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ホメオパシーの根拠

ホメオパシー

  • ホメオパシーの根拠

ホメオパシーが「呪術的治療法」と揶揄されるのは、現代科学の考え方と矛盾しているからである。肯定派は「科学ではまだ解明できていない」などと主張することもあるが、そこに存在しない物質の性質が、無限希釈溶液に残留しているというのは、物質科学の原理に反している。そもそも、おまじないのようなものに作用機序など存在せず、科学的に解明されるわけがない。

希釈すればするほど治癒力が上がるという、ホメオパシーの「希釈の法則」の「科学的根拠」とされるものには、「水の記憶」事件として有名なベンベニスト博士の研究や、江本勝氏の「水は答えを知っている」の主張がある。しかし、どちらの主張も、科学的には認められていない。希釈する際に振とうしなくてはならない理由も不明だ。

似たものが似たものを直すという「類似の法則」にも根拠はない。ホメオパシーのレメディの原料は、必ずしも治療効果があるものばかりではなく、中には相当変なものも含まれている。『そのレメディが健康な人にどのような症状を引き起こすか』を確認する方法「プルービング」にも科学的根拠はない

また、ホメオパシー薬の多くは水薬ではなくて丸薬(砂糖玉)である。つまり、乳糖等の粒に、無限希釈水が滴下されたものである。加えられた水のほとんどは、すぐに蒸発してしまうだろう。仮に「水の記憶」のような話になんらかの妥当性があったとしても、「水の記憶」が「砂糖の記憶」となる根拠は皆無である。水薬の場合でも、雑菌の繁殖を防ぐためにアルコールが添加されている場合がある。水に記憶があるという根拠がないのと同様、アルコールに「記憶」があるという根拠も皆無である。

ホメオパシーと呪術(感染呪術類感呪術)の類似性については、以下のリンクも参照。

Jay W. Shelton著の「Homeopathy: How It Really Works」(Prometheus Books、2004/01)などでは、ホメオパシーは反証不可能であることも指摘されている。(p.172〜182) 以下のリンクも参照。

ホメオパシー団体が科学的根拠として引用する論文

ホメオパシー団体が科学的根拠として引用する論文の質は総じて低い。ときには、化学・物理系の学術誌では到底受理されないジャンク・ペーパーでさえ平気で引用するので注意が必要だ。

英国ホメオパシー協会(BHAのサイト「How does homeopathy work?」を参照)やホメオパシー国際評議会(ICH)が、ホメオパシーの根拠として引用する文献としては以下のようなものがある。

2003年のPhysica Aの論文

『塩化リチウムと塩化ナトリウムの超高希釈物(10^(-30) g/cm^3) を77KでX線とγ線を照射した後、次第に室温まで暖めた。その段階で、それらの熱発光が調べられ、その結果、アボガドロ数以下に希釈されているのにもかかわらず、最初に溶解した塩類に特徴的な発光を示したことがわかった』

液体窒素温度(77K)の氷にX線やγ線を照射すると、そのエネルギーにより電荷分離が起こり、電子・正孔対が生じる。これらの電子・正孔対は氷内の局所構造にトラップされ長時間安定に存在できる。しかし、温度を上げていくと、電荷再結合が起こり、その際、エネルギーを放出して発光する。これが「熱発光」(thermoluminescence)と呼ばれる現象である。氷の熱発光では120K弱で起こる発光(ピーク1)と160K強で起こる発光(ピーク2)の2種類が見られた。このうちピーク2は水と同様水素結合を有するホルムアミドでも観測されたことにより、このピークは水素結合ネットワークに由来するものだと筆者らは考えている。水に0.1Mの塩化リチウムを加えておくと、この発光は完全に消失する。

そこで、塩化リチウムと塩化ナトリウムの重水溶液を激しくかき混ぜながら15回希釈し、10^(-30) g/cm^3の超高希釈溶液をつくり、同様に激しくかき混ぜた重水と比較した。水よりも重水のほうが発光強度が強かったので、重水溶液が実験に用いられている。その結果、塩化リチウムの超高希釈溶液からのピーク2の発光が一番弱かったので、「最初に溶解した塩類に特徴的な発光を示した」と筆者らは結論し、加えた化合物が水の水素結合ネットワークの構造を変え、その構造が希釈過程の間も温存され、発光現象に影響をもたらしたと考察している。(注意:ピーク2の発光は塩化リチウムを加えた時のように完全に消えているわけではない。純粋な重水に比べて1/2〜1/3程度になっているだけである)

