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リモート・ビューイング(遠隔視)

リモート・ビューイング(remote viewing、RV、遠隔視、遠隔透視)とは、通常の情報伝達手段を使わずに、遠くにあるものを感知することのできる超常的な能力のこと。この能力が注目されるようになった発端は、1974年にNature誌に掲載された、俗に「SRIレポート」と呼ばれる「感覚遮断された状況下での情報伝達 」(文献1)と題する論文である。この論文の著者は、SRI(Stanford Research Institute、スタンフォード研究所)の二人の科学者ラッセル・ターグ(Russell Targ)とハロルド・パソフ(Harold E. Puthoff)であった。RVがもし本当ならば、それは隣の部屋だけでなく、他の惑星や過去や未来の様子も透視できるというすごい能力だ。RVはCIAが関与したとされる超能力研究計画「スターゲート計画」にも採用されたため、いまだにこれがすごい超能力だと思っている人がけっこういる。ところが、この現象は喜劇だけではなく悲劇さえも引き起こした。「新・トンデモ超常現象56の真相」(文献2)や「インチキ科学の解読法」(文献3)、「超能力番組を10倍楽しむ本」(文献4)などを参照のこと。

Nature誌のコメント

問題のターグらの論文が掲載されたNature誌(1974年10月18日号)には、この論文を掲載するに至った経緯を述べたNature編集部の言い訳じみたコメント「超常現象を検証する」(文献5)も載っている。そこで、まずこのコメントの内容から見ていこう。ターグらの論文を審査した3人の審査員のうち、一人はこの論文を掲載すべきではない、もう一人はどちらでもいい、さらに一人は用心しながらも掲載してもよいとした。彼らが指摘した論文の問題点は主に4つあるが、それらを要約すると次のようになる。

  1. 実験心理学の方法論に照らし合わすと、この論文の実験方法は脆弱であり、その記述にも当惑するほどの曖昧さがある。投稿されたオリジナルの論文のままでは心理学の学術誌には掲載されないであろう。
  2. 「辞書をランダムに開く」ことによってターゲットを選択するなどという稚拙な方法論に審査員は特に批判的であった。特に一人の審査員は、このような脆弱さはターグらの実験技能のなさを示すものであり、論文だけでは明らかでないその他の失敗を侵している可能性もあると指摘している。
  3. 意図的もしくは無意識のインチキに対する予防策が「不快なほどいい加減」であり、それだけでこの実験結果に懐疑的にならざるおえないであろうと、3人とも感じた。
  4. 二人の審査員は、この論文が一つの超感覚的現象の詳細を追求せず、関連のない異なるテーマの実験の混ぜ合わせになっていることを残念に感じた。これは1つの完璧な実験報告ではなく、一連のパイロットテストにすぎない。

これらの批判的な意見を根拠にターグらの論文を不受理にすることもできたが、それにもかかわらず掲載を決定した理由が次に6つリストアップされている。まず最初の理由は『不十分な点はあるが、この論文は、一流の研究組織の二人の有能な科学者が、明らかにその研究所の支援なしで、科学文献として提出した』からというものであった。さらに一番最後の理由は『Nature誌は一部の人からは世界でもっとも権威のある学術誌と目されているが、権威だけでは生きていけない。読者は我々が時として「ハイリスク」型の論文の受け入れを行うことを期待していると我々は信じている』というものであった。

結局、ターグらの論文は審査員のコメントを基に修正された後、Nature誌に掲載されることとなった。ただし、科学の学術誌に掲載されたということは、その立証が承認されたことを意味するのではなく、学界に注目と再検証に値する何かが存在することを通告するものである、とこのコメントには書かれている。

しかし、その後、ターグとパソフらは、他人による彼らの実験の検証には極めて非協力的であることが明らかになるのである。

ターグらの論文

ターグとパソフの論文「感覚遮断された状況下での情報伝達 」(文献1)は3部構成になっている。第一部「グラフィカルな題材の遠隔認知」はユリ・ゲラーの透視能力の実験に関してであり、第二部「自然な対象の遠隔視」は遠隔視に関するもの、第三部「EEG実験」は脳波計を使った実験に関するものである。RVに関連するのは第二部のみであるので、ここでは第二部について主にまとめる。第一部は「ユリ・ゲラー」の項目を参照してください。なお、審査員が脆弱な実験方法だと評した「辞書をランダムに開く」という方法はユリ・ゲラーに対して行われた実験の一部である。

