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動物とホメオパシー

ホメオパシー

  • 動物とホメオパシー

日本においては、日本獣医師会と日本獣医学会が2010年8月のホメオパシーに関する日本学術会議会長の談話に賛同している。

獣医療における「ホメオパシー」対応の考え方

今般、日本学術会議(会長:金澤一郎)から、8 月 24 日付けで、「ホメオパシー」の科学及び医療・歯科医療・獣医療現場での対応、その治療効果等について、次の会長談話が発表されたところです。

 動物の診療は、獣医学に立脚してこそ適切な提供が確保されるものであります。日本獣医師会及び日本獣医学会としても日本学術会議声明に賛意を表するところです。

獣医学的なホメオパシーの終焉

タイトルを見るとわかるように、この記事は2005年のランセットの記事「The end of homeopathy」(ホメオパシーの終焉)を意識したものだ。

この記事によると、2005年10月にヨーロッパ獣医師連合会(FVE)が発表した指針文書(FVE's strategy 2006-2010、pdfファイル)には、獣医業は科学と証拠に基づいた獣医学に根差すという一文がある。 さらに、この文書の解説論考では、証拠に基づかないホメオパシーのような薬を、FVEは拒否すると明言している。

2005年の始めに、獣医学専門ヨーロッパ委員会(EBVS)は、代替医療に関しての明瞭な声明を発表し、動物福祉法を遵守している科学的で証拠に基づいた獣医学のみをEBVSは認めるとした。専門家や大学が有効性が証明されていない怪しい療法を実践・支援することは、その専門的な地位を取り消されるリスクを負う。 いわゆるサプリメント的、補完的、代替的な治療の教育や訓練に対して認可できる単位は無い。

2006年10月にオランダ王国獣医会議の総会は、ホメオパシーを用いて仕事をする獣医師のグループの公式な地位を打ち切ることに同意した。

この記事では、ホメオパシーにはなにも臨床的な利点がないため、『カーテンは下ろされた』と表現している。そして、『動物達は効果のある治療を受ける権利がある』として記事を締めくくっている。

その他

ここでは、ホメオパシーのノソード(動物の病理学組織を原料とする)が対象となるようだ。

最近ではなんとホメオパシー関係団体のメンバーが犬の飼い主に対し、狂犬病の予防接種を拒否してレメディを投与するよう薦める動きが出ているというのです。

日本では1950年に狂犬病予防法が制定され、飼い犬に狂犬病の予防接種を投与することが犬の飼い主に義務付けられました。狂犬病は感染した犬やその他の動物に噛まれることで人間にも感染し、発症した場合の治療法は確立されておらず致死率はほぼ100%とされています。1956年を最後に日本では人間も犬も発症例は確認されていませんが(海外で感染した3例を除く)、流行地域から日本へ持ち込まれた犬やハムスターなどを経由して感染するおそれは常に存在しています。

 

正当な理由無く予防接種を行わなかった場合は狂犬病予防法や家畜伝染病予防法に基づき飼い主に20万円以下の罰金が命じられ、ペットは例外無く殺処分されます。犬は自由に飼い主を選べるわけではありません。飼い主の不安に付け込んで薦められたホメオパシーが原因で犬も飼い主も不幸になったということが無いよう、飼い犬には予防接種を必ず受けさせるようにしましょう。

牛については、以下のブログエントリを参照のこと。

牛の乳腺炎へのホメオパシーの効果についてはよく調べられており、以下のような総説もある。

Management of mastitis on organic and conventional dairy farms

(有機または従来型の酪農場での乳腺炎の管理) P. L. Ruegg, J. Anim Sci. 1910. doi:10.2527/jas.2008-1217

この総説のホメオパシーに関する部分(21ページより)には、以下のような研究報告がまとめられている。

  • 「An alternative treatment trial for Staphylococcus aureus mastitis in organically managed dairy cattle」 Tikofsky, L. L., and R. N. Zadoks, Pages 358-363 in Mastitis in dairy production: current knowledge and future solutions, Proc. 4th Intl. Mastitis Conf. Maastricht, The Netherlands. June 2005. H. Hogeveen ed.

無症候性乳腺内感染について、ホメオパシーを含む混合療法の小規模なランダム化比較臨床試験が行われたが、細菌学的治癒率またはSCC(乳中の体細胞数、somatic cell count)において有意な治療効果は報告されていない。

アイルランドでの泌乳牛に対する12ヶ月間にわたるホメオパシー・ノソード(病理学標本を原料とするレメディ、nosode)のプラセボ対照試験では、ホメオパシー群で39%、プラセボ群で35%の牛にそれぞれ臨床型乳房炎が発症し、分房(複数ある乳房の個々のもの)から病原菌が単離された頻度に有意差は無かった。

