WTC7の倒壊 (911陰謀論)
ツインタワーが倒壊して約7時間後(午後5時20分)、旅客機が突入してもいないWTC7(7 World Trade Center、7 WTC、WTC第7ビル)が倒壊した。この建物にはシークレットサービスやCIAの事務所が入っていたため、陰謀論者によると、この建物こそ証拠隠滅のために破壊されねばならなかった。さらに、WCT7にはツインタワー破壊のための司令室がおかれていたという陰謀論もある。
なお、事前に避難勧告が出ていたので、WTC7の倒壊による犠牲者はいない。
関連リンク
WTC7にまつわる陰謀論のデバンキングは以下のページが詳しい。
- 「WTC7 and Silverstein」:911Myths... Reading between the lies
- 「WTC 7」:Debunking 9/11 Conspiracy theories and Controlled Demolition Myths
- 「WTC 7 South Side」:同上
- 「7 World Trade Center」:Debunk 911 Myths
- 「World Trade Center Building 7 and the Lies of the "9/11 Truth Movement"」 Mark Robertsのサイト
- 「WTC 7」 Screw Loose Change, Saturday, June 17, 2006
NISTの最終報告書
2008年11月20日、WTC7に関するNISTの最終報告書「NIST NCSTAR 1A: Final Report on the Collapse of World Trade Center Building 7」(pdfファイル、9.7MB)が発表された。
- 「NIST Releases Final WTC 7 Investigation Report」:NISTのニュースリリース(2008年11月20日)
- 「NIST WTC 7 Investigation Finds Building Fires Caused Collapse」:NISTのニュースリリース(2008年8月21日)
- 「Questions and Answers about the NIST WTC 7 Investigation」:WTC7崩壊に関するFAQ。
- 「NIST Video」:WTC7崩壊に関する解説ビデオとシミュレーションによるCG動画あり。
これまでに高層建築物が火災のみで崩壊したことはなかったが、47階建てのWTC7ではそうした崩壊が実際に起こったとNISTの研究者は考えており、これを「火災による進行性崩壊」と呼んでいる。
WTC7はツインタワーから約120メートルの距離にあるが、WTC1、2の高さは400メートル以上ある。WTC7がどれだけツインタワーの近くに建っていたかを実感できる写真を以下のサイトで見ることができる。WTC1倒壊の際に無傷だったとは考えにくい。
- 「WTC 7 Collapse」:Popular Mechanics
- 「WTC7 Damage」:911Myths... Reading between the lies
2010年2月にABCニュースが情報公開法(FOIA)により入手した写真にも、WTC1の倒壊時に、その塵煙に飲み込まれるWTC7の様子が映っているものが含まれる。以下のリンクの3〜5枚目の写真を参照。(関連文献26、27)
- 「NYPD World Trade Center 9/11 Aerial Photos」 NYPD releases new World Trade Center 9/11 aerials, ABC News
WTC7はただ煙の中に建っていただけではなく、WTC1の崩壊時に発生した破片に直撃されているのだ。Wikipediaの「Image:Wtc7 collapse progression.png」の図面で、WTC7が受けたとされる損傷の規模が示されている。しかし、NISTの報告書は、こうした損傷よりも、その後発生した火災がWTC7崩壊の直接の原因だとしている。WTC7の火災の様子は「911Myths...」の「WTC7 Fire」などで見ることができる。
破片の衝突後、WTC7の10階に火災が発生したが、ツインタワーの崩壊により市の水道本管が破壊され、20階から下のスプリンクラーが稼働しなかった。水道管の破壊のため、消防隊による消火活動もできなかったことが、「911Myths...」の「WTC7 Water Supply」に述べられている。水ならハドソン川にいくらでもあると述べる陰謀論者もいるが、World Financial Centerをはさみ、直線距離にして300m以上離れているので、そこから水を供給するのは無理だったのだろう。(実際に、消防艇を使った消火を行おうとはしたらしい) 消防隊が故意に消火活動を怠ったというのであれば、ニューヨーク市消防署(FDNY)も陰謀に加担していたことになる。