RVの実験の被験者は、カルフォルニア州の元警視で市会議員のPat Price氏であった。透視のターゲットは自然な地形や古い人造物であった。SRIから車で30分程度の場所12ヶ所が、SRIの情報科学技術部局の部局長によって、実験のターゲットとして選ばれたが、実験者と被験者にはそれは知らされていなかった。実験は次のように行われた。

  1. 外出チームは部局長からターゲットの場所が示された封筒を渡されると、そこに30分間かけて自動車で直行し、30分間ターゲットに留まった。
  2. 居残りチームと被験者はターゲットがどこか誰一人として知らない。外出チームが出発してから30分待って、被験者は外出チームのいるターゲットのRVを始め、音声によるターゲットの描写をテープレコーダーに録音した。その際、被験者の描写を明確にするため、実験者から質問がなされた。
  3. 外出チームが帰還後、比較が行われた。Price氏は時としてターゲットの細部まで描写することができたが、曖昧さもあった。
  4. そこで描写の正確さを定量的に評価するため、この研究とは関係のないSRIの科学者5人に盲検的な審査を行ってもらった。被験者の描写の録音を基にタイプされた原稿が審査員に渡された。これらの原稿はラベルされておらず、順番はランダム化されていた。審査員はターゲットを訪れ、どの原稿がその場所の様子に一番合致するかを選択した。

その結果、9ヶ所のターゲットのうち6ヶ所が被験者の描写と一致した。(6ヶ所のターゲットについて、3人以上の審査員が正しい原稿を選んだ) これは統計的に見て、偶然による場合よりもはるかに良い一致であり、審査員に正しいターゲットを選ばせるだけの正確さが、Price氏のRVにはあるということがわかった。

ここまで見てわかることだが、実験が必要以上に複雑である。被験者に写真を何枚か渡して「外出チームが向かったターゲットの写真を選べ」という単純な実験ではいけないのか?なぜ、わざわざ被験者の描写を録音して、さらにそこから原稿を起こし、他人に審査してもらうなどという手順を踏まないといけないのか?二重盲検にするにしても、一番単純な方法を採用すべきである。この不必要な複雑さの中にトリックがあると予想される。また、12ヶ所のターゲットを選んだと書いてあったのに、結果は9ヶ所しか示されていない。論文の審査員から記述の曖昧さが指摘されていたにもかかわらず、出版された論文にはこのような矛盾が残っているようである。さらにこの論文には、実験に使われた原稿は一切掲載されていない。Nature誌が論文を受理するにあたり、実験に使われた原稿を補足資料として提出を要求していれば、その後の混乱は避けられた可能性が高い。

次にこの実験に対する反証を見ていこう。

反証実験

最初の反証実験は4年後の1978年にNature誌に掲載された「遠隔視実験における情報の伝達」(文献6)である。この論文の著者であるニュージーランド、オタゴ大学の心理学者、デイビッド・マークス(David F. Marks)とリチャード・カマンは、ターグとパソフにPrice氏の描写の原稿の公開を請求する。彼らは16ヶ月間の間に4通の手紙(日付は1976年1月7日、1977年4月13日、5月17日、5月26日)を送ったが、ターグとパソフから資料が送られてくることはなかった。(文献13) しかし、遠隔視実験の審査員の一人であったArthur Hastings博士から原稿を入手することに成功する。その結果、実験が行われた順番通りのターゲットのリストが、審査員に渡されていたことが判明した。

9個のうち4つの原稿は論文で発表されていた(Nature誌の論文には載っていないので、おそらく他の文献だろう)ので、マークスは残りの5つを使って、ターゲットと原稿を一致できるかどうか実験してみることにした。ところが、それらの原稿には、その時の会話がそのまま記録されているので、多くのヒントが含まれていることが判明した。それは次のようなものである。

  • ターゲット1:Priceがこのような実験をすることに対する不安と無力さを述べる。
  • ターゲット2:これが「今日の2番目」の実験との言及がある。
  • ターゲット3:「昨日の2つのターゲット」との言及あり。
  • ターゲット4:「3つの成功の後だから」とターグが励ますように言い、昨日訪れた自然保留地について述べる。
  • ターゲット7:Priceが4番目のターゲットであったマリーナについて言及する。

こういったヒントがあり、ターゲットを訪れた順番がわかっていれば、ターゲットと原稿を一致させるのは簡単であろう。予想通り、マークスは現地に一度も赴くこともなく、原稿に残されているヒントのみを頼りに、5つとも一致させることに成功する。

