原子力安全・保安院
東日本大震災・デマ・風評被害・陰謀論
保安院廃止
- 「原子力保安院と原子力安全委を廃止」 (2012年9月19日00時48分 読売新聞)
昨年の東京電力福島第一原子力発電所事故で原子力規制当局として十分な機能を果たせず、批判を浴びた経済産業省原子力安全・保安院と内閣府原子力安全委員会は18日、原子力規制委員会の発足に伴い、それぞれ廃止された。
同日、深野弘行・保安院長は「事故で多数の方々が大変厳しい避難生活を送られていることに心からおわびしたい」、班目まだらめ春樹・安全委員長は「規制の見直しが間に合わなかった点はじくじたる思いだ」と、それぞれ記者会見などで述べた。そのうえで、いずれも規制委に引き継ぐ課題を報告書にまとめ、公表した。
2001年の設立から11年間、原子力規制を担った保安院は、政府と国会の両事故調査委員会の指摘に沿って課題を整理。対応の遅れが問題視された耐震安全性評価や過酷事故対策は、最新知見を取り入れつつ着実に規制に反映すべきだと提言した。
幹部名簿
(平成23年4月1日現在)
- 原子力安全・保安院長:寺坂 信昭
- 次長:平岡 英治
- 審議官(原子力安全担当、核燃料サイクル担当):根井 寿規
- 審議官(渉外担当、実用発電用原子炉担当):黒木 慎一
- 審議官(原子力安全基盤担当):中村 幸一郎
- 審議官(産業保安担当):内藤 伸悟
- 首席統括安全審査官:野口 哲男
- 企画調整課長:片山 啓
- 地域原子力安全統括管理官(青森担当):新井 憲一
- 地域原子力安全統括管理官(若狭地域担当):森下 泰
- 国際室長(併)原子力安全調整官:坂内 俊洋
- 制度審議室長:佐藤 暁
- 原子力安全広報課長:渡邉 誠
- 原子力安全技術基盤課長:生越 晴茂
- 原子力安全特別調査課長:林 祥一郎
- 訟務室長(併):林 祥一郎
- 原子力発電安全審査課長:山田 知穂
- 耐震安全審査室長:小林 勝
- 原子力安全主席分析官:野中 則彦
- 原子力発電検査課長:山本 哲也
- 高経年化対策室長(併):石垣 宏毅
- 新型炉規制室長:原山 正明
- 核燃料サイクル規制課長:真先 正人
- 核燃料管理規制課長:児嶋 秀平
- 放射性廃棄物規制課長:中津 健之
- 総合廃止措置対策室長:島根 義幸
- クリアランス対策室長(併):鈴木 宏二
- 原子力防災課長:前川 之則
- 原子力事故故障対策・防災広報室長:八木 雅浩
- 火災対策室長:渡辺 剛英
- 保安課長:吾郷 進平
- 電力安全課長:櫻田 道夫
- 電気保安室長(併):佐藤 暁
- ガス安全課長:栗原 和夫
- 液化石油ガス保安課長:北沢 信幸
- 鉱山保安課長:嘉村 潤
- 石炭保安室長:清水 篤人
その他
- 「保安院:「原子力の専門能力も広報も不十分」ネットで反省」 毎日新聞 2012年04月27日 20時21分(最終更新 04月27日 21時32分)
原子力の専門能力も、情報の入手・広報も不十分でした−−。経済産業省原子力安全・保安院は26日、東京電力福島第1原発事故での広報対応を反省する報告書をインターネットで公表した。広報を巡って多くの批判を浴びたとして、深野弘行保安院長は「指摘を真摯(しんし)に受け止め新規制組織(原子力規制庁)に引き継ぐのが責務」と記している。
報告書はA4判95ページ。「広報以前に、組織としての事故対応に問題があった」と自己批判し▽東電提供の情報に依存し、1次情報を入手しようとする意識が不足▽情報を分析・評価できる人員が不足し、事故の見通しを示せなかった▽SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測システム)情報など避難に関わる情報を速やかに公開しようとする認識が不足した−−などと15項目を課題に挙げた。
報告書によると、ネットで3345人に尋ねたところ、回答者の66%が保安院の情報提供に不満と答え「詳しい情報がない」「根拠や理由が分からない」と批判。また、広報に関し「情報を隠しているようにみえる」との指摘を受けたという。【高木昭午】
- 「東京電力福島第一原子力発電所事故に係る広聴・広報活動の課題と今後の取組をまとめました」 原子力安全・保安院 原子力安全広報課,平成24年4月26日(木)
こちらがその報告書。
