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電離層による地震予知

地震予知

 


「空を見ると地震がわかる」系の地震予知はかなり怪しい。地震雲は言わずもがなだが、電離層系も相当怪しい。なぜ、地面を直接観測してもわからないものを、間接的に電離層を見るとわかるようになるのか、納得のいく説明を聞いたことがない。

よく、断層で発生したラドンが空中に上昇し、その放射線で発生したイオンが電離層に影響を及ぼす、といったような説明がされる。たとえば、NHK「サイエンスZERO」2012年7月29日放送のサイトでは、『昨年3月11日、列島を突如襲った大震災。実はその3日前、はるか上空の「電離層」で不思議な異変が現れていました。地震の直前、東北一帯から「何らかの物質」が上空へ立ち上り、電離層に影響したと考えられます』と表現されている。(実際の放送で、「何らかの物質」とはラドンのことだった)本当にそんな現象は起こるのだろうか?

淡路島地震(M6.3, 20013/4/13)を「予測した」という主張

FM波観測による予測

 東日本大震災以降、地震予知への信頼が揺らいでいる。大きな被害も想定される南海トラフ巨大地震でも、国は「地震観測による予測は難しい」としている状態だ。一方で、今月横浜市で開催された日本地震学会で、4月13日に発生した淡路島地震(マグニチュード6・3)を「予測した」との発表が行われた。この事例を通し、地震予知の意義について考える。

 

(編集委員 北村理)

「地震観測による予測は難しい」という表現は正確なのか?本当は「今のところ、地震予知は不可能」なのではないのか?たった一回当てた程度で予知ができたなどとは言えない。偶然当たっただけかもしれないからだ。4月に起こった地震の予測がなぜ11月になってから話題になるのか?本当に「予測」できていたのだろうか?

淡路島地震の“兆し”をキャッチ

 

 《「淡路島地震」は23日程前から異常が確認され、4月7日に平常に戻ったため、地震の予測として期日は、4月13日頃、マグニチュードは6、場所は姫路から貝塚市方面(淡路島方向)と予想することができた》とする記述が地震の当日、アマチュア無線技士らによる地震観測ネットワーク「JYAN研究会」(大分県国東市)の会員用ホームページ上に掲載された。

 

 同会は地上のFM波や短波などを観測し、地震予測の可能性を探っている。FM波については沖縄から横浜まで21局のネットワークを展開し、84放送局のFM電波を観測している。

 

 研究会代表で元国東市消防長の国広秀光さんによると、大阪府貝塚市の観測局で、地震発生の約1カ月前の3月15日から発生6日前の4月7日まで、兵庫県姫路市のFM電波がおおむね5〜10デシベル強くなり、その状態が続いた。地震までの6日間は、通常のレベルに戻ったという。

 

地震を知る“法則”とは

 

 なぜ、FM波の異常が地震予測につながるのか。研究会がこれまでの観測事例の分析から導き出した“法則”はこうだ。

 

 地震活動が地中で活発化し破壊が進むと電気と磁気エネルギーが発生。それらが電磁気として空中に出ると地上の電磁界に影響を与える。その結果、FM波や短波などが影響を受け、普段は届かない遠距離まで届き、近距離では届きにくくなる。ただし、こうした変化は地震発生直前にみられる「静穏期」になると、正常にもどったりする現象が観測される。

ここに書かれた理屈はまったくのデタラメと言っていいだろう。地震が起こる前に「地震活動が地中で活発化し破壊が進む」のか?何を根拠に地中でそういう現象が起こっていることがわかったのか?「磁気エネルギー」ってなに?FM波や短波などに影響を及ぼすのが、地中から発生する電場や磁場だというのなら、なぜ、「その電気と磁気エネルギー」を直接観測できないのか?