残念ながら、この論文の質は高いとは言えない。結論が短く(イントロダクションよりも短い)、考察も十分とは言えない。そもそも、液体である水と固体の氷ではその水素結合ネットワークの形状はまったく異なる。水を凍らせると体積が膨張することからもこのことはわかる。液体時の水素結合ネットワークがそのまま氷内のそれに反映されるとは考えにくい。さらに、ピーク2の強度を比較するのに、ピーク1を基準にしているのだが、ピーク1の強度はサンプルによってばらばらであり、その強度が何に依存しているのか記述されていない。たとえば、この論文の図1中の重水のピーク1はピーク2より弱いのに、図5中の重水のピーク1はピーク2よりはるかに強い。さらに図7ではなぜか拡大しないと見えないくらいピーク1は弱くなっている。このようにサンプルによってばらばらの強度を呈するピーク1を基準にピーク2の発光強度を比較することは適当ではないと思われる。

2001年のChemical Communicationsの論文

『クラスター・クラスター会合現象に関する研究で、水溶液中のフラーレン・シクロデキストリン結合体、塩化ナリトウム、グアノシン1リン酸ナトリウム、DNAオリゴヌクレオチドについて、濃厚な溶液よりも、希薄な水溶液のほうに、より大きな会合体が存在することがわかった』

この論文はホメオパシーの根拠にはならないであろう。なぜなら、濃度が最低でも0.01mMや5g/lと比較的高濃度で、含有物のクラスターをレーザー光散乱や走査型電子顕微鏡で観察できるのである。溶質分子が1つも存在しないほど高希釈されたホメオパシー薬とは比較にならないと考えられる。

同様な批判はHomeowatchのサイトにも「水による”凝集”がなぜホメオパシー理論を支持しないか」というタイトルで掲載されている。ここでは論文の著者の一人、Kurt E. Geckeler博士にメールでこの研究がホメオパシーと何か関連があるのか質問している。その解答はつぎのようなものであった。

あなたの言うとおり、原著論文にはホメオパシーという言葉は出てこないし、研究そのものはそれと全く関連がない。論文に書かれたことは、(ミリモル程度の)希釈により水の中で、何種類かの物質の粒子が大きくなったということだけだ。これは実験室で行われた研究だ――現時点で、それ以上のことはすべて憶測に過ぎない。我々の文献をもとにジャーナリストが何を言おうと、それは我々の管轄外のことである。それでも、 もしそれが確認されることがあるならば、それは色々と異なる分野に示唆的なものになるであろう。

2007年の「Homeopathy」の論文

この論文は、「Homeopathy」というタイトルの雑誌のVol.96(Iss.3)「The Memory of Water」(水の記憶)特集号に掲載された。雑誌のタイトルから、その内容は推して知るべし。疑似科学業界には権威づけのためにいい加減な論文を発表できるジャンク・ジャーナルがちゃんと用意されているのである。

結論から言うと、この論文の内容はデタラメであり、物理化学系の学術誌で受理されることはない。このようなジャンク・ペーパーをホメオパシーの根拠として引用するのは詐欺同然である。

まず、論文が正式に受理されるまで、どれくらいの日数がかかっているか見てみると、この論文の1ページ目左下の脚注に、以下のように書かれてある。

Received 20 March 2007; accepted 27 March 2007

つまり、論文を受け取ってから、最終的な受理まで7日間しかかかっていない。これから示唆されるのは、この論文はまともな査読(ピア・レビュー)を受けていないのだろうということである。

