政府・関係機関の対応 5 (東日本大震災)
東日本大震災・デマ・風評被害・陰謀論
ここでは、2011年11月ぐらいから2012年2月初旬ぐらいまでの記事を集めています。
「餅屋」はどこにいる
- 「3・11後のサイエンス:「餅屋」はどこにいる=青野由利」 毎日新聞 2012年1月24日 東京朝刊
専門外のことには口を出さない。多くの科学者の「正しい」態度である。原発事故がこの「正しさ」を覆した。
「餅は餅屋だと思っていたのに、なかなか餅屋が出てこなくて」。そう笑うのは東大理学部の早野龍五教授だ。本職は反物質を使った素粒子研究。スイスの欧州合同原子核研究所(CERN)で国際チームを率いる。放射線測定はともかく、被ばくについては素人同然だった。それが震災で一転した。
「ツイッターで放射線の状況をつぶやくうちに、子どもの食べ物への不安が大きいことがわかった」。そこで、給食を丸ごと測定する方法を提案し政府にも働きかけた。抵抗にもあったが、自主的に行う自治体が相次いだ。福島県南相馬市でも測定にこぎ着けたところだ。
その活動を見て、南相馬市立総合病院に応援に通う東大医科研の内科医、坪倉正治さんが相談を持ちかけた。福島第1原発から23キロ。病院は住民のために早く内部被ばくを測りたいと、国内外のホールボディーカウンター(WBC)を苦労して3台入手した。ところが、古い測定器のデータがおかしい。
早野さんが調べるうちに他の施設のWBCにも問題があることが次々わかった。各メーカーと議論しデータの補正にも協力する。「僕ほどいろんなメーカーのデータを並べてみた人はいないでしょう」と、もはやプロだ。
餅屋の存在感は薄い。だが、一人一人が何も考えなかったかどうかはわからない。組織の論理が科学者個人の活動を封じ込めるケースは原発事故後に散見される。日本気象学会が放射性物質の拡散予測の公表自粛を研究者に求めたのは有名な話だ。
早野さん自身、大学本部から黙れと言われたが黙らなかった。坪倉さんも障害やあつれきを体験したが「僕は大学院生。失うものはない」と前向きだ。
議事録作成せず
- 「原発事故に動揺しながらも被害を過小に認識(原子力安全・保安院)」 ScanNetSecurity, 2012年3月9日(金) 16時28分
- 「議事録に発言者明記…行政文書の管理指針改定へ」 (2012年4月3日09時54分 読売新聞)
政府は、政策決定過程の透明性を高めるため、政府組織が開く会議の議事録や議事概要に原則として発言者名を明記させる方針を固めた。
政府関係者が2日明らかにした。4月中にも「行政文書の管理に関するガイドライン(指針)」を改定し、各府省に新指針の順守を指示する。これに併せ、公文書管理を所管する内閣府が政府内での議事録や議事概要の作成状況を随時点検し、管理を厳格化する。
指針の見直しと文書管理の厳格化は、東日本大震災関連の10組織が議事録を作成せず、政府内の公文書管理の意識の低さが問題となったことの再発防止策として講じる。有識者でつくる内閣府公文書管理委員会(委員長・御厨貴放送大教授)が月内をメドにまとめる提言にも、同様の内容が盛り込まれる見通しだ。
- 「テレビ会議の録画が存在=菅前首相の演説も−国会事故調に開示・東電」 時事ドットコム, 2012/03/14-20:21
東京電力福島第1原発事故で、東電は14日、事故当日の昨年3月11日以降、本社と福島第1、第2原発を結ぶテレビ会議システムでのやりとりを録画した映像があることを明らかにした。同社は国会の事故調査委員会の要請を受け、委員に一部を見せたが、「社内資料なので一般への公開はしない」としている。
東電によると、映像は昨年3月11日以降、福島第2原発で録画されたものと、同12日以降、本社で録画されたものがある。録画は断続的で、音声がないものもあるという。同15日早朝に菅直人首相(当時)が本社に乗り込み、第1原発からの撤退を認めないとした映像も残っていたが、音声は記録されていなかった。
東電の松本純一原子力・立地本部長代理は14日の記者会見で、「自動的な録画機能はなく、組織的に録画を残していたわけでもない」と説明。いつまで録画をしていたかも不明とした。
- 「議事概要公表:玄葉氏「これは戦争だ」3月17日対策会議」 毎日新聞 2012年3月10日 1時28分
「これは戦争だ」。9日に公表された原子力災害対策本部の議事概要では、福島第1原発での水素爆発後、玄葉光一郎国家戦略担当相(当時)が悲壮な決意を述べる場面もあった。
対策本部では事故発生当日の第1回会議(昨年3月11日)以降、繰り返し炉心溶融(メルトダウン)への言及があり、実際に3基で炉心溶融が発生、昨年3月12〜15日にかけて1、3、4号機の原子炉建屋で水素爆発が起きた。玄葉氏の発言は、最後に発生した4号機の爆発から2日後の同17日夕の第10回会議でだった。玄葉氏は「既に局地戦では負けているが、これから先、いかに負けを少なくするかだ」と述べ、最悪の事態を想定して住民を避難させるよう主張した。
一方、当初から炉心溶融が指摘されていたことについて枝野幸男経済産業相は9日夕、記者団に対し「当時そのことを伝えられなかったのか、いろいろな評価があるだろう」と述べた。
枝野氏は炉心溶融の指摘が「誰の発言か記憶がない」と繰り返し、理由について「直接、住民の健康に影響する放射線量のことにかなり私の関心は集まっていた」と説明した。
事故当初、官邸内の指揮系統や東電との連絡の混乱も描かれている。昨年3月15日午後に開かれた第8回会議では、消防庁を所管する片山善博総務相(当時)が「実務オペレーションの統率がとれていない」と発言。菅直人首相(同)は「(海江田万里)経産相と細野(豪志)補佐官を(東電に)張り付けている。しかしやりとりの歯車がうまく回っていない」と釈明していた。【和田憲二、西川拓】
- 「マスコミが求めたから…議事録未作成、低い意識」 2012年3月1日07時38分 読売新聞
内閣府公文書管理委員会(委員長・御厨貴東大教授)は29日、東日本大震災に関連する10組織の会議で議事録が未作成だった問題について、10組織の担当者への調査結果を公表した。
いずれも災害対応に忙殺されていたことなどを理由に挙げ、記録作成への意識の低さが改めて浮き彫りになった。
調査は、担当者への聞き取りや、文書回答を求める形で行われた。
議事録、議事概要のいずれも未作成だった原子力災害対策本部は、事務局を務める経済産業省原子力安全・保安院の担当者らが「震災発生当初は、緊迫した状況の中で多忙を極めており、議事録・議事概要に対する認識が不十分だった」などと釈明した。さらに、内閣官房が事務局を担っていると誤解していたことも明らかにした。
議事録、議事概要を作らなかった他の2組織は、「議事録や議事概要は公文書管理法上、作成義務が課せられていない」(緊急災害対策本部)、「決定や了解を行う会議ではない。議事録や議事概要は作成義務は課せられていない」(被災者生活支援チーム)と強調した。
政府は、これら3組織に加え、議事概要が不十分だった政府・東京電力統合対策室、電力需給に関する検討会合に対し、議事概要を作り直させている。しかし、作り直しについて「マスコミが求めたから」(内閣府幹部)との声も出るなど、文書作成への政府の意識は依然として低いままとなっている。
「正しい歴史の記録を後世に残し、情報を共有し検証する」という意識が全く欠落している。こんなんでは全然話にならない。
- 「東日本大震災:議事録未作成 政治透明化どこへ 弁護士・小町谷育子氏の話」 毎日新聞 2012年2月4日 東京朝刊
