水は答えを知っている
「水は答えを知っている」や「水からの伝言」は江本勝氏の著書のタイトル。江本氏の著書も「水の記憶」事件に登場するベンベニスト博士の研究とならび、ホメオパシーの科学的根拠とされることがある。懐疑論者の間では『水伝』と略されることもある。アメリカの図書館で利用されている本の分類法「デューイ十進分類法」(Dewey Decimal System)では、江本氏の本は「宗教―スペシャルトピックス」に分類されている。(文献26)
この件に関しては既に多くの懐疑的・批判的なサイトが存在するので、まずはそれらを参照してください。
江本勝氏急逝
- 「訃報」 October 17, 2014, I.H.M.WORLD ブログ
弊社会長の江本勝儀10月17日午前0時50分、肺炎のために急逝いたしました。ここに生前のご厚情を深謝し、謹んでご通知申し上げます。なお 通夜ならびに告別式は、社葬をもちまして下記のとおり執り行います。
最近の動き
お米にありがとう
- 「小学生と母親の「お米にありがとうと言い続けたら腐らなかった」というオカルト自由研究にホリエモン以外は感動中」 Gil Pender, 2015年10月25日, Netgeek
小学生1年生の男子が行った夏休みの自由研究「ありがとうと無視」がヤバイ結果だと話題になっている。炊いたご飯を瓶に入れて「ありがとう」と言い続けたら腐らず、一方で言葉をかけずに無視したほうは腐ったというオカルトじみた研究だったのだが、なぜかそれを信じる人が続出中なのだ…。
- 「朝日新聞デジタルの記事へのコメント」 (2015/10/17) Y.Amo(apj) Lab
明治大学のオープン講座に江本氏登場(する予定だった…)
- 「14270019 「ガイア、この水と微生物の共鳴する世界」」 明治大学リバティアカデミー, オープン講座, 2014年12月13日 〜 2014年12月13日
近代以降、益々鮮明になる科学万能の人間中心主義は、ガイアの全生命が一つ残らず繋がっているという全体性を、私たちから奪ってしまいました。しかし、草も木も、石ころでさえもガイアのいのちを生きており、私たち人間は何ら特権性を有しません。
たとえば神道では、古来水はそれ自体が一つの生命体であり、意識も心も記憶さえももっていると説明されて来ました。
本講座では、独特な波動理論から、生きとし生けるものの本体をなす水の本質を追究して来られた江本勝先生と、EM(有用微生物群)の開発でエントロピーという科学の常識を破壊し、環境汚染や体内汚染に決定的な解決策を呈示してこられた比嘉照夫先生、このお二人の世界的に著名な研究・実践者をお迎えて、地球進化の正しいサイクルを取り戻すことで、崩壊の文明から蘇生の文明への道を探りたいと思います
この業界では「最強クラス」の江本勝と比嘉照夫の「夢のタッグ」。はてさてどうなることやら…
当然批判も多く寄せられているようで、明治大学リバティアカデミーのトップには以下のようなお知らせが出ている。
2014.08.02
オープン講座「ガイア、この水と微生物の共鳴する世界」に関するお知らせ
日頃より,明治大学リバティアカデミーに格別のご理解とご支援を賜り,誠にありがとうございます。
さて,12月13日(土)に開講を予定しております,オープン講座「ガイア、この水と微生物の共鳴する世界」に関しましては,さまざまなご意見をいただいており,開講について再度検討しているところでございます。
つきましては,近日中に,検討結果について,ご案内申し上げます。
そしてその後、このようなお知らせが出た。
2014.08.08
オープン講座「ガイア、この水と微生物の共鳴する世界」 不開講のお知らせとお詫び
12月13日(土)に開講を予定しておりました,オープン講座「ガイア、この水と微生物の共鳴する世界」(2014年度秋期パンフレット44ページ)は,講座内容を再度慎重に検討をした結果,開講しないことになりましたので,お知らせいたします。
リバティアカデミー会員及びリバティアカデミー講座に関心をお持ちの方々には,ご迷惑をおかけし,また混乱を招きましたことを深くお詫びいたします。
この件に関しては以下のリンクも参照。
- 「「ニセ科学」講座は中止になったけど」 2014年08月10日, 杜の里から
そもそもこの講座の開催を決めたのは大学側であり、その時はこの講座内容は別に問題ないと思っていた訳です。
それが再度の検討で中止になったとただ言われただけでは、「水伝」や「EM菌」などを知らない人にとっては、なぜ突然これが中止になったのか分からないと思われます。
懐疑的・批判的なサイトへのリンク集
「水からの伝言」を信じないでください
学習院大学理学部物理学科の田崎晴明教授のページ。非常にわかりやすく解説されてある。
田崎教授の「水は答えを知っている」に関する書評もある。
『水からの伝言』の基礎知識
PSJ渋谷研究所X謹製。「水伝」に関する基礎的な事柄を集めてある。「基礎編」「考察編1、2」「資料編」の3つに分かれている。
物理学会でのシンポジウム「『ニセ科学』とどう向き合っていくか?」について
2006年3月30日、日本物理学会年次大会で開かれた「『ニセ科学』とどう向き合っていくか?」というタイトルのシンポジウムに関するサイト。阪大菊池誠教授の講演で「水からの伝言」が取り上げられた。
「水からの伝言」を教育現場に持ち込んではならないと考えるわけ
大阪大学サイバーメディアセンターの菊池教授のサイト
やっかいな「水からの伝言」
国際連合大学の安井至副学長の批判ページ
「「水からの伝言」と科学立国」
日本化学会が発行する「化学と工業」2006年9月号に掲載された安井氏の記事
および同誌12月号の「論説『「水からの伝言」と科学立国』に対する読者からの意見」
「水は人の思いに反応する」というニセ科学への反論
日経BP社のサイトで公開されている「水はなんにも知らないよ」(左巻 健男 著)についての松浦晋也氏の書評。
山形大学理学部物質生命化学科の天羽優子助教授の批判ページ集
実際にページが置いてあるのは御茶ノ水大学 大学院人間文化研究科 富永研究室のサイト
まん延するニセ科学(2006/12/27)
(こちらでは大阪大学菊地誠教授がNHK教育「視点・論点」に出演した時の放映内容の全文を読むことができる)
まん延するニセ科学
大阪大学菊地誠教授がNHK教育「視点・論点」に出演した時のビデオクリップ。一度YouTubeからは削除されたが、またアップされたようだ。マイナスイオン、ゲーム脳、そして水伝について語っている。
「いろもの物理学者」前野昌弘さんのサイト
- 『「水伝」授業を行った小学校の校長・教頭への手紙』 平成19年6月21日(木)
- 「日記:2007.6.17」
「水は答えを知りません」
「水伝」授業に抗議を行った保護者の方の体験談。
「「関東地区女性校長会」研修会における江本勝氏の講演会に関連して」
「長島雅裕のホームページ」(2008.10.4)
Myths and Nonsense... Fact and Fancy in the world of ice and snow ...