- 「「放射性物質は煙突から管理されながら出てくるから大丈夫」と言い張った原子力保安院」 2012.04.05(木)、烏賀陽 弘道、JBPress
- 「原発防災 保安院長「なぜ寝た子起こすのか」 18年の地域拡大の検討、安全委側に中止を要請」 MSN産経ニュース, 2012.3.16 19:35
原子力安全委員会が原発事故に備えた防災対策重点地域の拡大を検討していた平成18年5月、安全委と経済産業省原子力安全・保安院の幹部が出席した昼食会で、保安院長だった広瀬研吉氏が「なぜ寝た子を起こすのか」と安全委側に検討中止を要請していたことが16日、分かった。出席した安全委の久住静代委員が証言した。
国際的な基準に合わせようとしていた安全委側に、保安院のトップが直接中止を働き掛けたという。
広瀬氏は、東京電力福島第1原発事故後に内閣府参与に就任、政府に対策を助言した。久住委員によると、昼食会は保安院側の申し出で安全委の委員長室で開催された。
広瀬氏は、平成11年の東海村臨界事故後、原子力防災体制を整えてきたと説明。「既に原子力防災の態勢は整い、国民も落ち着いている。なぜ寝た子を起こすのか」と安全委側に詰め寄ったという。
寺坂信昭
- 「2トップ、福島事故で謝罪 「言い訳に時間をかけた」「私は文系で…」」 MSN産経ニュース, 2012.2.15 22:20
寺坂氏は「私は文系なので、官邸内の対応は理系の次長に任せた」と述べた。
そんな言い訳が通用すると本気で思っているのだろうか?だったら、最初から院長なんかにならなければいいだけの話。
- 「「原発安全指針に瑕疵」 班目委員長が謝罪 立地の抜本見直しを主張」 日本経済新聞,2012/2/15 21:51
一方、寺坂信昭経済産業省原子力安全・保安院前院長は、事故直後に次長を残して首相官邸を離れた経緯を「私は事務系なので、よく分かった人間が残った方がいい」と考え、保安院に戻ったことを明らかにした。その後、官邸とは数回電話連絡しただけだったという。
日本経済新聞の記事における寺坂氏の発言内容は、MSN産経ニュースのものとはだいぶニュアンスが違う。こちらでは「文系」でなく「事務系」となっている。事務だけやる院長という意味だろうか?
実際の発言は以下の動画(1:52:00あたりから)で見ることができる。
- 「2.15第4回国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」 nekoaris さんが 2012/02/15 にアップロード, YouTube
質問:寺坂元院長は、まさに官邸の中におられたということでよろしいんでしょうか。規制庁のトップとして、当時は官邸の中にずっと詰めておられたということでよろしいんでしょうか。
いえ、あの違います。当初11日の日の、緊急事態宣言が出されて、そのあとの記者会見が、官房長官の記者会見がございまして、その補足といいますか、そういったことをするまでが私が官邸にいたところでございまして、そのあとは、さきほどの原子力安全保安院のERCに、そこに戻っております。
質問:それはどなたかからの命令でそちらに戻られたんでしょうか?
いえ、私とそれから次長との相談によりまして、私が原子力安全保安院のほうに戻り、次長に官邸の方に残ってもらったということでございます。
質問:平岡次長のほうが官邸に残られったっていうのを決められた理由ていうのは、院長のほうが官邸にいるべきではなかったんですか。
そこは、どちらがということはございますけれども、ちょうど平岡次長も官邸の方に途中から入って、一番最初は私が官邸のほうに向かいましたけれども、途中で平岡次長も官邸に来ているということを認識をいたしました。そういたしますと、原子力安全保安院の建物のところに、私も次長も居ないという状態になりますので、どちらが原子力安全保安院のほうに行くか、あるいは官邸に残るかということを考えましたときに、私はどうしても事務的な、事務系の人間でございますので、これだけの非常に大きな事故、技術的な知見というものもきわめて重要になってくる、そういった中で、私が残るよりも、官邸のほうに技術的によりわかった人間が残ってもらうというほうがいいのではないかと、これ私自身が判断いたしまして、私が原子力安全保安院のほうに戻った次第でございます。
質問:私はちょっとびっくりするんですけども、原子力の規制行政庁のトップは、原子力についての知見を持たない方がなっておられるということなんですか?