通常の査読過程では、まずその分野の専門家が論文を読み、間違いや問題点、不足点を指摘するが、これには数週間かかる。その後、査読結果が投稿者に知らされ、審査員の意見に従い、論文を書き変え、反論すべき点は反論し、実験に不備がある場合は再実験を行う。よって、物理化学実験の査読には通常2〜3ヶ月以上の時間を要する。1週間で査読が終わるということは普通あり得ない。

また、この論文では、Nat murとNux vomという2つのレメディを95%エタノールから作っているので、もはや「水の記憶」ではなくて「アルコールの記憶」である。ホメオパスにとっては水でもアルコールでも砂糖でも関係ないのであろう。なんともおおざっぱな話だ。

この2つのレメディの希釈度が異なるもの(6c, 12c, 30c)とエタノール95%について、紫外可視(UV-Vis)吸収スペクトルラマン散乱スペクトルを測定し、比較しているが、その解釈は根本的に間違っている。

液体中に3次元の複雑なネットワーク構造や液体分子のクラスター、ナノバブルが存在し、希釈と振とうによって、「エピタキシー」のようにその構造が転写されると言いたいらしいが、こうした分光実験ではそのような構造の存在を確認することはできない。

紫外可視吸収(UV-Vis)スペクトルとは、物質の電子状態間の遷移(主に最高被占分子軌道(HOMO)から、よりエネルギーの高い励起状態への遷移)を観測するものであり、液体の高次構造を反映するものではない。

また、エタノールは炭素原子2個、酸素原子1個、水素原子6個から成る比較的小さな分子であり、250 nmよりも長波長側に吸収があるとは考えられない。ところが、この論文のUV-Visスペクトル(Figure 1〜3)には、300〜400 nmにかけて吸収が現れている。とくにFigure 3の純エタノールでは、320 nmで吸光度が0.6以上あるが、これは明らかにエタノールの吸収ではない。

つまり、これらのスペクトルは不純物によるものである。サンプルによって吸光度が異なるのも、不純物の濃度が異なるためであり、液体の高次構造等とは全く関係がない。

ラマン散乱スペクトルは分子振動準位間の遷移を観測するものであり、これも液体の高次構造を反映するものではない。エタノールのラマン散乱スペクトルには、主なピークとして、433.5, 883.3, 1051.6, 1095.2, 1275.6, 1453.7 cm-1の波数のものがあることが知られており、これら以外の弱いピークは不純物由来の散乱やノイズである可能性が高い。

本来、このような実験には、純度の高い分光分析用のエタノールを使用すべきなのだが、この実験を行った人物は、そうした化学実験の基礎すら理解していないということがわかる。つまり、スペクトルの違いはすべて不純物で説明でき、この論文の内容はデタラメであるという結論になる。

その他

リュック・モンタニエ

この論文の第一著者のLuc Montagnierリュック・モンタニエ)は、HIV発見の功績により、2008年ノーベル生理学・医学賞を授与されているので、この論文は権威づけにホメオパシーの根拠として、以下のように引用されている。

ところが、「モンタニエの発見はホメオパシーに『真の科学的特性』を与えた」と評される割には、科学界ではちっとも話題になっていない。なぜなら、この論文の内容もほとんどデタラメだからだ。この論文は「ホメオパシーの信用性を高めるもの」ではない。このような論文を根拠として引用することは、ホメオパシーの信頼度を著しく損ない、その誠実性にも疑問を呈するものに他ならない

ちょっと見るだけで、この論文は「なんかおかしい」ということがわかる。論文の1ページ目を見ていると、

Recevied 3 January 2009 / Revised 5 January 2009 / Accepted 6 January 2009

と書かれてある。つまり、投稿されてから3日で受理されており、この論文もちゃんとした査読を受けていないことが示唆される。いくらノーベル賞学者でもこれではダメだ。

この雑誌の編集委員会(editorial board)を見てみると、モンタニエが委員長(chairman)をやっている。つまり、自分が編集している雑誌に自分の論文を無審査で掲載したというのが真相のようだ。

また、図の多くがパソコン画面のキャプチャ画像だということも奇妙だ。普通、論文の図は、データ解析専門のソフトウェアを使用して製作するものである。多くの図がキャプチャ画像として掲載されており、その細部を判別することが困難になっている。これではまるで、その詳細をわざと隠しているようにも見受けられる。

モンタニエのメールアドレスが「yahoo.fr」なのも興味深い。なぜ、自分が所属する研究機関のメアドを使用せずに、誰でも入手可能なyahooのメアドを使用したのだろうか?