これはアメリカのカリフォルニア工科大学Kenneth Libbrecht教授のページ(英語)。Libbrecht教授は雪の結晶を研究しており、一般向けの著書もいくつかある。たとえば、「The Snowflake: Winter's Secret Beauty」や「Ken Libbrecht's Field Guide to Snowflakes」はきれいな雪の結晶の写真が満載された本であり、英語が読めなくても、ながめているだけで楽しい。邦訳としては「スノーフレーク」がある。この本の終わり(p.106)に、翻訳家のでがわあずさ氏はつぎのようなコメントを記している。
また雪結晶はとても魅惑的ですが、人が想いを込めて「ありがとう」と言葉を掛けたからといって、綺麗な結晶ができるわけではありません。ケネスはそのような誤った考えに対し「物理の基礎に反しており、サイエンスを騙るニューエイジ・ナンセンスのたわごと」と自身のウェブで評しています。この美しい本が、冬の日を豊かに過ごす一助になれば幸いです。
日本物理学会2006年秋季大会における発表
日本物理学会2006年秋季大会において以下のような発表があった。
「言葉が水の氷結状態と水中元素濃度に及ぼす影響」
(九大院工)高尾征治・○川添淳一・(アイエイチエム)江本勝・(ホワイトマックス)増本勝久・(IHMテック)里中耕也・(サロンドジャン)石田静子
江本は、水の氷結技術を独自に開発し、言葉や音が水の氷結状態に影響を及ぼすことを世界ではじめて実証した。そこで、水中に微量含まれる元素類の濃度が言葉に感応してどのように変化するかを調べてみた。100mlの半透明ポリ容器を4個用意する。ワープロ印字した日本語の「ありがとう」と「ばかやろう」、英語の「Thank you」と「You fool」をセロテープで貼り付け、市販の精製水を100mlずつ入れた。原水、7日後、14日後の実験サンプル水の含有元素濃度を九大 のICP-MSで測定した。計測濃度はppb(10-9g/g) 。原水中にはないCaが「ありがとう」では1週間後微増し二週間後もその状態を維持する。しかし、「ばかやろう」では激増した後消滅している。英語でも、絶対値は異なるが同じパターンで変化していることがわかった。
この発表の様子は以下の2つのブログでうかがい知ることができる。
この発表と直接関係があるかはわからないが、九州大学大学院工学研究院長より「似非科学問題について」というプレスリリース(?)があった。以下にその全文を引用しておく。
工学研究院長より「似非科学問題について」
最近,本研究院内の教員が検証の不十分な実験結果を発表することにより,似非科学としてマスコミに取りあげられるなどの事態が起こっています.そこで,本学教員による外部発表は口頭発表であっても社会的影響が大きいことを充分に考慮して,発表内容に細心の注意を払うよう勧告しております.また,学会における口頭発表だけでは研究内容が認知されたことにはならず,査読付き学術誌に論文が掲載されることで初めて研究内容が是認されることを各教員に再認識させております。
2007年4月12日
工学研究院長 末岡 淳男
このコメントは「九州大学工学部」のサイトで公開されていたが、現在はもう消えている。
2010年
- 「122. nabe」 September 24, 2010 @22:29:01, kikulog
もう2週間もまえの話ですが,日本物理学会における高尾征治さんの発表の場にいましたので,簡単にメモを記します。
まず始まる前,会場になっている教室の前で事務局の方から参加票の確認を求められたので,このセッションに神経を使っていることがわかりました。
教室にいたのは大体30人位,そのうち10人くらいは高尾さんのお仲間という風情でした。
講演は,初歩的な素粒子反応を高尾さんの提唱する理論を用いて説明する所から始まり,その理論と五角形の幾何学(黄金比)との関係を示し,発展させた理論と哲学との関係から精神エネルギーとの関係性を示すという,理論ぽく展開するものが4コマ。その理論に基づいて作った波動器具の説明が一コマ。そして酸水素ガス(?)という特殊な物質の説明がその理論で可能であり,また波動器具を用いたことによって栄養価の高いおいしいトマトが出来たという主張が一コマ。計6コマ,高尾さんの独演会でした。
質問等は1コマ目には若者から一つ,2コマ目からは私自身が耐えられなくなって各コマ毎に発言するようになってしまいました。他にも学会関係者の方や私の友人など2,3名が発言をしていましたが,まぁ終始穏やかにそして話は噛み合わず進んでいきました。
その中で,「まったくナンセンスなのでこの場で発表すべきでない」という意味の発言があったのは良かったと思いますし,議論のなかで高尾さんが「私のやっているのは従来の科学とは違うものである」と明確に言われたことも収穫であったと思います。
私の発言では,「トマトがおいしくなったのは波動器具のお蔭ではなく,農家の方が丹精込めたからに違いない」というのが一番良かったかな?
