リチャード・ゲイジ(911陰謀論)
リチャード・ゲイジ(Richard Gage)は、建築家であり「AE911Truth」の代表。
AE911Truthに対して批判的なサイトとしては「AE911Truth.INFO」を参照。
ただ単に段ボール箱を落下させた場合と、それを別の段ボール箱の上に落とした場合とでは、その挙動が違うことを示すパフォーマンスを行ったことで有名。
- 「Hardfire ARCHITECTS & ENGINEERS FOR 9/11 TRUTH / GAGE / ROBERTS / 2ND PROGRAM」(24分00秒から) Googleビデオ
2009年には、きくちゆみらの招きで来日し、第3回911真相究明国際会議等で講演を行った。
リチャード・ゲイジの大阪講演
2009年12月11日のゲイジの大阪講演を聞きに行ってみたが、その内容は、他の陰謀論者が従来述べてきたこととほとんど変わりはなく、新鮮味に欠けていた。建築の専門家だというふれ込みだったので、設計図等をもとに、WTCのどこにどれだけの爆発物が仕掛けられたか?等といった議論をするのかと期待していたが、そういう話は一切なく、あまり専門家らしさを感じることはなかった。
ナノサーマイトに関する質問
この件に関しては、「ナノサーマイト (911陰謀論)」も参照。
- 「Richard Gage answers questions on nanothermite」 YouTube, angrysoba, 2009年12月12日
リチャード・ゲイジの大阪講演でナノサーマイト(ナノテルミット)について質問してみた。その様子を上記のYouTubeの動画で見ることができる。質問の内容は以下の通り。
- 制御解体(爆破解体)にサーマイト(テルミット)が使われたことはない。本当に可能なのか?サーマイトは熱を発する焼夷弾である。第2次世界大戦中に米軍が東京を空襲するときに使った。爆発力はない。通常爆発力と熱の発生は同立しない。何かを溶かすためには高温をものすごく集中させないといけない。しかし、爆発は体積の膨張なので、全部吹き飛ばしてしまう。だから、高温と爆発は同立しない。技術的にそれが可能なのか?
- ふつうの制御解体には「成形爆薬」(shaped charge)が使われる。ものすごい高圧の液体のジェットメタルを作って鉄骨を切るが、それがサーマイトで可能なのか?ということが知りたかった。塗っただけでできるのか?
(質問の中で「同立」という言葉を使っているが、これは「両立」の言い間違え。緊張していた!)
WWIIで米軍が東京を空襲した際に使用したのは、おもに「集束焼夷弾」である。サーマイト反応が使われているのは「エレクトロン焼夷弾」である。この焼夷弾は激しく発光するため高高度からでも視認でき、攻撃目標へのマーカーとして使用された。
ひとつめの質問に対するゲイジの答えは、以下のようなものである。
ナノサーマイトは極めて小さな粒子で、人間の髪の毛よりも1000倍小さい。そのため、表面積がとても大きく極めて爆発性が高い。あなたはナノサーマイトを使用したことがあるか?