WTC7の火災は7時間にわたり燃え続け、その熱のせいで建物の横材が膨張し、接続部分や床が破壊した。まず、支柱79が歪曲し倒れて破壊が垂直に進行、その後、その他の内部支柱も連鎖的に倒れていった。そして、最終的に建物の外壁も崩壊した。
WTC7にはディーゼル燃料で動く3つの独立した非常用発電機があったが、NISTはこれらの燃料は建物の倒壊には関与していないとしている。これらの発電機システムには、積み下ろし場の下に12,000ガロンのタンクと2つの6,000ガロンのタンクがあり、1階に6,000ガロンのタンクが1つあった。さらに、275ガロンのタンクが5、7、8階に1つづつ、50ガロンのタンクが9階にあった。
WTC7崩壊の数ヶ月後、地下の23,000ガロンの燃料が燃えずに見つかっている。 最悪のシナリオとして、その他の地上のすべてのタンクが満タンで、その燃料がすべて燃えてしまった場合を考えても、それらの燃料はすぐ燃え尽き、支柱の破壊には直接貢献しなかった。つまり、7時間のあいだ燃え続けた火災は、おもに建物内のその他の可燃物によるものだった。
NISTのWTC7に関する報告書の簡単な紹介は「日経アーキテクチュア」(2008年10月27日号)の技術フォーカス(p.82〜83)に掲載されている。(文献23)
TechnoBahnの記事(2008/8/25 18:57)
こうしたNISTの発表を受けて、TechnoBahnの記事「9.11テロ事件、ナゾのWTC7崩壊で7年ぶりに公式調査報告書」(文献7)では、以下の2点の理由を挙げて、米国内では改めて「様々な憶測が飛び交う状況となっている」としている。
- WTC7に隣接していたベリゾン(Verizon)ビルと米郵政省(US Post Office)ビルは無傷の状態だった。
- 事故原因の調査報告書が発表されるまでに7年もの歳月が必要となったこと自体が、このWTC7の崩壊が他のビル崩壊とは根本的に異なっていたことを物語っている。
ただし、これらのビルが「無傷」だったというのは言いすぎだろう。「Verizon Building」の南側と東側の面は、WTC7とツインタワーの崩落により大きく破壊されたが、火災は発生しなかった。(文献9、10) ベリゾンビルの外面は、古いデザインの重厚な石造建築だったので、れんがやコンクリートなどで鉄筋が覆われていた。破片の衝突により建物は大きく破壊されたが、この石造建築によって守られていた。(文献11) 「90 Church Street Station Post Office building」は大きな被害は免れ、2004年8月には業務を再開した。(文献12、13)
また、NISTのFAQによると、WTCの調査は2002年8月に始まったが、まずツインタワーに関する調査が優先され、そのドラフトが発表されたのは2005年9月のことである。その後、WTC7の調査が行われたので、実質的に調査にかかったのは約3年間であり、これは一般的な航空機事故の調査として特に長くはない。
Structure Magazineの論文
「Debunking 9/11」の「WTC 7」によると、Structure MagazineにWTC7崩壊に関する論文「Single Point of Failure」(文献2)が発表されている。この論文の結論で述べられているWTC7崩壊過程の仮説はつぎのようなものであり、NISTの報告と大差はないようだ。
- WTC1とWTC2の崩壊による破片の激突と火災で、損傷が生じた。
- とくに建物の東側の鉄骨の強度が、火災によって顕著に弱められ、1つ以上の支柱が損傷した。東側のペントハウスが沈み込んだことがこれの論拠であり、損傷が下階から垂直に屋上のペントハウスまで進行したことを示している。
- 西側のペントハウスの沈降と同様に、東側のペントハウスから建物の中心に向かう明らかな湾曲のシフトは、その後崩壊が横方向に進行したことを示唆している。東側に局在していた支柱の損傷が5〜7階の構造を通じて伝達していった。
- 最終的な結果として、建物は全壊した。
防衛大学耐衝撃工学研究室の研究
WTC7倒壊に関しては、日本でも研究されている。たとえば、「世界貿易センター(WTC)の崩壊にともなう周辺建物の崩壊に関する考察」(文献24)によると、防衛大学耐衝撃工学研究室ではツインタワー崩落が周辺のビルに与えたダメージが研究されている。WTC7は1階部分の柱が圧壊しており、その原因としてツインタワー崩壊にともなう地盤の振動の影響が考えられた。