 同会の過去の記録から傾向を探ると、10デシベル程度上昇し収まってから(静穏期が)1週間程度で、そののちに地震が発生する場合、マグニチュード(M)6クラスで震度5〜6の地震が発生。20デシベル程度上昇した場合、最大で震度7。静穏期が3日間程度だと、M4・5ほどになるという。

 

 M9の東日本大震災の場合、「(電波を反射する)電離層が日本全体で地震の影響を受けていたと予想され、それによって、観測局全局のFM波や短波に異常があったため、何が起きていたか分からず、数カ月たって、大震災が発生した3月11日前後の過去のデータを振り返ってみてはじめて、ゆるやかで大きい変化に気付いた」という。

M9の地震でも「過去のデータを振り返ってみてはじめて、気付いた」というレベルなのであれば、M6の地震が予知できたなどとは到底思えない。これは「地震後知」であって予知ではない

誰でも貢献できる

 

 地震学会では、淡路島地震について大気イオン濃度変化を観測した事例なども発表され、地震研究者らから「現象をどこまで追い続け確かなデータ蓄積ができるのかが重要だ」との意見が出された。

 

 阪神大震災以降、観測を続けてきた国広さんらも、これまで地震研究者のアドバイスを受け、観測点の拡大とデータ蓄積の方法に工夫を重ねてきたといい、その成果として過去2年間、淡路島地震も含め大小10ほどの地震にともなう現象を捕捉できたという。

過去2年間で急に予知ができるようになったと言っているのか?つまり、東日本大震災以前のことはなかったことにしてくれと言っているのか?

 国広さんは「地震にともなって起きる当たり前の物理現象を追跡することでも防災に貢献できる」としたうえで、「これらの観測は一般に普及している通信機器を使えば誰でも可能であり、地震予知への努力も大切だが、地震を過度に恐れず、身近に理解することにもつながる」としている。

誰がやっても、この方法では地震予知はできなさそうだ。予知ができるというのなら、ちゃんと統計学的に的中率を示すべきである。

なお、以下のように、「大気イオン」により地震予測ができたという報道が4月にあり、これに遅れてFM波予測が便乗したという感が否めない。ただし、大気イオンによる予測も的中率が示されていないので、偶然当たっただけだと考えるのが妥当である。

「大気イオン」による地震予測

 負傷者33人を出した今月13日の兵庫県・淡路島地震に関し、地震予知に取り組むNPO法人が、大気中のイオン数の変化をもとに地震の発生地域や時期を予測し、関係者の間で話題になっている。大気イオンによる地震予知は「まだ効果が確認されていない」(文部科学省)が、一部の地震専門家から評価する声も出ている。

 

 NPO法人「大気イオン地震予測研究会」(理事長・矢田直之神奈川工科大准教授)は全国17カ所で大気中のイオン濃度を測定し、濃度が急上昇した場合に地震予測を出す。

 

 今月6日、兵庫県南あわじ市の測定器で、通常は大気1立方センチ当たり1000個以下のイオン数が12万個に急上昇するなど、兵庫、高知、石川、長野、宮崎各県で2〜6日に数値が上がった。同研究会は翌7日に各データの分析をもとに「淡路島を中心としたマグニチュード(M)5級の地震が発生する」との予測を発表。気象衛星画像の解析から、地殻変動や地震性ガスの噴出などで発生する可能性がある「地震雲」が淡路島周辺に広がったとも判断し、合わせて予測の根拠とした。

 

 約1週間後の13日、淡路島付近を震源とするM6.3の地震が起きた。発表内容を知っていた関係者から「心の準備ができていたのでびっくりしなかった」(和歌山県の男性)と反響があったという。

 

 大気イオンは大気中で電気を運ぶ分子の粒。直下型地震につながる地殻変動があると、地中からラドンが放出されイオン化するという。1995年の阪神大震災では事前にラドン、2000年の鳥取県西部地震や01年の瀬戸内地震では事前に大気イオンが観測された。同研究会は04年、元岡山理科大教授の故弘原海(わだつみ)清氏らを中心に設立された。

 