「水の記憶事件」のベンベニスト博士と同じくモンタニエもフランス人であり、この論文も、ベンベニストが提唱していた「デジタル生物学」の考えを受け継いだものである。フランスには世界最大のレメディ製造会社Boironが存在し、その影響でこうした研究が盛んなのかもしれない。実際に、ベンベニスト博士はBoironから資金提供されていたと批判されたこともある。

奇妙な「電磁波放射」

この論文によると、病原菌やのウィルス、そのDNAの水溶液は、『低周波の電磁波』を放出して周囲の水分子の『ナノ構造』を変化させ、そのナノ構造も同じ電磁波を放出するようになるらしい。よって、もとの分子が消滅するまで水溶液が高度に希釈された後も、ナノ構造は次々と転写されるので、水はその特性を保持し続けるようだ。

しかし、この文献では、どのようなナノ構造が存在するのか明らかにされていない。そもそもナノ構造の存在自体が直接観察されていないし、電磁波の発生源がナノ構造であるということも証明されていない。どういった原理で電磁波が発生し、なぜその電磁波を照射するとナノ構造が増殖するのかも説明されていない。

通常、分子による電磁波の吸収・放出は、状態間の遷移にともなう電気双極子モーメントの変化によって生じる。電磁波の吸収によりナノ構造が形成されることはない。また、ナノ構造のような微小なものが、1キロヘルツ以下の低周波数の電磁波を発生するということも考えにくい。

モンタニエらによると、この現象は、周囲の低周波数電磁バックグランドに誘起される共鳴現象だそうな。つまり、周囲からのノイズを遮断し、試料からの電磁波のみを測定しているわけではなく、ノイズが存在しないと電磁波の発生も起こらないというのである。

そのノイズの一部は、50/60 Hzの交流電源によるものと考えられ、発生する電磁波は1000Hzに達する。もし仮に、これが本当に共鳴現象だったとしても、入射したものよりも高エネルギー(高周波数)の電磁波が発生するというのは不思議な話だ。

さらに、この電磁波放射は極めて奇妙な挙動を示す。

mycoplasma pirumという細菌の場合、電磁波放射があるのは、希釈度が10の-5〜-12乗の溶液であり、それ以上でもそれ以下でも放射は起こらない。酵母の場合も電磁波放射が陽性なのは、通常10の-8〜-12乗程度の希釈度だそうだ。また、10の-3乗の陰性の溶液を10の-8乗の陽性の溶液に混ぜると、電磁波放射が止まってしまう。これは、ナノ構造が過剰に存在すると、ゲルを形成し、「振動」できなくなるためらしい。(なお、ホメオパシーでは希釈度10の-30乗以上の超高希釈溶液がおもに使用される)

これに加えて、容器から別の容器へのナノ構造の「転写」(cross-talk)という奇妙な現象も報告されている。なんでも、電磁波を放射しない希釈度10の-3乗の溶液(酵母)を入れたチューブと電磁波放射する10の-9乗のチューブを、外部からの電磁ノイズを遮断した箱の中に並べて24時間入れておくと、両方とも電磁波を放射しなくなる。ところが、これらの溶液をさらに希釈すると電磁波放射が起こるようになる、とのこと。

明らかにこれらの話はとても奇妙で、現代科学では説明不可能だ。しかし、単純に考えると、これらはナノ構造からの電磁波放射などではなく、バックグランドノイズが時間とともに増減しているだけではないのだろうか? 対照実験として、周囲からのノイズが時間とともにどのように変化しているのかを測定しておく必要がある。ノイズの揺らぎ以上の信号が試料から検出できなければ、こうした実験自体が無意味である。

「ナノ構造」の寿命

また、液体中の分子は、室温におけるブラウン運動で常に揺らいでいる。そのため、水分子間の水素結合ネットワークも「ピコ秒」という極短時間領域で生成・消滅を繰り返している。よって、水溶液中に「ナノ構造」のようなものが存在したとしても、その寿命は非常に短いと考えられる。