中央省庁等改革基本法(98年施行)は有識者で構成される政府の審議会ですら「会議又は議事録は公開することを原則とし、運営の透明性を確保すること」と明記している。今回の原子力災害対策本部や政府・東電統合対策室は国家行政組織上に明記された機関ではないかもしれないが、法律がなければ、やらなくていいということにはならない。
そもそも議事録の公開の趣旨は、政府の説明責任にあり、重要政策の決定については、公文書管理法があろうとなかろうと、議事録や議事録に代わる何らかの方法で政策決定過程を明らかにしておくことが必要だ。法律の規定がなければやらない、あるいは記録しないことは違法でないという姿勢は問題だ。真に、市民のための政治をしようとする政党・政府であろうとするならば、のちにその政策決定過程をたどることができるように、記録を残しておくことが不可欠だ。
- 「原子力災害対策本部「議事録ナシ」は氷山の一角 国会事故調が挑む「政府による情報隠し」の壁」 現代ビジネス, 2012年02月01日(水) 磯山 友幸
- 「震災関連会議、10組織で議事録作らず」 2012年1月27日14時34分 読売新聞
政府は27日午前、東日本大震災に関連する10組織で会議の議事録が未作成だったとする調査結果を発表した。
このうち、首相が本部長を務める原子力災害対策本部、緊急災害対策本部、防災相がトップの被災者生活支援チームの3組織では議事概要さえなく、2組織は議事概要の一部を作成していただけだった。
民主党政権のずさんな対応は、震災対応を検証するうえで支障となる。野田首相は同日の国会で陳謝した。
調査結果は岡田副総理(公文書管理担当)が同日の閣議後の閣僚懇談会で説明した。調査対象は当初8組織とする予定だったが、最終的に15組織に拡大した。このうち、議事録、議事概要の双方を作成し、公文書管理に問題がなかったのは、原子力被災者生活支援チームなど4組織しかなかった。復興対策本部は議事録のみ作成していた。
議事概要さえ残していない原子力災害、緊急災害対策の両本部、被災者生活支援チームは、震災と原子力発電所事故対応の中核的な組織。原子力災害対策本部の事務局を担当する原子力安全・保安院は、未作成の理由に緊急事態だったことを挙げている。昨年4月に当時の滝野欣弥官房副長官(事務)は、各府省連絡会議で「震災関連の資料保存に留意をしてほしい」と各府省に指示していたが、守られなかった形だ。
- 「原発事故対応、議事録なし 政府対策本部、認識後も放置」 asahi.com, 2012年1月25日3時7分
枝野幸男経済産業相は24日、東京電力福島第一原発事故後につくられた政府の原子力災害対策本部が、これまでの議論を議事録として残していなかったことを明らかにした。経産省は事故後の混乱で手が回らなかったとしているが、事故対応を決める重要会議で何が話し合われたか検証できなくなるおそれがある。
枝野氏は官房長官だった昨年5月11日の記者会見で「危機対応なので議事録をとるような場がほとんどなかった」との認識を示していた。ただ、その後も議事録は作成されないまま、昨年11月にNHKが情報公開請求した後、年明けになって再び問題化した。
対策本部の事務局を務める経産省原子力安全・保安院は23日の会見で、「まだ議事録は作成していない。緊急事態では事後的に作成が認められており、会議の内容や決定は記者会見を通じて説明している」と弁明していた。しかし、枝野氏は24日の閣議後の記者会見で「事故発生後の緊急事態とはいえ、(手続きが)整えられていなかったことをおわびする」と話した。
- 「なぜ原子力災害対策本部の議事録がないのか」 藤田正美,Business Media 誠, 2012年01月23日 08時00分
- 「官房長官 原発議事録の作成を」 NHKニュース、1月23日 13時43分
藤村官房長官は午前の記者会見で、東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡って、政府の「原子力災害対策本部」の議事録が作成されていなかったことについて、「去年3月にさかのぼってどういうふうにやれるのか、追求しなければならない」と述べ、議事録を作成したいという意向を示しました。
原子力災害対策本部は、総理大臣を本部長に全閣僚がメンバーとなっており、原発事故当日の去年3月11日に設けられ、避難区域や除染の基本方針など重要な決定を行ってきましたが、議事録が作成されていなかったことが分かっています。これについて藤村官房長官は、午前の記者会見で、「今、原子力災害対策本部を中心に、担当する内閣府や原子力安全・保安院などで、どういうことになっているのか検討している段階だ。まだ確たるものは分かっていない」と述べ、当時の状況について政府として調査を進めていることを明らかにしました。そのうえで藤村長官は、「基本的には、公文書管理法に基づいてやるべきことだと思うので、去年3月にさかのぼってどういうふうにやれるのか、きちんと追求しなければならない」と述べ、議事録を作成したいという意向を示しました。
- 「政府の原災本部 議事録を作らず」 NHKニュース、1月22日 17時44分
東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡って、避難区域や除染の方針など重要な決定を行ってきた政府の「原子力災害対策本部」の議事録が作成されていなかったことが分かりました。専門家は「将来同じ失敗を繰り返さないようにするための財産が失われたという意味で、国民的な損失だと思う」と指摘しています。
政府の原子力災害対策本部は、総理大臣を本部長とし、経済産業大臣をはじめ全閣僚をメンバーとするもので、原発事故当日の去年3月11日に設けられ、避難区域や除染の基本方針、農作物の出荷制限など原発事故を巡る重要な決定を行ってきました。NHKで、去年11月、それまでに開かれた21回の会議について「議事録や内容をまとめた資料など」の情報公開請求を行ったところ、公開されたのは、議題を記した1回の会議について1ページの「議事次第」だけで、議論の中身を記した議事録は作成されていなかったことが分かりました。NHKの取材に対し、原子力災害対策本部の事務局を務めている原子力安全・保安院の担当者は「業務が忙しく議事録を作成できなかった」と説明しています。公文書管理法は、国民への説明義務を果たすとともに政府の意志決定の過程を検証できるようにするため重要な会議の記録を残すよう定めており、公文書の管理を担当する内閣府は、原子力安全・保安院の担当者から聞き取りを行うなど経緯を調べています。原発事故への対応を巡っては、東京電力と政府が合同で事故対応を検討した「事故対策統合本部」でも主要な会議の議事録が作成されていなかったことが分かっており、内閣府は、この経緯についても調べています。
公文書の管理や情報公開制度に詳しい名古屋大学大学院の春名幹男特任教授は「政府の重要な立場にあった人たちは、記録を残さないと責任を果たしたことにはならない。今回は、自分たちの失策がそのまま記録されると困るので、あえて記録を残さなかったと思われてもしかたない。将来同じ失敗を繰り返さないようにするための財産が失われたという意味で、国民的な損失だと思う」と指摘しています。
「溶けた核燃料・水面見えず…格納容器に内視鏡」
2012年1月19日20時40分 読売新聞
東京電力は19日、福島第一原子力発電所2号機の原子炉格納容器内に事故後初めて工業用内視鏡を入れ、撮影した。