議論の最中に笑い声が上がることはあっても,高尾さんの講演そのものにおいて笑い声が上がるようなことはありませんでしたから,聴衆の多くは批判的な目で見ていても,トンデモを笑いに来たのではないようでした。
こんなところです。
そうそう,その後実験核物理領域のインフォーマルミーティングにおいて,一人で6コマ講演を行うことが問題として取り上げられ,今後は数を制限するなど何らかの対策を立てることになりました。
アエラの記事について
AERAの2005年12月5日号に、「水からの伝言」および「水は答えを知っている」の著者の江本勝氏のインタビュー記事が掲載された。全文を天羽助教授のページ「「水からの伝言」江本氏の主調」で読むことができる。冒頭で江本氏は「水からの伝言はポエムだと思う。科学だとは思っていない。僕は科学者ではない」と述べているのにもかかわらず、そのあと「今後、周りの研究者によって科学的に証明されていくと思う」と述べている点が矛盾しているとして批判されている。普通、ポエムは科学の研究対象にはならない。
「著書に書いた『108の元素が108の煩悩に対応している』ことも常識だ」とも述べており、確かに「水は答えを知っている」にも同様なことが書かれている。
- p.106: 「いま確認されている元素の種類は、百八から百十一あるといわれています。私は、百八ではないかと思っていますが、自然界にあるこれらの元素をすべて併せ持っているのは、人間だけなのではないでしょうか。」
- p.107: 「私の考えは、百八の煩悩というのは人間が体内にもつ百八の元素にそれぞれ対応しているのではないか、というものです。」
しかし、この「元素」が何を意味しているのかよくわからない。
元素といえば周期表を見ればいい。たとえば「一家に1枚周期表」を見てみると、原子番号113番目の元素まで載っている。(112番目と113番目の元素にはまだ名前がついてない)108個目の元素はハッシウムだが、その半減期は9秒と書いてある。半減期とはその元素が核分裂などを起こして別の元素になり、その量が半分になる時間のこと。つまりハッシウムは不安定な元素で自然界には存在しない元素なのだ。実を言うと、天然に比較的安定に存在する元素で、最大の原子番号を持つものは、92番目のウランだ。それ以上の原子番号の元素は原子炉やシンクロトロンなどを使って作られた人工の元素である。さらに、原子番号が小さい元素でも天然に地球上には存在しないものもある。たとえば、原子番号85番のアスタチンや43番のテクネチウムも人工的に作られた元素だ。したがって、人間の体内に108個も元素があるとは、とても思えない。(ウランやプルトニウムなどの放射性元素が生体必須元素として人間の体内に存在するとも思えないが)
「1999年に琵琶湖に350人が集まって祈る運動では成果を収めた。それ以来、琵琶湖はきれいになった」とも主張しており、同様なことはやはり自著にも書かれている。では、祈る前後で琵琶湖の水質検査でもしているのかというと、そうではなくて、1999年8月27日の京都新聞の以下の記事が根拠になっているようだ。(文献1)要するに藻(コカナダモ)を退治したということらしい。
琵琶湖で毎夏、湖面を覆うほど異常繁茂する外来藻「コカナダモ」が、今年は、ほとんど湖面に姿を現さない。例年、悪臭に対して滋賀県などに寄せられる苦情も今年はまったくなく、県による刈り取り量もごくわずかだ。 県の担当者は「異常繁茂していないのはいいことだが、原因がはっきり分からないので単純に良いと言えるかどうか…」と、「異常繁茂しない異常」に首をかしげている。
「雪氷」誌に掲載された記事
1996年発行の日本雪氷学会の学会誌「雪氷」には、(株)ニチレイアイスの田口哲也氏が江本氏と同様な方法で撮影した「水の結晶」の報告が掲載されている。(文献2)ただし、この報告では氷の外側にできた結晶ではなく、顕微鏡照明用のハロゲンランプの熱によって生じた氷の内部融解像(チンダル像)を観測したとしている。しかし、この内部融解像の大きさは0.4mm以下と小さく、従来のチンダル像の1/10しかなかった。
その翌年の1997年の雪氷に江本氏らの報告が掲載され、田口氏の観測したのは内部融解像ではなく、氷の結晶であると訂正している。(文献3)この報告によると、顕微鏡のライトに照らされた氷の一部が融解・蒸発し、気化した水蒸気の一部が再結晶化(雪と同様に昇華成長)して結晶に取り込まれるとのこと。ただし、「雪氷」誌上の報告は水の微小な結晶を観察することによって水質の良し悪しがわかるという議論および結晶の撮影の仕方についてであり、「水にありがとう」といったような話は出てこない。
関連映画
江本氏の主張が登場する映画としては、以下のようなものがある。
「ストーンエイジ」
この映画は鑑賞していないので、情報はない。公式サイトは閉鎖されてしまったようだ。
以下がその予告編。
- 「ストーンエイジ・魂の教育予告編」 2013/07/20 に公開, OFFICE TETSU SHIRATORI, YouTube
「仮面ライダー The First」
「仮面ライダー The First」は、山形大学の天羽優子准教授がDVDを鑑賞したようで、その感想をブログ「事象の地平線」(2006/05/04)で読むことが出来る。
主人公の本郷 猛は、「極端に言えば水の面に美しいものが映った時、その水の結晶は美しくなる」とか「人間の身体の60%は水でできていることはご存じですか?美しいものを見ると人は元気になる。それはもしかしたら水の結晶が物理的に変化しているからなのかもしれない」などと述べている。普段の生活が美しいものに満たされれば、それだけ人も幸せになれるということだそうな。
DVD特典のオーディオコメンタリーでは、監督とプロデューサーのコメントを聞くことができる。プロデューサーは「ちょっと研究内容がトンデモがかってますけどね」と一言述べている。原作コミックで本郷は大学の研究者という設定になっていたそうだが、ただ科学的な研究ではなくて、精神性を重視して「美しいものを研究している」という設定を脚本家が考えたそうだ。「美しいものを守る」というテーマにふさわしい内容だったとのこと。
「What the bleep do we know!?」