 東日本大震災でも、地震予知のあり方が議論になった。同研究会の斉藤好晴・神奈川工科大非常勤講師は「科学に不可能はないという思いで活動している」と説明する。地震の前兆を研究する日置(へき)幸介・北海道大教授(地球物理学)は「(イオンによる地震予知は)まだ確立されていないが、観測データは参考になる。さまざまな手法を組み合わせ、今後の地震予知につなげる必要がある」と話している。【田所柳子】

これまた、的中率が示されていないので、たまたま当たった感が否めない。「大気イオン地震予測研究会」という団体はどれくらいの頻度で予知を行い、そのうち何%が当たったのだろう?「大気中のイオン濃度」としか書かれてなく、いったいなんのイオンなのかわからない点も「マイナスイオン」ぽくて胡散臭い。大手新聞が「地震雲」による予知なんかやってる連中のことを安易に記事にするべきではないだろう。

なお、「大気イオン地震予測研究会」から大気イオン濃度測定値の解釈や地震予測等を受け取るには会員になる必要があり、正会員になるには入会費1,000 円と年会費5,000 円が必要なようだ。

また、北海道大教授日置幸介氏に関しては以下のような報道がある。

東日本大震災発生の40分前、震源地上空の「電離層」の電子量に異常があったことが、北海道大学理学研究院の日置幸介教授(地球惑星物理学)の研究で分かった。スマトラ沖地震など、過去の大地震前にも同じ現象が確認され、地震予知に役立つ可能性が期待されている。

日置教授によると、地震後に大気中の電子の量が変動することは数年前から知られていたが、今回、地震前にも変動することが明らかになったという。

地上約300キロメートルの「電離層」の電子の量を、国土地理院の全地球測位システム(GPS)を使って解析したところ、地震発生40分前の2011年3月11日14時以降、震源となった三陸沖上空で、電子の量が平均して約1割増加していた。

過去の大地震も解析したところ、2010年2月のチリ地震(M8.8)では発生40分前から、スマトラ沖地震(M9.1)でも90分前から電子の増加が確認された。なぜこのような現象が起きるのか、詳しいメカニズムは明らかになっていない。

また、2003年9月に北海道で発生した十勝沖地震(M8.0)では電子の増加を確認することができなかった。「M8.2とか8.3でも、後から解析すると気づくというレベル。M9レベルでないと事前には気づくことはできない」とし、まだ予知の役に立つものではないとするが、

「今はGPS衛星を使って上空から見下ろして解析しているが、電子が増えるもともとの原因は地面にある。そのメカニズムを突き止めて地表で観測すれば、精度も上がるかも知れない。地震発生に電気が関わっていることは間違いない」

と話している。

ただし、『M8.2とか8.3でも、後から解析すると気づくというレベル」とのことなので、これは明らかな地震後知。M9レベルなら気づくというのは本当なのだろうか?この方法では今回の淡路島付近のM6.3の地震など到底予知できないと考えるべきだろう。

この記事には以下のようにFM波による予知も書かれてある。

北大の地震火山研究観測センターの森谷武男博士も地震発生前に、普段受信できないサービスエリア外のFM電波が強くなる「地震エコー」と呼ばれる現象を北海道で観測。2010年6月末から3月11日の地震発生までほぼ毎日続き、地震発生直後も再び確認された。森谷博士は、

「地震発生前に電場に変化が発生することでFM電波が散乱、反射している可能性がある。現在は、場所は特定できないものの、大きくて7.3程度の地震が起きるレベルだ」

と話す。今後福島県と群馬県内からも観測をするとしている。

前出の日置教授は、

「以前は結構いた地震予知の研究者も、阪神大震災でみんな挫折して辞めてしまった。最近も予知そのものが原理的に無理という風潮になっているが、地震の前兆だといえるデータを提示して、国土地理院や気象庁を動かしていきたい。資金が投入されれば、研究する人も増え、次につながることになる」

