地震予知
地震予知
現代の天気予報がそれなりに当たるのは、人工衛星などを使い雲や台風の動きを正確に観測できるからだ。それでも天気予報は外れることがある。ところが、地震は人間の手の届かない地下深くで起こる。予知したい現象が起こる場所を直接観測できなければ、地震の予知など不可能だろう。ましてや雲を眺めてるだけで地震予知などできっこない。
地震予知全般の問題点については以下の文献を参照。
- 「日本人は知らない「地震予知」の正体」 ロバート・ゲラー, 双葉社 (2011/8/27)
- 「公認「地震予知」を疑う」 島村 英紀、柏書房 (2004/02)
日本観測史上最大規模の東日本大震災を誰も予知していなかった。そもそもM9の巨大地震は日本では起こらないとさえ考えられていたようだ。
阪神淡路大震災については、これを起こした野島断層で地震が起きる確率は、30年以内に1%以下とされていた。つまり、誰も阪神淡路大震災を予知していなかった。しかも、阪神淡路大震災直後、政府の「地震予知推進本部」は「地震調査研究推進本部」と名称を変更している。
これらに対し、東海地震はいつ起こってもおかしくないと言われ続けて四半世紀ほど経つが、いまだに起こっていない。いつか本当に東海地震が起きるとき、本当に前兆現象が観測され、地震予知に成功するのだろうか?
政治や利権がからむと、科学が科学的でなくなる傾向があるようだ。日本政府の原子力政策がそうだったし、地震予知も似たようなものなのだろう。
M9クラスの巨大地震を予測できなかったのに、それより規模の小さい地震を予知できると考える根拠はあるのだろうか?
学術的に確立された地震予知方法はないし、今後確立されるという保障もない。よほどの技術革新で、地中深くでなにが起こっているか直接見れるような方法でも開発されない限り無理なのかもしれない。
そもそも予知だというのなら、的中率を公開すべきである。統計的に的中率を示してもらわないと、客観的な評価ができない。
地震予知の方法は複数あるようだが、それぞれ的中率が示されていなければ、どの方法がよく当たるのか比較もできない。
大地震のたびに、さまざまな前兆現象が見つかったという報道がされるが、地震の後に「前兆現象があった」などと主張するのは単なる後出しジャンケンである。「地震予知研究協議会」が1991年に作った一般向けのパンフレット「地震予知は、いま」には、790件の前兆現象が述べられていた。その内訳は、前震活動40%、前震以外の地震活動の何らかの変化27%、地殻変動の異常な変化14%、地磁気・地電流の異常8%、ラドンや水温など地下水の異常6%、地盤の隆起や沈降5%であった。しかし、これらすべては地震後に報告された「後出しの前兆」だったのである。
前兆現象がもし本当だとすると、そのデータを積み重ねることによって的中率が向上するはずである。的中率が向上しないようなものは「前兆現象」ではない。
もちろん、原理的なことが一切解っていなくても、統計的に有意に予知できるというのであれば、非常に有意義である。しかし、的中率が示されていなければ、偶然よりも当たっているかどうか客観的に評価できない。
外部からの客観的評価を拒むのであれば、それは病的科学である。東日本大震災の直後から、性懲りもなく様々な地震予知の報道がなされているのを見ると、苦々しく思わざるおえない。
- 「地震予知否定派は多いが「やめたら進歩しなくなる」と研究者」 週刊ポスト2013年3月22日号, 2013.03.11 16:01
重要な記事だと思うので全文引用。
「首都直下型地震が4年以内に70%の確率で発生」──。昨年、読売新聞(2012年1月23日付)が1面で報じた東京大学地震研究所の平田直教授の研究チームの試算は衝撃的だった。日本の地震研究の権威ともいえる研究所が出したデータとあって、巨大地震は近いとの危機感が高まった。
しかし、その後、予測は混迷する。京大が「5年以内に28%」と低い確率の試算を公表するなど、「70%の確率」に懐疑的な意見が相次ぐことになる。そのひとり、元北海道大学地震火山研究観測センター長の島村英紀氏はいう。
「あれはこの何十年間に世界中で起きた地震回数の平均値から算出しただけで、新しい理論でも何でもない。しかも二重に間違いをおかしていて、ひとつは関東地方という特定の地域に限定したこと、もうひとつは東日本大震災後の余震が多い時期の数字を使ったことで、確率が高く出るのは当たり前」
この騒動に対し、東大地震研はサイトで「数字は非常に大きな誤差を含んでいる」「地震研の見解ではない」と公式のものではないと火消しに躍起になった。結局、読売新聞の記事は一昨年9月に公表された数字の最大値を抜き取ったものだった。では、実際に「地震予知」はどこまで可能なのか。
地震予知には、地震を直前から数か月前に予知する「短期予知」、数十〜数百年単位で予知する「中長期予知」がある。現時点の技術では、「短期予知はかなり難しい」というのが地震学者の間でも共通の認識である。実際、東日本大震災の予知ができなかったという批判もあり、日本地震学会の地震予知検討委員会は廃止予定である。
では、地震学者らがほぼできていると主張する中長期予知なら可能かというと、こちらもいくつかの問題がある。地震予知では「いつ」「どこで」「どれくらい」が重要になるが、発生時期の予測に数十〜数百年の大きな誤差がある。予知の対象となっているプレート型地震については、東日本大震災が想定外の場所で起きたほか、内陸部で起きる活断層型地震についても、明日起きるのか、1万年後に起きるのか、まったくわからないのが現実だ。
東京大学大学院理学系のロバート・ゲラー教授は、「政府がいままで出してきた『地震動予測地図』はどれだけ予測がはずれたかを示す『はずれマップ』だ。過去のデータから予測する地震周期説を根拠にしているが、過去をいくら調べても未来の予測などできない」と中長期予知そのものを否定する。