東電は容器の底に深さ約4・5メートルの水がたまっていると推定していたが、底から4メートルの位置にも水面は見えなかった。
容器内は湿度が高く水滴が降っており、画像は不鮮明。強い放射線の影響で白い斑点が多数写っている。配管などの損傷は目立たないが、容器内壁の塗装がはがれ、事故で高温になった影響とみられるという。東電の松本純一・原子力立地本部長代理は「水の深さが予測と違った原因は、今後詳しく検討したい」と話している。
「原発運転、最長60年 「原則40年」に例外規定」
asahi.com, 2012年1月17日18時31分
原子力の新たな安全規制体制を検討している内閣官房の準備室の荻野徹副室長は17日会見し、原発の運転期間を原則として40年に制限する原子炉等規制法の見直しについて、例外的に認められる延長の期間は最長20年までとする方針を明らかにした。同法案が通常国会で成立すれば、原発は最長60年で廃炉になる。
原発の運転期間については、細野豪志原発相が6日の会見で「原則40年」とする一方、例外的に延長の可能性を残したことについて「40年以上の運転はきわめてハードルが高くなった。認められるのは極めて例外的なケース」と述べていた。地元自治体には、この発言と今回の発表との整合性を疑う見方がある。細野氏は現在、海外訪問中だ。
荻野副室長によると、原子力事業者が延長を希望する場合は、環境省の外局として4月に発足する原子力安全庁(仮称)に申請する。申請は1回限りで、安全庁が施設の老朽化や事業者の技術能力を審査する。基準を満たしたと判断すれば延長を認める。「40年運転、20年延長」は米国など世界の潮流を参考にしたという。
「除染中に作業員死亡=2人目、放射線影響せず−福島」
時事ドットコム、2012/01/17-18:36
日本原子力研究開発機構福島技術本部などは17日、福島県広野町周辺で実施している除染モデル事業で働いていた男性(59)が同日の作業中に死亡したと発表した。放射線被ばくが影響した可能性は極めて低いという。同機構の除染事業での死亡は2人目。
同機構などによると、この日は7人のグループで午前9時から作業を開始。男性はしゃがみ込みながら土を掘り起こし、表土を除去する作業をしていた。午前11時55分ごろ、倒れているところを同僚が発見し、病院で死亡が確認された
パニック
- 「原発事故直後、首都圏避難も想定…原子力委」 2011年12月31日15時20分 読売新聞
内閣府原子力委員会が今年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故の発生直後に、「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」と題した報告書をまとめ、同事故発生から2週間後の3月25日に当時の菅首相に提出していたことが分かった。
報告書によると、同原発で新たな水素爆発などが起こり最悪の事態に発展した場合には、〈1〉同原発から半径170キロ・メートル圏内で強制移住〈2〉同250キロ・メートル圏内で避難―――の必要があると指摘。170キロ・メートル圏内には南東北や新潟県の一部、北関東の一部が、250キロ・メートル圏内には東京都や埼玉県の大半、横浜市の一部がそれぞれ含まれる。
政府は、同報告書を踏まえ、最も核燃料の溶融が懸念された4号機について耐震補強工事を施すなどし、こうした事態は回避された。政府関係者は、「最悪の事態が起きても避難する時間的余裕はあり、パニックを防ぐため報告書は公表しなかった」としている。
「パニックを防ぐため報告書は公表しなかった」とのことだが、パニックについては以下のリンクも参照。
- 「流言・デマによるパニックを心配して情報を伏せている方々へ」 静岡大学防災総合センター教授 小山真人
ただし、イタリアの豪華客船座礁事故ではパニックが起こったようなので、まったく起こらないというわけでもないのかもしれない。
- 「伊客船座礁:「いい年した男性が我先に」脱出の模様証言」 毎日新聞 2012年1月17日 10時16分(最終更新 1月17日 15時48分)
【フィウミチーノ(イタリア中部)藤原章生】「子どもが泣いているのに、いい年した男性たちが我先にとはしごに群がった」−−。地中海のイタリア中部ジリオ島の沖合で13日夜に座礁した豪華客船コスタ・コンコルディア(乗客乗員約4200人)に乗り合わせ助かった韓国の中学校女性英語教諭、康鎮珠(カン・ジンジュ)さん(47)が16日、ローマ近郊のホテルで毎日新聞に脱出までの模様を語った。
康さんは娘(10)と妹夫婦とその3人の男児ら(14〜9歳)計7人で、11日夜にローマ入りした。初の海外旅行で、1週間ほど地中海クルーズを楽しむつもりだった。
13日午後2時ごろ、ローマ北西にあるチビタベッキア港から「コスタ号」に乗船し、遅い昼食を済ますと時差ぼけと疲れから3階にあるキャビン(個室)2室にこもった。娘と妹と一緒にお祈りをして寝ようとした午後9時42分、「ドーン」という衝撃で床に投げ飛ばされた。はって廊下(長さ約50メートル、幅約5メートル)に出るとすでに数百人の乗客が慌てふためいていた。直後に停電した。康さんは闇の中、服や靴、携帯電話を取りに戻れず、妹の夫と男児ら3人ともはぐれた。
「大声で泣き叫ぶ人がたくさんいてパニック状態だった。何を聞いても乗員は笑いながら『ノー・プロブレム(問題ない)』というだけで誘導もなかった。次第に船が傾きだし、英語、中国語、日本語などでの放送があったが、女性たちの泣き声でまったく聞き取れなかった。男性も含め西洋人がこんなに取り乱すとは思わなかった」
午後11時、救命ボートに「50人だけ乗れる」と言われたが、3階客室脇のボートに大勢が群がり、結局、脱出は取りやめとなった。その後、乗客約200人が2階上のデッキに上るはしごに殺到した。
「『女性と子どもが先だ!』と若い男性が叫んでも、何人もの老年男性が我先に登ろうとし若い男性に引きずり下ろされ、激しいけんかになった」
沿岸警備隊によると、座礁約1時間後の10時半の時点で船の傾きは20度だったが、深夜を回るころには80度になった。康さんは「娘を引っ張り上げ3時間かけてようやくデッキに上がったが、傾きがひどく海に滑り落ちそうになり、ロープにぶら下がり救援を待った」と語った。沿岸警備隊の船で救出され、ジリオ島に上陸できたのは座礁から5時間40分後の午前3時20分だった。
業務上過失致死容疑で逮捕されたスケッティーノ船長が脱出したのはその3時間40分も前だった。
結局、妹家族も含め全員無事だったが、康さんは「乗員が経験の浅い若者ばかりで頼りにならなかった。学校の英語の授業で何度もみた映画『タイタニック』を思い出し、怖くてたまらなかった」と話した。
さらに次のような研究も
- 「難破船上の騎士道はあくまで「幻想」、スウェーデン研究」 AFPBB News, 2012年04月17日 13:56 発信地:ストックホルム/スウェーデン
【4月17日 AFP】大海原にゆっくりと沈む巨大な船の上で、女性と子供を優先して救命ボートに乗せ、海の中へと飲まれていく運命を受け入れる男たち――しかしこの「海上の騎士道」、実はまったくの「幻想」だったという研究結果をスウェーデンの学者2人が発表した。
18件の事故全体で男女の生存率が同程度だったのは数件。うち女性が多く生き残った例となると、わずか2件だけだった。
例外とも言えるその2件のうちのひとつが、タイタニック号だ。タイタニック号では女性の70%が生き残ったのに対し、男性の生存率は20%だった。