と前向きに話している。

日置氏の研究に関しては、以下のようにデータ解析のやり方に問題があるという指摘もある。

地震解析ラボ

「地震解析ラボ」の地震電磁気理論では以下のように説明されている。

学問的には地圏の効果がいかに大気圏や電離圏まで影響するかという問題が注目され、我々が提唱した「地圏・大気圏・電離圏統合」という言葉は地震電磁気分野で一般的な言葉として近年定着している。可能な結合機構は三つのチャネルが考えられる。(1)chemical channel、(2)acoustic channelと(3)electromagnetic channelである。

(1)の化学チャネルは地震の前に地下からのラドン放出等により大気の導電率が変化し、それに伴う大気電界の変調が電離層じょう乱を引き起こすものである。(2)の音響チャネルは大気振動(主としては大気重力波、大気音波)によるエネルギーの下部電離層への伝達によるもの。最後の(3)の電磁チャネルは電磁波による結合で、地震前兆の電磁波(ULF波等)による下部電離層の直接的加熱・電離やULF波が磁気圏へ侵入し内部放射帯プロトンと相互作用し、電離圏へ粒子を降下させるなどとするものである。第3チャネルは強度的に不十分であることを我々は既に示しており、第1のchemical channelと第2のacoustic channelについての考察が重要になると思われる。我々を含め世界各国にて精力的にこちらの機構の追究が行われている。

これによると、地圏の効果が大気圏や電離圏まで影響する可能な結合機構として、(1)chemical channel、(2)acoustic channelと(3)electromagnetic channelの三つのチャネルが考えられるらしい。そのうち3番目のチャネルは強度的に不十分とのこと。

2番目の音響チャネルも、どうやって大気振動(大気重力波、大気音波)が発生するのか、それが本当に下部電離層に影響を及ぼしているのか、この説明だけではよくわからない。結局、可能性としてはラドンの影響が一番有望ということなのだろう。

ラドンに関する似たような説明は地震雲についても主張されている。つまり、ラドンの出す電離放射線でイオンが生じ、これが核となって水滴ができ、雲が生じるというのである。しかし、地中から出てきたラドンが、雲や電離層に本当に影響を及ぼしているか確認したという研究は聞いたことがない。地中からのラドンの発生は昔から研究されているが、地震予知には結びついてはいない。

「技術の力」で予知できるのか?

東日本大震災のあとにこういう記事が出ることには本当にうんざりする。地震は「技術の力で予知できる」というのであれば、東日本大震災は予知できていたのだろうか?この記事に「東日本大震災」という言葉は2回登場するが、予知できていたかどうかは言及されていない。もし当てていたのならば、よい宣伝になるので書かないはずがない。ハズレだったと考えるのが妥当だろう。

科学的見地とデータ解析による地震予測データの提供を産学の連携により行なっているインフォメーションシステムズ株式会社が運営する「地震解析ラボ」の平井道夫氏は、「日本やアメリカでは、学会や行政が“地震予知学”という研究やその成果を認めておらず、あまり世の中に知られてはいない。しかし、大学などの研究室レベルにおける地震予知技術の研究はかなり進んでいる」と話す。

学会や行政が認めていないのは、単にそれだけの有意な成果を上げていないからだろう。基本的に学会やピア・レビュー制度抜きで科学は語れない。的中率が向上しているということを示さずに、「進歩している」とか「発展している」とか言うべきではない。

この記事で紹介されているのは、「電磁気現象変動調査による予知」と呼ばれる方法で、以下の3つの電波の変化を観測することによる地震予知だそうな。

  1. 電波時計などに使用されている「VLF」という電波の変化
  2. 地表に埋めたセンサーにより地面に生じたわずかな変化を捉える「ULF」という電波の変化
  3. 「GPS」による大気中の電波密度の変化

『「VLF」の観測では、地震が起きうる前では電磁波の作用などにより電離層の位置が下がる傾向にあり、電波の送受信にかかる時間の変化を捉えて異常を検知している』との説明があるが、なぜ「地震が起きうる前に電離層の位置が下がる傾向にある」のかの説明はないし、この方法でどれだけ当たるのかの記述もない。