知見と言いましょうか、いや今私が申し上げましたのは、私が事務系の、いや原子力工学その他、そういう理科系のそういう訓練といいますか、学問を積んで、それで原子力安全行政、そういったものをずっとやってきたということではないということでございます。もともとは事務的なものでございます。次長のときに初めて原子力安全行政を担当したと、そういうことでございます。
そもそも東京大学経済学部出身の寺坂信昭氏が、保安院の院長になっていること自体がおかしい。まさに保安院のトップは原子力についての専門的な知見を持っていなかったのである。
やはり、日本の原子力政策は技術的安全性よりも経済優先だったのだろう。
- 「斑目委員長陳謝“安全指針に瑕疵”」 NHKニュース, 2月15日 18時59分
一方、原子力安全・保安院の寺坂前院長は、政府の原子力災害対策本部の議事録が作成されていなかったことについて「事故発生当時の事務局長として、大変申し訳ないと思っている。概要的なものは途中からは残されているので、復元する作業を行っている」と述べました。
- 「保安院の専門性「不十分」=前院長が認める−福島原発事故の国会事故調」 時事ドットコム, 2012/02/15-20:21
東京電力福島第1原発事故で、国会の事故調査委員会(委員長=黒川清・元日本学術会議会長)は15日、4回目の会合を開き、経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭前院長と内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長から事情を聴いた。寺坂氏は保安院の能力について「専門性、知見、習熟度において、米国などと比較すると十分なものではない」と認めた。
当時の保安院トップが能力不足を認めた発言は、事故の背景に規制制度の欠陥があることを改めて浮かび上がらせた。
民間事故調による保安院トップの評価
p.103より
官邸に詰めていた保安院の寺坂院長と平岡次長が、官邸中枢チームで積極的な対策の提案や情報提供を行った形跡はうかがわれず、意思決定に携わる政治家らは保安院トップの個人的資質に対する疑念を抱くようになった。ある政治家は、保安院のトップを名指しし、「危機管理をやるようなタイプでは全くない」、「聞かれたことと関係ないことを答えたり、全く能動的に考える姿勢が見られなかった」と厳しく批判した。別の官邸の中枢スタッフは、「保安院がもう少し一元的に仕切れていないと成り立たない。結局そこができていないから首相及びその周辺がぐっと乗り出さざるをえなくなってしまった」と述べた。
p.113より
原子力災害対策本部の事務局を務める保安院の果たした役割についても、政務側からの評価は総じて低い。特に事務局長の寺坂保安院長及び事務局次長の平岡保安院次長については、もともと原子力の専門家ではなかったこともあり、複数の官邸関係者が「彼らから何か具体的な提案がでてきたことはなかった」「二人は危機管理をやるよなタイプの人では全くない」と口をそろえて厳しい評価を述べる。こうした状況を見かねてか、13日午後以降、両氏に代わって保安院は、経済産業相資源エネルギー部長であった安井正也保安院付を急遽官邸に置く異例の人事を行った。複数の関係者によれば、安井保安院付は原子力に関する豊富な知見と安定した説明能力で官邸中枢チームのメンバーの信頼を得た。枝野長官も「彼だけでしたよね。わからないことはわからないということも含めて、きちっとわかるように説明してくれたのは」と評価するように、安井保安院付の配置は保安院と官邸との関係改善に一定の効果があった。
院長脅迫で逮捕
- 「「保安院院長の親族殺せ」と書き込み=脅迫容疑で男逮捕−警視庁」 時事ドットコム、2011/06/22-21:10
経済産業省原子力安全・保安院院長の親族の殺害をほのめかす内容をブログに書き込んだとして、警視庁捜査1課は22日、脅迫容疑で、愛知県一宮市宮地、自称システムエンジニア木野村洋世容疑者(33)を逮捕した。同課によると、容疑を認め、「冗談半分で書いたが、申し訳ない」と供述している。
メルトダウンの認識
- 「メルトダウンの可能性、12日には認識…保安院長」 2011年8月10日21時20分 読売新聞
東京電力福島第一原子力発電所の事故から5か月になるのを前に、経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭院長が10日、記者会見し、震災翌日の3月12日の段階で、メルトダウン(炉心溶融)に近い状況が起きている可能性を認識していたことを明らかにした。