「What the bleep do we know!?」はアメリカで製作された自主製作映画であるが、2004年9月号のSkeptical Inquirer誌(文献4)によると この映画の3人の監督(Mark Vicente, Betsy Chasse, and William Arntz)は皆「Ramtha’s School of Enlightenment」というワシントン州にある学校(?)の生徒(信者?)らしい。この学校(?)はチャネラー(いわゆる宇宙イタコ)のJ. Z. ナイト(JZ Knight)によって運営されている。ナイト自身も映画に出演しているが、古代レムリアの3万5千歳の戦士ラムサ(Ramtha)とチャネリングする霊能力者とのこと。「トンデモ超常現象99の真相」(文献5)によるとラムサは「アトランティスの戦士だった」と紹介されているので、レムリアなのかアトランティスなのかいまいちはっきりしない。
「トンデモ超常現象99の真相」(文献5)によると、ナイト氏はいくつかの大きなスキャンダルで有名だそうで、その1つは「”ラムサ”が三年以内に疫病が大流行して大量の死者が出ると1985年に予言し、多くの人々を”安全な土地”に移住させることになったにもかかわらず、その予言がはずれてしまった」ことだそうだ。ナイト氏と3万5千歳の戦士ラムサについては「The Skeptic's Dictionary 日本語版」も参考になる。ここによると、ラムサは『アトランティスからレムリアを通ってやってきた』ことになっている。その英語版には、この映画のレビューも載っている。
「What the bleep do we know!?」には色々な「第一級の研究者」が登場し、量子力学について語っているのだが、なかなか個性的な人も含まれている。たとえば、フレッド・アラン・ウォルフ博士は「時間旅行のヨガ:心がいかにして時間を克服するか」という本の著者である。ウォルフ博士は別名「キャプテン・クワンタム」や「ドクター・クワンタム」としても知られており、この映画のアニメ・キャラクターにもなっているが、本編では使用されなかった。YouTubeを検索すると「Dr Quantum - Double Slit Experiment」や「Dr Quantum - Flatland」というものが見つかるので、これがそのアニメなのだろう。1つ目のアニメは電子の二重スリットの実験、2つ目は多次元宇宙について説明している。なかなかよくできたアニメだが、結論は神秘主義的なものになっている。
ウォルフ博士のサイトのFAQ集を見てみると、「この映画はラムサのプロモーションビデオじゃないの?」という質問がある。これに答えて、ウォルフ博士は、映画の製作費を出したWilliam Arntz氏、 監督のMark Vicente氏と監督兼プロデューサーのBetsy Chasse氏はみなラムサの弟子だったことを認めている。この映画はラムサのプロモーションビデオではないのかも知れないが、ニューエイジ ムーブメントの宣伝映画であることは確実だろう。
さらにこの映画に登場するジョン・ハゲリン(John Hagelin)博士は、1994年度イグ・ノーベル平和賞を受賞している。その受賞内容は、「深遠な瞑想とヨガの空中浮遊が発散するオーラで首都ワシントンDC全体を覆い、殺人、強姦、強盗などの凶悪犯罪の発生率を18%低下させた」という功績が認められたからだ。ハゲリン博士によると、博士の訓練を受けた人々が瞑想と空中浮遊をしている間、ワシントンDCの犯罪率は18%の低下を記録したことになっている。しかし、イグノーベル賞委員会の見解はちょっと違っていて、「専門的な表現になってしまい恐縮だが、これはウソである。ワシントンDCの犯罪率は18%も低下しなかったし、それどころか実験期間中に殺人事件の発生率は過去最高を記録したほどだった」とのこと。(文献6)
また、コロンビア大学のDavid Albert教授は映画内で頻繁に登場し、まるでこの映画の主張を支持しているように見えるが、Popular Science誌の記事によると、映画の最終版に激怒しているそうだ。彼によると、4時間にわたり忍耐強くなぜ量子力学が意識や霊性にはまったく関係ないかということを説明したにもかかわらず、映画の製作者側は彼の発言を編集しカットして、彼とラムサが同様の主張をしているように見せかけてしまったらしい。「私はだまされた。私は本当にだまされやすかったが、教訓を学んだ」とAlbert教授は告白している。(文献15)
なお、この映画には「What the Bleep, Down the Rabbit Hole」というディレクターズカット版もあるらしい。こちらではディーン・ラディン、リン・マクタガート、江本勝の3名のインタビューも見れるという。(文献14)
「Physics Today」による批判
アメリカ物理学会が発行する会員誌「Physics Today」に、「What the bleep do we know!?」を批判する内容のレター「Teaching physics mysteries versus pseudoscience」が掲載された。(文献15) この記事では量子力学が疑似科学を奨励するのに利用されていることを問題視している。この映画では、まず不確定性原理の説明のために、弾むバスケットボールが何箇所にも同時に現れる様子などが描かれている。これは単に大げさな表現なだけなので、問題はない。しかし、その後、量子力学の不思議な部分が必要以上に強調され、ヒロインが自分の抗精神病薬を投げ捨てたり、さらには3万5千歳の戦士ラムサとのチャネリングなどのとんでもない話になっていく。
一般の人に量子力学の限界を理解してもらうのは難しいが、超常現象が量子力学によって裏付けられるというような主張は、「量子ナンセンス」である。物理学の教師はそういったことがきちんとわかるように、生徒に量子力学を教えるよう心掛けないといけない、とこの記事は結論している。
Explore: The Journal of Science and Healingに発表された論文