そこで、防衛大学の高さ50メートルの給水塔中に設置された落錘式大型衝撃試験装置を用いて、この仮説の検証実験が行われた。この試験装置は世界最大規模のものであり、最高で3トンの重錘を28メートルの場所からガイドレール沿いに、最大衝突速度秒速24メートル(時速84キロ)で落下させることができる。
モルタル板製のビル模型に対して、重さ1トンの重錘を秒速4メートルの衝突速度で落下させる1/100スケールのモデル実験が行われた。この実験によれば、実際のWTC7では約10 Gもの加速度が10秒間続いていたことになる。阪神大震災で記録された最大加速度は1 Gにも満たなかった。つまり、この大きな縦振動によりWTC7の一階部分が崩壊したことが十分に考えられる結果となった。
BBCの報道は誤報
WTC7に関して陰謀論者が好んで参照する動画として、WTC7が倒壊する約20分前に、イギリスのBBC(英国放送協会)が「WTC7が倒壊した」と報道したニュースがある。たとえば、YouTubeの「BBC News Report about WTC 7 collapse is a hoax」でこのニュース画像を見ることができる。(文献3) 陰謀論者によれば、これはBBCに勤めるユダヤ人には、WTC7が倒壊することが事前に知らされていたことの証拠である。
しかし、単なる誤報と考えるのが合理的だろう。こうしたニュースは現場からの速報なので、情報が混乱していてもおかしくない。ウィキペディアの「アメリカ同時多発テロ事件」の項目によると、当時ほかにも以下のような誤報があったそうだ。
- ハイジャックされた飛行機の便名・航空会社の取り違え(12日未明に確定)
- 被害者は6名死亡・約1000名負傷(1993年の爆破事件の数字。ビルの崩壊後「数千人の可能性」に)
- DFLP=パレスチナ解放民主戦線が関与(数十分後、ダマスカスの本部でスポークスマンが否定と報道)
- 国務省で自動車爆弾爆発(誤報。被害なし)
- ホワイトハウス、連邦議会付近で爆発(誤報。いずれも被害なし)
- ペンシルベニア州で墜落した飛行機はボーイング747(誤報。ボーイング757)
- 11機の旅客機がハイジャックされ、数機が行方不明(誤報。4機以外にハイジャック機は存在しない。全米に飛行禁止令が出された後も連絡が行き届かず、飛行を続けていた航空機が11機存在したことによる。ユナイテッド93でも描写されている)
- ハイジャック機がキャンプ・デービッドに向かっている。その後の報道でキャンプ・デービッドに墜落した(誤報)
BBCのWTC7に関する報道も、こうしたリストに加えられるべきものの1つなのだろう。報道をよく見てみると、局のアナウンサーはWTC7のことを「ソロモン・ブラザーズ(Salomon Brothers)・ビルディング」と呼んでいる。現場にいるレポーターのJane Standleyは振り返ってまったく見当違いの(煙の立ち昇っている)方向を指さしている。このことから、彼女もスタジオのアナウンサーも、「ソロモン・ブラザーズ・ビルディング」がどの建物か、わかっていなかったことがわかる。(Standley自身は一度も「ソロモン・ブラザーズ・ビルディング」とは言ってはいないようだ) この件に関しては「分解 『911 ボーイングを捜せ』」の「BBC の誤報」に詳しい記述がある。「ソロモン・ブラザーズ・ビルディング」はWTC7の呼称としてはあまり一般的ではなかったらしい。
また、BBC側の主張は以下のページで読むことができる。
- 「Part of the conspiracy?」 Richard Porter, 27 Feb 07, 05:12 PM
- 「Part of the conspiracy? (2)」 Richard Porter, 2 Mar 07, 04:43 PM
これによると、CNNでは午後4時15分に「我々は別の建物…ビルディング7…に火災が発生し、倒壊したか倒壊しているという情報を得ています…現在、そこに火災が発生しており、その建物も崩壊するかもしれないと聞いています」と報道している。そのあとのインタビューで、ある上級消防官が、建物に「ふくらみ」が生じており「じきに崩壊するだろうと確信している」と述べている。
これらのことから、当時「WTC7が倒壊したか倒壊寸前である」という情報が錯綜していた、と考えられる。
この件に関しても、YouTubeの「9/11 Debunked」シリーズの「9/11 Debunked: BBC Early Report on WTC 7 Collapse Explained」でデバンキングされている。午後3時にはFDNYはすでにWTC7に倒壊の可能性があることを認識しており、建物の近くからの退去命令を出している。