当時広報担当だった中村幸一郎審議官が、炉心溶融の可能性を示す発言の直後に広報担当を外された経緯があり、院長の当時の認識を問われた。
寺坂院長は「(中村審議官は)発言そのもので担当を交代したのではない」と述べたうえで、炉心溶融に近い状況にあることを「可能性としては認識していた」と語った。
12日付で辞任する寺坂院長は、「事故収束に至っていない。安全当局としておわび申し上げたい」と謝罪。事故後の対応については、「足りない部分はあったが、原因調査は、政府の事故調査・検証委員会で作業が進められる」と述べるにとどまった。
中村審議官の「実質的な更迭」
- 「節電大臣蓮舫氏 計画停電に「初めての事なので」とパニック」 週刊ポスト2011年4月1日号
地震発生から菅政権は混乱の度合いを深めていった。地震発生翌日の3月12日夜、原発より先に暴発したのは、菅直人首相だった。
その日、経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎・審議官が、「(1号機の)炉心の中の燃料が溶けているとみてよい」と記者会見で明らかにした。ところが、菅首相は審議官の“更迭”を命じた。
「菅首相と枝野官房長官は、中村審議官が国民に不安を与えたと問題視し、もう会見させるなといってきた」(経産省幹部)
- 「枝野氏「よくやっている」「総理候補に浮上」と評価される理由なし」 週刊ポスト2011年4月15日号
本誌は4月1日号で原子力安全・保安院の中村幸一郎・審議官の“更迭”をスクープした。
東大工学部出身の技術キャリアである中村審議官は、震災翌日の会見で、検出された放射性物質から、「(1号機の)炉心の中の燃料が溶けているとみてよい」と炉心溶融の可能性に言及した。正しい認識だった。
ところが、菅首相と枝野幸男・官房長官は、「国民に不安を与えた」と問題視し、中村氏を会見の担当から外すように経産省に指示したのである。そして、枝野長官は会見で、炉心溶融情報について、「炉を直接見ることはできない」といってのけ、中村氏の正しい指摘を封印した。
上記のように、週間ポストは、4月1日号で「中村審議官の“更迭”をスクープした」としている。しかし、平成23年4月1日付の原子力安全・保安院の「幹部名簿」にも「審議官(原子力安全基盤担当):中村 幸一郎」と書かれてあったので、審議官(原子力安全基盤担当)を更迭されたわけではない。
今までに明らかになっていることをまとめると、以下のようになる。
- 2011年3月12日6時ごろの会見を最後に、中村審議官は保安院の広報担当を降りた。
- 広報担当の交代を菅首相が命じたという証拠はない。
- しかし、民間事故調はこれを「実質的な更迭」と評価している。
「不都合でも隠すな。不確かなら喋るな」
- 「総理大臣官邸は「炉心溶融」の隠ぺいを指示したのか? 元内閣審議官が明かす舞台裏と真相」 2016年7月2日 8時29分配信,
堀潤 | ジャーナリスト/NPO法人8bitNews代表
当時、事故直後ぐらいから、菅さんと枝野さんが我々広報の人間に向かっても言っていたのは、この2つの原則でいくからなというものでした。それは「不都合でも隠すな。不確かなら喋るな」。とにかくこの2つで行くからな、と。
(第一原発の爆発の写真が、官邸の知らないうちに公開されたことについて)官邸は、こんな大事な時に情報が共有されていないってことが不快だった、わけです。多分、清水社長側はそれを言われた時に「その写真を出したことが不快だ」と官邸が思っていると勘違いしたのではないでしょうか。そこから、「ズレ」が始まってるんですよ。
とにかく官邸は、「不都合でも隠すな」というのが第一方針でしたから。前もって状況を把握さえしていれば、「この写真は出さないで」とは絶対言わなかったはずなんですね。だから、そこでまず第一ボタンの掛け違いが起きてしまった、ということですね。
この後、清水社長が本店に戻ってから「今後の東電のプレス発表は事前に官邸の了解を得るように」という指示をしている。ここで「了解」という言葉が登場するわけですよね。これは相当大きな分水嶺というか、分かれ道になってしまったと思うんです。官邸としては、「事前に知らせろ」「共有しろ」ということだったのですが、「了解」という言葉に伝言ゲームで変わってしまった、瞬間的に。「了解」というのは「いいですよ」ということですよね。いいか悪いかを官邸が決める、ということですよね。そんなことは、官邸は求めてないわけですよ。
圧力はあったのか?下村氏は舞台裏をこう証言した。
(堀)
炉心溶融の可能性については、3月12日の会見で原子力安全保安院の審議官が言及しました。しかし、その次の回から、会見で説明する担当者が代わりましたよね。官邸からの指示があったのでしょうか?