そこで、今度はこれらのヒントを取り除いたらどうなるか実験してみた。二人の審査員がターゲットをランダムな順番で周り、原稿とターゲットを一致させることができるか試してみたが、結果は偶然によるものと同程度のものでしかなかった。

この検証の結論は、原稿に残されていたヒントなしでは、原稿とターゲットを有意に一致させることはできないというものであった。

反証に対する反論、そしてさらなる反証

デイビッド・マークスらの反証に対して、ターグらは1980年のNature誌(3月13日号)に反論を掲載する。(文献7)

この論文の内容は、Price氏の実験に直接関わらなかったカルフォルニア大学のチャールズ T. タート博士が再調査を行ったというものである。タート博士はPrice氏のオリジナルの原稿から、マークスとカマンが指摘したヒントだけでなく、それ以外のヒントとなり得る台詞もすべて削除した。そして、Price氏の実験に詳しくない審査員に、編集した原稿とターゲットのリストを、各々ランダム化して渡した。その上で、審査員はターゲットを訪れることにより、9ヶ所のターゲットのうち、7ヶ所を原稿と一致させることに成功した。よってマークスとカマンの反証を説得力がないとして却下した。

そして、審査員がターゲットと原稿を一致できたのは、指摘されたヒントによるものではなく、被験者の描写の質の高さによるものであると結論した。その質の高さの例として次のようなものを挙げている。

  • ターゲットが船のマリーナの時、『私が見ているのは、湾の小さな船の波止場か、船渠だ。ここからあっち(指差して)の方向だ。そう、私が見ているのは小さな船だ。エンジンが付いてたり、帆走式だったり…』
  • フーバータワーの場合は、『そこは−その場所は−フーバータワーのようだ』
  • 75フィート×100フィートの長方形と直径110フィートの円形のレクリエーション用水泳プールがターゲットの場合は、60フィート×89フィートの長方形と直径120フィートの丸いプールの絵を描いた。

翌年(1981年)のNature誌では、マークスとターグらの間に、短いコメントの応酬(文献8と9)があったが、議論は平行線のままであった。そこで、イギリスのクリストファー・スコットは、この問題を決着するにはターグらの実験記録を直接検証するしかないと判断した。ところが、マークスらの再三に渡る情報公開の請求をターグらは無視し続けていた。そこで、スコット自身もターグらに実験記録の公開を求めたが、この要求も拒絶された。よって、パソフとターグによって得られた証拠は他の研究者には閲覧不可能であると結論せざるおえなかった。この点から、彼らの主張は科学の範疇外のものであり、これ以上の議論は無意味であると、スコット氏は結論している。(文献10) 実験データの公開請求を拒絶するというのは、その実験には信憑性がないことを認めているのと同等である。

そして、最終的な反証は1986年のNature誌に掲載される。(文献11) ターグらの論文掲載から実に12年後のことである。マークスとスコットはついに実験に使われた文書を入手したのである。その結果、タートはその文書からヒントとなりうる多くの記述を削除するのに失敗していたことがわかった。

ターゲット2以外の実験では、被験者の所在がわかる記述が残されていた。RVが行われた(被験者のいた)場所は、ターゲット1と2では公園、ターゲット5ではオフィスで、それ以外のターゲットに対するRVはシールド・ルームで行われた。ターゲット1についての文書ではPriceが実験に対する不安を表明している箇所が残されていた。シールド・ルームで初めてRVが行われたターゲット3では、ターグが「公園に比べてシールド・ルームにいることに、なにか違いがあるか」と被験者に質問している。

ターグとパソフの著書「Mind-Reach」にはターゲット1、4と9の文書の一部、ターゲット7の全文が掲載されている。さらに「Mind-Reach」にはターゲットの正しい順番と、被験者の所在も記述されている。(被験者のいた場所がわかれば、実験の行われた順番からターゲットがわかる) この本は再実験が行われた当時、簡単に入手できたので、審査員はこの本を読むことが可能であった。(以前読んだことがあれば、その内容を思い出すことも可能であった) 「Mind-Reach」に記述のない5つのターゲット(2、3、5、6と8)のみを再実験に使用すべきであった。しかし、タートの編集の仕方がまずかったため、これら5つの文書のうちでもヒントがないと言えるのは、ターゲット6と8のみであるとしている。