最後になぜか「ナノサーマイトを使用したことがあるか?」(Have you ever worked with nano-thermite?)と、質問に質問で返されてしまった。当たり前のことだが、ナノサーマイトなど見たこともない。答えは当然「No」だ。
ゲイジは「熱の発生と爆発は両立しない」という質問の内容を理解していないようだ。焼夷剤の発熱量は有限なので爆発で急激な体積の膨張が起これば、密度が低くなり高温を発生させるのは難しくなる。単なる爆発物がほしいのならサーマイトである意味がない。
爆薬を使って制御解体を行う場合も「成形爆薬」を使って鉄骨を切る。単に爆発力が強ければいいというものでもない。2番目の質問に対する答えは、以下のようなもの。
「成形爆薬」を捜したが、見つからなかった。おもしろいことに1984年に固めたサーマイトを使用したカッターチャージの特許が存在する。よって、溶けた金属と残留物しか残さない。
通訳の人によると、このカッターチャージの外部は従来のテルミットからできており、内部がナノテルミットだそうだ。(ゲイジは内部がナノサーマイトだなんて言ってなかったようだけど?) 外部のハウジングもテルミットからできているので、全部が燃え尽きてテルミット以外の証拠が残らないそうな。なんとも都合のいい話に聞こえますね。
最後に通訳の人がまた「一般に強い発熱反応と爆発は同時に両立しない」という質問をゲイジにしてくれたけど、その答えは以下のようなものであった。
ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)でそうだという文献がある。24ページのピュアレビューされた論文があるので、それを注意深く読んで、その著者ジョーンズ博士に相談してくれ。
当日配られた資料には、ナノサーマイトについて『1990年代半ばかあるいはもっと早い時期から、米国の国立研究所で活発に研究され続けています』と書かれてある。1984年の特許だというのなら、普通のサーマイトに関する特許なのだろう。
そもそもカッターチャージを使用するのなら、ナノサーマイトである必然性はない。普通の爆薬でも十分なはずだ。全部が燃え尽きて証拠が残らないというのは都合がよすぎる。起爆装置と導火用のケーブルは残るのではないかな?ケーブルではなく無線で起爆したという主張も成り立つけど、その場合も受信機が必要だ。すべてが魔法のように消えてなくなったという主張は信憑性がない。
また、特許があるからといって必ずしも実用化されているとは限らない。特許は「発明者の権利を守る」という制度にすぎず、その特許が保護している発明が、必ずしも実用的である必要はない。役に立たない特許もたくさんあるのだ。直立した鉄骨の支柱を指向性のないサーマイトで、本当に切断可能なのであろうか?サーマイトが制御解体に使用されたことはないのだ。
1年前にグリフィンはなんと言っていたか?
第3回911真相究明国際会議に来日したゲイジによって、ナノサーマイトでできたカッターチャージがWTCの制御解体に使われたという「衝撃の事実」が明らかにされたわけだが、その1年前に来日したグリフィン博士がなんと言っていたか聞いてみよう。
当時の音声を「9/11 Truth Hits Japan」(The Corbett Report, 03 November, 2008)でダウンロードできる。「David Ray Griffin - Afternoon Lecture」(mp3)の58分30秒ぐらいのところから、グリフィン博士のサーマイトに関する説明を聞くことができる。
グリフィン博士は「スーパーサーメイト」(super thermate)と言っている。なお「thermite」(サーマイト、テルミット)と「thermate」(サーメイト)は別物。グリフィン博士によるとサーメイトには、『鉄の融点を下げるために硫黄が混ぜてある』とのこと。ナノテクノロジーによって微粒子状にされたスーパーサーメイトだと、通常のサーメイトの10倍くらい威力が増す(グリフィン博士もよく知らない)とのこと。
こうしたグリフィン博士の主張に対して聴衆から笑いが起こり、司会兼通訳のきくちゆみ氏が『なぜ笑うんですか? あなたたち、専門家ですか?!だけど、笑うのは失礼じゃないですか!』と怒り出す様子も録音されている。「犠牲者に失礼でしょう!」という聴衆(?)の声も録音されている。
1時間4分あたりのグリフィン博士の発言によると、スーパーサーメイトはソル・ゲル状でペンキのように薄く鉄骨に塗ることができるらしい。もともとは液体で乾燥すれば、いつでも点火できるとのこと。なんとも都合のいい話だ。
たった1年で、陰謀論者の言うことは場当たり的にコロコロ変わるということがよくわかる。少なくともグリフィンとゲイジのどちらかがデタラメを言っているのだろう。もちろん両方ともデタラメである可能性もあるわけだが。911真相究明国際会議を主催するきくちゆみ氏はどう考えているのだろうか?