この動画では、その日、アメリカで流れたその他の誤報も紹介しているが、それらは日本で報道されたものと大差なく、「ハイジャックされた10機の飛行機がまだ飛行中」とか「キャピタル・ヒルで爆弾が爆発」などといったものだった。
BBCの「Conspiracy Files」
BBCは「Conspiracy Files」で911陰謀論を取り上げているが、そのうち2008年7月の放送「911 - The Third Tower」(Google Video)はWTC7に関するものであり、「9/11 third tower mystery 'solved'」では、陰謀論を否定している。以下のページでFAQが公開されている。
- 「Q&A: The collapse of Tower 7」:WTC7に関するFAQ。
- 「Q&A: What really happened」:911陰謀論に関する全般的なFAQ。
もちろん「BBC denies 9/11 conspiracy」ではBBCの陰謀への加担を否定しているが、この件に関して相当頭にきている様子が見て取れる。BBCのWTC7に関する報道のビデオテープは紛失したとされていたが、2002年のファイルに間違って保存されていたのが見つかった。FAQの「Are the media part of a conspiracy?」では、BBCのワールド・ニュースの主任Richard Porterは「ニュース機関の間違った報告に基づき、我々は報道していたことを、我々の調査は強く示唆している」と述べている。さらにロイター通信は以下のようにも述べている。
2001年9月11日、ニューヨーク、ワールドトレードセンターの建物のひとつWTC7が実際に崩壊する以前に、崩壊したと間違ってロイターは報道した。この報道はローカルニュースから拾い上げたものだったが、建物がまだ崩壊していないということが解かった時点ですぐに撤回された。
「9/11 - The Third Tower」の45分8秒から、 現場のレポーターだったJane Standley氏自身の証言を見ることができる。当時、Standley氏はニューヨークに着いたばかりで、WTC7のことをそれ以前に聞いたこともなく、ニューヨークを見渡してもどれがその建物かわからなかった。彼女はごく限られた情報に基づき報道せねばならず、以下のように述べている。
私がかなりバカバカしいと考えている、この陰謀みたいな状況すべてが、ごく小さな本当の間違いから始まり広まったのは、とても不運なことです。
番組の最後(55分9秒〜)のほうで、ブッシュ大統領の対テロリズム・チーフアドバイザーのRichard Clarke氏は、こうした大規模な陰謀を政府は実行できないし、そうした機密を隠蔽することもできないと述べている。これに対し、「Loose Change」の監督のDylan Averyは、Clarke氏が米国政府の陰謀を認めるわけがないと反論している(56分1秒〜)が、その際、「fuck」という言葉を2回ほど使用している。
WTC7の爆破解体を支持する専門家としない専門家
WTC7については、その爆破解体説を支持する爆破解体の専門家がいる。それはオランダの爆破解体業者「Jowenko Exposieve Demolitie B.V.」のDanny Jowenko氏である。爆破解体の専門家でWTC1とWTC2の爆破解体説を支持する者は、今のところいないようであり、Jowenko氏もWTC1と2は爆破解体ではないと断言している。しかし、氏が2006年にオランダのテレビ番組「Zembla investigates 9/11 theories」に出演した際には、WTC7は爆破解体だったと断言している。さらにその後の陰謀論者との電話インタビュー「Danny Jowenko on WTC 7 - 02-22-07」に英語で答えて、爆破解体説の支持を表明している。ただし、テレビ番組のインタビューを見るとわかるように、Jowenko氏はWTC7のことを事前に知らなかったようであり、WTC7が9月11日に倒壊したことも知らなかった。よって、当時のWTCの状況をどれだけよく理解していたかは不明である。
Jowenko氏の説によると、WTC7の賃借権を保持していたLarry Silverstein氏が、ツインタワーの倒壊によりダメージを受け火災の発生したWTC7をそのまま存続させるより、倒壊させてしまったほうが得だと判断したため、11日のうちに秘密裏に爆破解体作業を行った、ということらしい。(文献4) WTC7の爆破解体には30〜40人の人員がいれば、すぐできるとのこと。
しかし、火災の発生したWTC7にそれだけの人員を誰にも見られずに潜入させ、爆破解体させた上に、それをFEMAやNISTの報告書から隠蔽しなくてはならない。そんなことが本当に可能なのだろうか?作業を行ったとされる30〜40人はその後どこに消えて行ったのだろう?