もうひとつの例は、1852年に南アフリカのケープタウン(Cape Town)近くの港から出港し、直後に沈没した英軍輸送艦バーケンヘッド(Birkenhead)号で、この事故では女性は全員助かったが、男性の生存率は33.5%にとどまった。エリクソン氏によると「海の騎士道」幻想はこのバーケンヘッド号に由来しているという。
タイタニック号の場合もバーケンヘッド号の場合も、まず船長が女性と子供を先に救命ボートに乗せるように命令していた。さらに注目すべきはどちらの事故でも船員たちが武装し、男性たちを脅して救命ボートに近寄らせなかったという点だ。
大惨事の際に英雄的な行動をとる人々の例はたくさんあるが、大半の場合は生存本能が働き、「誰もがわれ先に」と逃げることが今回の研究で示されたとエリクソン氏は語った。(c)AFP
この記事のネタ元は以下の文献のようだ。
- 「Every man for himself Gender, Norms and Survival in Maritime Disasters」 Department of Economics, Working Paper 2012:8, Mikael Elinder and Oscar Erixson
日本政府の科学技術政策軽視
- 「【 2012年1月5日 総合科学技術会議が法律上存在しない事態に 】」 サイエンスポータル編集ニュース
総合科学技術会議が、6日から法律上存在しないという事態に陥る。昨年12月の臨時国会で国会の同意人事が得られず、有識者議員7人のうち3人が空席になることから、内閣府設置法で定める総合科学技術会議の要件を満たせなくなったためだ。
あらゆる意見具申や決定などが行えなくなるほか、総合科学技術会議の下に設けられた専門調査会も当然、存在しなくなる。古川科学技術政策担当相は当面、専門調査会を懇談会として運営し、実質的な議論を進め、今通常国会での人事同意を目指す、としている。
民主党政権は1昨年6月に閣議決定した新成長戦略の中で、政策推進体制の抜本的体制強化のため総合科学技術会議を改組し、「科学・技術・イノベーション戦略本部(仮称)」を創設する」ことをうたっている。古川科学技術政策担当相は昨年10月「科学技術イノベーション政策推進のための有識者研究会」(吉川弘之座長)を設置、同研究会は12月19日、総合科学技術会議を、科学技術の振興からイノベーションの実現施策までを総合調整する権限と能力を持つ本格的な「司令塔」へ改組することなどを提言する報告書をまとめた。
「福島第1原発:政府の「事故収束」宣言波紋 被災地反発」
毎日新聞 2012年1月3日 11時24分
東京電力福島第1原発事故に関し、野田佳彦首相が昨年12月16日の記者会見で「発電所の事故そのものは収束に至った」と宣言したことに波紋が広がっている。「収束」宣言の背景には、昨年中に除染や避難区域見直しの方向性を示すことで、先が見えない状況に不安を抱く被災地の心情に配慮する狙いがあったが、福島県議会は27日、撤回を求める意見書を全会一致で可決。県内の自治体首長の反発も強く、逆効果となった形だ。【笈田直樹】
「福島原発事故:「日本は終わりかと考えた」陸自前司令官」
毎日新聞 2011年12月31日 9時37分(最終更新 12月31日 10時21分)
東日本大震災で、東京電力福島第1原発事故の対応を指揮した陸上自衛隊中央即応集団の宮島俊信・前司令官(58)が、毎日新聞の単独インタビューに応じた。深刻さを増す原発、見えない放射線の恐怖の中で、「最悪の事態を想定し、避難区域を原発から100〜200キロに広げるシミュレーションを重ねた。状況によっては関東も汚染されるので、日本は終わりかと考えたこともあった」と緊迫した状況を明かした。
自衛隊が警察や消防などの関係機関を指揮下に置いて任務に当たったのは自衛隊史上初めて。しかし、自衛隊に暴走する原子炉を止める能力はない。宮島さんは「ヘリコプターによる原発への放水は、本格的な冷却装置ができるまでの時間稼ぎにすぎなかった。高濃度の放射能などへの不安はあったが、我々がここまでしなくてはいけなくなったというのは、かなり危険性があるという裏返しだった」と語る。
その上で、「危険に立ち向かってでも事故を抑えるんだという日本の本気度を示す一つの手段だったと思う。あれが大きな転換点となり、米国を中心に各国の積極的な支援につながった。自国が命を賭してやろうとしなければ、他国は助けてくれない」と話した。
〈リスク社会に生きる・プロローグ〉 asahi.com
- 「放射能が列島を裂く〈リスク社会に生きる・プロローグ〉」 2011年12月30日3時3分
- 「人の心と科学の距離〈リスク社会に生きる・プロローグ〉」 2011年12月30日19時51分
「本当は科学的な話ではあまりなかったんです」。国会も閉じた12月中旬、ひとけの少ない議員会館で、坂口力衆院議員(77)は何でもないふうに言った。
10年前。2001年9月、BSE(牛海綿状脳症)感染牛が国内で見つかった。感染牛が肉骨粉となって出回っていたことなどから、国への不信は高まった。
国会議員らが開いた「牛肉を大いに食べる会」で、当時厚生労働相だった坂口氏は、報道陣を前にすき焼きをほおばった。だが、「消費者をばかにしている」と反発は増す。対策の柱として踏み切ったのが、出荷前の牛を対象とした「全頭検査」だった。
やりすぎるくらいのことをやって信頼を取り戻す必要があった。導入の理由を坂口氏はそう説明する。「科学的な根拠と、人の心の動きは次元の違う話。それは放射能に対する思いだって同じでしょう」
だが、この時の対策には根強い批判もある。食品安全委員会でBSE対策を長く担当した吉川泰弘・北里大教授(65)は「実態とかけ離れた『安全神話』を広めた」と指弾する。
「ゼロリスクは本来ありえないのに、膨大なコストが投じられた。リスクとうまく付き合うすべを国民が考えなくなってしまった」
冷温停止宣言
- 「原発冷温停止:仏研究機関所長が批判 首相宣言「不正確」」 毎日新聞 2012年1月28日 12時43分
【パリ小倉孝保】フランス放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)のジャック・ルプサール所長は27日、パリの同研究所で一部の日本メディアとのインタビューに応じ、東京電力福島第1原発事故後の野田佳彦首相による「冷温停止状態」宣言(昨年12月16日)について、「政治的ジェスチャーであり、技術的には正しい表現ではない」と語った。
ルプサール所長は、「(野田首相は)日本人を安心させるため、重要な進捗(しんちょく)があったと伝えたかったのだろう」と述べたうえ、「正しい表現ではない。専門家はわかっている」とした。「冷温停止状態」と言えない理由について、原子炉が破壊されたままで通常の冷温装置も利用できていないことをあげ、「問題は残ったままだ」とした。
また、所長は除染作業について、「これまでにどの国も直面したことのないほど困難な作業」としながら、「除染のために必要な詳しい汚染地図がまだ作製されていない」と述べ、福島での除染作業が遅れているとの考えを示した。
さらに所長は、「(旧ソ連の)チェルノブイリ原発事故の教訓から、フランスは土壌の放射能汚染への対応の準備を完了していたが、日本は見習い作業中だったようだ」と語り、フランスならもっと早く除染を進めることができたとの考えを示した。