2006年9月Explore: The Journal of Science and Healingという雑誌に「長距離からの意志が水の結晶化に与える効果の二重盲検 」というタイトルの研究報告が発表された。(文献7) この論文の筆頭著者はディーン・ラディン博士である。その内容は、2000人の人々が東京から、カルフォルニアの電磁的にシールドされた部屋に置かれた水のサンプルにポジティブな意志を集中させたところ、なにもしなかった水に比べて、その水からきれいな結晶が多くできたというもの。
この論文は、以前は有料だったが、現在はElsevierのサイトからpdfファイルを無料でダウンロードできるようだ。
この論文の要旨は、江本氏のサイトの「水の結晶の形に遠隔地からの想いが与える影響についてのダブルブラインドテスト」というページでも読める。
次に論文の詳細を述べる。
実験にはボトル入りの飲料水フィジーウォーターのラベルを剥がして使った。フィジーウォーターは4本用いられ、そのうち2本が二重の鋼鉄製の壁によって電磁シールドされた部屋の中に入れられ、残りの2本が同じ建物の中の別の部屋にコントロールとして置かれた。2005年11月16日、東京に集まった約2000人の人々にボトルの置かれた電磁シールド部屋があるカルフォルニアのIONS研究所の位置がグーグルマップによって示された。そして部屋の中のボトルの写真が見せられ実験の目的が説明された後、5分間全員で声を上げて祈った。
その後、実験に使われた2本のボトル(AとBとラベルされた)はコントロールのボトル2本(CとD)とともに日本のIHM研究所に送られたが、どのボトルが実験に使われたかは伝えられなかった。(どういうわけか、このプロセスはランダム化されていない。ところが、「プラニックヒーリング・ジャパン」というサイトに置いてあるpdfファイル「「水の記憶」という現象 〜科学と霊性の統合を目指して〜」(文献14)を見てみると、『ラディン博士は乱数のプログラムを使って、ランダムにA、B、C、Dというラベルを貼り、東京のIHM総合研究所宛に速達で送付しました』と、論文と矛盾したことが書いてある。どちらかが間違っているのだろう)
IHM研究所では、すべてのボトルについて結晶化の実験が行われ、全部で40枚の結晶の写真が撮られた。そのうち実験に使用されたボトルからの写真は24枚、コントロールからのものは16枚であった。コントロールからの写真が少ないのは、意志の作用がなかったので、きれいな結晶のできたサンプル数が少なく、写真を撮らなかったからであるとされている。
こうして得られた40枚の写真の結晶の美しさをインターネットを通じて100人のボランティアに評価してもらった。評価の仕方は0から6点までの点数制で、0点は「美しくない」6点は「たいへん美しい」の意味であった。写真はランダムな順番でボランティアに見せられ審査された。その結果、統計的に有意な差で実験に使われた水の結晶のほうがコントロールの水の結晶よりも美しいと評価された。この実験結果は意志の働きかけによって水の様々な特性が変化するということの証拠であると結論している(P=0.001)。
論文に書かれた日付から「第2回 ウォーター・フォー・ライフ・フェスティバル」という東京の文京シビックホールで行われたイベントで、この実験が行われたということがわかる。21:10〜21:20に「祈りの実験」が行われたとプログラムにも書かれてある。ところが、文京シビックホールの大ホールは1,802席なので、2000人には少し足りない。200人の立ち見客がいたのか、別室があったのかもしれない。また、1800人を四捨五入して2000人としているのかも知れない。
また、残念なことにこの論文には結晶の写真が1つも掲載されていないので実際にどのような結晶ができたのかわからない。論文の図1を見ると、実験に使われた水からの結晶の美しさの評価は6点満点で3点を下回っている(約2.9点)。一番評価の高いものでも4.5点を越えない。さらにコントロールのほうの平均点は約1.9点と確かに有意に低い点数となっている。これはフィジーウォーターからはあまりきれいな結晶はできないという結論なのであろうか?
この件に関して、ラディン博士のブログで質問したところ、回答をいただくことができた。まず、本当に2000人の参加者がいたかどうか?という質問に対しては、『私は知らない。私はその会に出席していなかったが、後で2000人の人がいたと聞いた。よってこの数字は四捨五入だったのかも知れないし、もう200人余分にいたのかも知れない』とのこと。結晶はきれいではなかったのか?きれいでなかったとするとその原因は何か?という質問に対しては、『大部分の結晶はきれいと判断されなかった』『江本氏の本の写真は、よりたくさんの写真の中から選んだんだろう。他の研究者による似たような実験から、物理系への意識の作用はけっこう弱い傾向にあることがわかっている。この実験で観測された統計的結果は以前報告された効果と同列のものである。江本氏の本で報告されている結果は(私の解釈だと)科学的・技術的な報告に期待されるような詳細無しに、より芸術的に表現されたものだ。もちろん、距離、使われた水の種類、そして掛けられた意識の性質によって違いが生じたとも考えられる』とのこと。
なお、「Explore: The Journal of Science and Healing」のEditorial Boardを見ると、ラディン氏は、二人いる共同編集長(Coeditors-in-Chief)のうちの一人なので、この雑誌には、こうしたジャンク・ペーパーが今後も掲載され続けることが予想される。
ジャンクペーパーが引用するジャンクペーパー
この論文では、人間の意識によって水のさまざまな性質が変化することを示唆するその他の研究として、15報以上の文献を引用している。しかし、どれもこの世界とは別のファンタジー・ワールドで行われたようなトンデモ実験報告であり、信ぴょう性に欠ける。