もちろんJowenko氏の意見に反対する専門家もいる。BBCのWTC7に関するFAQの「Was Tower 7 deliberately destroyed by explosives?」によると、「Controlled Demolition Inc.」社のMark Loizeaux氏は、WTC7のような大勢の人が占有する建物で、誰にも気付かれずに爆破解体の準備をすることは不可能だとしている。Loizeaux氏の証言は、「9/11 - The Third Tower」の27分52秒のところから見ることができる。爆発物の設置には何ヶ月もかかるとして以下のように述べている。
騒音が発生する。それを回避する方法はない。通常は中に入って、爆発物を設置する階の壁をすべて叩き潰す。はらわたを抜くんだ。
Loizeaux氏によると、多数の爆発物と何マイルにも及ぶ爆破ケーブルとコードが必要になり、いくつものキャップやチューブといった物証をあとに残すことになる。Loizeaux氏は911テロの三日後に、建物の残骸の撤去のため現場にいたので、WTC7の周りの建物を実際に目撃している。そして、WTC7のような大きな建物を倒す爆発について以下のようにも述べている。
押し出される空気で窓ガラスは簡単に割られる。
破片の衝突で壊れた窓はたくさんあった。しかし、建物(WTC7)のうしろ(の建物)には壊れた窓は見えなかった。タワーから落ちてきた破片が当たったところだけだ。
うしろ側に回ると、そこでは窓は割れてはいなかった。
落ちてくる破片からは守られていたのだ。大きな建物の支柱を切断するのに必要な強度の爆発があれば、建物の周りの窓はすべて割れる。それは防ぎようがない。
攻撃の直後、FEMAのメンバーによる調査が行われ、その後、さらに多くのメンバーが調査に加わった。現場は多数の人によって調査されたが、だれも爆発物の痕跡を発見できなかった。FEMAの初期調査のリーダーであったGene Corley博士は、BBCに対して次のように述べている。(31分38分〜)
我々はすべてを検討した。
制御解体がなかったと結論したのは、制御解体の痕跡がなかったからだ… それを探してみたさ、もちろん。そして制御解体の証拠は見つからなかった。
WTC7の倒壊は爆発物によるものではない
「Architects & Engineers for 9/11 Truth」のRichard Gage氏らは、すべての支柱を同時に切断しないとあのような垂直な倒壊は起こらない、と主張している。しかし、NISTの調査官は、爆発によってWTC7が倒壊した可能性についても検討しており、そのような爆発がWTC7内部で起こった形跡はなかったとしている。
WTC7のような建物が爆破解体されるためには、その事前準備として、誰にも察知されることなく、壁や支柱の囲いと防火材の除去が行われなくてはならない。さらに部分的なトーチによる溶断も必要になるが、これは不快な匂いのする煙を発生させる。爆破解体のための爆発物は、部分的に限られた数本の支柱に仕掛けられるだけではなく、ほとんど全部の支柱に仕掛けられなくてはならない。(文献5)
このように一般的な爆破解体の手法は非現実的であり、実行できる可能性は低い。NISTの報告書では支柱79が破壊されたのが倒壊の主な原因とされているので、一部の支柱を破壊すれば十分ではないのか?と解釈することもできる。そこで、NISTはこの可能性についても、「NIST NCSTAR 1A」(pdfファイル)の「3.3 Hypophetical Blast Scenarios」(68ページ目)や「NIST NCSTAR 1-9」(pdfファイル)のAppendix D(355ページ目)で検討している。
SHAMRCという爆破解析用のソフトウェアを使って解析したところ、支柱79を爆破したときに予想される窓ガラスの破壊パターンと実際の窓ガラスの破損は一致しなかった。