一方、所長は「困難な状況に直面しても日本なら新しい技術を開発するだろう」と語り、日本が技術力で状況を克服することに期待を示し、「日本の経験を他国の原発リスク管理に役立てるべきだ」と情報共有の必要性を強調した。
この研究所は、フランス政府が2001年、原発リスクの予測や、事故の場合の住民や原発労働者の保護などを目的に設立した研究者の組織。福島事故直後には日本に住むフランス人の保護などのため専門家を派遣した。
- 「「ステップ2完了」宣言 首相「事故収束」を強調」 2011年12月17日 福島民友ニュース
野田佳彦首相は16日、記者会見し、東京電力福島第1原発事故に関し「原子炉は冷温停止状態に達し、事故そのものが収束に至ったと確認された」と述べ、事故収束への工程表の「ステップ2」完了を宣言した。3月11日の地震と津波で原発の全電源が喪失、3基で燃料溶融が起きる未曽有の原子力事故発生から9カ月余り。首相は「不安を与えてきた大きな要因が解消される」と強調、事故対応の進展を内外に示すことを狙ったとみられる。
施設撤去に向けた道のりは長く、放射性物質の放出は微量ながら続いている。広範囲の除染や住民帰宅など重い課題が山積する中、住民からは収束宣言は早すぎると批判が出ている。
- 「原子力発電所が「冷温停止状態」になって事故は「収束」したのか?」 放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説, 田崎晴明(学習院大学理学部)
「年間20ミリシーベルト「発がんリスク低い」 政府見解」
asahi.com, 2011年12月15日21時22分
低い放射線量を長期間浴びた影響をめぐり、内閣府の有識者会議は15日、年間20ミリシーベルト(Sv)の放射線量を避難区域の設定基準としたことの妥当性を認める報告書をまとめた。そのうえで、線量を少なくするよう除染の努力を要請。子どもの生活環境の除染を優先することも提言した。
東京電力福島第一原発の事故後、避難基準の健康への影響を判断したのは初めて。細野豪志原発相は会議後、記者団に「20ミリシーベルトで人が住めるようになるということだ」と述べた。野田政権はこれを踏まえ、原発事故による避難区域を縮小する準備に入る。
この有識者会議は「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」(共同主査=長瀧重信・長崎大名誉教授、前川和彦・東大名誉教授)。発足からわずか1カ月余りで、報告書をとりまとめた。
避難区域の設定基準については、国際放射線防護委員会が原発事故による緊急時被曝(ひばく)を年間20〜100ミリシーベルトと定めていることから「安全性の観点からもっとも厳しい値を採用」と指摘。チェルノブイリ原発事故後1年間の被曝限度が100ミリシーベルトだったことを挙げ、「現時点でチェルノブイリ事故後の対応より厳格」と評価した。
年間20ミリシーベルトを被曝した場合の影響は、「健康リスクは他の発がん要因と比べても低い」と明記。「単純に比較することは必ずしも適切ではない」とことわりながら、「喫煙は(年間)1千〜2千ミリシーベルト、肥満は200〜500ミリシーベルト、野菜不足や受動喫煙は100〜200ミリシーベルトのリスクと同等」などといった目安を例示した。また、一度の被曝より長期間にわたって累積で同じ線量を浴びた方が「発がんリスクはより小さい」との考えを示した。
被曝によるリスクを減らすために、除染の目標として「2年間で年間10ミリシーベルト、次の段階で同5ミリシーベルト」と段階的な目標の設定も提言。一方、放射線の影響を受けやすいとされる子どもについては、「優先的に放射線防護のための措置をとることは適切」と要求。避難区域内の学校を再開する条件として、学校での被曝線量を年間1ミリシーベルト以下にするよう主張した。
福島県による新規借り上げ住宅募集の停止要請
- 「東日本大震災:借り上げ住宅 福島県が新規募集の停止要請」 毎日新聞 2011年12月2日 15時00分
東日本大震災被災者向けの「民間賃貸住宅借り上げ制度」を利用して多くの県民が他県に自主避難している福島県が、全国の都道府県に対し、今月末で同制度の新規受け入れを打ち切るよう要請していることが分かった。福島県災害対策本部によると、11月下旬に事務レベルで要請、近く文書で正式に連絡する。年度替わりの来春に自主避難を検討している人や支援者からは「門戸を閉ざすのか」と戸惑いの声が上がっている。
新規打ち切りの理由について、同対策本部県外避難者支援チームは(1)災害救助法に基づく緊急措置で、恒常的な施策でない(2)避難先の自治体から「期限について一定の目安が必要」と指摘があった(3)東京電力福島第1原発の「ステップ2」(冷温停止状態)が、政府の工程表通りに年内達成が見込まれる−−などと説明している。既に同制度で避難している人は引き続き入居できる。
同制度は、避難先の自治体が一定額までの借り上げ費用を肩代わりし、福島県を通じて国に請求、最終的に国が負担する仕組みだ。例えば山形県への避難者は最長2年間、自己負担なしで入居できる。
福島県は5月、同県全域を災害救助法の適用範囲と46都道府県に周知。これを機に、国が定めた避難区域外の県民も制度を利用し山形、新潟両県などへの自主避難が急増した。
福島市の自宅に夫を残して岩手県北上市に5歳の長男と自主避難している主婦、広岡菜摘さん(31)は「来春から夫と家族3人で一緒に暮らせるように福島県外の場所を探している。経済的な負担が既に相当あったので、新規受け入れがなくなると困る」と話す。
避難希望者のネットワークづくりに取り組む市民団体「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」代表の中手聖一さん(50)=福島市=は「小中高校生のいる家庭は来年3月の年度替わりで自主避難を検討している人が多い。除染で安心感が高まれば別だが、年内で避難する緊急性がなくなったとは言えない。県民が流出するのを防ぐのが狙いでは」と疑問を呈した。
福島県によると、同制度利用者のみの統計はないが、公営住宅も含めた県外の「住宅」には4万6276人(11月16日現在)が身を寄せている。【安藤龍朗、浅妻博之】
黒塗り東電調査
- 「証言メモ公開せず、重要部分黒塗り…東電調査」 2011年12月6日20時54分 読売新聞
東京電力福島第一原子力発電所事故で、経済産業省原子力安全・保安院は6日、8月に東電に対して実施した保安調査に関する資料を公表した。
当時の吉田昌郎所長(12月1日に退任)らは、津波襲来後から1号機の非常用復水器(IC)の作動が継続していたと誤認し、対応していたことなどが改めて確認された。
資料は、吉田所長ら9人の幹部に聞き取り調査した結果を集約したもの。しかし、肉声の証言メモは、一切公開されなかった上、公表資料でも、事故の認識や経緯にかかわる重要部分は黒塗りが多く、情報公開に対する保安院の消極姿勢が目立った。
保安院・原子力事故故障対策室の古金谷敏之室長は「保安調査は非公開を前提とした任意の調査。証言メモも聞き取り担当者の個人的なメモに過ぎないので、公開の必要はない。資料の黒塗り部分は、事実関係が確定しないなどとする東電の意見を聞いた上で決めた」と説明した。
核燃再処理:露提案隠蔽
- 「核燃再処理:露提案隠蔽 提案文書「どうせ握りつぶす」 エネ庁関係者、徹底した隠蔽」 毎日新聞 2011年11月24日 東京朝刊