この論文の引用文献2〜10は、「人間の意識の効果が施された水」が植物の発芽と成長におよぼす影響に関するものであり、こうした実験は大麦、小麦、ライ麦、豆、クレス(カラシナ類の植物)、ラディッシュ(ハツカダイコン)、レタス等に対して行われているらしい。引用文献のタイトルを見てみると、文献2〜4はサイコキネシス(PK)の植物の成長への影響を調べているようだ。文献5は、ヒマラヤGarhwalのシャーマンの超能力についての予備試験、文献8は単純な植物モデルを使用した研究室におけるヒーリング効果のデモンストレーション、文献9はなんと「聖水」がラディッシュの成長におよぼす効果である。文献11は、サイコキネシスの水の冷却速度に対する影響、文献12〜16は赤外スペクトルで観測した分子結合の変化で、このうち文献12はセラピューティック療法家の手のひら近傍の水について、文献13も信仰治療者の手当ての効果(Laying-On-Of-Hands)について、文献14〜16はヒーリング効果についてである。文献17はYan Xin博士(誰?)の気の効果(ラマンスペクトルを測定)であり、文献18はレーザー散乱光、文献19はpHへの効果についてである。
赤外吸収・ラマンスペクトルやpH実験は、不純物や分光器のノイズを見ているだけだろう。こういうジャンクペーパーを超心理学の権威であるラディンが引用しているわけで、超心理学界で行われている研究を安易に信用してはいけないということがわかる。
Journal of Scientific Explorationの論文
ディーン・ラディン博士のブログ「Water crystal replication study」(Friday, January 09, 2009)によると、「水の結晶化に遠隔意志が与える効果:3重盲検による再現」(文献34)というタイトルの論文が発表された。
この論文のpdfファイルをラディン氏のサイトからダウンロードできる。
今回はオーストリアとドイツにおいて1900人が3日にわたって実験に参加した。今回もターゲットとなったのはカルフォルニアの電磁シールドされた部屋の中に置かれた水のサンプルだった。今回は、祈りを受ける水とそうでない水だけではなく、祈りのターゲットとなる水の置かれた机の下に隠した水についても、比較検討している。サンプルの水の結晶は写真に撮られ、2500人によりその美しさが審査された。(こうした実験の参加者はどこで募集しているのだろう?) その結果はp = 0.03(one-tailed)と統計的に有意であり、以前に行われた2重盲検の実験を再現した、とのこと。
「謎解き超常現象 2」(ASIOS、彩図社 、2010/4/16)にも書いたが、結論から言うと再現に成功などしていない。
またもや、それほど美しい結晶はできなかったようで、平均点は以前の結果よりも低くなってしまっている。祈りを受けた水の平均点は6点満点中1.8点で、机の下に隠した水の1.6点よりは高いが、祈りを受けていない水の1.9点よりも低くなってしまっている。ただし、点数が1よりも大きなもののみを比較すると、祈りを受けたものが少しだけ他のものよりもいい点数になる。
いずれにせよ、6点満点で平均点が2点以下というのは惨憺たる結果で、本来は統計云々以前に「きれいな結晶などなかった」と結論してもいいのではないだろうか?
また、この論文では写真の白黒のコントラストについても比較している。なんでも結晶ができている場合のほうがコントラストは上がるそうで、この結果は祈りを受けた水が一番大きな値となっている。
しかし、これでは有意な結果になるように後付けの条件で恣意的に検証したという印象をぬぐうことができない。つまり、実験結果が芳しくなかったので、あとからルール変更して(1点以上のものやコントラストを比較してみるといった以前にはなかった条件を後付けして)、有意性があるように実験結果の解釈を変えたと見ることができる。
それなのに、「統計的に有意である」という結論に達するということは、ラディンの統計的主張は信用に値しないということになる。どんな実験でもラディンにかかれば「統計的に有意」になるのではないだろうか?
言うまでもないことだが、この実験のデザインはバカバカしいと言えるレベルである。人間の意識が氷の形にどのように影響するかという問題以前に、そんな遠くからピンポイントに意識が届くのかという問題がある。常識的に考えてどちらもありえそうもないことであり、このような「ありえそうもないこと」を二重に重ねた実験を繰り返している限り、科学界からは相手にされないであろう。
それでも高くなる有意性
この実験では後付けの条件で恣意的に結果を解釈しても、p=0.03なので有意性の指標0.05を若干超える程度である。ところが、前回の論文(p=0.001)と合わせるとp=0.0004となり、偶然を超える有意性があるとラディンは主張している。つまり、超心理学ではこのような無意味な実験を重ね合わせて高い有意性を作り出していることがわかる。
石川幹人教授の評価
明治大学情報コミュニケーション学部教授石川幹人は自著「超心理学 封印された超常現象の科学」の中(p.334)で、江本氏の主張に対して、『「感謝の言葉」の効果を人間的なコミュニケーションの水準ではなく、物理化学的な水準に不当におとしめる「行きすぎた科学主義」とみることもできる』と批判的に評価している。
さらに、『あろうことか超心理学者のラディンは、江本らと共同実験を行なって「やや肯定的」な結果が得られたと、以下の論文に発表した』と、この論文を引用している。そして、『私が見るに、実験結果はむしろ確実な結晶化のちがいが得られなかったことを示している』と結論している。
なお、石川氏はラディンの著書「量子の宇宙でからみあう心たち 超能力研究最前線」の翻訳を行っており、2012年の新著「超心理学 封印された超常現象の科学」の中でも、ガンツフェルト実験等に関するラディンのデータを引用している。
ジェイムズ・ランディの100万ドルチャレンジと「水伝」
ジェイムズ・ランディ教育基金(JREF)の発行するオンラインニュースレター「SWIFT」の2003年5月23日の記事に江本氏の主張が取り上げられている。その中でランディは「その主張にJREFの100万ドルの賞金をかけてもいい。 もし江本氏がこの賞金を獲得したいなら、2重盲検法による試験に同意してもらうが、私の予想ではその結果は何も証明しない曖昧なものとなるであろう」と述べている。JREFの100万ドルの賞金とは超常現象の実在を証明したものに送られる賞金のことである。