さらに、NLAWSという音波伝搬ソフトウェアによると、WTC7の支柱を破壊するような爆発物は、障害がなければ半マイル離れていても130〜140デシベルの爆音を轟かせる。しかし、そういった爆音は誰も聞いていないし、ビデオ等にも録音されていない。この騒音は、銃の発射音、ジェットエンジンの隣に立っている時の音に匹敵し、ロックコンサートのスピーカーの前に立っている時の音よりも10倍うるさい。
実際の制御爆破解体の様子をいくつか「Implosion World」の「Cinema Explosif」で見ることができる。実際の爆発音は「ボン!」といった単発のものから、大きな建造物を爆破する際には「ダン!ダン!ダン!」という連続的なものまであることがわかる。こうした爆破音はツインタワーやWTC7が倒壊する直前やその最中に聞かれていないし、録音もされていないというのである。
WTC7の6階と8階の間にいた者が2回大きな爆発音を聞いたとする証言を、こうした爆発があったことの証拠とする文献もあるが、これらの爆音も明らかに小さすぎる。そもそも、この爆音がWTC7を崩壊させた爆発によるものだったとしら、その直後のWTC7の崩壊により、こうした証言者は生存していなかっただろう。この件については、「バリー・ジェニングス氏」の項目のジェニングス氏とMichael Hess氏の証言を参照。彼らはお昼ごろにはWTC7から救出されているが、WTC7が倒壊したのは午後5時20分ごろのことである。
サーマイト(thermite、thermate)はWTC7の倒壊に使用されなかった。
サーマイトはアルミニウムの粉末と金属酸化物の混合物であり、点火すると高熱を発するので、鉄道の線路の溶接によく使用される。物理学者のSteven Jones博士は、WTCで採取された埃の中から発見された鉄分とアルミニウムを含む微小な球状粒子は、サーマイトが制御解体に使用された証拠ではないかと考えている。しかし、Jones博士の意見に同意しない科学者もたくさんいる。球状粒子の生成原因はサーマイト以外にいくらでも考えられ、たとえば、9/11以外の日に使用された溶接・溶断用のトーチの火花によって生じたものかもしれない。(文献8)
支柱の切断にサーマイトが使用されたかどうか、NISTは検討したが、その可能性はなさそうだと結論した。1フィート(30.48センチ)につき1000ポンド(454kg)の重さがある大きな鋼鉄の支柱を切断するには、約45kgのサーマイトが必要になるが、制御解体にはおそらく1本以上の支柱を切断する必要がある。45kg以上の量のサーマイトが、9/11当日もしくはそれ以前にWTC7に運び込まれ、支柱の周りに仕掛けられたという証拠はない。(文献5)
この件に関しても、Loizeaux氏は、制御解体には爆発のタイミングが重要であり、サーマイトやその誘導体を使用することはできないと考え、次のように述べている。(文献8、35分49秒)
制御解体を目的に、鋼鉄を熔解する物質を誰かが使用するのを見たことがない。どうやったら、すべての支柱を同時に熔断できるのか、想像できない。
さらに、サーマイト説を支持する陰謀論者は、鋼鉄の梁が融けてバラバラになっているのが発見されたことを、その証拠としている。
しかし、Worcester Polytechnic Instituteの冶金学者Richard Sisson教授は、これは熔解したのではなく、瓦礫の中で燃え続けた熱によって発生した、鉄、硫黄、酸素を含む鉱滓(スラグ)により侵食されたものだとしている。(文献22) 硫黄の発生源はサーマイトではなく、粉砕され炎上した多くの石膏の壁板だと考えており、Sisson教授は以下のように述べている。(文献8、48分41秒)
私はちっとも不思議だとは思わない。高温で酸素と硫黄が豊富にある環境に、長時間鋼鉄がさらされていれば、このような結果になるのは当然である。
WTC7の倒壊は自由落下か?
