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広瀬隆 (東日本大震災)

東日本大震災・デマ・風評被害・陰謀論


原発なしでも電力は足りるか?

「週刊朝日」6月10日号の記事『「原発全廃」でも電力不足は起きない!』についての検証。

 実は広瀬氏の主張の根拠になっている数字を検証すると、原発なしでも電力需要を賄えるという主張に、疑問符が付く。よく知られているように広瀬氏は、「原発を今すぐに廃止しろ」との立場だ。福島第1原発の事故を受けて、今後、原発をどうするか、国民的議論が必要なことは間違いないが、それには正確な情報が必要だ。原発廃止を強く訴えたいために、データをよく検証せず、原発を今すぐ廃止しても電力供給は大丈夫と言い切るのは、ミスリーディングと言ってもいいだろう。

 広瀬氏は、電力会社が保有する原発以外の水力、火力の発電設備と、他社からの受電で需要を賄えるから、原発を全廃できると主張している。この主張には、3つの大きな誤解がある。

 

 まず、水力発電の設備能力と、実際に可能な発電量は異なる。水力発電所は常に100%の設備能力で供給できるわけではない。2番目に、石油火力のなかには昭和30年代に建設されたものもある。これも常に100%の能力で使用できる保証はない。そして3番目の誤解は、他社受電に、卸電力事業者である日本原子力発電の原発が発電した電力が含まれている。彼が示す「原発なしでも大丈夫」の根拠そのものが、原発全廃になっていないわけだ。

 水力、火力、他社受電のすべてで、広瀬氏の主張が成立しないことが分かった。仮にすべての火力が100%稼働し、今年が節電モードで従来よりも最大電力需要が下回ったとしても、関電では原発なしでは電力供給に大きな問題が生じる。東電も供給力はぎりぎりだ。

 広瀬氏は、自家発電があるので供給力に不安はないとも主張しているが、現在ある自家発のうち、供給力に余裕がある発電所は、既に電力会社と長期契約を締結して電力を供給する卸供給事業を行っているか、直接、需要家に電力を販売しているはずだ。設備を遊ばせている会社はないだろう。今回の原発停止をきっかけに、新たに電力供給を始めようという自家発などはほとんどないわけだ。電力の供給に不安を覚え、これから自家発を新設する企業があるかもしれないが、現在の燃料価格を考えると経済性が不透明で、それほど多くの企業が今から自家発の設置に踏み切るとも思えない。

 広瀬氏の電力問題に関する論調には、時として誤った思い込みがみられる。

 

 例えば、同じ記事のなかで、「風力は補助金目当てで立てられた利権の産物で動いていない」と広瀬氏は言い切っているが、ほんの一例を全体の話にすり替えている。

 また、広瀬氏は、発送電を分離すれば、電力の供給量が増えるとも主張している。しかし、なぜ供給が増えるのか、その理由は明確ではない。

 結局、すぐにも原発抜きで電力供給を実現する魔法は存在しないということだ。中長期には、送電線網の増強を図りながら再生可能エネルギーの導入を増やすしか方法はないだろう。欧州と異なり、電力の輸出入が不可能な日本がただちに取れる選択肢は限られている。

 原発はいやだという感情論だけでは、エネルギー問題を論じることはできない。エネルギーコスト、産業の競争力、国民生活への影響も考慮しながら、エネルギー供給の面から解決策を見つけていくしかない。データに基づいて冷静に議論したい。

東北地方太平洋沖地震の余震でとして大きな地震が起こる可能性のある今、津波対策抜きに原発の再稼働は難しいのではなかろうか?(スマトラ島沖地震の場合、2004年12月26日のバンダ・アチェ南南東沖でのマグニチュード9.1の地震と連動してその後もマグニチュード8以上の地震が複数起こっており、2012年4月11日にはマグニチュード8.6の地震も起こっている)

しかし、原子力発電が総発電電力量に占める割合(ATOMICA、1-07-05-08)は日本の場合、3.11以前で30%前後であったので、原発を急に全停止するとその影響も大きいと考えられる。はたして原発がすべて停止した場合、日本の経済や社会はどうなるのであろうか?この件については原発停止を参照。

何が「百万倍」なのか?

上の記事に掲載されてる「放射能濃縮データ」の図(3ページ目)がおかしいと評判になっている。たしかに子ツバメが食べているのは、アヒルではなくて「川の虫」だし、ツバメは「水鳥」ではないので、図中の矢印は意味不明だ。(食物連鎖を正確に表していない) そもそもツバメやアヒルの卵は、日本ではめったに食べないと思うぞ。いったい何が「百万倍」になったのかも、よくわからない。

ツバメが「川の虫」をどれほど食べるのか知らないが、上記エントリによると、アヒルは主に植物食であるので、魚は捕らないようだ。

また、ハンフォード原子力施設の下流に住む人(コロンビア川の河口から50キロ近く離れたウィラパ湾でとれるカキを常食していた労働者)から高濃度で見つかったのは亜鉛65(半減期:約244日)だそうだ。カキは、周囲の海水濃度より10万倍以上に、特異的に亜鉛を濃縮するが、亜鉛が食物連鎖により順次高濃度になる生物濃縮は認められていないとの報告もある、とのこと。