これを読むとわかることだが、マークスとスコットの考え方は、「すべての”普通の”説明が排除されない限り、超常現象の証明にはならない」という立場である。(文献12) この点から、ターグらの実験(文献1)やタートらの再実験(文献7)よりもマークスとカマンの反証実験(文献6)の方が信憑性が高いということになる。マークスらの実験では偶然以上の結果は得られなかった。(なのにタートらの実験では7つも当たったというのは、なんらかのズルが行われたと考えるのが一番合理的) よって、パソフとターグが行った実験は、RVを実証したことにはならない。

パソフとターグはRVは誰にでもある能力だと述べているので、実際にマークスとカマンはRVの実験を独自に行っている。(文献13) その結果は否定的なものであったが、マークスらも一時期「RVには何かあるかも知れない!」と感じたこともあったようだ。その原理は占いと類似している。被験者はRV中、抽象的なターゲットの描写をたくさん述べる。実験終了後、その記述を持ってターゲットに赴くと、被験者の描写の中には、ターゲットの風景と類似しているものが含まれていることがあるのだ。肯定的に考えている人ほど類似点を無意識に求めてしまい、類似しているものほど深く印象に残る。よって「RVは本当かも知れない!」という錯覚に陥ることがあるらしい。しかし、描写の文書からヒントとなるような記述を注意深く削除して、第三者に審査を頼むと、偶然以上の一致はなくなってしまうのである。超能力の実験には、いかにバイアスを排除するか、というのが重要なポイントになる。

マークスらによると、RVの再現実験は2種類に分かれるらしい。1つは、注意深くコントロールされた実験で、パソフとターグの実験のような欠陥を排除したものであり、こういった実験ではRVの証拠は見つからない。2種類目の実験は、RVを確認できたというものであるが、そういった実験には各種の欠陥が見つかる。欠陥の深刻さとRVの確認頻度の間には見事な相関があるそうだ。(文献13)

RVによる宇宙旅行

ここまでの話はわりと真面目なRVの検証をめぐるものであった。しかし、RVの肯定派の主張に目を向けると、荒唐無稽としか言いようがないものもある。RVを使えば、居ながらにして宇宙旅行もできるし、過去や未来にも行ける。人体の中はおろか、原子の内部も見れるらしい。実証できてない事象を応用すると、なんだかとてもヘンテコリンなことになってしまうという好例である。実際、ターグとパソフの著書「Mind-Reach」にはRVによる木星探査の話が載っている。

RVによる木星探査の実験が行われたのは、1973年4月27日の夜、SRIでのことだった。その時の被験者はIngo SwannとHarold Shermanだった。実験は以下のような感じで行われた。

これからの30分間は大きな鋭い音を立てないよう、お願いします。

6:03:25 『縞模様の惑星が見える』

6:04:13 『木星だといいな。あれには非常に大きな水素のマントルがあると思う。スペース・プローブがあれに接近する時は、表面から80000-120000マイルぐらいだろう。』

6:06 『半月のように見える方向からターゲットに接近する。つまり半分明るくて半分暗く見える方向だ。明るい方向に移動すると、右側がはっきりと黄色い。』

………

上記の「スペース・プローブ」とは、当時、木星に向かっていたパイオニア10号のことのようだ。Ingo Swannは木星の表面について『ものすごい山脈だ。31000フィートぐらいの高さだ… あれらの山は巨大だ』などとも言っている。こういう話を信じる人はどれくらいいるのだろう?木星は水素を主成分とするガス惑星であり、その表面に硬い地表はないと言われているはずなのだが…

しかしこれよりもさらに妙ちくりんな主張をする人が「インチキ科学の解読法」(文献3)の第1章と第2章で紹介されている。それはエモリー大学のコートニー・ブラウン(Courtney Brown)準教授だ。彼の著書「コズミック・ヴォエージ」はマーティン・ガードナーをして『私がブラウンの本よりも”おかしい”と思うUFOに関するそれ以前の本は、ただ一冊、ジョージ・アダムスキーの「宇宙船にとらわれて」(1955年)である』と言わしめたほどだ。