「Masaru Emoto's Website」の日記「読者からの質問11」(2007年10月31日)によると、『ジェイムズ・ランディ教育財団と何か行なってみてはいかがですか?』という質問に対して江本氏は、数年前にJREFから連絡があったことを認めている。
しかし、返事はしなかったとのこと。なぜなら、『今の科学者の認めるような科学性を持った実験環境を作る事は、まず不可能だと思うから』。そして、自分たちの研究設備は、とても原始的な個人研究所なので、『まだまだ科学と言えるようなレベルでは有りません』と述べている。
そして最後に、『アート、あるいはファンタジーのレベルです。科学的な証明は、本物の科学者達によって、近い将来されるであろう事を願っています』といつものように矛盾した主張で締めくくっている。(参考文献32、33)
毎日新聞「理系白書’07」の記事
毎日新聞の「理系白書’07:第1部 科学と非科学」の1回目と2回目に「波動」や「水伝」が取り上げられたので紹介しておく。
「万能うたう「波動」」 (2007年1月31日 東京朝刊)
この記事では科学用語が勝手に転用されているとして批判している。原子や電子などと言った微粒子の物理現象を記述する量子力学には、「波動関数」という科学用語が登場するが、「波動ビジネス」関係者は、この「波動」という言葉を別の意味で使う。典型的なまぎらわしい説明の例として「原子や素粒子は微弱ながら絶えず振動している。この振動が波動で、すべての物質や世の中の現象は、この波動が根源となっている」というものを紹介している。
また、「波動ビジネス」に注意を呼びかけるホームページ「波動注意報」を05年秋に開設した、久保内圭一氏(仮名)を紹介している。久保内氏は以前、知り合いから「よい波動が込められた塩の販売」を持ちかけられたことがある。「この塩を身につけるだけで病気にならず、地震が起きても被害にあわない」とのことだった。「おかしい」と直感して断ったが、久保内氏の祖母はこの知人から「波動効果」を謳う化粧品を購入してしまったそうだ。現在では「波動ビジネス」に注意を呼びかけたり、教育現場や公共機関で「波動」が利用された場合には、注意を促すメールを送る活動を行っている。試験管にご飯を詰め、「ありがとう」「ばかやろう」と声をかけたらどうなるか観察する「実験」も実際にやってみたらしい。「ご飯は腐ったり発酵したりしたが、かけた言葉には無関係だった。ばかばかしいでしょう。彼らの主張はその程度です」とのこと。
「教室にニセ科学」 (2007年2月7日 東京朝刊)
こちらの記事では、「水伝」が初等教育の道徳の授業に利用されていることを問題視している。学校現場にはTOSS(教育技術法則化運動)という教師サークルが紹介したことがきっかけで広まった。「感動した」とテレビで発言する芸能人も現れ、01年3月の参議院文教科学委員会では、松あきら議員(公明)が肯定的に引用したらしい。なお現在では「水伝」関連の教材資料はTOSSのホームページからは削除されている。
また、学習院大学理学部の田崎晴明教授(理論物理学)の「水伝」を題材にした授業を紹介している。文系学部の1、2年生が多い「現代科学」で「じゃあ『shine』と書いた紙を張ったら、どうなるか」と問いかけたらしい。「『シャイン(輝く)』とも『死ね』とも読める。ちょっと考えてみれば、おかしいと分かる。こんな話を信じてはだめです」とのこと。「どんな言葉がよく、どんな言葉が悪いかは人間が一生懸命考えるべき心の問題であり、科学を装って水に教えてもらう話ではない」というのが田崎教授の言葉。
校長が教える仰天科学
2008年10月8日放送のミヤネ屋で、「校長達が教える仰天科学“水は言葉がわかる”の波紋」として「水伝」が取り上げられ、ネット上でも話題になっている。(文献30,31)
同年7月に埼玉県内のある小学校の校長が、児童の家庭に配る「学校便り」で、「水伝」を根拠に言葉の大切さを教えようとしたことがまず紹介された。さらに、番組スタッフがネット検索してみると、全国のあちこちの小学校の道徳の授業や朝会で「水伝」が引用されていることがわかった。
これに対し、大阪大学の菊池誠教授や法政大学の左巻健男教授といったお決まりのメンツが「水は言葉の影響は受けないし、科学的根拠はない」と否定的な見解を述べている。さらに石川県の「中谷宇吉郎 雪の科学館」において行われた雪の結晶の制作実験が紹介された。同じ水道水でも温度などの条件を変えることにより、樹枝状や板状の結晶ができる。世界で初めて人工的に雪の結晶を作る実験に成功したのは、石川県出身で北海道大学教授の中谷宇吉郎だったことが紹介されている。
ところが同年7月、関東地区公立小・中学校女性校長会の総会において、100人以上の校長先生の前で江本勝氏が講演を行っている。さらに、「水伝」に関する絵本7000冊が小学校に無料で配られたとのこと。どういうわけか、この校長会の代表はミヤネ屋の取材を拒否し、さらに自治体の教育委員会も取材に応じなかった。江本氏も取材を辞退している。
愛知県小牧市教育委員会の福島孝教育委員長の意見は「子供たちに正しい言葉づかいや正しい物事への対応を教えたいという熱意の先生だと思う。ただし、その目的があればどんな手段でもいいのか。どうしてこんなデタラメな話を先生はするんだろう?と思いながら1時間我慢して聞いている子供にとっても、これは不幸なこと」といったものだった。文部科学省の見解は「現実と寓話を区別して教えるのが望ましい」とのこと。番組のコメンテーター(森本敏拓殖大学教授)は「学校の先生の再教育が必要」との意見だった。
これに対し、江本氏は自身のブログの「日テレが「水からの伝言」の批判番組を放映しました。」(10月10日(金))で、つぎのように述べている。
さてこれだけの批判を、公然として浴びせられたら、それに対しての反論は私としては支持者のためにもしなければならないところですが、感情に任せてそれをやると敵さんの思う壺となるところでしょうから、それは慎重にこれから進めてゆきたいと思い、今準備中です。しばらくお待ちください。
「水伝」と芸能人
「水伝」と芸能人を参照。
波動と波動測定器
波動と波動測定器については「波動」の項目を参照してください。
その他
- 「人間の持つ言葉や考え方が物質を変化させる?(日本研究)」 2014年02月08日、カラパイア