一方、新しい手法を用いる研究も進んでいる。地震予知研究は、阪神淡路大震災以降、大勢を占めていた周期説による過去の「結果からの予測」から、地震が起きる「原因からの予測」へと考えが転換している。そして現在まで、地殻や海底の動きを見る観測網の整備が全国で進められている。
海洋研究開発機構の研究員、堀高峰氏は、これらの観測網のデータをもとに、スパコンの「京」を使ってプレート型地震をシミュレーションしている。
「今は過去の観測データから、これまでに起きた地震の再現をしています。それを繰り返すことで、プレートの動きを予測する精度が高まり、『想定外の場所で地震が起きた』というのを防げる可能性があります」
さらに現在、原発再稼働を巡り、「活断層で起きる地震」が注目されている。これまでは原発敷地内に、12〜13万年前以降に動いた活断層がなければ原発建設は可能だった。しかし原子力規制委員会は、これを40万年前以降に遡ろうとしている。
こういった動きに前出の島村氏は「ゴムを引っ張ってどこが切れるかわからないように、地盤に力がかかって、どこがずれるかはわからない。だから過去の活動した形跡を調べても意味がない」と調査の必要性を否定する。
地震予知否定派の中には、地震調査研究に、352億円(2012年度)と巨額の政府予算が組まれていることに、「税金の無駄使い」「予算が既得権益化している」という批判もある。
このように現在、様々な議論を孕んでいる予知研究の世界。だが、これらの議論を踏まえて名古屋大学地震火山・防災研究センターの山岡耕春教授は、次のように語る。
「科学とは新しいことを試していき、可能性から探っていくもの。それをやめたら何も進歩しなくなります」
しかし、地震研究はなにも予知ばかりではないし、予算には限りがある。当たりもしない地震予知に振り回されるのではなく、効率的に防災に使うべきだろう。
- 「日本人は地震予知は不可能という前提で防災意識を高めるべき」 2013.04.25 07:00, SAPIO2013年5月号, NEWSポストセブン
日本の地震予知研究がスタートして半世紀になる。1965年、国家プロジェクトに格上げされ、巨額の予算がつくようになった。東大などの旧帝大や官庁が競うように観測網を全国に張り巡らせ、前兆現象を捉えようとした。しかし前兆がなく地震が発生するケースや、もっともらしい前兆が記録されたのに地震が起きないケースが次々に出現。結局、予知に成功した例は1回もなかった。
日本人は地震予知は不可能という前提に立って防災意識を高めていくしかない。
- 「「地震予知」なくなるの? 学会、是非を議論へ」 朝日新聞デジタル 2012年10月14日(日)18時0分配信
【杉本崇、小宮山亮磨】日本地震学会は16日に始まる大会で、「地震予知」の是非について本格的な議論に取り組む。地震予知研究のきっかけとなった提言からちょうど50年。「本当に実現できるのか」という疑問の声もある一方で、研究はずっと続いてきた。日本地震学会から「予知」の言葉が消えるのか――。
「地震予知のブループリント(青写真)」と呼ばれる提言書が作られたのは1962年。約80人の地震学者による提言書にはこうある。「地震予知がいつ実用化するか現在は答えられない。しかし、10年後には十分な信頼性をもって答えられる」。その3年後に地震予知研究計画が始まり、今も続く。だが、50年たった今も地震を予知できる前兆現象は見つかっていない。
「地震の前兆は複雑で予知はできない。予知計画は幕を引くべきだ。予知は予算獲得のスローガンでしかない」。東京大のロバート・ゲラー教授は力説する。
- 「地震予知よりも大切なもの」 (2012年9月28日 読売新聞)
科学部 吉田昌史
死者数は最大で32万人3000人――。東海、東南海、南海地震などが同時発生するマグニチュード(M)9級の「南海トラフ巨大地震」の被害想定が8月29日、国の二つの有識者会議から公表された。
関東から九州にかけての太平洋沿岸の広い範囲が強い揺れと津波に襲われるという内容で、まさしく国難と言える想定となった。
この公表の記者会見で気になったのが、中川防災相が南海トラフ巨大地震の予知について「集中的な投資はできる。挑戦していきたい」と発言したことだ。
確かに、数日前に「とき」「ところ」「大きさ」を予知できれば、安全な場所への避難などにより、人的被害は最小限に抑えることはできるだろう。四国知事会や四国市長会、四国各県町村会も今年6月、南海トラフ巨大地震対策として、予知・観測体制の充実強化などを盛り込んだ特別措置法の制定を国に要請した。甚大な被害が想定される自治体が、地震予知に期待するのは理解できる。
しかし、この日の会見に同席した、阿部勝征・東大名誉教授は「お金を付けるからと言われても学問的にできることとできないことがある」と、南海トラフ巨大地震の予知には慎重な姿勢を崩さなかった。阿部名誉教授は、東海地震の予知を目指す気象庁の地震防災対策強化地域判定会の会長を務めており、地震予知は予算措置すれば実現するような簡単なものではないと痛感しているからだ。
四つのプレート(地球の表面を覆う岩板)がぶつかり合う場所にある日本は、世界のM6以上の地震の2割が起きている。このため、地震予知という技術の確立は、日本にとって悲願であり、1965年には国家プロジェクトとして地震予知計画がスタートした。
この地震予知計画の下敷きとなったのが、62年に地震学者たちが作った「地震予知―現状とその推進計画」というパンフレット。通称ブループリントと呼ばれるこのパンフレットでは、地震予知について「10年後には十分な信頼性を持って答えることができるであろう」と、バラ色の未来を提言した。
それから今年でちょうど50年だが、地震予知に一度も成功していない。「大地震の前に異常があった」という研究が学会で報告されることもあるが、いずれも地震後に報告される「あと予知」だ。昨年3月の東日本大震災については予知どころか、発生すら「想定外だった」として、地震学者の間には敗北感が漂っている。