  • 有毒性評価書 Ver.1.0 No.131 「亜鉛の水溶性化合物」(pdf) 新エネルギー・産業技術総合開発機構 p15-16

つまり、生物濃縮については十分に注意する必要があるが、すべての放射性物質が「百万倍」になるわけではない。「水鳥の卵で百万倍」になるというのであれば、いったいなんの放射性物質について言っているのか、広瀬氏は出典を明らかにすべきである。

なお、「Introduction to Social Work and Social Welfare: Empowering People」(Charles Zastrow, Brooks Cole, 2009)という本に、広瀬氏の図と同様な表記(p.548)がある。こちらでは、アヒルも魚と同様にプランクトンを食べるという記述になっている。(同じものを食べていても濃縮度は魚が1万5千倍、アヒルが4万倍となっている) さらに、これは「Perils of the Peaceful Atom」(Richard. Curtis and Elizabeth Hogan, Littlehampton Book Services Ltd, 1970)という本からの引用なので、この本を見てみた。すると、この本も同様の文章を「The atom and the energy revolution」(Norman Lansdell、Penguin Books、1958)という本から引用している。また、広瀬氏の著書「東京に原発を!」(集英社、1986年)の176ページにも同様の図があり、やはり、ノーマン・ランズデルの著書「原子力とエネルギー革命」を引用している。

そこで、Norman Lansdellの「The atom and the energy revolution」を見てみると、173ページに同様な記述があり、脚注に引用元はAlbert Schweitzerアルベルト・シュヴァイツァー)のオルソーからの放送であるとのみ書かれてあり、結局なにが100万倍になったのかはわからなかった。どうも出典の明らかでない話が半世紀にわたってこの手の人たちのあいだでは流れているようである。

600℃でメルトダウン?

上記のエントリによると、週刊ダイヤモンドの広瀬隆の記事「破局は避けられるか――福島原発事故の真相」(2011年3月16日)に「600℃でメルトダウン」という実に不可解な数値が載っているそうだ。

 原子炉の正常な運転条件は、福島原発のような沸騰水型では、280〜290℃、70気圧である。従来は燃料棒の過熱温度が2800℃で炉心溶融が起こるとされていたが、スリーマイル島原発事故などの解析によって、実際には600℃で起こることが明らかになった(2009年7月6日〜7日にNHK・ BS1で放映されたフランス製ドキュメント「核の警鐘〜問われる原発の安全性」)。

このおかしな数字は指摘の通り、NHKの誤訳をそのまま引用したためであり、この記述は以下のように書きかえられ、訂正とお詫びの注釈が付け加えられている。

 原子炉の正常な運転条件は、福島原発のような沸騰水型では、280〜290℃、70気圧である。従来は燃料棒の過熱温度が2800℃で炉心溶融が起こるとされていたが、スリーマイル島原発事故などの解析によって、実際にはフェビュスでの最初の実験では、それまで理論的に計算されていた値よりおよそ600℃も低い温度で炉心溶融が起こることが分った(2009年7月6日〜7日にNHK・BS1で放映されたフランス製ドキュメント「核の警鐘〜問われる原発の安全性」より。下欄に訂正あり)。

【訂正とお詫び】「600℃で起こることが明らかになった」という記述部分に誤りがありました。NHKが当初、フランス製ドキュメント「核の警鐘〜問われる原発の安全性」の最初の放映時に「600℃で起こる」と誤訳していたものを引用したためです。訂正してお詫びいたします。

手作りの生味噌がよい

上記の動画は、2011年3月23日(水)に早稲田奉仕園で行われた講演の様子らしいが、1時間45分20秒のあたりから、広瀬氏は放射能には「酵母菌の入った手作りの生味噌がよい」という話をしている。この話で一番ひどい点は、ヨウ素剤には副作用があるとして、その代わりに生味噌を薦めていることだ。これは問題だろう。ヨウ素剤の作用の仕方はよくわかっていること(安定ヨウ素剤投与 (09-03-03-05), 原子力百科事典 ATOMICA)で、生味噌はヨウ素剤の代わりにはならない

スクリーンに映し出されている『自然食の「ころ」』というのは、広瀬氏の娘の店とのこと。広瀬氏自身は詳しくないが、娘によると、ヘンな味噌ではなく、「正当な酵母菌」の入った手作りの味噌がいいそうだ。注文が殺到すると生産ができないから娘には紹介するなというようなことを言われていたそうだが、店の電話番号まで紹介しており、こうしてYouTubeで動画も配信されている。(広瀬氏は娘さんに怒られたのだろうか?)