なお、Harritらの論文で報告されているのは、乾いたペンキのような薄膜状の「ナノサーマイト」(赤・灰色チップ)であり、その形状はどちらかというとグリフィンの話のほうに近い。
妄想は膨らむばかり
ゲイジの講演の際配られた「第3回911真相究明国際会議in東京」のパンフレットに、「補足説明」として童子丸開氏が「スーパー・テルミット」がどのようにして使われたか解説している。なかなかおもしろい文章なので、ツッコミを入れてみたいと思う。
まず、飛行機の激突と火災でどうして爆薬が誘爆しなかったのか?という問題についての補足として、以下のように述べている。
まず、飛行機がきわめて正確に誘導されていた、ということが大前提となる。2つの(ペンタゴンを含めれば3つの)秒速200m以上で飛ぶ大型機をピンポイントで標的に激突させることは、おそらくベテランのパイロットでも困難かもしれないが、地上から飛行機を誘導して狙い通りのコースを飛ばす技術は2001年の以前に、すでに米軍によって開発されていたのである。
この「大前提」からしてびっくり仰天である。要するに旅客機がリモコン操作されていたというのだ。「ベテランのパイロットでも困難かもしれない」飛行が、遠隔操作ならば簡単になるのであろうか?誘導されていた大型機とは、乗員乗客の乗った11便と175便のことなのだろうか?それとも別の飛行機のことなのだろうか?いずれにせよ、そんなことが起こったという証拠は一切なく、現実味に欠ける。
次に仮定されることは、ツインタワー両ビルで、上層部分のコア支柱の要所要所に、アルミニウムと酸化鉄の粉を混ぜただけの旧来のテルミット(あるいはそれに硫黄を加えたテルマット)をしかけ、コンピュータ制御されたリモートコントロールで起爆させる準備をしておくことである。
ええ?!「旧来のテルミット」も仕掛けられてたんですか?なんでそんなにテルミットにこだわるのだろう?なんども言うが、テルミットが制御解体に使われたことはない。なぜそんなことをする必然性があるのか?以下の文章からわかるように、旅客機の突入部分にスーパー・テルミットを仕掛けておくと、誘爆する可能性があるので、その部分には「旧来のテルミットを仕掛けた」ということらしい。
もちろん事故でその装置の一つが点火されても連鎖的に燃焼が続かないようにそれそれの装置を独立させておかねばならない。従来型のテルミットであれば900℃近い温度が点火に必要だが、ジェット機激突と火災によって、900℃近くまでに達したと思われる部分は、たとえあったとしてもごくわずかに過ぎなかった。(この点は拙著『「WTC崩壊」の徹底究明(社会評論社)』を参照いただきたい。)飛行機激突のショックでその一部が燃焼したとしても、それは大勢にはほとんど何の影響も与えなかっただろう。
独立した起爆装置ねえ… どんどん陰謀が複雑になっていくな。「900℃近くまでに達した部分は、ごくわずか」ってのは、どんな根拠に基づくんでしょ?一万ガロン程度の燃料を積んだ大型旅客機が時速約700〜860キロで突入しているのだが?
長いので中略。
基本的に、従来型のテルミットを上層部分に、中層〜下層部分にはスーパー・テルミットを(他の爆発物が併用された可能性もある)仕掛けたことが考えられる。また地下および地上基部のコアにもスーパー・テルミットが(おそらく従来型と併用で)使用された可能性が高いだろう。それは、地下で長期間目撃された「溶けた鋼鉄」、通常の燃焼では起こり得ない異常に高い温度と深い関係があるものと思われる。
他の爆発物も併用された可能性もある?? 基部にはスーパー・テルミットが従来型と併用された? 陰謀はさらにどんどん複雑怪奇になっていくようだ。確認しておくが、Harritらが論文で主張しているのは、「ナノサーマイト」だとされる赤・灰色チップの発見であり、「従来型のテルミット」や「他の爆発物」など発見されていない。つまり、これらの主張は童子丸氏の独断だ。
通常の制御解体では、その後に「溶けた鋼鉄」が残ることはない。WTCの残骸が12月まで燃え続けたというのは事実だが、そこで目撃された「融けた金属」が本当に「鋼鉄」だったという証拠はない。鋼鉄よりも融点の低い物質は他にもある。従来のテルミットにしろ、スーパー・テルミットにしろ、高温を発生する反応性の高い物質は、すぐに燃え尽きてしまうはずである。これが3ヶ月も燃え続け、融けた状態の鋼鉄が保持されていたという陰謀論者の発想自体がよくわからない。瞬間的に高温が発生するという現象と、長時間高温が保たれるという現象は、本来別物である。
また仕掛け方については、ビルの補修と点検を口実に長い時間をかけて装置を少しずつ仕掛けていったことが十分に考えられる。特に事件のやや前に大々的に行われたエレベータの改修工事で、コアの支柱群に直接に簡単に接近することが可能であったはずだ。さらに通常の爆薬とは異なりテルミット系の物質には爆発物探知犬も反応することはあるまい。
「簡単に接近すること」ができたって、支柱の鉄骨がむき出しになっていたとでもいうのであろうか?「エレベータの改修工事」があったという根拠は?どの程度の規模の工事が、どのくらいの期間行われていたのだろう?ちなみにコアの支柱の一部はツインタワーが崩れ落ちた後もしばらく粉塵の中に建っていたのが画像として残されている。ここには爆薬は仕掛けられていなかったのだろうか?また、ツインタワーはチューブ構造をしており、外壁にも鉄骨が使われていた。外壁の支柱にはどうやって爆薬を仕掛けたのだろう?