気象庁が緻密な観測網を敷き、24時間態勢で前兆を監視している東海地震についても、予知ができるとは限らない。
東海地震は、東海地方がのっている陸のプレートとフィリピン海プレートの境界で発生すると想定されている。ふだんはくっついて動かないプレートの境界部分がはがれてゆっくりと滑り出し、やがてその滑りが加速的に大きくなり、巨大地震となる。これが東海地震発生の想定シナリオで、先行する前兆滑りを検知し異常と判定できれば、予知できるというものだ。
しかし、前兆滑りの規模が小さかったり、観測網が手薄な沖合で起きたりした場合には検出することが難しい。気象庁自身もホームページで「(東海地震を)必ず予知できるのかとの問いには、『いいえ』となります」と明記している。
このように東海地震でさえ地震予知は不確かだ。このため、地震の防災・減災の基本は予知に頼らず、建物の耐震性の向上や市街地の不燃化、災害拠点施設の沿岸部から高台への移転などのハード面の対策を着実に進めることだ。しかし、このようなハード面の整備をただちに行うのは難しい。このため、家具の固定や地震直後に沿岸部から迅速に避難するなど住民の防災意識の向上といったソフト面も欠かせない。
東日本大震災で国民の防災意識は高まった。しかし、この意識の高い状態をいつまでも維持し続けることは非常に難しい。
津波研究の第一人者である首藤伸夫・東北大名誉教授は、83年の日本海中部地震の被災地で行ったアンケート調査などをもとに、次のようにまとめている。大災害を経験した人間は、8年間くらいは「あんな災害はもう二度とないようにしてほしい」と願うが、10年たつと「もう大丈夫なのではないか。自分だけは大丈夫だろう」と考え始め、災害への備えよりも日常生活の利便性を優先するようになる。そして地震から30年で世代が替わり、災害の経験や備えのノウハウも途絶えてしまうとしている。
何か30年を超えて経験やノウハウをつないでいく方法はないのか。首藤名誉教授は、約1300年にもわたって続く伊勢神宮(三重県)の式年遷宮に注目する。式年遷宮は20年に1度、社殿などを建て替え、装束・神宝を新調してご神体をうつす神事だ。30年より短い「20年」を区切りにすることで、社殿や装束・神宝などのものづくりの技術を失わずに次世代へうまく伝えているという。
だが、30年よりはるかに短い1年ごとに防災訓練を実施しても、災害のあった翌年は訓練の参加者が一時的に増えるが、しばらくすると減ってしまって備えのノウハウなどを後世に伝えるのは難しいという。首藤名誉教授は「人間は忘れやすい。たとえば、東日本大震災の津波で陸に打ち上げられた船などの震災遺構を残すことで、ここまで津波が襲ってきたという記録を後世に伝えていくことができる。今そういった震災遺構を残す取り組みをしないと30年後には忘れられてしまう」と心配する。
災害はあす起きるかもしれないし、30年以上先かもしれない。予知に過大な期待をかけず、防災や減災のために災害の経験や備えのノウハウをどうしたら後世に伝えていけるのか、地域ごとで創意工夫が求められる。
- 「東大教授「日本全国どこでも危ない」 地震の場所や時期など予測は不可能」 2011/4/14 19:04, Jcastニュース
ゲラー教授の論文は2011年4月13日、英国の権威ある科学誌「ネイチャー」電子版に掲載された。冒頭で「日本政府は、地震の発生を確実に予測することは不可能だと国民に対して認めるべきだ」「誤解を招く『東海地震』という用語の使用をやめること」「1978年に制定された大規模地震対策特別措置法の廃止」の3点を要旨に掲げている。
文部科学省に設置されている地震調査研究推進本部は、毎年、「全国地震動予測地図」を発表している。2010年5月20日の最新版では、今後30年以内に震度6弱の地震が起こる確率が高い地域として静岡県や愛知県、紀伊半島東部から南部、四国南部が挙げられた。いわゆる東海地震、東南海地震、南海地震が起きるとされている場所にあたる。
ゲラー教授はこの地図と、1979年以降に国内で発生した地震で10人以上の犠牲者を出した規模のものがどこで起きたかを重ね合わせた。1993年の北海道南西沖地震や95年の阪神大震災、2008年の新潟県中越沖地震など該当する地震は9件あるが、いずれも「予測地図」に示された東海、東南海、南海地震の場所から大きく外れているのが分かる。東日本大震災に関しては、宮城県の一部が地図上で高確率地域となっているものの、震度6強を観測して大きな被害を受けた岩手県や福島県、また栃木県や茨城県北部は「発生率6%以下」と低い確率に区分けされている。
この点をゲラー教授は指摘し、「30年以上にわたって日本政府や、地震調査研究推進本部とその前身の組織は『東海地震』という用語を頻繁に用いてミスリードしてきた。マスコミは、この地震が本当に起きるもののように報じて、国民は『東海地震』の発生が時間の問題だと信じ込むようになった」と批判。巨大地震がいつどこで起こるかは、今の研究レベルでは予測することは不可能だと断言した。
南海トラフ地震予知は困難
- 「南海トラフ地震の予知は困難 中央防災会議最終報告」 2013.5.28 17:25, 産経ニュース
東海沖から九州東部沖に延びる南海トラフ(浅い海溝)で想定されたマグニチュード(M)9・1の最大級の巨大地震について中央防災会議の作業部会は28日、地震を確実に予測することは困難とする調査部会の見解を盛り込んだ防災対策の最終報告を公表した。東海地震や巨大地震の直前予知に否定的な見方を示したもので、予知体制の見直しに向けた議論が本格化するとみられる。
南海トラフはM8級の東海・東南海・南海地震の震源域が東西に並んでおり、これらが連動して巨大地震が起きる恐れがある。気象庁は東海地震の直前予知を目指して地殻変動を監視しているが、前兆現象が検出された場合、東海を上回る巨大地震の発生の有無を予測できるかが防災上の焦点になっている。
作業部会の下部組織である調査部会は科学的な知見を基に検討した結果、前兆現象を捉えて地震の発生時期や規模を高い確度で予測することは困難との見解をまとめた。