要するにこれは、月額200円や500円で情報提供するオンラインサービスという商売の宣伝なのである。

この記事の筆者は、『「地震の予知」という迷信とも取れる分野の研究開発がここまで進化し、テクノロジーの力で科学的なデータを解析し、地震発生の兆候となる“変化”を捉えることに成功している』と納得してしまっているようだが、いくらハイテク機器を使っていたところで、偶然に当たる確率よりも的中率が高くなければ、それは占いと同じだ。どれだけよく当たるのか、具体的に示してもらわないと、納得はできない。

『地震予測情報は「外れても構わないが、当たったら(=地震が起きたら)大変だ」というアラートを提供してくれる』というだけで満足する人ならば、これでいいのかもしれないが、当たらなければ、それは予知ではない。

電気通信大名誉教授早川正士

ここまでデタラメな理論も珍しい。

 【早川氏の理論】 地震が起こる約1週間前、前兆現象として地殻のヒビ割れが起こる。このヒビが電磁波を発生させ、地球上空の電離層に作用する。電離層は通常、上空60キロメートル〜800キロメートルに存在するが、電磁波の影響を受けると地上に数キロメートル近づく。地上から送信される電波は電離層ではね返り、再び地上で受信されるため、異常があれば、電波の送受信がいつもより短時間で行われる。早川氏はこの現象に着目し、地震予測に活用。前兆現象としての地殻のヒビ割れは火山の噴火予測にも応用できるとしている。

約1週間前にヒビ割れができるという根拠は?地殻を見てきたのか?ヒビで電磁波が発生するのなら、その電磁波を直接観測すればいいだろう。なぜそれができないのか? 地中深くの震源で発生した電磁波が本当に電離層まで届くのか?

電磁波の影響を受けると電離層が地上に数キロメートル近づく?実際に距離を測ったのか?なぜ電磁波で電離層が近づくのだろう?

電磁波は光速で伝搬する。光速は秒速30万km。地上に電離層が3キロメートル近づいたとして、0.1ミリ秒程度しか短くならない。本当にいつもより短時間だと測定したのだろうか?

「地震解析ラボ」の所長である早川正士氏の予知方法について、ロバート・ゲラー氏は自著『日本人は知らない「地震予知」の正体』の中(p.139)で次のように批判している。

電磁気現象を観測する早川氏ら研究者たちは、阪神・淡路大震災の直前に異常な電波を観測したという。その電波が、震災の前兆だったというのだ。

 しかし、私に言わせればこれもまた問題がある。まず観測された「異常さ」の統計的な解析結果を、彼らは公表していない。さらにその「異常」が、地上でしばしば観測される電磁気現象(たとえば雷や太陽のフレア現象)ではないとは断定できないのだ。

 仮に電磁気現象と地震の因果関係が断定できたとしても、なぜ地震の発生時刻にその「異常」がおきないのか、という素朴な疑問が説明できない。さらに、500キロ以上も離れた場所での「異常」がなぜ地震と結びつけられるのか、物理的因果関係も明らかにされていない。ツッコミどころ満載である。

この中で一番問題なのは、やはり「統計的な解析結果を公表していない」という点だろう。それでは、その現象が本当に前兆なのかどうかも怪しい。また、もし仮に地震が本当に電離層に異常を起こすとしても、それがなぜ(都合よく)地震の前なのか、なぜ地震と同時やその後ではないのか、説明はつかない。地震で最大のエネルギーが放出されるのは、その瞬間であろうから、地震の後よりも前に異常が発生すると考えるのは、因果律的にちょっと不自然である。また、これだけでは『500キロ以上も離れた場所』がどこを指しているのかよくわからないが、電離層のF2層のことを言っているのであろうか?