しかし、いまここでこれ以上の推定を膨らませることは止めておこう。
まったくその通り。根拠のない妄想をこれ以上膨らませても意味がない。本当にこんな方法で、誰にも気づかれずに爆発物を仕掛け、ツインタワーを「自由落下」のように制御爆破解体することが可能だと考えているのだろうか?妄想と現実はきちんと区別しないといけない。憶測の上に憶測を重ねるだけでいいのなら、なんとでも言える。これぞ、まさに無敵の陰謀論だ。
なお、このパンフレットの原稿はAE911Truthのサイトの「JAPANESE - Explosives Found in WTC Dust WTCを破壊した高性能爆発物」(pdfファイル)からダウンロードできる。
それでも妄想は止まらない。
「第3回911真相究明国際会議in東京」のパンフレットには、ジム・ホフマン(Jim Hoffman)による解説も掲載されているが、そのFAQの「Q:焼夷物質であるテルミットがどのようにツインタワーを解体させたというのか? ビルの解体には通常は爆発性の高いカッターチャージが使用されるはずだが。」の項目を見てみると、ホフマンは「テルミット製カッター・チャージ説」には否定的なようで、以下のように述べている。
ある種のテルミットは、鉄骨構造の高層ビルを解体するために、決してカッターチャージではない形で使われれる可能性があります。
では、いったいどういうふうに使われるのかと言うと、
私が「Hypothetical Blasting Scenario」で書いたように、3つのタイプのアルミノ・テルミット法による火薬技術が取り上げられます。まず、鉄骨構造にテルミット焼夷物質を吹き付けて被膜を作っておくこと、次にナノ・テルミットのキッカー・チャージ【訳注:切られた鉄骨を吹き飛ばすための爆発物】を鉄骨構造の近くに仕掛けておくこと、そして薄いフィルムにしたナノ単位の高性能爆発物をビル中に仕掛けておくことです。計画的に仕掛けられた焼夷剤の膜はビルを倒壊させる何分も以前に着火されビルの構造を弱めますが、キッカー・チャージが主要な支柱を破壊するときに、初めてビルの明らかな崩壊が始まるのです。そして、薄いフィルムの高性能爆発物が、崩壊が始まった場所から順々に(下の方に)ビルを粉砕していきます。
なんと、ナノテルミットの「キッカー・チャージ」(kicker charge)なるものまで登場する!いったいテルミットには何タイプあるのだろう?「薄いフィルムにしたナノ単位の高性能爆発物」というのは、グリフィン博士の「塗るだけテルミット」のことだろうか?そんなものでどうやって「鉄骨を切る」のだろう?