誰の手で握りつぶされたのか。使用済み核燃料の受け入れを提案する02年のロシアの外交文書。「経済産業省トップ(事務次官)にも報告していない」と証言する資源エネルギー庁関係者もおり、隠蔽(いんぺい)の徹底ぶりが浮かぶ。当時、国の審議会では六ケ所村再処理工場(青森県)稼働の是非が論議されていた。「判断するために貴重な情報。事実ならとんでもない」。委員から怒りの声が上がった。【核燃サイクル取材班】
「エネ庁には04年初めにファクスが届いた」。関係者が明かす。在ロシア大使館に届いた文書は内閣府の原子力委員会に渡り、その後エネ庁へ。エネ庁では一部幹部への配布にとどまり経産省事務次官に渡らなかったとされる。「六ケ所の邪魔になる。どうせ握りつぶすんだから上に上げる必要はない」。関係者は独自の理論を展開した。エネ庁原子力政策課で課長を務めていた安井正也・経産省審議官(原子力安全規制改革担当)は取材に、文書が存在するかどうか直接答えず「記憶にない」と繰り返した。
「シベリアに国際管理して埋めるというのはどうか」。03年6月の参院外交防衛委員会で舛添要一参院議員(当時自民)が質問した。原子力委員会の藤家洋一元委員長は「自らの責任において処理すべきだ」と海外処理を否定する答弁をした。藤家氏は取材に対し「『ロシア』という話はこの時に初めて聞いた」と説明、01〜04年の在任中、ロシア側から文書による提案は「ない」と語った。原子力委員会には事務局役の職員(官僚)が約20人いる。経産省同様、一部の「官」が握りつぶしたのか。文書の宛先の尾身幸次・元科学技術政策担当相も「(文書は)ない」と完全に否定しており、謎は深まる。
◇ ◇
「隠蔽が事実だとしたらとんでもない」。経産相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会」で委員を務めた大阪大の八田達夫・招聘(しょうへい)教授(公共経済学)は憤る。
六ケ所村再処理工場は当時放射性物質を流しておらず、解体すれば費用は3100億円で済んだ。しかし、使用済み核燃料を処理するアクティブ試験(06年3月)などを経て本格操業した後廃止すれば1兆5500億円かかる。八田氏は04年3月、分科会で「大変な解体コストがかかる。(再処理せず直接地中に捨てる)直接処分という選択肢も考慮すべきだ」と主張。八田氏は「工場を放射性物質で汚すか汚さないかを判断する上でロシアの提案は非常に貴重な情報だった」と語った。
- 「核燃再処理:露提案を隠蔽 国の審議会に伝えず−−02年、内閣府・エネ庁」 毎日新聞 2011年11月24日 東京朝刊
◇「六ケ所稼働の妨げ」
ロシアが02年、日本の原発の使用済み核燃料をロシアで一時的に貯蔵(中間貯蔵)したり、燃料として再利用するため処理(再処理)するプロジェクトを提案する外交文書を送っていたことが関係者の話で分かった。内閣府の原子力委員会や経済産業省資源エネルギー庁の一部幹部に渡ったが、六ケ所村再処理工場(青森県)稼働の妨げになるとして、核燃サイクル政策の是非を審議していた国の審議会の委員にさえ伝えなかった。当時、漏水事故の続発で再処理工場の安全性を疑問視する声が高まっており、不利な情報を握りつぶして政策を推し進める隠蔽(いんぺい)体質が浮かんだ。
東京電力福島第1原発事故を受けて設置した政府のエネルギー・環境会議は核燃サイクルを含むエネルギー政策を抜本的に見直す方針。情報隠しが判明したことで、政策決定の妥当性に厳しい検証が求められそうだ。
文書は02年10月25日付でA4判2ページ。尾身幸次・元科学技術政策担当相宛てで、ロシア語で書かれており、ルミャンツェフ原子力相(当時)の署名がある。受領した在ロシア日本大使館が日本語訳を付け、内閣府原子力政策担当室(原子力委員会の事務局役)幹部らに渡した。大使館はさらに04年初めまでにエネ庁の一部幹部にもファクスで送ったという。
尾身氏は担当相を務めていた02年9月、モスクワなどでルミャンツェフ氏と会談。文書は「会談は原子力部門における露日の共同活動の最も有望な方向性を明確に示すことを可能にした」とし、「一時的技術的保管(中間貯蔵)および(再)処理のために日本の使用済み燃料をロシア領内に搬入すること」を提案する内容だった。
03〜04年、経産相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会」や原子力委の「新計画策定会議」が、使用済み核燃料をすべて国内で再処理する「全量再処理路線」継続の是非を審議していた。約19兆円とされる高コストやトラブルの続発を受け、六ケ所村再処理工場に初めて放射性物質を流す「ウラン試験」開始に異論を唱える委員もいたが、ロシアからの提案は知らされなかった。結局、再処理継続が決まり、04年12月にウラン試験が行われた。
経産省やエネ庁の関係者によると、エネ庁幹部は当時、周辺に「極秘だが使用済み核燃料をロシアに持って行く手がある。しかしそれでは六ケ所が動かなくなる」と語っていた。海外搬出の選択肢が浮上すると、全量再処理路線の維持に疑問が高まる可能性があるため、隠蔽を図ったという。ある関係者は「ロシアの提案は正式に検討せず放置した」、別の関係者も「原子力委とエネ庁の技術系幹部という一部の『原子力ムラ』で握りつぶした」と証言した。
原子力委は委員長と4委員の計5人。他に文部科学省や経産省からの出向者らが事務局役を務め、重要な原子力政策を決定する。【核燃サイクル取材班】
また測定値が間違っていた
- 「県衛生研、放射能測定ミス…実際は28倍も」 2011年11月19日08時42分 読売新聞
神奈川県は18日、県衛生研究所(茅ヶ崎市)で測定している雨水や粉じんなどの降下物の放射能濃度検査で、測定した放射性ヨウ素とセシウムの測定値に誤りがあったと発表した。
実際は約28倍のヨウ素が検出されていた日もあった。県は5月13日に誤りを把握していながら公表していなかった。
県によると、誤りがあったのは、3月20日〜4月1日のうち6日分。誤差が最も大きかった3月21日午前9時〜22日午前9時は、ヨウ素を1立方メートルあたり340ベクレルから9500ベクレル(約28倍)に、セシウムを210ベクレルから3600ベクレル(約17倍)に訂正した。当時、ほかの部署の職員などが検査を手伝ったため、計算の仕方を間違えたという。
県では3月18日以降、毎日、降下物の放射能濃度を測定し文部科学省に報告。測定値は同省のホームページで公開されている。同省から測定値を再度報告するよう求められ、計算し直したところ、5月13日に誤りがあったことに気付き、同省に報告した。
黒沢勝雄・県環境衛生課長は「文科省に発表内容をすぐに訂正するよう求めたが、忙しくて手が回らないと言われた」と説明。公表が半年遅れたことについて、「県独自で公表すべきだった。認識が甘かった」と謝罪した。
降下物の放射線量に国の基準はないが、誤って測定していた期間中の「空間線量率」(その場所で受ける1時間あたりの放射線量)は、最高でも毎時0・113マイクロ・シーベルトで、国が除染計画の策定や財政的支援の対象とする基準として示している0・23マイクロ・シーベルトを下回っており、県は「健康に影響を与えるものではなかった」としている。
「環境省:送られた汚染土壌、職員が空き地に投棄…自宅近く」
毎日新聞 2011年11月17日 13時07分(最終更新 11月17日 15時56分)
細野豪志環境相は17日会見し、福島市内で採取されたとみられる放射性物質を含む土壌が今月、環境省に2度送りつけられ、そのうち1回分の土壌を同省職員が埼玉県内の空き地に投棄していたことを明らかにした。細野氏は「除染の役割を担っている環境省として決してあってはならないこと。国民に深くおわび申し上げる」と謝罪した。