横浜地球物理学研究所による批判

串田嘉男氏の「地震予報」

デタラメな地震予知本ばかりの中で、この本はしっかり書かれてある。科学的なアプローチで、「VHF電波を用いた電離層観測による地震前兆検知」という独創的なテーマに取り組んでいる。もし、これが成功していれば、アマチュア研究家の歴史的大発見となっただろう。

しかし、本書の発行から10年以上が経つ。串田氏がめざした「地震予報」は、いまだ実現できていない。

この本の宣伝の謳い文句によると、「マグニチュード5以上の地震発生を、九割以上の確率で予測」とのことだが、この数字はちょっと信じがたい。いったいどういう根拠に基づいて算出されたのだろうか?

194ページからの図6−2には「1997年〜1999年期間の地震発生予測結果」としてM5以上の予測結果に限って「簡単に」まとめてある。これを見ると、44例中予測がハズレたのは4例のみであり、たしかに9割当たっているということになる。しかし、この表にはおかしな点がある。ハズレた4例中3つが予測していなかったにもかかわらず起こった地震であり、予測したのにハズレたのは、備考欄に「サイレント地震のはず。未発表」と書かれた1例のみなのである。つまり、予期せずして起こった地震については正直に記入されているが、予測したのにハズレた場合は記入していないのではないか?という疑惑が浮上する。予知や予言の研究には当たりだけでなくハズレもカウントするのが鉄則である。そうでなければ、正確な的中率はもとまらない。

また、『日本人は知らない「地震予知」の正体』(p.124)によると、「週刊現代」(95年12月23日号)の「地震予知はここまでできる―超ハイテク・システムから脳波まで使って巨大地震を読む」という特集記事に串田氏が登場し、見出しには「アンテナの向いているエリアなら90%予知できます」とあったそうだ。1997〜99年のデータ以前に的中率が9割に達していたようだが、これはどのように算出したのだろう?

仮に本当に9割当たっていたとすると、もう1990年代後半に「地震予報」はほぼ完成しており、2011年にはある程度実用化されていてもおかしくはないだろう。しかし、串田氏が東日本大震災を予測したという話は聞かない。「9割」という数字にはなんらかのトリックがあると考えるべきだろう。

227ページの記述によると、1995年8月から公開実験によるFAXを平均で2〜3日に一枚配信していたとのこと。これはかなり多くの予知をしていたということであり、ハズレた予想はもっとあったのではなかろうか?ハズレを除外しているのであれば、それは的中率ではない

またハズレた串田氏の予報

  • 「「12/29ころ琵琶湖周辺でM7.8地震の可能性」と警告する「FM電波」地震予報家」 Friday、2012年12月28日号、p.74-77

この記事で串田氏は3.11を予報できなかった理由を以下のように述べている。

「ちゃんと3・11の前兆は出ていたんです。なのに、私はそれを別の前兆と混同してしまった。気付いたときには、もう手遅れ。自分の間抜けさに嫌気がさし、死刑にされても仕方ないとまで思い詰めた。なぜ3・11の前兆を混同してしまったのか?3年近く続いていた異常な前兆があまりに目立っていたからです」

この異常な前兆とは'08年7月から始まって3・11後も継続しているとのこと。そして、この異様な長さの前兆が12・29の近畿地震を示しているそうな。

串田氏はこの予報について以下のように述べている。

「もう少し進展を見ないことには、はっきりしたことは言えません。もしかすると、12月29日に、別の前兆が出て、発震が先送りになる可能性だって否定できません。何せ前例のない前兆ですから。ただ、推定によると、少なくとも25日以前に近畿での想定地震は起こらないということは確実にいえます。それまでは安心できると思います」

今のところ、近畿でM7.8の地震は起こっていない。別の前兆が出て先送りになったのだろうか?