気象庁は昭和19年の東南海地震の直前に観測された地殻変動を前兆現象と解釈し、東海地震予知の可能性の根拠としてきたが、調査部会は「疑わしい」と指摘。東海地震や連動型の巨大地震について「確度の高い予測は難しい」と結論付けた。
これを受け作業部会は最終報告で「新たな防災体制のあり方を議論すべきだ」として、予知体制の再検討を求めた。
- 「南海トラフ地震予測は困難 中央防災会議最終報告」 2013-05-28 21:26, ハザードラボ
中央防災会議の作業部会は28日、南海トラフ巨大地震について確度の高い予測は極めて困難とする調査部会の見解を盛り込んだ最終報告を発表した。
この最終報告では、調査部会の報告として、「地震の規模や発生時期の予測は不確実性を伴い、直前の前駆すべりを捉え、地震の発生を予測するという手法により、確度高く予測することは、一般的に困難」とし、地震予測は今後とも研究を進める必要があるが、南海トラフ巨大地震については、予測が困難という現状を踏まえて新たな防災体制のあり方を議論すべきとしている。
これまで東海地震については、監視体制が整備され地震発生直前の予知の可能性がある唯一の地震とされてきたが、予測に伴う不確実性(前駆すべりが発生しないケースもありうるなど)や南海トラフ地震の多様性などを考慮すると、仮に前兆現象が検知されたとしても、閣議にかけ警戒宣言を発令するといった、いわば「単線的な」これまでの考え方に対応可能な確度での予測は難しいとの認識を示している。
また一方で、調査部会報告では、地震予測に対する国際的な認識と取り組みについても触れており、国際的な認識として予測には確率が用いられるべきとの見解が表明されていることや、電磁気学的な予測研究についても、「国際測地学・地球物理学連合(IUGG)のワーキンググループを中心に国際的な研究が進められており、統計的に有意な結果が得られているものの、発生場所及び規模の予測に不確実性がある」などとしている。
- 「「東海」予知にも否定的 南海トラフ地震最終報告 」 2013/5/28 21:10, 日本経済新聞
1978年に制定された大規模地震対策特別措置法では、東海地震に限って気象庁が2〜3日から2〜3時間前までに前兆すべりを観測し、首相が警戒宣言を出すことを想定している。
報告書は、予知の前提となる前兆すべりについても「十分な観測網がある地域は限られ、(過去に)確実な観測事例はない」とした。1944年の東南海地震の直前に前兆的な地殻変動があったとの考え方に対しても、データ不足から疑問を呈した。
- 「崩れた予知の前提条件 判定会「反論はしない」」 2013.5.28 21:32, 産経ニュース
気象庁は地震直前にプレート境界の一部がはがれ、ゆっくりと滑り始める「前兆滑り」と呼ばれる現象が起きる可能性があるとして、この検知による予知を目指してきた。
根拠は昭和19年に起きた東南海地震の約3日前に観測された地殻変動だ。気象庁はこれを前兆滑りと解釈し、同様の現象が東海地震の直前にも起きる可能性があるとして、高感度のひずみ計を設置して24時間態勢で監視している。
しかし調査部会は、この現象を前兆滑りと解釈するには「疑わしい点があり、確定的な結論を得ることは困難」と指摘。プレート境界の滑りではなく別の現象の可能性や、単なる測量誤差の疑いもあるとした。
気象庁は従来、前兆滑りが小規模だった場合などは予知できないと認めてきた。しかし、調査部会の報告は予知の前提条件を事実上否定したもので、信頼性は足元から揺らいだ形だ。
予知の成功率は算出できないが、地震学者は高くても2、3割とみており、調査部会では「大変低い」との厳しい意見が出た。
東海地震の予知を担う気象庁判定会の阿部勝征会長は前兆滑りの信頼性が否定されたことについて「学問の進展とともに予知の見方が変わりつつある。反論はしない。予知は百パーセントを保証するものではない」と述べた。
一方、気象庁の土井恵治地震予知情報課長は「前兆滑りが完全に否定されたわけではなく、可能性がある以上、きちんと監視する意義はある」と話す。
前兆を検知した場合、東南海・南海地震との連動を予知できるかも重要な検討課題だったが、調査部会は過去の地震の震源域は多様なことから「規模や発生時期を高い確度で予測することは困難」と結論付けた。
前兆滑りがあるかどうか監視することに学問的な意義はあるだろう。しかし、「可能性がある」程度の不確実なものに政治が翻弄されていいかどうかは、きちんと考えてみる必要がある。
東海地震
ことの発端は、東大理学部助手だった石橋克彦氏が1976年5月に開かれた定例の地震予知連絡会で、東海地震が起きる可能性を発表し、震源は駿河湾の奥深くの陸寄りだろうとした。そして1977年2月、地震予知連絡会会報に「東海地方に予想される大地震の再検討 ―駿河湾地震の可能性―」(pdf)というレポートが発表された。このレポートの中で石橋氏は以下のように述べている。
現段階では,前兆現象がいつ始まっても不思議ではないと考えられ,しかもそれが長期間続くという保証はないから,直ちに集中観測を始めるべきである。
こうした発表がきっかけで「駿河湾を中心とした地域を、マグニチュード8クラスの巨大地震が明日にも襲うかもしれない」と報道された。
なお、気象庁サイトの「東海地震発生の切迫性」によると、「東海地震はいつ起こってもおかしくない」と言われている理由は、「駿河トラフ周辺の部分の岩盤は150年以上もずれていない」からである。
つまり、『慶長地震(1605年)の102年後に宝永地震(1707年)が発生し、それからさらに147年後の1854年に安政東海地震、安政南海地震が発生している。それ以降、駿河トラフ周辺では大地震が発生おらず、150年以上が経過している』ので、そろそろ起こってもおかしくないという話なのである。
気象庁の「地震予知について」を見ると、以下のように書かれてある。
地震の予知はできますか?