さらにNiels H. Harritらのナノサーマイトに関する論文(文献1、p.29)には以下のように書かれてある。
もしかすると、この物質はそれ自体がカッター・チャージとして使われたのではなく、スーパー・サーマイト・マッチのように高性能爆薬を点火する方法として使われたのかもしれない。
なんとまあ、スーパー・サーマイト・マッチまで登場。本気なのか? 制御解体をよくわかってない人たちが、場当たり的に適当なことばかり言ってる、ということが痛いほどよくわかる。
ナノサーマイトの使用法については「ナノサーマイト (911陰謀論)」にまとめたので参照のこと。
angrysoba氏のレポート
関西におけるゲイジの講演の様子は、以下のangrysoba氏のブログも参照。
- 「I Can't Handle The Truth」 Monday, December 07, 2009
こちらでは、2009年12月7日、立命館大学びわこ草津キャンパスで行われたゲイジの講演について、angrysoba氏がリポートしている。藤岡惇教授が招待したようだ。きくちゆみのブログによると、これは「アメリカ経済論」の公開講義として行われ、250名が参加したとのこと。angrysoba氏は150名程度ではないかとしている。
- 「Osaka Buys Snake Oil」 Friday, December 11, 2009
- 「Sheeple Outvoted!」 Monday, December 14, 2009
上記のふたつのエントリが12月11日の大阪についてのもの。
- 「Richard Gage says some videos appear to be manipulated」 YouTube, angrysoba, 2009年12月12日
こちらはangrysoba氏がゲイジに質問している様子。
ゲイジの講演テクニック
ゲイジの講演内容は、他の陰謀論者が従来述べてきたこととほとんど変わりはなく、新鮮味に欠ける。しかし、その講演テクニックをなめてはいけない。911陰謀論は長年批判にさらされてきたため、その発表方法は洗練され、説得力の高いものとなっている。
ゲイジの講演は、制御爆破解体に否定的な事実については一切触れず、都合のいい事実しか紹介しない。angrysoba氏はこれを不誠実な態度と批判している。ゲイジが使うテクニックは以下のようなものである。
- 実際の制御爆破解体の映像と比較する場合は、ツインタワーではなく、WTC7の映像を持ち出す。
- しかも実際の制御爆破解体の映像では音声が消されており、爆破音が聞こえないようにしてある。
- WTC7と逆に、ツインタワーでは上から下へと崩壊が起こったことについては軽く触れるだけ。
- ツインタワーに面していたため一番損傷が大きく、激しい火災が発生していたWTC7南側の映像を見せない。
- 爆発音がしたという証言は見せるが、その爆発音がいつどこで聞こえたのか、時系列は示さない。その爆発音が爆薬によるものか、その他の爆発なのかも言及しない。
- ゲイジの講演はWTCの制御爆破解体に特化しており、その他のペンタゴンや93便については一切触れない。また、いつ誰がどうやって爆発物をしかけたかといった憶測は一切せず、陰謀史観臭を消している。
- Niels Harritらの論文を根拠に、WTCから「ナノサーマイト」が発見されたことを既成事実化する。
ゲイジは講演の最初と最後に観客に手を挙げさせ、以下の3つのうちのひとつを選択させるというパフォーマンスを必ず行う。
- 旅客機の突入と火災によりWTCは倒壊した(一般見解)。
- よくわからない。
- 制御爆破解体が行われた。
Angrysoba氏によると、立命館大学の講演のあとで一般見解に挙手したのはangrysoba氏だけだった(AE911Truthのサイトでは2人)。大阪での講演後では、angrysoba氏とSkeptic's Wiki編集者(ながぴい)の2人だけだった。
これらの挙手の集計はAE911Truthのサイトの「Speaking Engagements」で見ることができる。
陰謀論否定派とのディベート
ゲイジは2009年10月24日にNew Mexico Techでも講演を行っているが、この際、CSIフェローでNMSR代表のDave Thomasが反論講演も行っている。Thomas氏の報告を「Skeptical Briefs」の「How I Debated a 9/11 Truther and Survived」(Vol.19,No.4,Dec. 2009)で読むことができる。
ゲイジの講演前の挙手では、一般見解:17人、わからない:8人、制御爆破解体:6人、に分かれた。
これが、ゲイジの30分の講演後では、一般見解:7人、わからない:12人、制御爆破解体:9人、と制御解体支持派は3人増えただけだったが、一般見解支持者は10人も減った。
さらに、Thomas氏の30分の反論講演と20分の質疑応答のあとには、一般見解:16人、わからない:8人、制御解体:6人、とだいたいゲイジの講演前の数字にもどった。
ところが、この講演後、上述のAE911Truthのページには最初の2回の挙手の結果しか公開されていなかった。Thomas氏が抗議したことにより、3回目の挙手の結果もサイトに掲載されたが、AE911Truthは以下のように言い訳している。
この投票の結果は、我々にツインタワーについての証拠を公表する時間がなかった事実を反映しており、そのため、制御解体仮説に意見を変えた人はごく少数だった。さらに3人が質疑応答時間に部屋に入ってきたが、彼らは情報を知らされていない(ゲイジの講演を聞いていない)にもかかわらず、公式見解に投票(挙手)した。これらの理由により、最後の投票結果は無効だとみなされる。
こうしたクレームをつけたところで、最終的に制御解体を支持した人数は6人であることに変わりはない。なんでこういう見苦しい言い訳をわざわざするのだろう?「まあ、たまにはこういうこともあるさ」と軽く受け流しておけばすむことなのではなかろうか?
