカー・チャージ」(kicker charge)が、切られた鉄骨を吹き飛ばすために使用されたという説を唱えているようだ。実際のキッカーチャージがどのようなものかは、以下のリンクなどを参照。

キッカーチャージを使うには、あらかじめ鉄骨に切り込みを入れておかないといけない。さらに、爆発に方向性を持たせるために、上記のビデオでは鉄骨の周りを砂袋で覆っている。

もともとサーマイトは、そのエネルギーを熱と光として放出するが、圧力は生じないので、物体を動かすことはできない。ナノサーマイトの場合も同じで、反応は速くなるが、圧力は生じないので爆発力はない。爆発力を生じさせるには文献8のように、ナノサーマイトにさらに有機物を混ぜ、燃焼ガスが発生するようにしておかないといけない。つまり、余計に手間がかかるだけで、わざわざナノサーマイトを使う必然性はない。

ナノサーマイト・マッチ

Harritらの論文のp.29には「この物質はそれ自身がカッター・チャージとして使われたのではなく、スーパー・サーマイト・マッチのように、高性能爆薬を点火する方法として使われたのかもしれない」との記述があり、その根拠として以下の文献を引用している。

Los Alamos国立研究所(LANL)でもスーパーサーマイトマッチの研究が行われているようで、以下のような文献もある。

つまり、ナノサーマイトは爆薬としてではなく、点火プラグもしくは信管としての応用が開発されているということ。WTCで使用されたのも点火プラグだけで、カッターチャージには別の爆薬が使われていたのであろうか?しかし、そうした爆薬がWTCにあったという証拠はない。

リチャード・ゲイジの大阪講演

AE911Truth」のリチャード・ゲイジ(Richard Gage)の大阪講演で、ナノサーマイトについて質問してみた。その様子を上記のYouTubeの動画で見ることができる。この件に関しては「リチャード・ゲイジ(911陰謀論)」を参照。

100トンのナノサーマイト?!

論文の筆頭著者のNiels Harrit氏のインタビューをYouTube「Scientist Niels H. Harrit presents evidence of nano-thermite found in WTC dust on Danish television」で見ることができる。どれだけの量のナノサーマイトが仕掛けられたか聞かれて、5分13秒あたりで「10トン以上、おそらく100トン」と、ずいぶん大雑把な話をしている。結局、Harritらもナノサーマイトの威力がどれだけのものかよくわかっていないようだ。

ナノコンポジットを実際に何かの破壊に使用したという文献も、現時点では確認できていない。どの程度の量のナノサーマイトがあれば、WTCの鉄骨を破壊可能か検証する必要がある。National Geographic Channelの番組「9/11: Science and Conspiracies」では、EMRTC(Energetic Materials Research and Testing Center)の協力のもと、サーマイトで鉄骨を切断できるかデモンストレーションを行っている。しかし、この実験では小規模な鉄骨の切断にも失敗している。はたして、ナノサーマイトなら切断可能なのだろうか?

Harrit氏は、100トンものナノサーマイトをどうやって仕掛けたのか?とアナウンサーに聞かれて、「トラックと荷運び台を使う」と答えている。どうしてそれで誰にも気づかれなかったのか?と聞かれて「それはジャーナリストである君が調べればいいことだ」と述べている。

おもしろいことに、ジョーンズのオリジナル文献「Why Indeed Did the WTC Buildings Completely Collapse?」でも仕掛けられた爆薬の量を推定している。(31ページ目) これによると、110階のツインタワーを破壊するにはそれぞれ590kg、WTC7には260kgもあれば十分だとしている。 つまり、合計で1.4トンあればいいということになる。ところが、どういうわけか秘密の超兵器ナノサーマイトは通常爆薬に比べて10〜100倍もの量が必要になるらしい。

もし仮に、100トンものナノサーマイトが仕掛けられたのだとしたら、「どうやって仕掛けたのか?」という問題と同時に「いったい誰がそれだけの量をどこでどうやって生産したのか?」という問題も生じる。100トンといえば、ツインタワーに突入した旅客機の機体重量に匹敵する重量である。

ちなみに百トンの爆発物を爆発させるとこうなるらしい。
100 Ton EOD Shot」 bustit22, 2007年04月14日, YouTube


参考文献

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  2. Chefredaktor skrider efter kontroversiel artikel om 9/11」 Af Thomas Hoffmann, videnskab.dk, 28. april 2009 kl. 11:11
  3. Bentham Editor Resigns over Steven Jones' Paper」 Screw Loose Change, Tuesday, April 28, 2009
  4. "Active Thermitic Material" claimed in Ground Zero dust may not be thermitic at all」 by Enrico Manieri - Henry62, 11-Settembre
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  8. Formulation and Performance of Novel Energetic Nanocomposites and Gas Generators Prepared by Sol-Gel Methods」 (pdfファイル) B. J. Clapsaddle, L. Zhao, D. Prentice, M. L. Pantoya, A. E. Gash, J. H. Satcher Jr., K. J. Shea, R. L. Simpson, March 25, 2005, 36th Annual Conference of ICT, Karlsruhe, Germany, June 28, 2005 through July 1, 2005
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  16. CRAP paper accepted by journal」 Updated 00:28 27 June 2009 by Peter Aldhous, NewScientist
  17. 検証するする詐欺サイト「Skeptic's Wiki」の望みゼロのバカさ加減www 「ナノサーマイト」編」 ★阿修羅♪, 投稿者 馬鹿まるだし, 日時 2009年9月11日 23:09:06