地震を予知するということは、地震の起こる時、場所、大きさの三つの要素を精度よく限定して予測することです。例えば「(時)一年以内に、(場所)日本の内陸部で、(大きさ)マグニチュード5の地震が起こる」というようなあいまいな予測や、毎日起きているマグニチュード4程度以下の小さな地震を予測するような場合はたいてい当たりますが、それは情報としての価値はあまりないと考えます。少なくとも「(時)一週間以内に、(場所)東京直下で、(大きさ)マグニチュード6〜7の地震が発生する」というように限定されている必要があります。時を限定するためには、地震の予測される地域で科学的な観測が十分に行われ、常時監視体制が整っていることが欠かせません。そのような体制が整っていて予知のできる可能性があるのは、現在のところ(場所)駿河湾付近からその沖合いを震源とする、(大きさ)マグニチュード8クラスのいわゆる「東海地震」だけです。それ以外の地震については直前に予知できるほど現在の科学技術が進んでいません。
以上のように、『予知のできる可能性があるのは』『「東海地震」だけです』としている。ところが、以下のようにも書かれてある。
東海地震は必ず予知できるのですか?
必ず予知できるのかとの問いには、「いいえ」となります。
東海地域の観測網により前兆現象をとらえることができた場合のみ、気象庁は東海地震に関連する情報を発表してみなさんにお知らせすることができます。どのくらいの確率で前兆現象をとらえることができるのかは、残念ながら「不明」です。
東海地震予知の鍵となる前兆現象は、前兆すべりと考えられています。前兆すべりとは、震源域(東海地震の場合、プレート境界の強く固着している領域)の一部が地震の発生前に剥がれ、ゆっくりと滑り動き始めるとされる現象です。気象庁は、東海地域に設置した歪計(ひずみけい)で前兆すべりをとらえようとしています。
逆に、このような前兆すべりがとらえられない場合(前兆すべりの規模が小さすぎた、前兆すべりが沖合で発生した等、観測網でとらえられなかった場合。前兆すべりが生じるとする考え方が誤りであった場合。)や前兆すべりの進行があまりにも急激で時間的に余裕がない場合には、残念ながら情報発表がないまま地震発生に至ることになります。
『前兆すべりが生じるとする考え方が誤りであった場合』もあるということで、地震予知ができるという主張自体がアヤシイということがわかる。
プレスリップによる予知
気象庁の「東海地震の予知について」によると、『東海地震は、現在、日本で唯一直前予知のできる可能性がある地震』と考えられているそうだが、その根拠として以下の項目が挙げられている。
- 東海地震は前兆現象を伴う可能性があること
- 想定されている震源域が陸域直下及び陸域に近い海底下に位置しているため、その周辺に精度の高い観測網を整備できたこと
- 捉えられた異常な現象が前兆現象であるか否かを科学的に判断するための考え方として「前兆すべり(プレスリップ)モデル」があらかじめ明確化されていること
しかし、なぜ東海地震は前兆現象を伴う可能性があるのか、その根拠が示されていないので、これではなんの説明にもなっていない。
2003年5月29日に中央防災会議(会長・小泉首相)が発表した東海地震対策大綱(PDF:357KB) の「第2章 警戒宣言時等の的確な防災体制の確立」にも以下のように書かれてある。
(1)東海地震やその予知についての正確な知識の普及
現在の地震予知は、プレスリップ(前兆すべり)という地震の直前現象を捉えるものであり、この直前現象をとらえるための体制整備を図ってきていること、また、プレスリップ以外の現象をもとに予知情報を出すのは難しいこと等東海地震やその予知について、さらには、東海地震で予想される被害についての正確な知識を広報、普及する。
政府の地震予知は「プレスリップ」頼りだということがわかるが、プレスリップで本当に地震予知ができるのか、その根拠は示されておらず、その方法でどの程度当てることができるのかも書かれていない。そもそもプレスリップで地震が予知できた実績があるのだろうか?
気象庁サイトの「ひずみ計とは」によると、ひずみ計というものによって、プレスリップを観測しようとしているようだ。
東海地震の前兆すべり(プレスリップ)の発生に伴うごくわずかな岩盤の伸び縮みを捉えるため、気象庁は東海地域にひずみ計による地殻変動の観測網を展開しています(静岡県が設置したものも含まれます)。
このページの図を見てみると、体積ひずみ計でその深さは100〜200m、多成分ひずみ計は400〜800mと、どちらも1キロに満たない。さらに深いところで起こる地震の前兆をこれらの機器で捉えることができるのだろうか?