以下のリンクも参照
- 「How I Debated a 9/11 Truther and Survived - Dave Thomas」 JREF Forum, 19th March 2010, 06:00 AM
週刊朝日の記事
週刊朝日2010年1/22号に『WTCビルは爆破解体された』(p.120-123、佐藤秀男、堀井正明)と題するリチャード・ゲイジのインタビュー記事が掲載された。この記事のpdfファイルが、藤田幸久議員のサイトの「メディアトピックス」で公開されている。
この件に関しては、『PULL IT (ボーイングの行方)』の以下のページも参照。
- 「週刊朝日 1月22日号「WTCビルは爆破解体された」について」 (2010/01/16)
- 「(続)週刊朝日 1月22日号「WTCビルは爆破解体された」について」 (2010/01/23)
まず、この記事の一番ダメな部分は、ツインタワーが倒壊するシーンの写真をタイトルバックに使っている点だ。それを見ると、剥がれ落ちた外壁やその他の破片が建物自体の崩壊よりも先に下に落ちていることが、はっきりわかる。同じ写真は以下のページで見ることができる。
- 「Getty Images」(911Blogger.com)の「World Trade Center Hit by Two Planes」(Photo by Jose Jimenez/Primera Hora/Getty Images)
それにも関らず、ゲイジは以下のようなしょうもないことを堂々と主張している。
子どもでもわかる証拠は、三つのビルがほぼ自由落下に近い速度で崩れ落ちてしまったことです
どの写真や動画も見てもわかることだが、建物自体の崩壊は、空中を落下する物体よりも明らかに遅い。たとえば、「The towers did not fall at or below free fall speeds」(Debunking 911.com)や「Freefall」(911 Myths.com)を参照。ツインタワーの倒壊は、自由落下かそうでないかで語れるような単純なものではないのだ。
そもそも、「子どもでもわかる」などという発言は専門家を舐め過ぎ。だったら、子供に調査をやらせればいいとでもいうのだろうか?「見た目が制御爆破解体なんだから爆破解体」みたいな短絡的な考え方こそ、子供じみた主張だろう。もし、そんなに簡単にWTCが爆破されたということがわかるというのであれば、制御爆破解体に多くの専門家がいち早く気付き、ゲイジの出番はなかっただろう。また、
たとえば崩壊時に粉塵と化したコンクリートによって、火砕流状の巨大な「雲」がわきあがった。
とゲイジは主張したようだが、「火砕流」(pyroclastic flow)とはどういうものか、ちゃんと理解しているかも疑わしい。建物の崩壊や爆発では、火砕流なんか発生しない。
ナノサーマイト(ナノテルミット)については、「テルミット系の火薬」としか書かれていない。「ナノサーマイト」などというスーパー秘密兵器を持ち出したら、信憑性を疑われると思ったのか?
ゲイジが代表を務めるAE911Truthのことを非営利団体と紹介しているが、「AE911Truth Products」を見てみると、この団体はDVDやTシャツなど色々なものを売っている。無料でダウンロードできるHarritらのナノサーマイトの論文まで10ドルで売っているのには驚かされる。もちろん、こうしたグッズを売るのは、真相究明運動の活動資金を得るためであると正当化している。
この記事においても、『日本でもその内容(ゲイジらの主張)をまとめたDVDが1月19日に発売される』(税・送料込み2300円)と、販売元の連絡先まで書いて宣伝している。また、ゲイジの東京講演の会場でどのようなものが売られていたかは、ハーモニクスライフギャラリーの「3回911真相究明国際会議in東京 2009年12月5日(土)」で見ることができる。これでは、911テロ事件で商売していると批判されても仕方ないのではないか?