39の群れから選ばれた57頭の牛について、ホメオパシー、プラセボ、抗生物質による治療の有効性を、様々な結果判定法によって比較したランダム化臨床試験が行われた。細菌学的反応とともに、明確な採点システムを用いて、治療後の臨床症状の短期的変化(0〜7日)と、長期的(28日以内)な慢性変化を評価した。サンプルサイズは小さく、全ての治療について全般的に、長期的な結果は比較的脆弱なものであった。ホメオパシー療法がプラセボよりも有意であるという証拠はどの期間でも薄弱であった。

市販のホメオパシー・ノソードがSCCへ影響を及ぼす効果を、単一の乳牛群にいるHolstein- Friesian牛152頭について評価した。ノソードまたは対照溶液が、3日間にわたり1日2回、陰門の粘膜上に局所的に投与された。28日間の追跡期間にわたってSCCの日間変動に有意差はあったものの、治療に基づく有意差は観察されなかった。

獣医学的ホメオパシーについての有効なデータはほぼ完全に欠けているように見受けられる。最近の批判的総説では、『子牛下痢、乳中の体細胞数、牛乳房炎、およびイヌアトピー性皮膚炎を含む、獣医学的によくデザインされた少数の試験においても、ホメオパシーの有意性を示すことができなかった』とされている。

科学的な根拠が欠けているにもかかわらず、ヨーロッパの生産者は、科学的な根拠や獣医学の専門家による肯認よりも、個人的体験を重視し、これに基づいてホメオパシーを選択している。

ホメオパシーは抗生物質と同程度に効かない?

上述のように、総合的に見ると、ホメオパシーが牛の乳腺炎に効くという根拠はないようだ。

それでも、ホメオパスのDana Ullmanらは、以下の論文を根拠に、ホメオパシーが乳腺炎に対して抗生物質と同程度に効くと主張していたりなんかする。しかし、この主張も根拠薄弱なものである。

この論文の要旨は次のようになっている。

この臨床比較試験の目的は、軽度から中程度の牛の臨床的乳腺炎の事例での、クラシカル・ホメオパシー療法の効果を、抗生物質および偽薬による治療と比較検討することである。 選別した群れの特徴のため、環境からの病原体に起因し、前処理乳試料が細菌学的に陰性であった臨床的乳腺炎の結果のみがこの試験に含まれている。 ドイツにある4つの農場から147の罹患した分房のある全136頭の授乳期の乳牛がランダムに3つの治療群に割り振られた。

臨床的兆候を評価するため、初感染から0, 1, 2, 7, 14, 28, 56日後に牛達を調べた。1日目と2日目を除き、細菌学的および細胞学的な治癒率評価のため、臨床検査(細菌検査、体細胞数計測)への房乳試料を、いっせいに集めた。 28日後と56日後において、微生物陰性の事例(n=56)での臨床結果および全治癒率については、治療戦略に有意な差は無かった。 病原体陽性の乳腺炎の事例(n=91)では、4週後と8週後の治癒率は2つの治療戦略間で同様であったが、56日後でのホメオパシーと偽薬による治療の間には有意差(P<0.05)があった。

この結果は、軽度から中程度の臨床的乳腺炎のケースでは、ホメオパシーによる治療効果を示唆している。 しかしながら、治療法と微生物的な状態に関わらず、全体の治癒率は低く、抗生物質とホメオパシーによる治療の両方の効果に限界があることが明かとなった。

(読みやすいように3分割してある)

ここには『全体の治癒率は低く、抗生物質とホメオパシーによる治療の両方の効果に限界がある』と書かれてある。つまり、ホメオパシーが抗生物質と同程度に効いたというのではなく、同程度に効かなかったというのが、この論文の結論なのである。これはいったいどういうことなのだろうか?

論文の要旨によると、意図的な感染から0, 1, 2, 7, 14, 28 および 56日後に検査が行われたにもかかわらず、プラセボとの有意差があったのは56日後の「病原体陽性の乳腺炎の事例」のみである。これでは有意差の根拠として薄弱なのではないか?

抗生物質を使ったグループについても、プラセボと有意差がほとんどなかったということは、杜撰な治療を行ったのではないか?という疑念を抱かせる。デタラメな治療であればあるほど、ホメオパシーと同程度な効果しかないだろう。

上記のQuackometerブログのLe Canard Noir氏によると、乳腺炎は制御するのが難しい問題であり、感染の影響を最小限にとどめるには、本当に「ホリスティック」(総合的)な治療が要求される、とのこと。抗生物質の使用はその一部であるが、適切な衛生管理、餌やり、群れの管理も必要である。

抗生物質耐性が問題であるかもしれず、慢性的な感染症を患う牛がいた場合には、これが他の牛達に再感染し得る。抗生物質の単純な使用だけでは不十分だった可能性がある。

試験期間中に、群れの適切な管理制御が施されていない場合、抗生物質使用群がプラセボ群よりも良くなかったことは、たいした驚きではない。 よって、この試験から言えることは、ホメオパシーは効果の無い治療計画と同程度だということぐらいだろう。

その他