細野環境相は、「何人も汚染土壌をみだりに投棄してはならない」と定めた福島第1原発事故による放射性物質汚染の対処に係わる特別措置法(来年1月施行)に違反する可能性があり、極めて不適切として、官房総務課長を異動させるなど、関係職員の処分を検討、自身の監督責任も検討中としている。【江口一、藤野基文】
「東日本大震災:福島市コメ高線量 「国の検査、何だった」 農家に動揺広がる」
毎日新聞 2011年11月17日 東京朝刊
「国の検査は一体何だったのか」。暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を超えるコメの放射性セシウム汚染が初めて福島市で判明した16日、産地に動揺が広がった。農林水産省は収穫前後のダブルチェックで「汚染米は出さない」と自信を見せてきたが、検査態勢が十分だったのか改めて問われそうだ。
汚染米が見つかった福島市大波地区。70代の農業の女性は、70袋(1袋30キロ)の新米を収穫したばかり。毎年、新米を全量20〜30人の知人に売ってきたが、今年は買いたいという知人はおらず、すべて農協に出すつもりだったという。「コメが売れなくなって本当に困る。何度もサンプル調査に協力してきたのに」と、農水省への不信感をあらわにした。
夫(61)と一緒に収穫を終えた兼業農家の女性(54)は「今年は約100袋出荷した。この時期が年に一度の勝負どころなのに、今後出荷できなくなると大変困る」と不安を口にし、「春先に大丈夫と言われて作付けし、検査でも出荷していいと言われて安心していた。来年に影響するし、もし出荷できないとなると生活にも大きく響く」と訴えた。
農水省は、情報が入った16日夕から事実関係の確認に追われた。630ベクレルという高い数値について、担当者は「これから調査が行われるだろうから断定はできないが、ホットスポット的な現象かもしれない」とし、予備検査で規制値と同じ500ベクレルを検出した福島県二本松市小浜地区のケースと類似する可能性を指摘している。
今年産のコメについて政府は4月、警戒区域などを対象に作付け制限を実施。さらに、収穫前後の2段階の検査で汚染米の出荷を水際で食い止める態勢を敷いていた。県による2段階の検査はいずれも終了し、暫定規制値を超えるセシウムは検出されなかった。
県によると、JA全農福島や各JAは県の検査で放射性セシウムが検出された場合、規制値を超えなくても旧市町村単位で出荷を見合わせる措置を徹底しているという。大波地区の農家は154戸、コメの作付面積は42ヘクタール、生産量は192トン。今年の新米について86戸を調べたところ、JA新ふくしまに57・6トンが出荷されたほか、地元米穀店などに4戸が計1トンを販売。このほか自家保有36トン、知人などに送る縁故米8トン−−となっている。
専門家によると、玄米のセシウムは精米すると約6割が除去される。厚生労働省は「食べても直ちに健康に影響はない」としている。【川上晃弘、長田舞子、曽田拓】
「原子力機構の除染事業「信頼得られぬ」 東大・児玉教授」
asahi.com, 2011年11月15日21時32分
原子力機構は7日、それぞれ大成建設、鹿島、大林組を代表社とする3グループに委託先を決定した。いずれも原発の建設に携わってきたという。原子力機構は約110億円の予算のうち計72億円分を3グループに委託する。各グループの参加企業名は明らかになっていない。
児玉教授は、原子力機構の除染予算について、幼稚園の除染などに使えるよう自治体に配分するべきだと主張している。
「安全委の委員に電力会社から報酬 情報公開せず」
47News, 2011/11/12 13:26 【共同通信】
政府の原子力安全委員会(班目春樹委員長)は12日までに、原発の安全審査などを担当する専門審査会の委員を務める研究者の中に、電力事業者から講演料などを受けたことのある委員がいるとホームページで公表した。同時に情報公開が遅れたことを謝罪した。
公表したのは、安全委に置かれた「原子炉安全専門審査会」と「核燃料安全専門審査会」の委員に対して、審査の対象となる電力事業者との関係を自己申告させた資料。
敦賀原発(福井県)などを持つ日本原子力発電で講義を行い報酬を受けた委員や、日本原燃(青森県)や電力会社からの受託研究や共同研究を行っていた委員がいた。
除染をめぐって
- 「「大丈夫」思い込もうとする空気 福島 伝えたい」 中国新聞、2011年11月17日
- 週プレNews
- 「「まず除染」大合唱の陰でホンネを言えなくなった飯舘村の“移住希望”村民」 2011年11月11日
計画的避難区域に指定され、全住民が村外へと避難している福島県飯舘村の20代男性村民が悲鳴を上げる。
「村役場はもちろん、村の年配住民も『除染して村に戻ろう!』と言うのですが、僕ら若い世代の意見はちょっと違う。村外に移り住みたいという声も少なくないんです。だけど、『まずは除染』の大合唱の前に、それがなかなか言い出せない。避難という言葉も『ネガティブだから使うな、保養と呼べ!』と怒られる始末です」
- 「放射線量はほとんど減少せず。“除染”は本当に効果があるのか?」 2011年10月27日
- 「過剰な除染避けるべき…IAEA調査団が助言」 2011年10月14日23時19分 読売新聞
放射性物質の除染について助言するために来日中の国際原子力機関(IAEA)の調査団は14日、細野環境相に対し、12の助言を盛り込んだ報告書を提出した。
7日来日した調査団は、東京電力福島第一原子力発電所のほか、福島県伊達市など原発から20キロ・メートル圏外での除染活動の現場を視察し、報告書をまとめた。
12の助言は、〈1〉どこを除染すれば住民の被曝線量低下に最も効果的なのかバランスをよく考え、効果の低いところの過剰な除染は避けるべきだ〈2〉国、県、市町村は恒常的な窓口を設置して連携の強化を図るべきだ〈3〉都市部の廃棄物のほとんどは線量が低いため一時保管する必要はないだろう――など。
記者会見したホアン・カルロス・レンティッホ団長は、国が除染に責任を持つ基準を年間1ミリ・シーベルト以上としたことについて、「野心的で時間がかかる」と話した。
キセノン検出は自発核分裂
- 「原発キセノン検出、保安院も自発核分裂と結論」 2011年11月7日23時45分 読売新聞
東京電力福島第一原子力発電所2号機から検出された放射性キセノンについて、経済産業省原子力安全・保安院は7日、政府・東電統合対策室の記者会見で、東電からの報告通り、臨界による核分裂ではなく、放射性物質キュリウムが自然に核分裂する「自発核分裂」で発生したとの結論を発表した。
会見で園田康博・内閣府政務官は「水素爆発など大きな事象になることはなく、(原子炉の)冷温停止に影響は与えない」との見方を改めて示した。
東電は4日、キセノンの検出濃度がキュリウムの自発核分裂で生まれた場合の計算結果とほぼ一致したことや、臨界を抑えるホウ酸注入後もキセノンが検出されたことなどから、臨界ではなく自発核分裂が原因とする報告書を保安院に提出。保安院は「局所的な臨界の可能性が否定できない」として判断を保留、専門家らの意見を踏まえて分析結果を評価し、報告書の内容は妥当と結論づけた。
原発検査原案丸写しの常態化
- 「原発検査:業者が原案 基盤機構、丸写し常態化 「合格」後、ミス判明も」 毎日新聞 2011年11月2日 東京朝刊