気象庁の「東海地震の予知について」の「東海地震は必ず予知できるのか?」の項目には以下のように書かれてある。
東海地震は必ず予知できるのでしょうか? 残念ながら、その答えは「いいえ」です。
さらにつぎのようにも書かれてある。
どのくらいの確率で前兆現象を捉えることができるのでしょうか? これも残念ながら「不明」です。
そして最後に以下のように述べられている。
このように、東海地震を予知できない場合もあります。従って、他の地震と同様、自宅等の耐震性の確認、家具の耐震固定、食料・飲料水の備蓄の確認、避難場所や高台までの経路や移動手段の確認、家族との連絡方法の確認等、日頃からの十分な備えが大切です。
なお、国土地理院も「地震の予知を目指す」に書かれてあるように、地表に設置された電子基準点のGPS連続観測により日本列島の地殻変動を監視している。国土地理院は、政府の地震に関する評価等を行う地震調査推進本部の事務局を文部科学省、気象庁とともに担当しており、その諮問機関である「地震予知連絡会」が学術的な意見・情報交換を行い、地震予知研究を推進している。
東日本大震災ではプレスリップ観測されず
- 「東日本大震災の前兆すべり観測できず 問われる予知体制」 2011年4月26日22時20分, asahi.com
巨大地震の前触れと考えられている「前兆すべり」が東日本大震災の前に観測されなかったことが、26日に開かれた地震予知連絡会で報告された。前兆すべりの検知を前提とした東海地震の予知体制のあり方が問われることになりそうだ。
予知連では、山岡耕春名古屋大教授が、国土地理院や防災科学技術研究所などの観測結果をまとめて報告。全地球測位システム(GPS)による地殻変動や、岩盤のわずかな伸び縮みや傾きを観測データを示し、「本震前に前兆すべりのような顕著な変動はみられない」と説明した。
前兆すべりは、地震を起こすプレート(岩板)とプレートの境界が、地震の前にゆっくりと滑り始める現象。東海地震の予知を目指して、気象庁は東海地方に展開する観測網でとらえようとしている。
この理論では、東日本大震災の前に前兆すべりが観測されたはずだった。観測網は東海地方の方が充実しているが、マグニチュード(M)9.0という巨大地震でも観測できなかったことは、M8級と想定される東海地震の予知が本当に可能かの検証が必要になる。
東海地震は、政府が唯一予知の可能性があるとして、大規模地震対策特別措置法で予知した場合に備えた防災体制を構築している。
地震予知連会長の島崎邦彦東大名誉教授は「東海地震のような前兆すべりは観測できなかった」と認めた上で、「(観測条件や地下の特性は)東海とは同じではない」と話した。
東海地震の予知は、地震学者にも「今の地震学では予知できない可能性の方が高い」とする意見や、ロバート・ゲラー東大教授のように「政府は不毛な短期的地震予知を即刻やめるべきだ」との指摘もある。しかし、予知の可能性は残されており、政府は失敗した場合に備えながらも、予知体制を維持している。
気象庁地震予知情報課の土井恵治課長は「前兆すべりがとらえられなかったことは事実だが、『なかった』と証明されたわけではない。東海地震の予知体制が否定されたわけではなく、今後も見逃さないように観測を続けていく」と話している。(松尾一郎)
- 「第190回地震予知連絡会(2011年4月26日)」 地震予知連絡会
ただし、東日本大震災の前にスロースリップが観測されたという報告はある。
- 「加藤愛太郎助教らの研究がサイエンス誌に掲載」 東京大学地震研究所, 2012/1/20
2011年東北地方太平洋沖地震前のおよそ1ヶ月間に発生した地震活動を解析した結果、本震の破壊開始点へ向かうゆっくりすべりの伝播が、ほぼ同じ領域で2度にわたって起きていたことを明らかにしました。これらのゆっくりすべりの伝播が引き起こす力の集中により、本震発生が促進された可能性が考えられます。
しかし、このような現象が起きたからと言って、必ずしも巨大地震が起きるとは限りません。ゆっくりすべりが移動していく先に、巨大地震を引き起こすことのできる十分な弾性ひずみエネルギーが蓄えられている必要があります。もし蓄積されたエネルギーの量が少なければ、たとえゆっくりすべりの移動による力の集中があっても、巨大地震は発生しません。
- 「Propagation of Slow Slip Leading Up to the 2011 Mw 9.0 Tohoku-Oki Earthquake」 Aitaro Kato, Kazushige Obara, Toshihiro Igarashi, Hiroshi Tsuruoka, Shigeki Nakagawa, Naoshi Hirata, Science 10 February 2012, Vol. 335 no. 6069 pp. 705-708
スリップしても地震起こらず
スリップが起こっても地震が起こらない事例の報告もある。
- 国土地理院
国土地理院によるGPS連続観測で、2000年秋頃から東海地方で、それまでと傾向が異なる地殻変動が観測され始めた。それには「愛知県から静岡県にかけての南東方向の水平変位」および「愛知県で沈降、静岡県西部で隆起」という特徴が見られた。これは、プレート境界面上での固着によって引きずり込まれる方向とは逆向きのすべりであり、その中心は浜名湖直下にあると推定された。
これは東海地震の想定震源域と近接していたが、東海地震は起こらず、スロースリップは2005年夏ごろにほぼ停止したと考えられている。
大震法
ところが、東海地震の予知が可能であることを前提として、1978年には「大規模地震対策特別処置法」(大震法)という法律まで作られている。
第四条 国は、強化地域に係る大規模な地震の発生を予知し、もつて地震災害の発生を防止し、又は軽減するため、計画的に、地象、水象等の常時観測を実施し、地震に関する土地及び水域の測量(以下この条及び第三十三条において「測量」という。)の密度を高める等観測及び測量の実施の強化を図らなければならない。
第九条 内閣総理大臣は、気象庁長官から地震予知情報の報告を受けた場合において、地震防災応急対策を実施する緊急の必要があると認めるときは、閣議にかけて、地震災害に関する警戒宣言を発するとともに、次に掲げる措置を執らなければならない。
一 強化地域内の居住者、滞在者その他の者及び公私の団体(以下「居住者等」という。)に対して、警戒態勢を執るべき旨を公示すること。