ブラウンはTM(超越瞑想)の修行を積んだ後、科学的遠隔視(Scientific Remote viewing、SRV、これがなぜ科学的なのかは不明)の訓練も受けた。彼に訓練を施したのは「PSI TECH」という霊能力研究機関の所長のエド・デイムズ(Ed Dames)という人物だった。デイムズは「スターゲート計画」のリモート・ビュアーの一人で、ブラウンはその最初の弟子の一人であった。ブラウンは彼の8日間の超能力スパイ養成コースを受講した。(文献21) SRVの訓練のおかげでブラウンは宇宙旅行や時間旅行が可能になり、宇宙人とか歴史上の偉人に会ったという。それでは、ブラウンの珍奇な主張を文献3をもとに、次に列挙してみる。

  • 火星には何百万年か前から人間に似たテレパシーの能力を持つ生物が住んでいた。ところが、軌道を外れた小惑星だかなんだかが火星をかすめた時、火星は不毛の惑星になってしまった。そこで、火星人たちはやむなく地下に潜って、現在はそこで暮らしている。
  • 「超人」たちの組織である銀河連合は、火星に博愛主義的なグレイ型宇宙人(文献3には「グレイズ」と書かれてある)を送り込み、火星人たちを救援している。グレイに救援されて、ここ数十年間に数百人の火星人がニューメキシコ州サンタフェ語北部の山の下の洞窟に避難してきている。南米のどこかにも避難してきているらしい。
  • グレイは、遥か昔に自分達の母星を捨て去っているが、その原因は環境破壊であった。彼らの母星を破滅へと導いたのは、悪い専制君主(聖書に出てくるルシファーそのもの)であった。グレイの主食は魚だったらしい。
  • 美しく霊的な精神を持つグレイは、地球の支配権をめぐって醜く凶暴な宇宙人部族(トカゲ人)と凄まじい戦争の最中である。
  • グレイはSFテレビ番組「スター・トレック」のシナリオライターたちの無意識の中に進入して、アイディアを与えていた。
  • UFOの中には未来からやってきた人類が操縦しているものもある。
  • 大統領執務室にいるクリントン大統領の頭の中を遠隔視したことがある。
  • ブラウンが会った歴史上の人物としては、イエス・キリスト(親切でユーモアのセンスに富んでいたそうだ)、アダムとイブ、釈迦やマハリシ・ヨギのよき指導者であったデブ氏(誰ですか?それ)などが挙げられ、南北戦争のゲティスバーグの戦いも遠隔視した。

普通の常識的な人なら、まずこんな頓珍漢なSF物語を鵜呑みに信じたりしないであろう。これらの話に根拠は一切ない。ブラウンが遠隔視したものなので、彼の頭の中にしか存在しない事柄である。マーチン・ガードナーはブラウンの著書を「10歳の子供が一生懸命に書いたSFといったところ」と評している。しかし、どんなに突飛な主張であろうとも、世の中には、それを信じることを望む人たちがいるのである。どんなにバカバカしい荒唐無稽な話であっても、思いもがけない惨劇をもたらすこともある。

次にその例を示す。

「ヘール・ボップ・コンパニオン」と「ヘヴンズ・ゲート」

1995年に発見されたヘール・ボップ彗星について、超常現象を売り物にするラジオ深夜放送「Coast to Coast AM」の司会者アート・ベル(Art Bell)は、それが地球に衝突する進路を進んでいると放送で発言した。後にこれは誤りであることがわかったが、アマチュア天文学者のチャック・シュラメック(Chuck Shramek)から、自分の撮影したこの彗星の写真には、地球より4倍も大きな明るく輝く「土星のような物体」が写っているとの通報がベルの番組に寄せられた。(彗星の発見者の一人であるアラン・ヘールによると、この物体は大気屈折によってゆがんだ「SAO141894」という星であった) 

このラジオ放送にはコートニー・ブラウンの師匠であるエド・デイムズがよく出演して、人類を壊滅寸前に追いやる終末予言を頻繁にしていたようだ。(文献21) ブラウンはその流れで「コズミック・ヴォエージ」の宣伝などのためにベルの放送番組に登場していた。ブラウンは自分が設立したファーサイト研究所(Farsight Institute)の3人の優秀なリモートビュアーに、彗星についてきた物体のSRVを行わせた。その結果、その物体が巨大な宇宙船であることが確認されたという。これがいわゆる彗星について来た宇宙船、ヘール・ボップ・コンパニオン(Hale-Bopp's companion)である。

アート・ベルとエド・デイムズ、コートニー・ブラウンの間に、実際にどのような会話がなされたかは、「実録・アメリカ超能力部隊」(文献21)に詳しく記載されている。これだけならラジオの深夜放送で流れた根拠のない与太話ですんだわけだが、この放送は1997年に起こったカルト教団「ヘヴンズ・ゲート」の集団自殺の引き金となったのである。(文献3)