原発関連施設の唯一の法定検査機関で独立行政法人の「原子力安全基盤機構」(東京都港区)が、対象の事業者に検査内容の原案を事前に作成させ、それを丸写しした資料を基に検査していることが毎日新聞が情報公開で入手した文書で分かった。丸写しは常態化しており、中には国に「合格」と報告した後にミスが判明した例もある。チェックの形骸化に専門家から厳しい批判の声が上がっている。所管官庁の経済産業省原子力安全・保安院は来春、規制強化を目指し「原子力安全庁」(仮称)に改組されるが、機構の検査についても改善を迫られそうだ。
機構の法定検査は、検査項目や合格判定基準などを記載した「要領書」と呼ばれる資料を基に行われる。毎日新聞は機構の検査実態を調べる中で、東北電力東通原発1号機(青森県東通村)に納入予定の沸騰水型軽水炉用核燃料を検査するための要領書と、検査内容の原案を入手した。
原案は、燃料を加工・製造した「グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン」(神奈川県横須賀市)が作成し、表紙を含めA4判61ページ。検査目的▽項目▽サンプル検査の対象となる燃料ロット(燃料棒の束)の抽出法▽燃料棒の寸法(規定値)−−などが記載されている。一方、機構の要領書はA4判62ページ。表紙は差し替え、2ページ目を除く3ページ目以降は書式や活字のフォントも含め一言一句原案と同じだった。
機構によると、原案は08年9月、電子データの形でグローバル社から無償で受け取った。機構の検査員は同12月18日、原案を丸写しした要領書を持参して検査に臨んだ。
この際、同社が検査内容の原案で燃料棒の長さ(約4メートル)を、事前に国に届け出た規定値の範囲より3〜5センチ短く誤って記載したため、機構も要領書の値を間違えた。検査員は結局、要領書さえ見ず、同社が作成した別の文書と照合し、燃料棒の長さを妥当として合格判定を出した。
検査員は国に合格判定を報告(合格通知)する前の09年2月、誤りに気づいた。その後の内部調査で、08年10〜12月に行われた同社に対する3回の検査でも同じミスが判明。これら3回については、いずれも国に合格通知していた。機構の工藤雅春・検査業務部次長は取材に、丸写しが常態化していることを認めた。しかし「事業者も内部で同様の検査をしているので、原案を作ってもらっても問題ない。原案の誤りに気づけば修正している」と説明している。【川辺康広、酒造唯】
- 「原発検査:原案「丸写し」 揺らぐ安全への信頼性」 毎日新聞 2011年11月2日 2時30分(最終更新 11月2日 2時41分)
事故や不祥事のたびに強化の必要性が叫ばれてきた原子力関連施設の検査。原子力安全・保安院所管の独立行政法人「原子力安全基盤機構」が事業者に検査内容の原案を作成させ、それを丸写ししている問題は、安全規制の砦(とりで)を揺るがす深刻な事態だ。検査態勢が充実しているとされる米国と比較すれば改善すべき点は多い。【川辺康広、酒造唯】
◇米は抜き打ちが当然 問題見抜く視点
「国の検査なのだから、骨身を惜しまず内容を自分で決めなければならない」。事業者作成の原案と、機構が検査に用いる「要領書」。うり二つの文書を前に、西脇由弘・東大大学院客員教授(原子力国際専攻)の口調は厳しい。
西脇教授は旧通産省に勤務していた91年9月〜93年6月、米原子力規制委員会(NRC)に出向。うち半年間はアトランタで原発検査を担当し、日本との手法や考え方の違いを目の当たりにした。
NRCの検査官は、検査時期や対象を自ら選び、原則無通告で抜き打ち検査する。施設内のLAN(構内情報通信網)に自分のパソコンをつなぎ、社員が下請け会社と交わしたメールまで入手する。必要があれば検査機器を持ち込み、機器の劣化具合を調べることもある。事業者が都合のいい書類しか提出しない可能性があるためだ。西脇教授は「検査官が自分で資料の原本に当たり、施設の問題点や法令違反を見抜こうとする姿勢に驚かされた」と言う。
検査報告書をまとめる前には、指摘した部分について事業者側と激論を戦わす。検査官の主張が通ることが多いが、そのやり取りは文書で公開され、報告書は平易な言葉で作成されるという。
日本では事業者がまず検査を実施し、検査官はその検査が正しいかどうか、ほぼ同じ手法や手順でチェックする。「事業者が作成した原案通りに要領書を作成しても問題がない」と機構が主張するのはこのためだ。検査期間は事前に通知され、開始日には電力会社やプラントメーカーの作業員らが大挙して検査官を出迎える。
03年からは「抜き打ち」と称する検査もしているが、検査期間中に予告外の分野の検査を実施するだけだ。
米国は事業者との付き合いに厳格だ。検査では割り勘でも一緒の食事は許されず、コーヒーも1杯飲むたびに代金を払う。日本では検査前、事業所内で割り勘で食事をともにすることも珍しくない。
西脇教授は通産省時代、原発検査で機器が作動しないトラブルを確認した。「メンテナンス記録を見せるよう求めると、作業員が『必ず動かします。それまで幹部とすしでもどうぞ』と持ちかけてきたが断った」と振り返る。
西脇教授は「事業者の実施した検査をチェックするだけだから『検査官が来た時だけ、書類を整え機器をメンテナンスしておけばいい』という風潮になる」と指摘している。
◇検査形式化の背景には人材不足 膨大な記録に検査官忙殺
検査が形式化する背景には、日本独特の検査制度と人材不足がある。
欧米各国の検査は「いつでも、どこでも、どこまでも」行うことが常識とされるが、日本は、項目や時期、頻度が決まっている。記録は膨大で検査官が忙殺され、独自の視点で問題点を洗い出す余裕を持てない。機構の工藤雅春・検査業務部次長も「重要な部分に人を割きたいが、マンパワーが足りない」と明かす。
保安院の原子力規制部門の職員は約330人。このうち、原子力関連企業からの中途採用者など専門知識を持つ職員は約100人。機構の検査部門の職員と合わせても約200人にとどまる。米国の原発は104基と日本(54基)のほぼ倍である点を考慮しても、約4000人を擁するNRCとの差は歴然だ。
政府は来年4月、環境省の外局として新たな規制機関「原子力安全庁」(仮称)を発足させるが、機構が同庁の所管法人になるかどうかは決まっていない。城山英明・東大大学院教授(行政学)は「機構が独立行政法人のままなら、役所の下請けにならざるを得ない。安全庁に組み入れる形で改組し、国が検査を実施するのも一案だ」と話す。
原子炉格納容器の設計に携わった元東芝社員で芝浦工業大非常勤講師の後藤政志さんは「真の規制には、批判的な視点で問題点を見抜こうとする姿勢と能力が必要。人材の確保と育成は容易ではないが、規制機関の再編を機に、海外からの人材登用など大胆な手も検討すべきだ」と提言する。
◆原子力安全基盤機構の主な検査ミス◆
04年 九州電力玄海原発で実施済みと思い込み、一部検査せず
中部電力浜岡原発で実施済みと思い込み、一部検査せず(〜05年)
05年 日本原子力発電東海第2原発で実施済みと思い込み、一部検査せず
06年 九州電力川内原発で実施済みと思い込み、一部検査せず
08年 東京電力福島第1原発の安全弁を東電の誤った方法を踏襲し検査
核燃料加工会社の燃料棒を会社側の誤った原案を丸写しした要領書を作成し検査=今回の問題
09年 日本原燃ウラン濃縮工場(青森県六ケ所村)ウラン貯蔵容器の試験未実施を見落としたまま合格させる
関西電力大飯原発で関電の検査用資料の不備に気づかず検査漏れ(〜10年)