二 強化地域に係る指定公共機関及び都道府県知事に対して、法令又は地震防災強化計画の定めるところにより、地震防災応急対策に係る措置を執るべき旨を通知すること。
2 内閣総理大臣は、警戒宣言を発したときは、直ちに、当該地震予知情報の内容について国民に対し周知させる措置を執らなければならない。この場合において、内閣総理大臣は、気象庁長官をして当該地震予知情報に係る技術的事項について説明を行わせるものとする。
3 内閣総理大臣は、警戒宣言を発した後気象庁長官から地震予知情報の報告を受けた場合において、当該地震の発生のおそれがなくなつたと認めるときは、閣議にかけて、地震災害に関する警戒解除宣言を発するとともに、第一項第一号に規定する者に対し警戒態勢を解くべき旨を公示し、及び同項第二号に規定する者に対し同号に掲げる措置を中止すべき旨を通知するものとする。
この法案成立直前の1978年4月18日と4月21日の衆議院災害対策特別委員会で、気象庁の末広重二参事官は以下のように述べた。
地震学会全般の意見では、マグニチュード8程度の地震ならばそれなりの観測施設を置けば予知できるというところまで進んでいる。それならば、これをぜひ防災に結びつけるべきであろう。
常時監視をしていれば、地震の数時間前から数日前に、相当顕著な前兆現象が、いろいろな種目にわたって、かつ広範囲に捕らえることができる、と予測している。
しかし、島村氏の著書「公認「地震予知」を疑う」(柏書房 2004年)によると、不思議なことに推進本部は東海地震の発生確率を発表してさえいない。
気象庁の「東海地震に関連する情報の種類と流れ」によると、なんらかの「前兆現象」が捉えられたとき、気象庁が発表する「東海地震に関連する情報」には、以下の3種類があるらしい。
- 東海地震予知情報: 東海地震が発生するおそれがあると認められ、内閣総理大臣から「警戒宣言」が発せられた場合に発表される情報です。
- 東海地震注意情報: 観測された現象が東海地震の前兆現象である可能性が高まった場合に発表される情報です。
- 東海地震に関連する調査情報(臨時): 観測データに通常とは異なる変化が観測された場合に発表される情報です。
ずいぶんと細かい「情報」の区分があるようだが、前兆を捉えることができるか「不明」であり、「東海地震は必ず予知できるのでしょうか?」という問いの答えが「いいえ」な現状で、こうした情報がどれだけ正確に発表されるのか疑問である。
島村氏の著書「公認「地震予知」を疑う」(柏書房 2004年)によると、大震法成立後、地震予知計画は五年ごとに年次計画を更新し、計画発足後の約30年間に1800億円の予算が投入された。阪神淡路大震災以後、地震予知研究予算はさらに増え、今までの総額は3000億円を超えているとのこと。
電離層による地震予知
電離層による地震予知を参照。
地震雲
地震雲の項目を参照
地震予知失敗で禁固刑?
- 「「地震予知失敗」の科学者ら逆転無罪 イタリア」 石田博士2014年11月11日16時40分, 朝日新聞デジタル
2009年4月に300人以上が死亡したイタリア中部ラクイラの地震の際、事実上の安全宣言で被害を広げたとして地震学者や政府の担当者7人が過失致死罪に問われた裁判で、二審のラクイラ高裁は10日、科学者6人に逆転無罪判決を言い渡した。報道陣に「安全宣言」をした当時の政府防災局のデベルナルディニス副長官は、禁錮2年の執行猶予付き判決となった。
一審判決は、全員に求刑の禁錮4年を上回る禁錮6年の有罪判決だった。世界の科学者に「学者に結果責任を求めるのか」などと波紋を広げた。
ロイター通信などによると、裁判長は「証拠不十分」と告げた。イタリアの裁判は三審制で、判決理由は後日開示される。告発した遺族側は最高裁への上告を求める方針だ。
- 「地震予知失敗、専門家ら禁錮6年判決…イタリア」 (2012年10月23日07時33分 読売新聞)
【ローマ=末続哲也】300人以上が死亡した2009年4月のイタリア中部ラクイラ震災で、前兆とみられる微震が続いたにもかかわらず住民への適切な警告を怠ったとして、伊政府の防災諮問機関に属した専門家と政府担当者の7人が過失致死罪などに問われた事件で、ラクイラ地裁は22日、7人全員に禁錮6年(求刑・同4年)の実刑判決を言い渡した。
判決は7人が大地震の危険性を十分に警告しなかった責任を認定する異例の内容となった。地震予知を困難視する科学者団体の反発は必至だ。
ラクイラ震災前には同年初めから現地で微震が相次ぎ、大地震の恐れを指摘する専門家が一部にいたが、7人は地震発生の6日前、「大地震の危険性は低い」などの見解を強調したとされ、昨年5月に起訴されていた。被告側は控訴する見通し。
- 「地震予知できなくなる…実刑判決に科学界が反発」 (2012年10月23日23時26分 読売新聞)
【ローマ=末続哲也】2009年4月のイタリア中部ラクイラ震災で、大地震の危険性を警告しなかったとして、同国の地震予知の専門家ら7人に22日、禁錮6年の実刑判決が下ったのを受け、世界の科学界から「これから専門家は地震予知に協力できなくなる」と懸念する声が噴出している。
「今後は群発地震のたびに、専門家が住民避難を命じざるを得ない」。地元メディアによると、同国の著名な地質学者マリオ・トッツィ氏は、こう判決を非難した。23日には、伊政府の防災諮問機関「防災委員会」のルチャーノ・マヤーニ委員長が「こんな状況では平静に働けない」として、判決に抗議し、辞任した。
米民間団体「憂慮する科学者連盟」のマイケル・ハルパン氏も「ばかげており、危険だ」と批判し、米政府に判決を非難するよう求めるなど、波紋は国外にも広がった。異例の裁判は、地震予知のあり方を巡る議論に火をつけた形だ。
相変わらず読売新聞はおかしなタイトルをつけている。そもそも地震予知などできないわけで、「地震予知に失敗した」からではなく、「根拠のない安全宣言」をしてしまったことが問題視されている。
- 「伊 地震の“安全宣言”で専門家ら有罪」 NHK News, 10月23日 4時16分
3年前にイタリア中部で起きた地震を巡って、地震の発生前に国の委員会が安全宣言とも受け止められる情報を流し被害を拡大させたとして、専門家ら7人が過失致死などの罪に問われている裁判で、イタリアの裁判所は被告側の過失を認め、全員に禁錮6年の有罪判決を言い渡しました。
