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WEBRONZAの「牛にもホメオパシー」

ホメオパシー


この記事のタイトルを見て「馬の耳に念仏」という諺を思い出した人も多いのではないだろうか。この記事によると、スイスでのホメオパシー薬の年間消費額は50〜58億円とのことなので、ただの砂糖玉や水でこんなに儲かるとは、いかにぼろい商売であるかがわかる。

ADHDに対して治療効果はない

さらにこの記事によると、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の子ども(6〜16歳)62人を対象にした二重盲検試験で、ホメオパシー薬が症状のいくつかを顕著に改善させたとのこと。しかし、この記述は誇張されたものだという以下のような批判が浮上した。

WEBRONZAで紹介されているのは、おそらく以下の論文。

Mochimasa氏が紹介しているこの論文への批判的な「編集者への手紙」は以下の論文。

ホメオパシーによるADHD治療に関する系統的レビューとして紹介されているのは、以下の論文。

この論文の結論は以下のようなものであり、ホメオパシーの使用を推奨してはいない。

児童期・青年期病へのホメオパシーに関するいかなるタイプの療法や予防処置についても、厳格な臨床試験からの証拠は、どんな状態についても推奨するには十分に納得できるものではない。

以下のようにコクラン・レビューも、ホメオパシーはADHDに対して有意な治療効果はないとしている。

その後のWEBRONZAの対応

以上のような批判を受け、WebRonzaに以下の記事が掲載された。

とくに菊池誠教授は「牛にもホメオパシー」の記事を以下のように厳しく批判している。

しかし、「子どものADHDの症状をのいくつかをホメオパシー薬が顕著に改善させたという二重盲検法の結果」なるものをこうまで気軽に紹介されてはやはり困る。わずかにであれホメオパシーがADHDに有効という主張がいかに踏み込んだものであるかは、ホメオパシー問題に注目してきたかたならおわかりだろう。

 

まして「顕著」となると仰天の主張である。これは「ちょっとしたいい話」というレベルのものではないので、慎重の上にも慎重な態度が必要とされる話題だったはずだ。実際に子どものADHDで悩んでおられるかたがたにホメオパシーに対するありもしない期待を与えかねないこのような記事を軽々しく書くべきではないし、掲載すべきではない。

以下のリンクも参照。

2011年2月

さらにその後、「ホメオパシーがADHDに有効である」という間違った記事内容を訂正しないWebRonzaに対して、ツイッター等で批判が噴出したが、2011年2月現在いまだ訂正されていない

2011年8月

スイスのホメオパシー

なお、スイスでは以下のような事情があるらしい。

スイスには、日本のように公的機関が運営している国民健康保険がなく、民間会社の基本健康保険に入ることが義務化されています。我が家では毎月7万円近くの健康保険料を支払っています。健康保険の掛け金が多ければ多いほど、医療にかかったときの自己負担額は減るのですが、それにしても医療費が高い! 先日も、海斗の検診と予防接種を1本受けにいっただけで、22000円もかかりました。日本では考えられないことですよね。

 

そのせいか、スイスでは代替医療がとても発達しています。とくにホメオパシーはどこの薬局でも購入できるほどなんです。先日も、海斗が公園で転んで泣いていたら、そばにいた婦人が、「これを塗ってあげなさい」とARNICAのクリームをさっと差し出してくれました。

また、WEBRONZAの記事を書いた岩澤里美氏は同じ「せかいの子育て研究所」で以下のような記事を書いており、もともとホメオパシーに肯定的だったことがわかる。

牛にもホメオパシーは効かない

  • 牛のためのホメオパシー」 クリストファー・デイ (著), 由井 寅子 (監修), 塚田 幸三 (翻訳), ホメオパシー出版 (2008/3/10)

こんな本もあったりなんかするが、ホメオパシーは本当に牛に効くのだろうか? これに関しては、以下のブログエントリが詳しいので参照のこと。なお、ここではその概要を述べておく。

牛の乳腺炎へのホメオパシーの効果についてはよく調べられており、以下のような総説もある。

Management of mastitis on organic and conventional dairy farms

(有機または従来型の酪農場での乳腺炎の管理) P. L. Ruegg, J. Anim Sci. 1910. doi:10.2527/jas.2008-1217

この総説のホメオパシーに関する部分(21ページより)には、以下のような研究報告がまとめられている。

  • 無症候性乳腺内感染について、ホメオパシーを含む混合療法の小規模なランダム化比較臨床試験が行われたが、細菌学的治癒率またはSCC(乳中の体細胞数、somatic cell count)において有意な治療効果は報告されていない。 (Tikofsky and Zadoks, 2005年)
  • アイルランドでの泌乳牛に対する12ヶ月間にわたるホメオパシー・ノソード(病理学標本を原料とするレメディ、nosode)のプラセボ対照試験では、ホメオパシー群で39%、プラセボ群で35%の牛にそれぞれ臨床型乳房炎が発症し、分房(複数ある乳房の個々のもの)から病原菌が単離された頻度に有意差は無かった。 (Egan, 1998年)
  • 39の群れから選ばれた57頭の牛について、ホメオパシー、プラセボ、抗生物質による治療の有効性を、様々な結果判定法によって比較したランダム化臨床試験が行われた。細菌学的反応とともに、明確な採点システムを用いて、治療後の臨床症状の短期的変化(0〜7日)と、長期的(28日以内)な慢性変化を評価した。サンプルサイズは小さく、全ての治療について全般的に、長期的な結果は比較的脆弱なものであった。ホメオパシー療法がプラセボよりも有意であるという証拠はどの期間でも薄弱であった。 (Hektoen et al. 2004)
  • 市販のホメオパシー・ノソードがSCCへ影響を及ぼす効果を、単一の乳牛群にいるHolstein- Friesian牛152頭について評価した。ノソードまたは対照溶液が、3日間にわたり1日2回、陰門の粘膜上に局所的に投与された。28日間の追跡期間にわたってSCCの日間変動に有意差はあったものの、治療に基づく有意差は観察されなかった。 (Holmes et al., 2005)
  • 獣医学的ホメオパシーについての有効なデータはほぼ完全に欠けているように見受けられる。最近の批判的総説では、『子牛下痢、乳中の体細胞数、牛乳房炎、およびイヌアトピー性皮膚炎を含む、獣医学的によくデザインされた少数の試験においても、ホメオパシーの有意性を示すことができなかった』とされている。(Rijnberk and Ramley, 2007)
  • 科学的な根拠が欠けているにもかかわらず、ヨーロッパの生産者は、科学的な根拠や獣医学の専門家による肯認よりも、個人的体験を重視し、これに基づいてホメオパシーを選択している。(Hektoen, 2004)

動物とホメオパシー」も参照。