この記事の(図2)を見ると、この前兆による地震予報は何度か行われている。地震発生の1次推定は2010年9/3、2次推定は2011年6/3、3次推定は2012年5/14となっており、12/29の予報も入れると、この前兆だけで4回ハズレたことになる。まとめると、以下のように串田氏の主張はかなりおかしい。

  1. なぜか3/11のハズレを入れていない。2011年6/3は3ヶ月ずれているので、別の予報と考えるべきだろう。よって、実は合計5回ハズレている。
  2. 予報がハズレると「前兆はまだ続いている」と言いはっているように見える。この方法ならば、予報がハズレても地震が起こるまで待ち続ければ、当たったことにできる
  3. 琵琶湖周辺と3/11の東北太平洋沖とはまったく場所が違う。どうして「混同してしまった」のだろう?
  4. よって、「ちゃんと3・11の前兆は出ていたんです」という主張はまったく信用できない3/11の前兆などなかったと考えるのが妥当だろう。

前兆は続くよ、いつまでも

「フライデー」平成25年5月10・17日号の記事『「富士山噴火」「琵琶湖地震」覚悟しておくほうがいい』(p.18-21)で、串田氏は以下のように述べでいる。

3月末から4月初めにかけて、各地のFMラジオ局からの電波の受信度合いを測っている複数のグラフで前兆が終息しました。このままいけば、早ければ4月29日、遅くともそれから1〜2週間のうちには大地震が発生します。規模はM7.9+−0.5。発生時間は午前9時+−2時間です。場所は前回の予想より少し東に広がっていますが、基本的には琵琶湖周辺を中心とする近畿地方です。

注意していただきたいのは、今回の前兆はこれまでにないものだということです。また新たな前兆が現れるかもしれません。そうなったら、極大を推定し直す必要が生じます。

 「近畿圏でM7・9以上の揺れの兆候がみられる。早ければ9月6日の前後1日、5日から7日にかけて地中浅い場所での地殻地震、つまり直下型地震が発生するかもしれない」

 

 こう警告するのは、山梨県八ヶ岳南麓天文台の台長、串田嘉男氏(55)だ。

 「実は、この前兆現象を初めて観測したのは08年7月初旬。これまでは、1つの地震に極大変動も1つなのが典型的なパターンだった。ところが、今回の前兆に関しては、複数の極大が現れたり収束したりを繰り返している。前例のない特殊な前兆現象が5年以上も続いている」(串田氏)

 

 推定される震源域は、近畿2府5県に加えて三重、愛知両県の広い範囲にまたがる。

「5年以上も続く前兆」って、本当に前兆なのか?9月6日に地震が起こらなければ、この予知で串田氏は合計6回ハズしたことになる。

 これまでの観測の結果、8月30日時点で9月6日を中心とした前後1日に近畿圏でマグニチュード(M)7・9以上の直下型地震が起きる可能性があると予測し、本紙も8月31日発行の紙面で伝えた。

 

 その後、串田氏が継続してデータを分析したところ、9月2日夕現在、「9月5〜6日は発生時期ではなく、今月下旬以前の発生の可能性はない」と結論づけたという。

その他

ここでは串田氏の著書『地震予報』(PHP新書)を酷評している。『アマチュアの方ですので厳しい言い方はしたくありませんが』としているが、串田氏はアマチュア天文家としても有名であり、科学的方法論にもたけているはずである。それでも主観(バイアス)には勝てなかったということなのだろう。

その他

 注目されているのは、これまでいくつもの地震を事前に予測し、的中させているからだ。1月の「北海道北西沖地震」(M6)や、2月の「台湾南部地震」(M6.6)を的中させたほか、今回の熊本地震についても4月9日に「3日以内に南日本でM6.3の地震が起きる」と指摘していた。その研究所が19日に更新したブログで「北九州市」を挙げて「3日以内にM8」と予測したから恐ろしい。

「研究所は観測している電磁波を基に、台湾や日本などで起きる可能性のある地震の予測地や時期を公表しています。ブログ開設者は地元テレビ局のインタビューにも出演しています」(経済紙記者)

熊本地震が発生してまだあまり時も経っていないというのに、さっそくこれだ。「北九州市」を挙げて「3日以内にM8」とのことなので、よく覚えておこう。