このことをモンタニエらも自覚しているようで、電磁波を放出するという性質は、長くて48時間程度しか持続しないとしている。しかし、48時間というのは液体分子の運動に比べると極めて長い時間であり、水中にはミクロスコピックに流動性が極めて低い領域が存在することを意味してしまう。

ナノ構造の寿命が48時間だというモンタニエの主張を仮に信じるとしても、水性のレメディの効果も2日程度で消えてしまうということになる。ホメオパスは製作後2日以内にレメディを処方しているのだろうか?

言うまでもないことだが、モンタニエの論文はあくまで水の話であり、砂糖玉にも同様な効果があるとは書かれてない。また、レメディの原料も病原菌やDNAばかりではない。

モンタニエ博士、発明権利をめぐって係争中?

このような査読なしのデタラメ論文を発表したリュック・モンタニエ博士だが、「ナノ構造から放射される電磁波」を検出する装置の発明権利をめぐって、発明家のBruno Robertなる人物と裁判で係争中らしい。

上述の記事によると、この装置で「電磁気的な特徴」をとらえることにより、エイズ、パーキンソン、アルツハイマー病等の深刻な病気を特定でき、さらに「逆の電磁波」を照射することにより、病気を中和することができるらしい。

Robert氏はこの装置について、2005年5月にモンタニエ博士に紹介し、同年11月に特許登録したが、その1ヶ月後にモンタニエ博士も同様の特許申請を行っている。そして、2009年になってからモンタニエ博士は、この発明の権利をめぐってRobert氏に対して裁判を起こしたそうな。

Robert氏の弁護士によると、モンタニエ博士自身がこの装置を発明したわけではなく、年間100,000ユーロで、Robert氏の発明を5年間使用する権利を契約したが、支払いは一切なかった、とのこと。

さて、この「電磁波検出装置」だが、試料の周りにコイルを巻きつけただけの素朴なものであり、同様な装置はベンベニスト博士の論文にも登場する。つまり、この二人は故ベンベニスト博士が制作したヘンテコ装置の発明権利をめぐって裁判で係争中、という奇妙な展開になっているようだ。(つまり、どちらも装置の発明者とは言い難い)

この文献については以下のリンクも参照。

DNAがテレポートした??

この記事では、モンタニエの実験を、まるでDNAがテレポートしたみたいだと紹介しているが、別にモンタニエがテレポート説を唱えてるわけではなく、記者独自の解釈である。

忘却からの帰還

Natureによれば、カメルーンのAIDS研究センターの暫定責任者に、あのLuc Montagnierが任命され、それに35人のノーベル賞受賞者グループが抗議しているという。

ブライアン・ジョゼフソン

ブライアン・ジョセフソンBrian David Josephson)は、「ジョセフソン効果」の発見により1973年度のノーベル物理学賞を受賞した物理学者であり、ケンブリッジ大学の教授。超常現象の信奉者でもあり、ケンブリッジ大学の凝縮系理論研究グループ(Theory of Condensed Matter research group)の精神-物質統合計画(Mind-Matter Unification Project)の長でもある。

ジョゼフソン氏は、ジャック・ベンベニスト著の「真実の告白 水の記憶事件」(ホメオパシー出版; 初版:2006/2/6)にも序文を書いている。

それによると、ジョゼフソンは1999年3月にベンベニストをケンブリッジに招待し、講演を行ってもらっている。序文の中で、ジョゼフソンはこの講演について以下のように述べている。

ベンベニスト博士は講演の中で、生体のある生物学的信号がコンピュータのハードディスクに記憶されること、インターネット経由で別の場所に転送され、送信元の分子によって生じる具体的な変化が、そこで、原因分子なしに生物学的システムのなかで再生される、と述べた。ベンベニストは実験道具を携え、われわれの目の前で最新の実験を再現してくれた。彼に与えられた限られた時間を考慮すれば、この実験結果はありうるというレベルを超えて説得力をもつことが明らかとなったのである。