カルト教団「ヘヴンズ・ゲート」を設立したのはマーシャル・アップルホワイト(Marshall Applewhite)とボニー・ネットルズ(Bonnie Nettles)であった。アップルホワイトは1931年にテキサス州で英国長老派の牧師の息子として生まれ、テキサス大学オースチン校を哲学専攻生として卒業した。その後、音楽家としての道を歩んだが、40歳の頃、抑うつ状態と幻聴のため(文献3)(英語版Wikipediaでは心臓発作のため)入院してしまう。その時、看護婦であったネットルズと出会ったらしい。

意気投合した彼らは自分達は高次元から来た宇宙人であると信じ込んでしまう。そして、世界の破滅からできる限り多くの人を救えとの神の命に従い、伝道活動に乗り出した。彼らの教義によると、来るべき破滅から逃れるには、慈悲深い「超人」たちが操縦する宇宙船にテレポート(どうやら死んで肉体を捨てた後に復活するという意味らしい)して、「天国の門」に連れてってもらう必要があった。1985年にネットルズは癌で死亡する。(文献3)

1996年に教団はカルフォルニア州サンディエゴの数マイル北のランチョ・サンタフェの別荘を借りた。その時すでに「超人」が天空に「しるし」(marker)を示してくれたら、集団自殺する計画だったらしい。そして、ブラウンらがSRVによって確認したというヘール・ボップ彗星について来た巨大宇宙船こそが、その「しるし」であるとアップルホワイトは断定した。教団は先に死亡したネットルズもこの宇宙船に乗っていると信じていたようだ。

1997年3月、18人の男性と21人の女性の信者は、Phenobarbital(催眠薬)をプリンかアップルソースに混ぜ、ウォッカで飲み下すことによって眠りに付いた。彼らは睡眠中に窒息死するように頭からビニール袋をしっかりと被っていた。39人全員が、黒いシャツとズボン、黒のナイキの運動靴を履いていた。きちんと荷造りされたカバンが一人ひとりの寝場所のわきに置かれ、全員のポケットには5ドル札といくつかの25セント玉が入っていたそうだ。検死解剖の結果、アップルホワイトと7人の男性信者は去勢手術を受けていたことが明らかになっている。この集団自殺事件の後、これを真似た後追い自殺事件が数件起こっている。(文献3)

この巨大宇宙船に関するバカバカしいラジオ放送がなくても「ヘヴンズ・ゲート」は集団自殺を実行していたかもしれない。アート・ベルは、この事件に関して自分には責任はないと主張しているが、教団のホームページからは彼のホームページへリンクがあった。(文献16) 集団自殺事件後、ブラウンのファーサイト研究所の生徒数は36人からゼロになったそうだが、そのウェブサイトは現存している。チャック・シュラメックは2000年に49歳の若さで他界しているが、どうやら生前は悪ふざけの常習犯だったようだ。文献21の著者のジョン・ロンスンは、シュラメックがリモート・ビュアーにイタズラを仕掛けたのだと推理している。事件後にブラウンはアート・ベルのラジオ番組に登場することを禁じられたが、エド・デイムズは定期的に登場し終末予言を続けている。ベルからデイムズは「人類滅亡博士」と呼ばれているそうだ。(文献21)

遠隔視を「CIAが認めた」などと肯定的に取り上げている、ニューエイジの啓蒙書「フィールド 響きあう生命・意識・宇宙」では、この事件のことは触れられていない。また、コートニー・ブラウン著の「コズミック・ヴォエージ」の表紙裏(カバーの折れ込み部分)において、荒俣宏氏は次のように述べている。

まったく、驚嘆すべき報告が公になったものだ。地球にはすでに火星人が移り住み、地球生まれの世代すら存在するとは! 遠隔透視という特殊な精神機能による交信を、ここまで厳密に、しかも公正に実験した人物は、かつて出たことがなかった。大学の準教授という職を賭けて”禁断の仕事”を達成した著者の勇気に、拍手を惜しまない。この純粋な学術的研究には、二十世紀最高の”ニューエイジ・メッセージ”すら読み取れる!