WTC7が倒壊するのにかかった時間は、倒壊が始まる時間をどう設定するかに依存する。屋上のペントハウスの東側が沈降して、しばらくしてからWTC7の全体的な倒壊が始まるが、陰謀論者の見せるビデオの大部分は、最初の東側の沈降を省略して途中から始まるものばかりである。WTC7倒壊の全行程は以下のYouTubeの動画で見ることができる。
- 「Collapse of WTC7」 YouTube
屋上のペントハウスの東側の沈降をWTC7倒壊の開始とみなすと、全体で明らかに10秒以上の時間がかかっている。
NISTのビデオ解析によると、WTC7の北面の18階が5.4秒で崩壊している。自由落下ならば3.9秒のはずであり、1.38倍も長い。(文献5) 建物全体がつぶれるのにかかった時間は8.2秒だとされている。(文献23) なお、この件に関しては、掲示板「★阿修羅♪」(文献25)において、NISTのFAQ(文献5)がアップデートされたという指摘があったので、以下のように加筆修正した。
NISTがより詳しく解析した結果、ビデオに写っていた5.4秒間の崩壊過程は、3つの段階に分けることができた。
- ステージ1(0〜1.75秒): 自由落下よりも遅い加速がまず起こる。
- ステージ2(1.75〜4.0秒): 重力的落下(自由落下)となる。
- ステージ3(4.0〜5.4秒): 減速し、再び自由落下より遅くなる。
つまり、ビデオに写っていた5.4秒のうち、2.25秒間は自由落下であったことをNISTは認めた。しかし、屋上のペントハウス東側の沈降からもわかるように、WTC7の側面が崩壊し始める前に、建物の内部では崩壊がすでに始まっていた。そのため、下部からの支えがなくなり、わずか2.25秒間だけ北面は本質的に自由落下したとNISTは解釈している。建物全体が常に自由落下していたわけではない。
目撃者の証言
バリー・ジェニングス氏の証言
バリー・ジェニングス氏とマイケル・ヘス氏の証言については、バリー・ジェニングス氏 (911陰謀論)を参照。
WTC7爆破のカウントダウン
Kevin McPaddenという人物が、WTC7崩落直前に、赤十字職員の無線器から爆破解体のカウントダウンと思われる「3、2、1」という音声を聞いたと証言している。しかし、彼の証言は一貫していないという批判がある。
YouTubeの「9/11 Debunked」シリーズの「WTC7 "Radio Countdown" Disproven」によると、2007年2月、「Loose Change」のDylan Avery監督は、911当日にWTCに派遣されたニュージャージー州の救急救命士だと称する「マイク」と名乗る人物からemailを受け取った。そのメールによると、WTC7倒壊の直前、無線でカウントダウンが流れていたとのこと。
しかし、911当時、ニュージャージーから派遣された救急救命士は存在せず、Avery氏からの「Loose Change」のファイナルバージョンへの出演オファーもマイク氏は拒否した。よって、このメールはイタズラだろうということになった。McPadden氏が同じような話とともに現われたのは、この数ヶ月後のことである。
McPadden氏の初期の証言は曖昧なもので、カウントダウンをはっきり聞いたとは言っていない。彼自身がカウントダウンのようだと解釈した規則的な音声を、無線器から聞いたとだけ証言している。さらに赤十字職員は「命がほしかったら逃げろと言いたげな表情をした」と、なんだかよくわからない証言をしている。
ところが、その後の証言では、その赤十字職員は「彼らは建物を倒壊させようと考えている」と言い、無線器を抑えていた手を放すと「3,2,1」とカウントダウンが実際に聞こえ、「命がほしかったら逃げろ!」とその職員は叫んだ、とその内容を変えている。さらにそのあとに大爆発が起こったという話も付け加えている。
ニュージャージーの「マイク」の話に基づき、McPadden氏がこうした話を思いついた可能性があるようだ。
Daniel Nigro氏の証言
911 Guideの「Chief of Department FDNY (ret.) Daniel Nigro Addresses Conspiracy Theories」に、ニューヨーク市消防局長官だったDaniel Nigro氏の証言が公開されている。9月11日の午後早く、WTC7が倒壊するのではないかとNigro氏は考え、建物内部とその周りからの退避命令を下した。この命令から約3時間後にWTC7は崩壊したが、この決断を下した理由は以下のようなものであった。
- 911以前に超高層ビルが倒壊したことはなかったが、WTC1と2の倒壊から、衝突と火災により超高層ビルでも倒壊することが予想できた。
- WTC1の倒壊により、WCT7の下階の一部が損壊していた。
- WTC7の下階には大広間があり、数少ない支柱の上にWTC7は建てられていた。
- 消火活動に十分な水がないまま、WTC7の多数の階で火災が起こっていた。
さらにNigro氏は、陰謀論にはなんの価値もないとしている。