この裁判は、2009年にイタリア中部のラクイラを中心に300人余りが犠牲になった地震を巡って、地震の6日前に国の委員会が「近く大きな地震が起きる可能性は低い」という安全宣言とも受け止められる情報を流したことから、少なくとも住民37人が避難せずに死亡したとして、専門家ら7人が過失致死などの罪に問われているものです。
裁判の中で検察側は、「地震が予知できなかったことを問題にしているのではない」としたうえで、「委員会は住民に対して慎重に地震の可能性を伝えるべきなのに、科学的な根拠のない表現によって住民に避難の必要はないと感じさせたことが被害の拡大につながった」として、過失があったと主張していました。
2009年にイタリア中部を襲った地震を巡っては、発生の1週間余り前に、個人の立場で地震を研究している国立研究所の技師が、「地中から異常な量のラドンガスが排出されており、この地域で大地震が起きる危険性が高い」として、住民に周知する活動を始めました。
これを受けて住民の間に急速に不安が広がったことから、国の防災当局は、この予知について科学的な根拠がないと否定し、地元の自治体もこの技師に対してこうした情報を広げるのをやめるよう命じました。
国の委員会としては、「地中からのラドンガスの排出量によって地震を予知できることは科学的に証明されていない」として、住民の不安を打ち消すためにより強い表現で「近いうちに大きな地震が発生する可能性は低い」という情報を流し、誤解を招く結果につながったとも指摘されています。
- 「伊地震学者らの有罪判決に反発 予知委トップなど2人が辞任」 cnn.co.jp, 2012.10.24 Wed posted at 17:05 JST
- 「地震警告失敗で科学者らに実刑判決(イタリア)」 Togetter, 2012/9/28
NATURE誌の記事
- 「Italian court finds seismologists guilty of manslaughter」 Nicola Nosengo, 22 October 2012, NATURE, BREAKING NEWS
- 「Scientists on trial: At fault?」 Stephen S. Hall, Published online 14 September 2011, Nature 477, 264-269 (2011)
- 「Scientists on trial over L'Aquila deaths」 Nicola Nosengo, Published online 1 June 2011, Nature 474, 15 (2011)
- 「Italian quake analysis rumbles in」 Katharine Sanderson, Published online 10 September 2009, Nature, doi:10.1038/news.2009.899
Science誌の記事
- 「ITALIAN QUAKE VERDICTS RATTLE RESEARCHERS」 Science 21 December 2012: Vol. 338 no. 6114 pp. 1526
- 「Aftershocks in the Courtroom」 Edwin Cartlidge, Science 12 October 2012: Vol. 338 no. 6104 pp. 184-188
- 「Prison Terms for L'Aquila Experts Shock Scientists」 Edwin Cartlidge, 26 October 201, Science Volume 338 Issue 6106
その他
- 「L'Aquila quake: Italy scientists guilty of manslaughter」 22 October 2012 Last updated at 19:06 GMT, BBC
- 「Earthquake Experts Convicted of Manslaughter」 by Edwin Cartlidge on 22 October 2012, 3:10 PM, ScienceInsider
- Live Science
- 「Italian Seismologists Could Get Four Years in Prison」 Stephanie Pappas, LiveScience Senior WriterDate: 26 September, 2012 Time: 06:00 PM ET
- 「Earthquake Predictions Remain Faulty at Best」 Robert Roy BrittDate: 07 April 2009 Time: 02:18 PM ET
- 「Complex Geology Behind the Italian Earthquake」 Andrea ThompsonDate: 06 April 2009 Time: 07:32 AM ET
- 「Italian Scientists Sentenced to 6 Years for Earthquake Statements」 By Stephanie Pappas and LiveScience, October 22, 2012, Scientific American
地震を予知したというGioacchino Giuliani氏
この地震を予知した技師というのは、Gioacchino Giuliani氏のこと。もちろんラドン発生で地震予知などできないが、案の定、「口封じされた」といったような報道がなされている。
- 「Scientist: My quake prediction was ignored」 cnn.com、April 7, 2009, Updated 1259 GMT (2059 HKT)
- 「Italy muzzled scientist who predicted quake」 By Gavin Jones, ROME, Mon Apr 6, 2009 5:38pm BST, uk.reuters.com
- 「Researcher who warned of Italian earthquake was silenced」 Posted by Jay Cables at 6:28 PM, APR 6, 2009, drivebyplanet.com