(下村)
私も、ちょうどその時居合わせたんですが、官邸の中のどの部屋か忘れましたけども。原子力安全保安院の記者会見で、炉心溶融が起きているんじゃないかという趣旨の発言を審議官が話されたと。で、その時に枝野さんが「なんでこんな不確かな事を言うんだよ」ということを、誰という対象がいるわけではないけども、怒ってその時に口にしたんですよ。それを私も聞いていました。
(堀)
会見の様子を見ながらですか?
(下村)
リアルタイムで記者会見を見ながらではなかったと思います。あの会見でこんな事を言ったというような事実を知った瞬間の反応ですね。それを聞いてて、私もその通りだなと思いましたよ。ここで、本当はどうだかわからないうちに「炉心溶融だ」ということがバーッと一人歩きしちゃって、後で違いましたっていうことになった場合に、またあの、避難の判断基準なども変わってきかねないですしね。現にあの時は、避難行動によって入院患者の方が移動中に亡くなったりとか、それはもう命に関わる状況でしたから、ちゃんと確かなことだけを伝えていこうということがありました。確かじゃないことは、“可能性もある”っていう表現にとどめるべしと。まあその只中に、かなり「炉心溶融だ」という風に受けとれるような発言があったので、「その発言の仕方はまずいでしょ」というのは、枝野さんからすると当然の憤りだったと思います。
で、その後、何があったかわからないんですけども、次の会見で、突然保安院の会見の担当者が代わってたんです。で、それを知った時の枝野さんの反応も、私官邸で見てましたけど、「あれ、変わっちゃったの、あの人?」というような発言だったんですよね。ということは少なくとも、枝野さんがあいつ下ろせと言ったんではなくて、誰かしらが、その前の枝野さんの憤りを見ていて、大変だ大変だ、これは官房長官がお怒りだということで、勝手に忖度して、交代させた方がいいというような話になったんでしょう。その時に、これは“官邸の意向”だって言葉が勝手に使われたかどうかはわかりませんけれども、とにかく次で人が代わっていて、怒った当人である枝野さんもびっくりした、というようなことがありました。これは、すごく象徴的だなと思いましたね。周りが忖度していくという。
広報担当交代の経緯
「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」のp.123「保安院・中村審議官の交代を巡る経緯」と「検証 福島原発事故・記者会見 東電・政府は何を隠したのか」(日隅 一雄、木野 龍逸、岩波書店 (2012/1/21))のp.17「次々と変わる担当者」で、その経緯を見てみよう。
「経済産業省防災業務マニュアル」によると、保安院の広報官は主席統括安全審査官である野口哲男氏が務めることになっていたが、原子力安全基盤担当の中村審議官は、東京大学工学部出身で技術に精通していたため、序列が下の野口審査官に代わって、3月11日の事故直後から広報を担当していた。その後、記者会見に主たる説明者として参加したのは全部で16回であった。
3月12日14時ごろの保安院記者会見において、1号機周辺で放射性セシウムとヨウ素が検出されたことを受けて、中村審議官は「炉心の燃料が溶け出していると見てよい」、「炉心溶融でしか考えられないことが起きている」、「炉心溶融が起こっている訳ですので、そういった意味からすると(スリーマイルアイランド原発事故と)同じグループに入るのかもしれません」等と発言。
この発言内容が官邸に知らされると、官邸中枢チームから「まだわからないことをあったかのように言うのはまずいだろう」と異論が上がり、とくに枝野長官の不快感は強く、保安院関係者に対して「まず官邸に知らせないということは何たることだ」と怒鳴り声をあげたのを複数の関係者が記憶している。そして枝野長官は保安院や東電に対して重大な記者発表の内容については「同時に少なくとも官邸には連絡すること」との指示を徹底させた。
1号機爆発後、18時ごろの会見で中村審議官は、原子炉に重大な損壊が発生している可能性を否定することなく、「情報を集めたうえで判断していきたい」と安易な楽観論に与せず慎重な発言をした。
野口哲男審査官に交代
しかし、その後、保安院の広報は中村審議官から野口哲男審査官に交代、中村審議官は補佐役となった。21時半の会見で野口審査官は「どの程度起きているのか正確な状況は把握できていない」、「進行していることはないのではないか」、「(炉心溶融という言い方は)まだ状況をきちっと把握した上での話ではないかなと思います」などと中村審議官よりも曖昧な回答を行った。
根井寿規審議官に交代
さらに13日未明の会見で根井寿規審議官が「質問に責任ある答えができるよう、今後しばらくの間、幹部からの指示で私が担当することとなった」と広報担当者交代を発表し、「炉心溶融」ではなく、「燃料棒損壊の可能性は否定できない」との表現を使用。ただし、炉心溶融の可能性について聞かれた際に「すでに、そういう物質(放射性セシウム)が出てきているということからすれば、それは念頭に置いておかなければならない」とも答え、その可能性は否定していない。