これまた懐かしい人の話題が、今になって海外サイトで報じられているのでちょっと取り上げてみた。日本では、水の波動については科学者から疑似科学と指摘を受けており、著書の多くは日本十進分類法で超心理学に分類されている。エセ科学として分類されているし、散々やり玉に挙がっており、本人も自覚しているので日本での評価はご存知の通りだが、これが今になって海外で拡散されている事実がちょっと興味深かった。
- 「毎日新聞のサイトが「純銀イオン水」や疑似科学「水からの伝言」紹介で炎上」 2013.01.30 11:30:27, ガジェット通信
- 『「水からの伝言」をめぐって』 天羽優子、菊池誠、田崎晴明、物理学会誌、2011年, vol.66, no.5, p.342-346
参考文献
- 水への愛と感謝プロジェクト 代表・江本勝からの緊急メッセージ 2005年10月25日
- 「水の総括水質指標の開発」田口哲也、雪氷58巻6号(1996)510-515
- 「氷の中に現れた虹色の世界 レインボー・リズム・アイス」江本勝、石橋和也、佐藤誠哉、雪氷59巻2号(1997)133-134
- 「Review What the #$*! Do They Know? 」 Reviewed by Eric Scerri, Skeptical Inquirer、2004年9,10月号p.56
- 「トンデモ超常現象99の真相」 と学会 洋泉社(p.249)
- 「イグ・ノーベル賞 大真面目で奇妙キテレツな研究に拍手!」 マーク・エイブラハムズ、阪急コミュニケーションズ
- 「Double-Blind Test of the Effects of Distant Intention on Water Crystal Formation 」 Dean Radin, Gail Hayssen, Masaru Emoto, Takashige Kizu, Explore: The Journal of Science and Healing, Volume 2, Issue 5, Pages 408-411 (September 2006)、ラディン博士のサイトからpdfファイルをダウンロードできる。
- IONS研究所:The Institute of Noetic Sciences (IONS)
- Dean Radin博士のブログ「Entangled Minds Dean Radin's blog」
- Dean Radin博士のHP「DeanRadin.com」
- 英語版ウィキペディアのDean Radinの項目
- 英語版ウィキペディアのInstitute of Noetic Sciencesの項目
- 英語版ウィキペディアのMasaru Emotoの項目
- 英語版ウィキペディアのWhat the Bleep Do We Know!?の項目
- 「Cult Science: Dressing up mysticism as quantum physics」 By Gregory Mone, Popular Science, October 2004. Retrieved on 2006-11-29.
- 「Chiropractic Crackup, Talking to Water, Sylvia Emerges!, Bidlack's Lumps, An MS Miracle, and a Korean Magic Stone... 」SWIFT, May 23, 2003
- 「『水からの伝言』が教えてくれないもの」菊池誠、「論座」2007年2月号、p.186-191
- 「水に伝言 ぬかに釘」
- kikulogの「倖田來未キンスマ事件(^^;」
- 「水はなんにも知らないよ」 左巻健男著、ディスカヴァー・トゥエンティワン
- オノ・ヨーコからのクリスマス・メッセージ 2004『私たちはみんな水である』
- 別冊宝島334「トンデモさんの大逆襲―科学信仰の呪いをぶっ飛ばす,世紀末維新の志士たち」、p.40-52 「波動汚染」、福本博文
- 株式会社「I.H.M.」の「波動カウンセリングの実際」のページと波動医科学総合研究所のサイトを参照。
- 「「水の記憶」という現象 〜科学と霊性の統合を目指して〜」 意識科学研究会報告発表論文、(株)I.H.M. 波動科学技術研究部門、根本 泰行
- 「Teaching physics mysteries versus pseudoscience」 Fred Kuttner and Bruce Rosenblumm, Physics Today, November 2006, page 14,
- 「Masaru Emoto`s Wonderful World of Water」 by H. Hall, Skeptical Inquirer, Vol.31, No.6, p.49 (2007)
- 『「引きこもり倖田来未」羊水腐る発言のネタ本』 週刊文春2月21日号、p.150-151、2008. 2. 21
- 「危険!羊水はシャンプーの香り!」 ニューウエイズ*解体新書
- 「特定商取引法違反の連鎖販売業者に対する業務停止命令について」(pdfファイル) 平成20年2月20日 経済産業省
- 「『水からの伝言』問題がテレビに登場」 ココログニュース - 2008.10.16 17:00
- 「ミヤネ屋でニセ科学「水からの伝言」問題」 痛いテレビ 2008/10/09
- 「江本勝はランディの100万ドルチャレンジに挑戦せよ」 Skepticism is beautiful 、2008-10-21
- 「江本勝はランディの100万ドルチャレンジから逃げていた」 Skepticism is beautiful 、2008-10-23
- 「Effects of distant intention on water crystal formation: A triple-blind replication」 Radin, D., Lund, N., Emoto, M., Kizu, T., Journal of Scientific Exploration, 22(4), 481-493 (2008)、ラディン氏のサイトからpdfファイルをダウンロードできる。