ただし、この記事は陰謀論一辺倒というわけでもなく、以下のようにも書かれている。
もっとも、火災が引き金になる崩壊でも、爆発音が起きたり鉄片が水平方向に大きく飛ばされたりすることがあり、またコンクリートが粉塵になるほど砕けることも十分に起こりうるなどとして、爆破解体に懐疑的な見方もある。
また、この記事の最後のほうには以下のようにも書かれてある。
仮に三つのビルが爆破によって解体されたとしたら、相当大がかりな準備がいる。それができるのは、だれなのか。ゲイジ氏は、この点には言及しない。
なぜなら、いつ誰が何の目的で、いったいどうやって誰にも気づかれずに制御解体用の爆発物を仕掛け、このような大規模な陰謀を9年間も隠蔽し続けることができるのか?という話になると、途端にリアリティがなくなるからだ。そもそも911同時多発テロ事件では、WTCのみではなく、ペンタゴンへの攻撃とユナイテッド93便の墜落も起こっている。これらの事件すべてを総合した自作自演説について、陰謀論肯定派は筋の通った説明を行うことにまったく成功していない。制御解体のみですむ問題ではないのだ。
スプリングバック説
また、筑波大学大学院の磯部大吾郎准教授の「スプリングバック説」も紹介している。スプリングバック説については磯部准教授のサイトの「世界貿易センタービルの飛行機衝突解析」を参照。
磯部教授は以下のように述べている。
「普段、柱には建物の自重で非常に大きな圧縮力がかかっています。ところがこの状態から急に解き放たれたため、それまでかかっていたのと同程度の引っ張り力が逆方向に加わり、柱が伸び上がってしまった可能性があるのです。私たちの計算では、衝突直後、60階付近の柱は0.2秒の間に25センチの上下動があったと計算されました。われわれ専門家でも想像を絶するぐらいの大きなスプリングバックだったことになります」
「飛行機の衝突で構造の一部が破壊され、コア柱とトラスの接合部が外れ、柱にかかる床荷重がかからなくなった。圧縮による柱の変形が戻り、連鎖反応的にほかの接合部が破壊される現象が瞬時に起こったものと考えられます」
記事によると、アメリカの設計基準は、地震の多い日本ほど厳しくなく、WTCビルの大部分の柱は、鋼材を4〜6本のボルトでつないだだけの構造だった。スプリングバック現象によってこれらのボルトが一気に外れ、瞬時に建物全体が不安定な状態となり、落下してくる上層部に下層部は抵抗できず、完全崩壊につながった、としている。
ただし、この記事で「コア柱の継ぎ手部分」の図として紹介されているのは、外周部の支柱の継ぎ手であると、「PULL IT(ボーイングの行方)」のmsq氏は指摘している。(文献2) ボルトの外れた外周支柱の継ぎ手部分の残骸の写真を、FEMAの報告書のAppendix BのFigure B-7で見ることができるが、週刊朝日で紹介されたコア支柱とされる図とほぼ同じである。
- 「Appendix B」(PDF 793KB)のFigure b-7, World Trade Center Building Performance Study, FEMA
「週刊誌スクープ大賞」
なお、この記事は「元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第27回」(日刊サイゾー)なるものを受賞した。この賞がどういったものなのかよくわからないので、過去の受賞例を見てみた。すると、こちらの記事「「やっぱり1位はエリカ様パンツ丸出し!!」2009年下半期「スクープ大賞」ベスト5!」(日刊サイゾー)のように、芸能ネタのエロ記事でも大賞になるらしい。
ゲイジの主張は毎度おなじみの自作自演説であり、特に新しい情報もないので、スクープとは言えないだろう。
その他
- 「Architects Shy From Truther 9/11 Conspiracy Theory」 By Jeremy Stahl, Posted on: July 19, 2012, From: ARCHITECT 2012
Kim Hillによるインタビュー
ニュージーランドのラジオ・パーソナリティKim Hillによるゲイジのインタビュー(YouTube, WAHsu, 2009年11月24日)
- 「Kim Hill Interviews Richard Gage - Part 1」
- 「Kim Hill Interviews Richard Gage - Part 2」
- 「Kim Hill Interviews Richard Gage - Part 3」
- 「Kim Hill Interviews Richard Gage - Part 4」
参考文献
- 「Active Thermitic Material Discovered in Dust from the 9/11 World Trade Center Catastrophe」 The Open Chemical Physics Journal, Volume 2, pp.7-31 (25) Authors: Niels H. Harrit, Jeffrey Farrer, Steven E. Jones, Kevin R. Ryan, Frank M. Legge, Daniel Farnsworth, Gregg Roberts, James R. Gourley, Bradley R. Larsen
- 「週刊朝日 1月22日号「WTCビルは爆破解体された」について」 『PULL IT (ボーイングの行方)』(2010/01/16)