Nigro氏の同様な証言を「9/11 - The Third Tower」の22分23秒の箇所から見ることができる。
陰謀の共謀者にされてしまった人々
WTC7についてこうして検証してみると、軽々しく陰謀論を吹聴することの問題点の1つがはっきりしてくる。陰謀が本当だとすると、その首謀者だけでなく、現場には実行犯がいなくてはならない。しかし、陰謀が現実でないとすると、無実の一般市民が陰謀の共謀者であるという濡れ衣を着せられてしまうのだ。
陰謀論者の主張をまとめると、陰謀に加担していたのはWTC7だけでも、CIAやシークレットサービス、シルバースタインやClarke氏、BBC、NIST、FEMA…とキリがない。爆破解体業者のLoizeaux氏はたびたびWTCの爆破解体に否定的なコメントをしているため、彼とその会社こそが爆破解体の実行犯であり、爆破解体の陰謀を隠蔽している人物だと非難する陰謀論者もいる。(37分14秒〜)
FDNYや赤十字も陰謀に加担したとされているが、911テロの際、WTCでは343人の消防官が犠牲になっている。BBCの「911 - The Third Tower」に登場したDaniel Nigro氏のようなFDNYの関係者は911陰謀論に対して強い不快感を表明している。
ラリー・シルバースタインは陰謀の共謀者か?
ラリー・シルバースタイン (911陰謀論)の項目を参照してください。
その他
- 「“What about building 7?” A social psychological study of online discussion of 9/11 conspiracy theories」 Michael J. Wood and Karen M. Douglas, Frontiers in Psychology
- 「bcskeptic.comのWTC7関連の写真」
- 「imageshackのWTC7関連の写真」
- 「Footage that kills the conspiracy theories: Unseen 9/11 footage shows WTC Building 7 consumed by fire」 Mail Online, By DAILY MAIL REPORTER, Last updated at 1:59 PM on 2nd November 2011
参考文献
- 「Debunking 9/11 Myths: Why Conspiracy Theories Can't Stand Up to the Facts」 Brad Reagan (編集), David Dunbar (編集)、Hearst Books (2006/8/28)
- 「Single Point of Failure: How the Loss of One Column May Have Led to the Collapse of WTC 7」 Ramon Gilsanz, P.E., S.E., Willa Ng, Structure Magazine, November, 2007
- YouTubeの「BBC Reported Building 7 Collapse 20 Minutes Before It Fell」でもBBCのWTC7に関する誤報を見ることができる。
- 以下のリンクで、Jowenko氏の未編集のインタビューを見ることができる。
- 「Questions and Answers about the NIST WTC 7 Investigation」:NISTのWTC7倒壊に関するFAQページ
- 「Fire, Not Explosives, Felled 3rd Tower on 9/11, Report Says」:By ERIC LIPTON, Published: August 21, 2008, The New York Times
- 「9.11テロ事件、ナゾのWTC7崩壊で7年ぶりに公式調査報告書」【Technobahn 2008/8/25 18:57】
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- 「ニセ検証サイト「Skeptic's Wiki」の望みゼロのバカさ加減「WTC7の自由落下」編(2ちゃんねる))」 ★阿修羅♪、投稿者 まっぴら 日時 2009年9月12日 18:11:27
- 「World Trade Center 9/11 Photos: A Fresh But Painful Look at Sept. 11 Tragedy」 By JASON RYAN and DEVIN DWYER, WASHINGTON, Feb. 10, 2010, ABS News
- 「Chilling aerial photos of 9/11 attack released」 By ULA ILNYTZKY and COLLEEN LONG, Associated Press Writers, February 10, 2010 at 7:30 AM, The Seattle Times