Skeptics Societyのマイケル・シャーマーによるRVの検証

Skeptics Societyのマイケル・シャーマー(Michael Shermer)によるリモート・ビューイングの検証のビデオクリップをYouTubeで見ることができる。

  • Michael Shermer Remote Viewing Experiment Part 1」: ここでは心理学者のWayne Carrが主催するRVの訓練セミナーの様子が見れる。密封された封筒の中の写真を透視する訓練に大勢の人が参加しているが、人それぞれに言うことは違う。ところが、誰もが丸い図形を描いている。封筒の中の写真は「ストーン・ヘンジ」であった。(シャーマーも実験に参加し、丸い図形を描いている) 訓練生の中には「ストーン・ヘンジ」と文字で書いた人さえいる。この透視は成功だったのであろうか?ここで心理学者のレイ・ハイマン(Ray Hyman)が登場し、RVは単にコールド・リーディングの応用であると述べている。一時間にわたって色々な図形を描けば、必ずその中には丸い物も含まれるわけで、そんなことはRVの実在の証明にはならない。しかし、「ストーン・ヘンジ」と書いた人物もいたわけで、これはどう説明するのだろう?シャーマーは「仕込み」を疑っている。そこで、コントロールされた条件下で実験を行うことになった。
  • Michael Shermer Remote Viewing Experiment Part 2」: こちらがコントロールされた条件下で行われた実験(というかデモンストレーション)のビデオ。(厳密にはコントロールされているとは言い難い) 訓練生の中でも一番優秀な者が2名チャレンジしている。封筒の中に密閉された写真について、1時間にわたって透視して30から40の絵を描いているが、その中の1つぐらいは偶然で当たっている可能性がある。封筒の中の写真はハッブル望遠鏡が撮影した遠い銀河の写真であった。Wayne Carrは被験者の描いた絵の中に回転する円があったので、この実験は成功だったと主張しているが、シャーマーは後から銀河だと主張するのはずるいとして、はずれた他の絵をなぜ無視するのかと、納得していない様子である。

結論

1986年のNature誌(3月13日号)にデイビッド・マークスは「超常現象を検証する」というタイトルの論評(文献12)を書いている。(Nature誌がターグらの論文に付けたコメントと同じタイトル) これによると、1882年の心霊現象研究協会 (The Society for Psychical Research)の設立以来、百年以上の超常現象の研究の歴史があるにもかかわらず、誰もが納得するような再現性のある現象を1つとして発見できていないのは深刻な問題であるとしている。質の悪い実験をいくら積み重ねても、なんの証拠にもならない。ここでは超心理学実験の論文に関するC. Aker(文献19)とレイ・ハイマン(Ray Hyman)(文献20)のメタ解析の論文を引用している。彼らは独立に全く同じ結論に達した。それは、どの実験の方法論も結論も超常現象の存在を確証するには脆弱すぎる、というものであった。

Akersは54報(ガンツフェルト法によるものを11報含む)の出版された論文について調査し、そのうち欠陥のないものは、たったの8報のみであったが、それらの実験も理想的なものとは言えないとしている。ハイマンは42報のガンツフェルト実験に関する文献を調査し、そのうち欠陥のないものはゼロであるとした。これらの調査の結論はただ一つ、「ESPに科学的根拠はない」というものである。マークスらの著書「Psychology of the Psychics」は改定されて、2000年に第二版が出版されているが、この結論は変わっていない。ただし、「奇跡や魔法を追い求める」という願望は、人間に本来備わっている自然な欲望であり、どんなに否定的な証拠が山積みになっても、人類は今後も「超能力」の探求を諦めないであろう。


参考文献

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  2. 新・トンデモ超常現象56の真相」 皆神 龍太郎 (著), 加門 正一 (著), 志水 一夫 (著), 山本 弘 (著) 、太田出版
  3. インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説」 マーティン・ガードナー (著) 光文社
  4. 超能力番組を10倍楽しむ本」 山本 弘 (著) 、楽工社
  5. 「Investigating the paranormal」 Nature 251, 559 - 560 (18 Oct 1974) Opinion
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  7. 「Information transmission in remote viewing experiments」 CHARLES T. TART, HAROLD E. PUTHOFF, RUSSELL TARG, Nature 284, 191 - 191 (13 Mar 1980) Matters Arising
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  10. 「No "remote viewing"」 CHRISTOPHER SCOTT, Nature 298, 414 - 414 (29 Jul 1982) Correspondence
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  12. 「Investigating the paranormal」 David F. Marks, Nature 320, 119 - 124 (13 Mar 1986) Commentary
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