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凶悪犯罪の捜査におけるサイキックの評価

「超能力番組を10倍楽しむ本」(文献1)で、ロス市警(LAPD)が行った超能力探偵に関する実験が紹介されている。もともとこの実験は「幻の大発見」(文献2)に登場するものだが、オリジナルの論文は1979年の「凶悪犯罪の捜査におけるサイキックの評価」(文献3)である。この論文は「Psychic Sleuths」(文献4)に付録として付いている。ここではこの論文についてまとめてみる。

この当時、「丘の斜面の絞殺魔」(Hillside Strangler)と呼ばれる連続強姦殺人事件がロサンジェルスで起こっており、多くのサイキックから事件捜査への協力の申し出があった。これ以前にもLAPDは2件の事件についてサイキックと協力したことがあったが、捜査上有用な情報は得られなかった。しかし、この機会にサイキックからの情報がどれだけ事件解決に有効であるかを検証することにした。

実験に参加したのは、ロサンゼルス近傍で定評のあるサイキック12人(うち4人がアマチュアで、8人がプロ)である。ここでプロというのは、超能力で生計の全部もしくは一部を立てている人物のことである。実験関係者以外の捜査官が4つの犯罪(うち2つは解決済み、2つは未解決)を選び、実験の被験者にも施験者にもその情報は一切伝えないという2重盲検法で実験が行われた。文献2ではこのうち最初の2つしか紹介されていない。

4つの事件の物的証拠を番号のついた封筒に入れ、まずサイキックはこの封印された封筒から情報を引き出すこと(いわゆるサイコメトリー?)を要請され、次に封筒を開けて同様なことをした。サイキックの証言はすべてテープレコーダーで録音された。サイキックの証言のうち、次の5つのカテゴリーに関する確認可能な情報が抽出され、評価された。

  • 犯罪の種類
  • 被害者
  • 容疑者
  • 身体的特徴
  • 犯行現場

事件1

1つ目の犯罪は強盗殺人事件で、被害者は30歳の白人女性、犯人はまだ捕まっていなかった。サイキックに見せられたのは茶色と黄色の金属製ライター。
事件に関連した項目で、正解を言い当てたサイキックの人数は次の通りであった。
項目 正解した人数
被害者の名前 0人
事件現場 0人
住所 0人
性別 6人
人種 5人
年齢 0人
髪の毛 1人
0人
身長 1人
体重 0人
体形 0人
肌の色 0人
着衣 0人
死因 0人
職業 0人
事件発生日 0人
事件発生時刻 0人
盗られた物品 1人
手口 1人
凶器 2人
犯罪 5人
もっとも正解の多かったサイキックは二人で、21項目中4つ正解した。

この事件の犯人についてはなんの情報もなかったので、サイキックの透視結果がどの程度一致するか比較してみた。その結果、犯人について、男性だとしたサイキックが10人、白人と黒人としたのがそれぞれ2人、身長約180センチとしたのも2人だった。犯人の性別以外では偶然以上の一致は見られなかった。

事件2

2つ目の犯罪も強盗殺人事件で、被害者は89歳の男性、犯人は捕まっている。サイキックに見せられたのは、房飾りの付いた茶色のつっかけ靴一対とメガネのレンズであった。
項目 正解した人数
被害者の名前 0人
事件現場 0人
住所 0人
性別 1人
人種 0人
年齢 0人
髪の毛 0人
0人
身長 0人
体重 0人
体形 0人
肌の色 0人
着衣 0人
死因 0人
職業 0人
事件発生日 0人
事件発生時刻 0人
盗られた物品 0人
手口 0人
凶器 0人
犯人の名前 0人
犯罪 6人
住所 0人
性別 7人
人種 2人
年齢 0人
髪の毛 0人
0人
体重 0人
身長 2人
身体的特徴 0人
職業 0人
着衣 0人
もっとも正解の多かったサイキックは2人で、33項目中3つ正解した。各サイキックの正解数は0から3つまで分布しており、平均の正解数は2.3であった。

事件3

3つ目の犯罪では、犯人は自動車を窃盗しようとしていた。そこに自動車の持ち主が家族で戻ってきたところ、夫と二人の幼い子供の前で母親が殺されるという悲惨なものであった。犯人はまだ捕まっていなかったが、詳細な目撃報告が残っている。

サイキックに示されたのは、赤いハンドバッグと赤い財布だった。
項目 正解した人数
被害者の名前 0人
事件現場 0人
住所 0人
性別 6人
人種 1人
年齢 1人
髪の毛 0人
0人
身長 0人
体重 0人
体形 0人
肌の色 0人
着衣 0人
死因 0人
職業 0人
事件発生日 0人
事件発生時刻 1人
盗られた物品 0人
手口 0人
凶器 0人
犯人の性別 7人
犯罪 7人
2人
人種 0人
年齢 0人
髪の毛 1人
0人
体重 0人
身長 1人
29項目のうち、最低で1つ、最高で5つ正解したサイキックがおり、平均の正解数は2.3だった。6人のサイキックが被害者の性別を正確に当て、7人が犯罪の種類と犯人の性別を当てた。

事件4

4つ目の犯罪の被害者は女性であり、犯人は捕まっている。サイキックに見せられたのは、女性の財布、いくつかの紙片と長さ7インチのドライバーだった。
項目 正解した人数
被害者の名前 0人
事件現場 0人
住所 1人
性別 9人
人種 1人
年齢 0人
髪の毛 1人
0人
身長 1人
体重 0人
体形 0人
肌の色 0人
着衣 0人
死因 2人
職業 0人
事件発生日 0人
事件発生時刻 0人
盗られた物品 0人
手口 1人
凶器 0人
犯人の名前 0人
犯罪 4人
住所 1人
性別 8人
人種 1人
年齢 0人
髪の毛 0人
1人
体重 1人
身長 0人
29項目のうち、各サイキックの正解数は最低で0、最高で6つであり、平均は2.7だった。

結論

この実験のデータが示しているのは、サイキックが凶悪犯罪を解決に導く有用な情報をもたらすことはないということである。サイキックがもっとも正確だったのは、被害者と加害者の性別であった。サイキックの証言にもっとも共通していたのは「被害者は女性の売春婦で加害者は男性、どちらかがドラッグに関係していた」というものであった。これは実験に使われた事件が、当時大々的に報道されていた「Hillside Strangler」の事件となにか関連があるのだろうと、サイキックが勝手に思い込んでいたのが理由のようだ。

ただし、注目すべき点は、事件2において被害者が教会関係者だったということ、事件3では自動車窃盗が関係していたことを当てたサイキックがいたことだ。しかし、この情報も事件解決の助けにはならないようなものであった。

この実験に参加した12人のサイキックの証言は犯罪捜査には役立たない、と結論せざるおえない。しかし、さらなる研究も必要だ、とこの論文はまとめている。

参考文献とリンク

  1. 超能力番組を10倍楽しむ本」 山本弘、楽工社 (2007/03)
  2. 幻の大発見―科学者たちはなぜ間違ったか」 アーヴィング M. クロッツ (著)、朝日新聞社 (1989/12)
  3. 「An evaluation of the use of psychics in the investigation of major crimes」 M. Reiser, L. Ludwig, S. Saxe, and C. Wagner, Journal of Police Science and Administration 7, no.1 (1979) 18-25
  4. Psychic Sleuths: ESP and Sensational Cases 」 Joe Nickell (Editor) 、Prometheus Books (March 1994)