味噌の根拠

味噌が効くという話の根拠は以下のようなものだろう。

ところで、広島での原爆後遺症の調査の中に「みそを食べていたので、原爆後遺症が軽症で済んだ」という報告があります。この結果はヨーロッパでも知られており、1986年のチェルノブイリ原発事故の際には、ヨーロッパへのみそ輸出が急増しました。

広島大学の伊藤明弘教授が行ったマウスを使った実験を紹介している。この研究に関連した文献としては以下のものをPubMedで見つけた。

ただし、これはマウスを使った実験なので、これだけでは人間についても「みそ・しょうゆには、放射線から体を守る作用があることがわかりました」とまでは言えないだろう。

 福島第1原発事故以降、放射線被曝(ひばく)と日本の伝統食「みそ」の関係に注目が集まっている。「みそが被曝の影響を軽減するのではないか」との期待は広島、長崎の被爆者の体験談に端を発する。長年、マウスの実験で放射線とみその関係を研究する広島大名誉教授の渡辺敦光さん(71)に研究成果を聞いた。

 

 渡辺さんが参考にしたのは、長崎の医師秋月辰一郎さん(2005年、89歳で死去)の実践だ。自らも被爆しながら負傷者の救護活動に当たった秋月さんは、毎日ワカメのみそ汁や玄米おにぎりを患者や看護師らに食べさせた。

 みそ、しょうゆ、食塩をそれぞれ混ぜた餌を、1週間与え、6〜12グレイのエックス線を照射。3日後、細胞増殖が盛んで放射線の影響を受けやすい小腸を調べると、みその餌を与えたマウスは他と比較して、より多くの小腸組織が再生されていることが分かった。

 

 みその発酵具合では、熟成期間の長いみそほど再生が速かった。渡辺さんは「熟成の段階で生まれる茶色い物質メラノイジンに、放射線防御効果があるのではないか」と推察する。

 

 こうしたみその効用に期待し、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故後、欧州各国はこぞってみそを輸入した。しかし、実験はマウスによるもの。渡辺さんは「そのまま人間に当てはまるとは言い切れない」とも話す。ただ「少しでも放射線防御の可能性が考えられるなら、日本の伝統食でもあるみそを見直す価値はある」と提案している。

これも、実験はマウスによるものであり、渡辺氏も『そのまま人間に当てはまるとは言い切れない』としている。

渡辺敦光氏の研究結果については以下のリンクを参照。こちらは「熟成味噌がいい」という意見なようだ。

なお、批判的な意見については以下のリンクを参照。

 私はここで「味噌汁にはまったく効果がない」ということを言おうとしているわけではない。しかし、科学的な検証をしていない『AERA』の記事を信用して、これまで味噌汁を飲んでいなかった人が味噌汁を飲んだり、味噌の摂取量を増やしたりする人が増えることはありえる。その人たちにとっては、放射線の防御効果は不確かであるにもかかわらず、食塩摂取量は上がることになるだろう。

まあ、多少味噌汁を多く飲むようになったところで、取り立ててどうということはないのだろうが、日本人の塩分摂取量については以下のリンクを参照。

日本で塩分過多が問題になったのは戦後のこと。食塩摂取量が多いほど高血圧になりやすく、脳卒中になる人が多いという研究が発表されたためです。『日本人の食事摂取基準』では、成人男性で1日10g未満、成人女性で1日8g未満を目標量としています。ところが、平成17年度の『国民健康・栄養調査』によると、目標量より多く摂取している人の割合は、男性で64.5%、女性では71.8%にもなり、食塩の取り過ぎはいまだに大きな課題です。一方同じ調査のアンケートで「食習慣について改善したいこと」の第3位に、「食塩の多い料理を控える」がランクインしています。つまり、意識はあっても実現は難しいというのが現状のようです。

味噌以外の食品

また、放射線に対する似たような論文報告は、味噌以外にもカフェインやビールにもある。以下(PubMed)を参照。

しかし、どれも血液(in vitro)やマウスに対する実験で、実際の人間への効果についての調査ではない。

ビールについては、以下のリンクで日本語の解説が読める。

以下のプレス発表では牛乳に含まれるラクトフェリンが「効く」らしい(ただし、これも実験はマウス)。

つまり、この程度の「効果」ならば、その他の食品にも見つかるので、とくに生味噌にこだわる必要はない。

広瀬氏はかつてなんと言っていたか?

広瀬氏は上記の著書の283ページで、御茶ノ水大学教授外山滋比古氏が「毎日婦人」(1987年1月号)に書いたという以下の文章を紹介している。

「ソ連のチェルノブイリ原発事故のあと、ヨーロッパの国々から日本へ、至急みそを送れという注文が相ついで届き関係者をびっくりさせた。みそには制ガン効果のあるというところが注目されたのだそうだ。恥しいことに、こちらはみそにそういう効果のあることをまったく知らなかった」

そして、これを広瀬氏は以下のように厳しく非難している。

これは、みそを食べればウクライナの死の灰は無害になるという意味にしか理解できません。これが大学教授を勤めている。外山滋比古に、プルトニウムとみそを一緒に食べさせようではありませんか。無害であることを証明して貰いたい。

つまり、以前、広瀬氏はみその効果に極めて懐疑的だったことがわかる。

その広瀬氏が3.11以降どういうわけか、生みその宣伝をしている。広瀬氏はどうやってその効果を証明するつもりなのだろう?

その他

この本の第2章「歴史を影で操り、世界戦争を画策する米英資本家の悪行!」で広瀬氏の著書「赤い楯」(集英社 (1996/11/20))等が批判されている。