西山英彦大臣官房審議官(通商政策局担当)に交代
さらにさらに13日夕方、今度は西山英彦大臣官房審議官(通商政策局担当)に交代。(一部報道によると、根井審議官は記者会見で「(記者会見の担当を長期間は)やりたかないんですけども、幹部からの指示でそのようにさせていただくことに致しました」という言葉遣いなどが官邸上層部の反感を買ったとも伝えられた) 西山審議官は「燃料棒の外側の被覆材の損傷というのが適切な表現だ」と述べ、炉心溶融を事実上否定するようなニュアンスの発言を行った。
ただし、寺坂保安院長は2011年8月10日に行われた自身の退任会見において「中村審議官はもともと通常業務では国際部門を担当している。その後の事態の進展とともに、いろいろな人員や体制を整えていくということが必要になって広報担当が交代した」と説明。「[中村審議官の炉心溶融]発言自体そのもので担当が交代したということではない」と強調した。
政府事故調中間報告においても、中村審議官の交代は同氏が自主的に願いでたことによると記述されている。
また、枝野長官によると、同氏が不快感を表したのは、政府の他部署で重要な事実が公表された後に官邸が知るという情報伝達手続きの乱れについてであり、原子炉の状況に関する発言内容自体を批判したものではないとのこと。
たしかに枝野長官は13日午前11時からの会見において記者から1号機の炉心溶融の可能性について問われ、「これは十分可能性があるということで、当然、炉の中だから確認はできないが、その想定のもとに対応をしている。」と述べ、炉心溶融の可能性自体は否定していない。(週刊ポストはこの発言から「炉を直接見ることはできない」という部分のみを恣意的に取り出して記事にしているようだ)
民間事故調の結論
「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」のp.124「中村審議官交代は実質的な更迭」によると、民間事故調の結論は以下のようなものである。
中村審議官の交代は正式な更迭、すなわち上司の人事権に基づく強制的な担当者の交代ではなかったとしても、官邸の状況を認識した保安院側が、中村氏に事情を説明した上で、同氏の自発的な交代の申し出というより穏便な手段により官邸の意向に沿った対応を実施した、実質的な更迭と評価するのが自然である。
いずれにせよ、原発事故について自主的に考えて発言できるだけの知識を持つ人物は、広報担当には不適切であるとして政府上層部が排除しようとした可能性は否定できない。
「更迭」後、ウィーンIAEA本部の緊急会合に参加
- 「日本が原発事故を説明=事態収拾へ協力要請−IAEA」 時事ドットコム、2011/04/05-18:38
【ベルリン時事】国際原子力機関(IAEA)と日本政府は4日夜、ウィーンのIAEA本部で福島第1原発の事故の状況を説明する緊急会合を開いた。日本からは経済産業省原子力安全・保安院や文部科学省の担当者が出席し、事故の推移やこれまでの対策、環境モニタリングの状況などを報告した。
会合後に記者会見した原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官によると、日本側は「国内はもとより、世界的な英知を結集して深刻な事態を乗り切りたい」と述べ、各国に協力を要請した。また、「事故原因と対策を検証し、透明性高く情報を提供する」と約束した。
- 「汚染水放出に各国懸念…原子力再検討会議」 2011年4月7日11時50分 読売新聞
分科会は報道陣に非公開で開かれ、詳細なやりとりは不明。会議終了後に日本メディアに対して記者会見した経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官によると、分科会では同審議官が、日本の原子力安全規制状況や、福島第一原発事故を受けた日本の他の原発での緊急時対策の強化などを説明した。放射性物質を含む汚染水の放出問題については、日本側が取り上げなかったものの、出席国から「懸念を持っている」との声が上がったという。
- 「原発の安全対策強化で一致 IAEAで福島事故の説明会」 asahi.com, 2011年4月5日10時18分
ウィーンの国際原子力機関(IAEA)本部で4日、福島第一原発の事故に関する加盟国への説明会が開かれた。経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官らが事故の最新状況や日本政府の対応などを報告し、米国や欧州連合(EU)も事故後の取り組みなどを説明した。
ウィーンIAEA本部の緊急会合に参加したという事実は、寺坂保安院長の「中村審議官はもともと通常業務では国際部門を担当している」という証言と矛盾してはいない。