 われわれの研究所は、この講演をビデオに収録した。そして来るべき日にこれを発表しようとひそかに考えていたのである。ジャック・ベンベニストが、”水の構造に関する生物学的メカニズムの解明”によってノーベル賞を受賞した日に。しかしながらノーベル賞は生きている者にしか授与されない。なんと残念なことだろう。私はいつの日か、ベンベニスト博士が成し遂げた科学的貢献が、それにふさわしい栄誉を受けることを確信している。

 ベンベニストが多くの称賛を得てきた従来の専門分野を離れ、身のほど知らずな危険を犯すことによって自らの地位も将来も台なしにしたと信じている人たちは、完全に間違っているのである。

驚くべきことに、ジョゼフソンはベンベニストが「デジタル生物学」でノーベル賞を取ると思っていたようだ。ジョゼフソンは超心理学の擁護者として有名だが、この事例を見る限り、彼の超常現象に対する評価はてんでダメだということがわかる。

上記のエントリによると、「ジョセフソンは、『ニューサイエンティスト』誌(一九九七年一〇月一八日号)の記事への回答として、このように書いている」そうな。

ホメオパシーに関する主張に対してあなたからお寄せいただいたコメントについてです。希釈を繰り返すことで溶液中の溶質分子がほぼゼロに等しいほど微量になっているということが主な批判点でありますが、この指摘は的外れです。なぜなら、ホメオパシーのレメディーを推奨している人々は、ホメオパシーが効くのは水中に存在する分子の作用ではなく、水の構造に変化が生じたためだと考えているからです。

 

 単純に考えると、水は液体であるため、そのような観念に合致するような構造をもたないのではないかと思われるかもしれません。しかし通常の液体のように流れるのに顕微鏡的な距離においては秩序だった構造を維持する液晶の例などを考えれば、そのような考え方には限界があります。まさにこの点を考慮に入れるなら、わたしの知る限り、ホメオパシーに対する反論として有効なものはいまだかつて存在していません。

 

 これに関連するテーマとして「水の記憶」という現象があります。ジャック・ベンベニストとその同僚のヨレーネ・トーマス、さらにその他の研究者も、この現象を経験的に証明したと主張しています。もしそれが確かだとすれば、むしろホメオパシーそのものよりも大きな意味合いをもつでしょうし、またそうした主張をとりあえず検証してみるどころか、手に余るとただやり過ごしてきた現代科学界の見識の狭さを証明することにもなるでしょう。(Josephson, 1997)

しかし、水は液晶ではない。水が『顕微鏡的な距離においては秩序だった構造を維持』しているという証拠はまったく見つかっていない。ジョゼフソンは液体論や溶液学の専門家をナメすぎだと思う。自分以外の学者はバカばかりだとでも思っているのだろうか?

ニューサイエンティスト誌の記事については、以下のリンクを参照。

カオス理論や量子力学はホメオパシーの根拠になるか?

上記のロバート・L. パークの著書によると、NCCAMの前身であったOffice of Alternative Medicine (OAM)のWayne Jonas博士は、その著書「Healing With Homeopathy: The Complete Guide」でカオス理論の「バタフライ効果」を引き合いに出して「ホメオパシー療法は、病気の症状のパターンを変える小さな変数になりうる」としている。しかし、「バタフライ効果」とは、複雑系において初期条件を少しでも変えると、それが結果に大きな違いをもたらすので未来を予測するのが非常に難しくなってしまうという話であり、ホメオパシーの根拠にはなり得ない。

また、量子力学の「ハイゼンベルグの不確定性原理」や「粒子と波動の2重性」は「物質は人の意識に反応する」と誤解されることがある。「水は答えを知っている」の江本氏の主張がホメオパシーの根拠とされる理由もここにある。Jonas博士はこの誤解をさらに推し進めて、「ホメオパシーで治療する際には、患者の治療に必要な分子は患者のみならずヒーラーの思考によっても生じる」「感情も限界はあるにせよ、ヒトの肉体の化学反応に影響をおよぼす」としているらしい。「これではまるで心霊治療か魔術ではないか?」と、パーク博士は述べている。